「君を護り隊」 8








 一体全体コレは、何の騒ぎなのだろうか?
 有利は呆然として目の前の光景を眺めていた。

 どうやら、有利は複数の男達に懸想され、特にアランという男には非合法な手段によって、力づくで《モノにしよう》とされているらしい。
 コンラートとヨザックにがっちり護られているので特に不安はないのだが、納得はなかなか出来なかった。

『なんかみんな本気みたいだけど…これって、どうしてまたこんな事になっちゃってるんだろう?』

 目の前で時代劇の終盤宜しく剣戟(棒戟?)が行われたかと思うと、今度は噴水の中から黄門様…というよりは、紅白歌合戦の小○幸子かジュ○ィ・オングを思わせる動作でアニシナまで出てきた。しかも、どうやらそれは前々から村田が何かを頼んでいた為らしいのだ。

 ここまでくれば幾ら鈍い有利にも段々と察しが付いてくる。
 有利が文化祭の事件で変態的な世界の人々から目を付けられ、襲撃を受けることを見越して眞魔国の面々が予防線を張っていてくれたのだ。それも、おそらくは想像以上に大規模なスケールで…。

『俺…護って貰ってたんだ』
 
 ありがたくもあるが、やはりちょっと寂しくもある。
 おそらく彼らの秘密主義というのは、根底に《有利を哀しませない為》という目的があるのだろうけれど、そうは言っても有利は魔王なのだ。楽しいことや綺麗な物だけではなく、残酷な事実や汚い物にだって目を向けるべきではないだろうか?

 やはりそこは、一言もの申したい有利であった。
 だから、恭しいのか勿体つけているのか分からないような動作でアニシナが鈴を寄越しても、すぐには指示通りにしなかった。

「陛下、どうぞこの者達の前で鈴をお振り下さい」
「どういう効果があるの?」

 問われたアニシナは肩を竦めると、《ほれ見たことか》と言いたげに村田を見やる。おそらく、村田は勢いで有利が振ると踏んでいたのだろうが、アニシナはそうは思っていなかったのだ。
 彼女は意外と有利の自立心を買ってくれている人だから。

「これは古文献に残されし《魔鈴》…魔王のみが操ることの出来る鈴です。この音を聞く者は陛下に対する妄想の度に従って、おぞましい幻覚に苛まされます。眞王陛下が仕上げをされましたので、効果の方はお墨付きです」
「…恐ろしい幻覚って?」
「私も見たことはありませんので定かではありませんが…古文献の記述によれば、二度と懸想しようという気も起こらなくなるくらい、徹底的な恐怖を植え付けられるようです」

 ちらりと視線を送った先で、コンラートが何かを覚悟するように瞼を伏せていた。
 彼は…《魔鈴》が使用されればどんなことになるのか、既に知らされていたに違いない。それでも敢えて止めようとしないのは、有利を何者からも護りたいという意思の表れなのだろう。
 
 けれど、それは有利としてはとても了承できるようなものではなかった。

「それって…普通に俺を好きでも、妄想はしても俺自身には酷いことしないような人にも、一律に効果があるって事?」
「おそらくは」
「だったら…俺、これは使えないよ」
「渋谷…!」

 アニシナは《そうでしょうね》と呟いて苦笑し、村田は困ったように声を上げた。
 
「振るんだ、渋谷。そして、その動画をネット上に配信するんだよ。そうすれば、君に変な妄想を抱く奴はいなくなる。高校卒業までの日々を、安心して過ごせるんだよ?」
「そうです、ユーリ。どうか鈴を鳴らして下さい」
「嫌だよ」

 コンラートも眼差しを眇めて訴えるが、有利はふるる…っと首を振る。これだけは、誰から幾ら頼まれても折れるわけにはいかない。
 コンラートの為にも、そう思うのだ。

「この鈴…古文献の時代から、どうして俺たちの世まで伝わらなかったと思う?」
「……」
「何かの拍子に壊れたのかもしれないけど、眞王も、他の魔王も敢えて作り直そうとはしなかった。それは…」

 コンラートの瞳をじぃっと見つめて、有利はほんわりと笑う。

「それは、やっぱさ…寂しかったんだと思う。妄想って、いってみれば叶わない夢みたいなもんだろ?叶える為に無茶をされたら困るけど、みんながみんなそう言う手合いって訳じゃない。片思いを胸に、じっと耐えてる人だって居る。そんな…自分に思いを寄せてくれてた人がみんな怖い夢に晒されて、自分を見たり想像するだけで悲鳴を上げるなんて…幾ら自分の身が安全だって言っても、耐えられるようなもんじゃないよ」

