「君と暮らすこの素晴らしき日々」
9.あ〜ん
じゅ〜…
ぱちぱちぱちっ
芳ばしい香りと食欲をそそる音がキッチンに満ちていく。やはり揚げ物はお家でするのが一番だ。素人が作ったものであっても、見るからに買ってきたものよりもサクサクふわふわに見える。
黄金色の油の中から引き揚げた掻き揚げは、尖ったゴボウの先端が刺さりそうなくらいパキパキになっていた。さぞかし良い歯触りに違いない…!
「美味しそう!」
「少し食べてみる?」
コンラートは菜箸で取って一度キッチンペーパの上に載せると、包丁を使い、サクっ!といい音を立てて四等分にしてくれた。
「はい、どうぞ」
「あ〜ん」
菜箸で一切れ摘んだものを口元に寄せられると、反射的にそんな声が出てしまう。
ぱくりと口に含めば、あふあふと踊ってしまうくらいに熱いが、口いっぱいに広がる風味は堪らなく美味しい。
「ん〜…最高!凄い美味しいよコンラッド」
「そう?じゃあ俺も味見を…」
菜箸で一切れ摘み掛けて、コンラートはふと思いついたように有利へと菜箸を渡す。
「ユーリも俺にしてくれる?」
「うん」
頷いて菜箸を手に取ると、ひょいっと掻き揚げを摘んでコンラートの口元に持ってくる。
『うひょ…何か、意外と恥ずかしいカモ…』
にこにこ顔で待ち受けているコンラートは凄く可愛くて、餌付けしているような感覚が不思議な嬉しさと気恥ずかしさを与えてくれる。
「はい、あ〜ん」
「あーん」
ぱく…っ
口に含んだ途端に、ぱぁ…っと華が咲くみたいに笑顔が広がって、有利まで釣られてにこにこしてしまう。
もしゅもしゅと咀嚼したコンラートは満足そうに頷くと、今度は蓮根の天ぷらを四分割してくれた。それを別の菜箸で取って、有利の口元に寄せてくれる。
「じゃあお返しに、あ〜ん」
「あ〜ん」
ぱくっ!
そしてまたお返しに《あ〜ん》を繰り返していたら、きちんと食事が始まる前に結構な腹心地になってしまった。
それでなくとも揚げ物は揚げたてが美味しいのに、最高の調味料である恋人の《あ〜ん》など添えられたのでは、致し方ないことと言えよう。
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