張り切って駆け出した黒うさぎでしたが、ちょっと走っただけで足の指や踵が擦れて酷く痛み始めました。

「いたたた…これじゃあ走れないや」

 仕方なく、黒うさぎはゆっくり歩いていくことにしました。



 そしてしばらく歩いたところで、急にグン…ッと何かに引っかかってしまいました。

 エプロンドレスの紐が茨に引っかかってしまったのです。

「どうしよう…折角貸して貰ったのに…」

 汚したり破いたりしては大変です。

 でも、一生懸命に茨から紐を外そうとするのですが、焦れば焦るほど細かな目のレースが絡みついてしまいます。

「どうしよう…どうしよう……」

 気がつけばだんだん空は紺色に染まっていき、一番星が輝き始めました。

 このままお家に帰れないと、どんな生き物に狙われるか分かりません。

 きっと茶うさぎも酷く心配することでしょう。

 

 宵闇の陰影を帯びると、辺りの景色は全く違って見えてきます。

 茨の奥の影で蠢くのがお化けに見えますし、空をさ…と過ぎっていく影は、恐ろしい猛禽類の翼に見えます。

 お腹は空くし不安になるし…黒うさぎはすっかり恐ろしくなってふるふると震えてしまいました。

「コンラッド…コンラッドぉ……」

 とうとう泣き出してしまった黒うさぎは、大切な名付け親の名前を一生懸命呼びました。







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