 《それはきっと、とてもとても…寂しいよ?》…有利の囁きに、コンラートは硬く瞼を閉じた。有利の身を護ろうとするあまり、心を蔑(ないがし)ろにしかけたことを反省しているのかも知れない。

「渋谷…でも、それなら僕は君を地球に置いておくことは出来ない」
「眞魔国だったら、ホントに俺は絶対安全だと思う?」
「…っ!それは…」
「村田達が心配してくれたのはホントにありがたいけどさ、でも…俺は、地球でも眞魔国でも、何が危険で、どう気を付けたら良いのかちゃんと知っていたいよ。そのせいで嫌な思いをすることがあっても、それは俺自身の話だ。誰かに操作されるような事じゃない」
「…知られたら、君はそう言うだろうと思ってたんだ」

 はぁ…っと吐息をつくと、村田は鈴を手にとって輪郭に触れる。しかし、音を鳴らしたりはしなかった。
 有利の増幅器としてしか魔力を発動できない村田だから、どうせ魔鈴としての効果は出せないのだろうけれど…敢えて鳴らしてみなかったのは、おそらく横にいたヨザックが少しだけヒヤリとした顔をしたせいだと思う。

「渋谷、君が変態達にどんな妄想を抱かれているのか…全部知らせるよ?その上でもう一度考えてくれ。この鈴を鳴らすか鳴らさないか…」
「うん」

 こくんと頷いた有利は、もう一度村田から鬼灯(ほおづき)のような形をした鈴を受け取って掌の中に収めた。うっかり鳴ってしまわないように振動を押さえたのだ。

 が、この時…突然勢いを付けて有利に飛びかかってきた男がいた。
 アラン・ディアボロ・ミッシリーニ…コンラートが消沈していた隙を突いて、有利を人質に取ろうとしたのかも知れない。

 勿論コンラートもヨザックもそんな事をさせるところまで油断はしていなかったから、すかさず腕や脚を出してアランを止めたのだけれど、この時、驚いた有利は身体を引いた瞬間、反射的に腕を伸ばし…アランの耳孔に押しつけるようにして鈴を振動させた。

「…っ!」

 ビクン…っと身体を反張させたアランはわなわなと厚ぼったい唇を震わせたかと思うと、《ぎあぁあうあ…っ!!》と声にならない叫びをあげてのたうち回った。
 至近距離にいたコンラートには影響がなかったようだから、おそらくアランだけが魔鈴の音を聴取したのだろう。

「う゛ぁ…う、うがぁあ…っ!!」
「はわわ…あ、あんた大丈夫!?」

 かなり大丈夫ではなさそうだ。だらだらと脂汗と涙を流してのたうち回ったアランは、心配して駆け寄ってきた有利を見るや、益々調子外れな絶叫をあげた。

「うわ…うわ…っ!何だ…何なんだ……!?」

 有利を目にした途端にぎゃあぎゃあと騒ぎ出した様子から見て、相当な妄想量に応じた幻覚を見ているらしい。金と権力に飽かせて、おぞましい陵辱の限りを尽くしていたようだから、さぞかしとんでもない映像なのだろう…。

「君が過去・現在の所行を悔い改めない限り、その悪夢は消えないよ?」

 ひいひいと惨めったらしく地べたを這いずるアランに、冷然として村田が声を掛ける。最初の内はぎろりと村田を睨んで立ち上がろうとしていたアランだったが、有利が駆け寄っていくと《ひーっ!》と声帯を震わせる。
 そして精も根も尽き果てた時、とうとう有利に詫びを入れたのだった。

「申し訳ない…っ!ゆ、赦してくれぇえぇ…っ!!」
「はあ…」
「もう君には手出しをしない…っ!いや、君に手出しをしようとする者も、責任を持って始末する、だから…だから許してくれぇえぇ…っ!!」

 アランは地べたに額を擦りつけながらずりずりと後退していく。

「ゆ、赦すから…もう、そんなビビらなくても…」
「ひぃいい……っ!!」

 ほんのちょっと顔を上げて有利の顔を確かめただけだったのに、アランは絶叫してゴロンゴロンと横転すると、のたうち回りながら泣き叫ぶ。
 結局、彼は意識を取り戻した黒服に抱きかかえられるようにして連れて行かれたのであった。

「うーん…確かにこれは、全世界にネット配信なんかすると大変なことになってたかも知れないねぇ…」
「だろ?」

 口角を引きつらせながら村田が言うと、有利は今度こそがっちりと鈴を握り込んで頷いた。そして、ちょっと咎めるような表情でコンラートを見上げる。
 唇を尖らせた愛くるしい有利に、コンラートは何とも複雑そうな表情を浮かべた。

