「クリスマスあくま★ハロウィンさんた」−12 「コンラッドを許してっ!」 「とにかくパンツをしまえーっ!まず話をしようっ!」 とうとうスカートをたくし上げてパンツを丸出しにしたユーリに、半泣きになったグウェンダルが叫びます。 そのやり取りは端から見ていると相当滑稽でしたが、本人達は至って真剣です。 「お願い、聞いてくれる?」 スカートの裾を押さえつけて、上目遣いにユーリが覗き込むと…グウェンダルはこめかみを親指と人差し指で押さえつけました。 「…規則は規則だ」 《決まり事》というのは何かしら意味があってやっていることでしょうから、グウェンダルの言うことは尤もです。 でも…ユーリには辛くてしょうがありません。 「お仕置きって、何をするの?」 「永久凍土に半身を埋めて、許される日が来るまで待つか…劫火で焼いた鉄板の上で、他の住人達が許すまでダンスを踊り続けるか…あるいは、子どもには少々説明できないような《奉仕》をハロウィンの実力者達にするか…」 《ひぅ…っ》両手を握ってユーリが喉を震わせますと、その反応の良さにグウェンダルの口元には笑みが宿ります。 ハロウィン世界の住人は、怖い話にびくびくしてくれる人が大好きですからね。 「…後は、人間に堕ちるかだ」 「え?」 「お前はクリスマスの国の住人だろう。あちらでも一緒の筈だぞ。祝祭日の国の住人が人間や他の国の者と恋をしたら、何らかの罰を受けて許されるか…あるいは、人間になるしかないのだ。お前達はどちらを選ぶつもりだ?」 そんなの、決まっているではありませんか。 「俺たち…人間になったら一緒にいられるの?」 「恋人の契りを為せば…な」 グウェンダルは《ごほん》…っと頬を赤らめて咳払いしますが、ユーリには意味がよく分かりません。そして…コンラートは口元を手で覆っていました。 「恋人の繋がりって、怖いこと?」 「ユーリにとっては怖いかも知れないけれど…俺は、得たいな。君と一緒にいられるのなら」 「俺だってそれが良いっ!」 にこりと太陽みたいに笑うユーリを抱きしめて、コンラートは微笑みました。こちらも明るい満月みたいな笑顔です。 「簡単に言うな貴様ら!人間になるということは、コンラート…お前は永遠の命を捨てることになるのだぞ?あっという間に老いて死んでいくのだ。それでも良いというのか!?」 コンラートは微笑みました。 ですが…それは先ほどのようなふくふくの幸せに満ちたものではなく、じんわりと染みいるような切なさを感じさせました。 そして、コンラートはゆっくりとグウェンダルに言ったのです。 「はい、俺はそうしたいんです。兄さん…すみません」 「ええ!?この人、お兄さんなの!?」 ユーリはびっくりして目を見開きました。 そうだと知ってからグウェンダルを見ますと、その表情はコンラートを罰しようという気持ちよりも、切実な痛みを抱えているように見えました。 弟が自分よりもずっとずっと早くに死んでしまうことを、グウェンダルは恐れているようでした。 ああ…でもでも、やっぱりユーリはコンラートと一緒にいたいのです。 「お兄さん、ごめんなさい…」 「……お前が謝ることではない。コンラートに覚悟があるのなら、私にはもう何も言うことはない。契りを交わした瞬間、お前達は人間になるだろう。そうなった時…後悔しても遅いのだぞ?」 苦々しげな表情が、耐え難い苦痛から出ているのだと分かりましたから、ユーリは敢えてにぱりとした笑顔を浮かべました。 しんみりしたら、余計に心配させると思ったのです。 「後悔なんか、しないよ。でも…心配してくれてありがとう!俺、いっぱい頑張って、あんたの弟さんを絶対幸せにしてみせるからね!」 どぉんっと胸を叩いて請け負うと、グウェンダルは苦笑しながら飛び立っていきました。 その表情は、少し軟らかいものでした。 「兄さん、お元気で!」 弟に軽く頷くと、グウェンダルは群雲を引き連れて去っていきました。後にはぽかりと浮かぶお月様と、きらきら光るお星様が何事もなかったように輝いております。 |