「君と暮らすこの素晴らしき日々」
3.洗濯物を取り込んでいたら…








 ふわ…
 ひらら…

 風にはためく洗濯物が、快晴の夏空に映える。
 朝食後すぐに干したのだが、昼頃にはすっかり乾いていた。

 コンラートはリビングにノートパソコンを持ち込んで、何か仕事の文書を打ち込んでいるから、有利が取り込んでおいたら喜んで貰えるだろうか?

『よーし』

 ひょいひょいと取り込んでいくと、同棲直前に美子から指導されたことを活かして丁寧に畳んでいく。シャツは後でアイロンに掛けた方が良いだろうから、とりあえずハンガーに掛けておこう。

 ぱたん、ぱん
 おりおり…

 まだ手慣れていないし時間も掛かるのだが、どうにか尤もらしい形に畳めた。

『よし、次はシャツにアイロンを掛けるぞ〜』

 気合いを入れて振り返ると、風に煽られたシャツがふわりと顔に掛かってくる。

「わ…」

 顔に降りかかった布地は肌に心地よく、仄かに薫りを感じてクン…と嗅いでしまう。

『良い匂い…』

 洗い立てなのにどこかコンラートの薫りが残っていて、そこに清潔感のある石鹸風の香りも混ざる。スー…と息を吸い込むと、まるでコンラートに抱っこされているみたいだ。

「ユーリ、そんなに臭う?」
「うん…」
「どうしよう…加齢臭かな」
「…え?」

 ぱちくりと目を開いてみると、目の前に…心配そうに膝を抱えたコンラートが居た。眉が八の字型に垂れ下げながら脇を嗅いでいるのは、本気で加齢臭を懸念しているのだろうか?
  
「ちちち…違うよ!凄く良い匂いがして…なんか、嗅いでるとあんたに抱かれてるような感じがして…っ!」
「おや、本物の俺の抱っこよりも良いのかな?」
「……っ!」

 はわはわと動転していたら、すっぽりと抱きすくめられてしまった。洗ったシャツよりも濃い香りがふわりと立ち上り、夢心地の中で瞼を閉じる。

 少しだけ汗ばんだ肌が互いに触れるけど、不思議と不快感はない。
 
『ああ…俺、この人と暮らしてるんだ…』

 取り込んだシャツと同じ香りのする人に抱っこされながら、有利は幸せを噛みしめるのだった。




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