「俺…コンラッドがあんな風になってたら、ショックで寝込んじゃうよ?」
「…すみませんでした、ユーリ…」
「えへへ…もう良いよぅ。俺のこと心配して色々やっててくれたのは、分かってるからさ」

 こつんと胸板に額を寄せると、いたわるようにして頭髪をコンラートの手が撫でてくれる。この手を失わずに済んで、本当に良かったと思うのだった。



*  *  * 




「ほぁあ…ユーリはやっぱり、魔法少年だったんだねぇ?」
「やっぱりってなんだ、やっぱりって」
 
 しみじみと呟くオーギュにラシードが突っ込む。攻守というか、ボケ突っ込みが逆になっているようだ。

「だってホラ、あんなに可愛くて優しいなんて魔法みたいじゃないか。なんとあのアランまで改心しちゃってるもんねぇ。それに、あの紅い女性は噴水の中から忽然と現れたよ?きっと魔法の国から道具を持ってきたんだよ」
「大した妄想癖だな、オーギュ」

 《君に言われたくはないよ》と返しつつ、オーギュは続ける。

「きっと…ああいうユーリだからこそ、たくさんの人たちに愛されて護りたいと思われてるんだろうねぇ」
「うむ。いつか愛されるのは俺だけだがな」
「アレ見ちゃっても、まだそんなこと言えるんだ…」

 現実から目を逸らせようとするラシードの頭を掴むと、オーギュはギギギ…と回旋させて有利たちの様子を見せつけた。そこでは、すっかり安心しきった有利がコンラートに抱きしめられているのだった。

「むむむ…むぅん……」
「やっぱさぁ、既にフラグが立ってる相手には、何をしても噛ませ犬にしかなれないんだよねぇ…」
「しみじみ言うなーっ!!」

 半泣きで叫ぶラシードにハイハイと軽く返しながら、やっぱりオーギュはしみじみと言うのだった。

「僕は、噛ませ犬でも何でもいいからユーリの傍にいたいな。君はどう?ラシード」
「………いたいさ。美少年には何度も言い寄ったが、あんなに可愛い子は初めてなんだからな…フラグを他の奴に持っていたれたからって、そう簡単に諦められるもんか!フラグなんぞ、膝でへし折って新しいのを立ててやる!」
「あーあー…まあ、その辺は迷惑にならない程度にね。それよか、僕らは第2のアランが現れないように護ってあげない?少なくとも、とっても感謝して貰えると思うよ?」

 今回のアランからの依頼はあの分だと取り消されそうだが、またヴァラオークションやその他の組織を使って有利を手に入れようとする輩がいるかも知れない。そうなった時、オーギュとラシードが力を合わせれば、その財力・組織力は有利の役に立てるだろう。

「ふん…お前と一緒にかぁ?」
「嫌かい?」
「別に…構わんさ」

 鼻を鳴らすと、ラシードはずかずかと大きな歩幅で有利たちに歩み寄っていった。護るかわりに、元を取りに…つまりは、有利に構って貰いに行くのだろう。《小犬のように》とはいかないが、あれでなかなか可愛いところがある男なのだ。
  
 くすくすと笑いながら、オーギュも有利の元へと急いだ。
 たとえ恋人として愛されはしなくとも、気心が知れればきっと彼は大きな愛を返してくれると思うのだ。

『可愛い可愛いユーリ、しっかり狗として尽くすから…いつか猫耳メイド服姿で回し蹴りをおみまいしてね?』

 幸せな妄想を抱きつつ、オーギュは足取り軽く進んでいった。



*  *  * 




 騒動が収まった広場で、仲睦まじげに微笑み交わすコンラートと有利を見ながら、村田は少々複雑そうな顔をしていた。

「どうかなさいましたか?」
「いや…あの連中が短期間であんな風な関係になってるなんて思わなかったからさ」
「まあ、ああいうのは切っ掛けが全てですからね」

 何か大きな変動がなければ傍に寄り添わしていても、コンラートの強すぎる自制心が災いしていつまでも《名付け親子》でいたかもしれないが、この事件が結果として二人の微妙にすれ違っていた思いを繋いだのだろう。

「無理に魔鈴を使っていたら…ウェラー卿と渋谷を引き裂くことになったのかな?」
「さーてねぇ…でも、あいつなら顔色一つ変えずに自分の妄想を殺す事が出来たと思いますよ?」
「かなりの無茶をしてね」
「俺たちは無茶が効くように出来てますから、お気遣い無く」
「…そうやって、いつまで我慢するつもり?」
「へ…?」

