黒うさぎのきもん(絵本) 「コンラッド、お帰りーっ!そんで、ただいまーっ!」 ぴょーんっと跳ね飛んで帰ってきた黒うさぎに、茶うさぎは着替えの途中ではありましたが笑顔で受け止めると、そのまま黒うさぎの好きな《手足で高い高い》をやりました。 腕と足の両方で黒うさぎを支えて、空中でゆらゆらするのです。 「くんれん大変だった?」 「いいえ、みんなとてもやる気のある生徒さん達ばかりでしたからね。でも、ユーリに何日も会えなかったからとても寂しかったよ」 「俺も…俺もだよ!ヨザックといるのも楽しかったけど、コンラッドと会えないのはもっとずっと寂しかった!でも…お仕事だからしょうがないよね」 茶うさぎは黒うさぎを引き取ってからの何年かは予備役扱いにして貰って仔育てに専念していたのですが、最近はどうしてもとグウェンダルに頼まれて、士官学校の非常勤講師として、剣術指南に行っているのです。大抵は日帰りなのですが、実戦訓練のために3日ほどお家をあけることになりましたので、そのあいだ黒うさぎは休暇中のオレンジうさぎ、ヨザックのところで暮らしていました。 一足先に家に帰っていた茶うさぎは身綺麗にしてから黒うさぎを迎えに行くつもりだったのですが、待ちきれなくなった黒うさぎは家まで駆けどうしに駆けてきたようです。 黒うさぎは随分と走ったせいもあるのでしょうが、何か他のことにも興奮しているようで、瞳はキラキラと輝いていますし(いつもそうですが、今日は特に…ということです)、ほっぺたは林檎のように真っ赤です。 『ああ…うちのユーリはなんて可愛いんだろう』 親馬鹿一直線の感想ではありましたが、それも仕方のないことでしょう。 黒うさぎは本当に可愛らしいうさぎなのですから。 「あのね、コンラッド!俺、コンラッドに聞きたいことあるんだ!」 「なんでしょう?俺に分かることなら何だって教えて差し上げますよ?」 可愛くて堪らない黒うさぎの問いに茶うさぎは全力で答えようと、耳をそばだてました。 「あのね!俺たちあと何回キスしたら赤ちゃんが出来るの!?」 黒うさぎの爆弾発言に、茶うさぎは物理的に5pほどよろめきました。 精神的にはその十倍はよろめいていたことでしょう。 高く掲げた黒うさぎを取り落とさなかったのは運が良かったからではなく、愛の力というモノでしょう。 「………ユーリ……またヨザに妙なことを吹き込まれたのですか?」 オレンジうさぎは茶うさぎの古くからの友人ですが、時々こうやって黒うさぎをからかうので、その度に茶うさぎは心臓が止まるような(もしくは爆発するような)思いを味わうのでした。 狙い通りの反応を示してしまった茶うさぎには、友達の含み笑いが目に浮かぶようでした。 「ユーリ…おはようのキスやおやすみのキスでは、赤ちゃんは出来ないんですよ?」 「じゃあ、どうやったらできるの?」 真っ黒な澄んだ瞳に見つめられて、茶うさぎは口籠もってしまいました。 茶うさぎは性教育の必要性をひしひしと感じていましたが、彼にはそういった話を分かりやすくかみ砕いて教えてあげる自信がありませんでした。 それに…どうやら黒うさぎは、雄うさぎでも赤ちゃんを産めると勘違いしている節があります。 『雄には子供は産めないんですよ』 と、ひとこと言ってやるのは簡単ですが…黒うさぎのがっかりする顔を見たら、茶うさぎはつい、《…嘘です。産めますよ…》などと口走ってしまいそうです。 「そうだ、ユーリ。俺の母に聞いてみてはいかがでしょう?」 「ツェリ様に聞くの?」 「ええ、こういった話はやはり女性の方が得意でしょうからね」 茶うさぎの母は美しい金色のうさぎです。 黒うさぎに会うと、良い香りのするふっくらとした胸元に抱き寄せてくれます(それで窒息死しかけたこともありましたが…)。 黒うさぎはこっくりと頷くと、元気よく駆けだしていきました。 あとがき さて、新シリーズ始まりました!前回の『〜なやみごと』のように深刻な話は出てきませんので気楽にお読み下さい。 この次の回の『黒うさぎふるさとに帰る』ではちょっと深刻な話になりますので、助走みたいな感じです。 ところで、上の絵を描いた後に何となく書いた落書きがありますが、本筋と全く関係ない日常の風景(普段の《高い高い》)なので別窓が開きます。よろしければご覧下さい。 →いつもの高い高い |