「春の花を君に」@

※眞魔国森に住んでいた頃の、ちっちゃい黒うさと大きな茶うさの小話です。







 春です。

 早朝、顔を洗う時に仄かな水の温かさでそれを感じます。
 家を出る時、外気のほわりとした風にそれを感じます。

 春はとてもうきうきとして、誰かに「春ですよ」と教えてあげたくなる季節です。



「コンラッドーっ!」

 さあ、今日もちいさな黒うさぎが、とっときの《春》を告げに来てくれましたよ?

 野原からぜいぜいと息せき切って走ってきた黒うさを見て、茶うさぎにはそれが何なのか分かりました。

 黒うさぎの頭には花冠、頚には花の首飾りを二重にかけているのです。
 それは、綺麗に編まれた白い小花でした。

「なんて可愛いんだろう!ユーリ…っ!」

 茶うさぎはとろけそうな顔と声で言いました。
 実際、脳の半分くらいは融解壊死を起こしている気がします。

 本当にそうなら、茶うさぎは黒うさぎに会ってから何度も即死しているはずですけどね。

「えへへ…グウェンが編んでくれたのっ!コンラッドにもあげるね!」

 無邪気な笑顔を浮かべて、黒うさぎが花冠と首飾りを着けてくれます。

「とってもお似合いだよっ!」

 茶うさぎは鏡を見て、《俺の主観から行くと、結構痛々しい姿かと…》と、思いましたが、黒うさきはそうは思わないようです。

 瞳をキラキラさせて、《俺のコンラッドは何て素敵なんだろう!お花のかんむりが、王様みたいに似合うよ?》と思っているみたいです。

 茶うさぎはそんな黒うさぎを見るのがとても嬉しく感じました。

「素敵な花飾りをありがとうございます」
「気に入った?」
「ええ、とっても!」

 茶うさぎは力強く答えました。


「じゃあ、この格好でお出かけしよう!」
「……………え?……」


 茶うさぎは軽く息を飲みました。
 かなりの羞恥心を感じたのです。

 ですが…ああ、ですが…っ!
 どうして期待に満ちたこの眼差しを裏切れるでしょうか?



「行き…ましょう………す、素敵な……お散歩になり…ますね?」



 声が強張っていましたが、茶うさぎは限界ギリギリの笑顔を浮かべて手を差し伸べました。


 まあ…良いでしょう。
 きっと、街の人達も微笑ましく見守ってくれることでしょう。


 だって、春ですからね。




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 二羽で歩いていればいいですが、はぐれると茶うさぎにとっては羞恥&放置プレイです。