 ヨザックが虚を突かれたように目を見開くと、村田は淡く頬に朱を掃いて、ぷいっとそっぽを向いた。

「猊下、今のはどういう…」
「分からなきゃ、君はいつまでもそのままでいたらいいさ!」

 吐き捨てるように叩きつけてから早足にその場を離れようとする村田を、ヨザックがそのまま行かせるはずもなかった。無礼にならない程度に後から肩を掴むと、それほど大きな抵抗がないのに気をよくしてゆっくりと胸に引き寄せていく。

「妄想…しちゃいますよ?」
「…すれば?」

 素っ気ない口ぶりの癖に、長めの黒髪からのぞく耳朶は…見事に紅く染まっている。こういうところは素直でない分、有利よりも純情なのかも知れない。

『可愛い…』

 胸の中がふくふくするのを感じながら、ヨザックはちいさく…甘く囁く。
 《大好きですよ》…禁じられていると思ったその想いを形にしても、叱責は与えられなかった。

 代わりに与えられたのは、身を反転させて《ぽす…》っと寄せられた頬の、何とも言えない暖かさだった。
 


*  *  * 




 後日、加瀬の発行した雑誌は爆発的な売れ行きとなった。
 小津が撮影した広場での写真は《フィクション》の体裁をとりつつも、現実に近い味付けでショートスートリーとして掲載され、愛らしい有利の写真とも相まって、雑誌としては異例の増刷までが行われた。
 おかげで、傾き掛けていた加瀬の会社は息を吹き返したらしい。
 ただ…。

『写真集出さないかい?』

 …とのお誘いは丁重にお断りした。これ以上騒がれては流石に困るからだ。

 ネット上では相変わらず有利の映像や噂が出回ることはあるが、その度に悪質なものについては村田や勝利を中心に削除やウイルス感染によるPC破壊を行っている。
 登下校やジョギングコースで怪しい人影を見かけることもあるが、有利の方も事情を理解してコンラートから離れないようにしているので、確実に保護されている。

 一度だけ露出狂の陰部を直視してしまったことはあったが、有利が反射的に一言、《あ、小さい》と言った瞬間にシュシュシュ…っといきり立ってたモノは縮んでしまった。そして、露出狂の姿は二度と見ることはなくなった。全く悪気はなかったのだが、コンラートと日常的にお風呂に入っていれば、そのような感想を抱いてしまっても仕方がないだろう。

 郵便物や学校の下駄箱に入れられる封書については、ボブから貰った爆発物・危険物探知装置などを使って、あからさまに怪しい物は未開封のまま廃棄し、内容物が危険なものについては、了承をとってコンラートが先に中身を確認するようにしている。全くもって話にならないくらいイヤラシイものは速攻でコンラートが始末するのだが、困るのは純情なラブレターの類だ。コンラートはそういうものが来るたび、妙に無表情になって、ス…っと有利に差し出すのだった。
 宛先が分かるものについては、極力丁寧にお断りの手紙を出すようにしている。
 報いることは出来ないのだけれど、有利を好きになってくれた気持ちは大事にしたいのだ。
 
 一方、悪名高きオルト企画は警察のガサ入れを受けて金原が検挙され、そこから芋づる式にバックについていた暴力団員が捕まるなどして、なかなかの大捕物となった。
 証拠を掴んで警察にリークしたのが誰であるのか…言うまでもないだろう。

 ヴァラオークションについては組織壊滅とまでは行かなかったが、それでも非合法かつ暴力的な行為が横行していることを、この組織が黙認される根元となっていた国際警察の長(極め付きの変態で、組織に利便を図っていたらしい)が不祥事で失脚した為、かなりの体制替えを余儀なくされている。少なくとも、これまでのように大規模な活動を行うことは不可能に近いだろう。

 こちらの件についてはラシードとオーギュ、そしてアランの活躍を認めぬわけにはいくまい。特にアランはオークションの裏事情については身内並みに詳しかった為、内部告発のような形で組織性を瓦解させてくれた。

 最近は有利のことを思い出しても幻覚を見なくなったそうで、それなりに幸せそうに生きている。きっと、独特の妄想癖が魔鈴の幻覚で焼き切れてしまったのだろう。
 何だかんだ言いつつもラシードやオーギュが友達付き合いをしているそうで、彼らに漏らしたところによると、この頃はたまに《真面目に口説いてみようかな…》と思う相手が見つかったようだ。
 大金持ちで顔だって悪くはないのだから、真っ当に口説けば成就の可能性もあるのではないだろうか?

 さて、ラシードやオーギュの方はどうかというと…。

「おお…ユーリぃぃぃいっっ!!」
「可愛い、可愛いぞユーリぃぃいい……!!」

 今日も絶叫していた。

「いや…別に騒ぐような格好じゃないだろ、コレ」

 有利は今、クリスマス会の為にサンタの服を着ているのだが、別にミニスカサンタというわけではなく、ごくごく一般的な衣装を着ているだけだ。村田が用意してくれたものだから妙に仕立てが良いのは確かだが、そんなにキャーキャー言うほどのものだろうか?

 憮然としていると、コンラートがにこにこ顔で二人に賛同する。

「いえいえ、とっても可愛いですよ?」
「あんたに言われてもなぁ…。つか、あんたはホントに何でも着こなすよね?」
「いえいえいえ…」

 恐縮しつつも、やはりサンタ服を身につけたコンラートは実に格好良い。肩に負うた荷袋には沢山のプレゼントが詰め込まれている。これはクラスメイトが各自出してきた贈り物を、尤もらしく運んでいるのだ。
 ちなみにオーギュとラシードからのプレゼントも普通に一人分として混ぜられているのだが、《予算は3000円以内》と厳命されているため、逆に彼らにとっては難しい買い物になったようだ。

 そう…今回のクリスマス会にはクラスメイトが全員揃っただけではなく、ラシードやオーギュも《絶対に入れてくれ》と頼み込んで参加してしまったのだ。思っきり部外者の筈なのだが、学級委員を抱き込んで(…)いつの間にか正式な招待券(女子の手作り)まで手に入れていた。

 ちなみに彼らもサンタ服を身につけていて、にこにこ顔で有利とツーショット写真を撮ると、ひっそりと《ペアルック…》等と呟いている。あまりにもささやかな愉しみ方なので、流石のコンラートも半笑いになって止めなかった。

「さーて、そんじゃ行こうか!」
「ええ」

 クラスメイトの両親が経営するレストランは本日貸し切りで、有利達サンタが入っていくと一斉に歓声とクラッカーが迎えてくれる。

「メリークリスマースっ!」
「渋谷君、かっわいぃ〜っ!」
「コンラッドさん格好良いーーっ!」
「白黒コンビも意外と似合ってるぅ!」

 白黒コンビとは、オーギュとラシードを指しているのだろうが、後者については《せめて褐色と言え!》とぶつぶつ言っている。黒が気にくわないと言うより、ス○ャータの《褐色の恋人》というフレーズを意識しているのかも知れない。
そう呼ばれたら呼ばれたで、別に《有利の恋人》という設定にはならない事に気付いていないのだろうか…。

「メリークリスマスみんな!今夜は楽しくやっていこうねっ!!」

 ヒューっ!!

 ぴょうんと飛び上がる有利の愛らしさに、その場にいた全員の瞳がハート形になっていたことは言うまでもない。

 渋谷有利原宿不利は、今日も元気にみんなのアイドル(笑)を、無自覚にやり遂げていた。

 

おしまい




あとがき



 狸山自身に変態の自覚があるため、『変態の撲滅』という設定に難渋したシリーズでありました…。
 リクエストにありがちなことですが、書いている内に「絶対コレ、求められてた設定と違うわ…」と自覚はしていたのですが、睡蓮様も快く許可して下さったので、あまり撲滅作戦については主軸にならずに展開してしまいました。

 いつも通り、気恥ずかしいほどラブラブのコンユを書いていただけかも。
 でも、渋谷家でイチャイチャしてるコンユが一番書いてて楽しかった〜(汗)。

 いつもワンパターンで申し訳ありませんが、皆様にとっても楽しいと思える箇所が幾つかあれば幸いです。

 そんで、「君を護り隊」はポップな展開にしようと思っていたので、 「悪夢」 という別ページの話は思いつきはしたものの、お蔵入りにしようと思っていたのですが、やはり「アランの罰があれだけなのはちょっと…」と思われる方のみ、お読み下さい。胡城様からのご指摘もあったのですが、確かにアランの罰があれだけなのは軽すぎますよね〜。

 大した話ではない上にオチ切っていないので本文には組み込まない方が良いのかなと思うのですが、これが《悪人であった人に本当に受けて欲しい罰》だったりします。
 やっぱり甘いとは言われそうですが…(汗)。多少えぐい表現もありますので、苦手な方は回避して下さい。