「獅子執事」−8






 お馬はみんな、ぱかぱか走る。
 ぱかぱか走る。
 ぱかぱか走る。
 ぱかぱか走る。

 お馬はみんな、ぱかぱか走る。

 どうしてな〜のか♪

『取りあえず、鞍を付けられた馬は総じて人間に御されてるからだよな』

 暢気な童謡など口ずさみながらも、有利の唇の端がちょっと皮肉げに上がってしまうのは、ひとえにこの状況のせいである。

 さて、この状況。

 あまり説明したくないのだが、敢えてするならば《ノーパンで女装して年上の男に抱きしめられたまま馬に乗っている》という、甚だ変態チックなこの状況である。声を大にして言いたいが、別に有利が望んでこうなっているわけではない。
 しゅるしゅると肌の上を滑るドレスの布地は、当たり前だが今まで身につけたこともない感触を与えてくる。魅惑のランジェリーをお借りするのは流石に抵抗があって、濡れた下着は自然乾燥を待っているから、今現在ドレスの下はマッパという極めて恥ずかしい状態。

『とほほ…』

 夜盗から奪った馬は二騎。村田はそのうち一騎に跨ってどうにか御している。《以前乗った時の記憶がある》のだそうで、随分と上手いもんだ。お坊っちゃっまっぽい外見通りにセレブな人生を歩んできたのだろうか?
 一方、何故か執事に尽くされる日々は送りつつも、セレブもセロリもへったくれもない人生を歩んできた平凡な男子高校生はと言うと、長身の執事の胸元にすっぽりと収まる形で馬に乗っている。ドレス姿で大股広げて鞍に跨る姿は切ないが、一応その下にショート丈とはいえズボンっぽいものも穿いているので、股間が丸見えになることはない。ただ、そのズボンっぽいものもヒラヒラのレースがふんだんについているので、見ようによっては下着の延長線上にありそうでやっぱり切ない。

「どうしました?ユーリ」
「いや…その……色々と心許ないと申しましょうか……」

 分かっているはずなのに、少し楽しそうと言うか、意地悪とも取れる声音で執事が囁きかけてくる。その声がまた、無駄に響きがよい上に耳朶へと直接流し込んでくるから大変タチが悪い。耳から首筋に掛けてが敏感らしい有利は、そう言うことをされるたびに真っ赤になってしまう。

「コンラッド、その位置から囁くのはナシの方向でお願いします」
「申し訳ありません。俺の息…臭かったですか?ああ…やはり俺も年なんですね。口臭で主を苦しめてしまうなんて!」
「ち、違うよっ!コンラッドの息は爽やかミント味だよっ!!別に臭いって訳じゃあ…」

 しょんぼりと項垂れる執事に慌てて訂正すると、併走している村田が何故だか半眼に細めた瞳でじとりと目線を送ってくる。

「へぇ、渋谷。ウェラー卿の味なんて知ってるんだ?」
「細かいとこ突っ込むなよ!訂正するよっ!味じゃなくて匂いだよっ!」

 慌てて訂正すれば、これまたくすくすと耳朶に悪戯な笑い声が注がれる。

「味の方も試して御覧になりますか?」
「いや、結構」
「つれないですねぇ」

 ふるふると横に首を振れば、またがっかりしたみたいに顎を肩口に載せられるが、今度は騙されない。だって、語尾に笑いの波動が滲んでいるもの。

「渋谷…ウェラー卿相手にどうして貞操が無事なのか、逆にそのことが不思議でしょうがないよ」
「そんなの不思議に思うなよっ!俺の貞操とかコンラッドにどうしろってんだよっ!」

 ぎゃーすか騒ぐ有利に、村田も執事もくすくすと楽しそうに笑うから困ってしまう。この連中はどれだけ有利で遊ぶつもりなのか。

「つかさぁ…お前ら暢気すぎね?《ここどこ?》とか、《これからどうするの?》とか、一般市民が浮かべそうな発問は出てこねーのかよ」
「いや、僕的には君からそういった言葉が出ないことの方が不思議だよ。今の僕らは、《どういう質問が出るのかな〜っ?》て構えてる内に、説明する機会を逃してる感じかな?」
「……………ってことは、やっぱここって眞魔国なわけ?」

 確かに先程ドレスをくれた女性が話していた言葉も、緑の男が口にしていたのと同様のドイツ語めいたフレーズであったし、執事と村田は元々の性格もあるのだろうが、やけに落ち着いている。あんまり落ち着きすぎているから、こちらもうっかり騒ぐタイミングを外していた。

「う〜。お前らここが本拠地なんだもんな。そりゃ落ち着くよな。でも、俺は完璧ビジターなわけよ。吃驚しすぎて何から突っ込んで良いのか分かんないんだよー」
「そりゃそうだよねぇ」

 ふ…っと微笑んだ村田の表情は、朝靄の中でかすんだような質感を湛えている。それを《儚げ》と表現するのは、この図太そうな少年には不適切だろうか?けれども、軽く息を呑んだ執事もまた微かな緊張を伝えてきたから、有利にもなんとなく分かってきた。

『あ〜…もしかして、こいつらも緊張してる?』

 その緊張の対象は眞魔国と呼ばれるこの世界のことではなく、おそらくは有利自身に向けられているのではないだろうか。そう考えれば、あの緑男を倒す時の様子が思い起こされる。《僕たちは覚悟を決めた》…思い詰めたような村田の声には、色々な想いが滲んでいた。

 彼らはきっと何か断ち切りがたいモノを断ちきって、有利を選んでくれたのだ。でも、きっと元々は有利を選ぶべき立場には無かったと見て間違いない。最終的には有利を選んだにしても、その《元々》のところが彼らには引っかかっているのだろうか?

 有利が全てを知って変わらずにいられるという確信が掴めない。
 そんなところか。

 ふぅ…っと息をつくと、有利はにかりと笑って後ろ頭を執事の厚い胸板に弾ませる。何かが変わるにしても、この連中を有利が嫌うことなど無いのだと教えるように。

「なぁ、コンラッド。この国のこと教えてよ。ずっとあんたが内緒にしてた昔の話も、今なら話してくれるだろ?」
「ユーリ…」
「村田もだぜ?溜め込んでたこと全部ひっくり返してさ、教えてよ」
「…うん。そうだね、そういう頃合いかな?」

 淡く微笑む村田はまだ少し不安に様子だったけれど、ぽつらぽつらと話し始めた。その身に背負った重すぎる過去のことを。



*  *  * 




 はふ…。

 一通りの話を聞き終えた有利は、少し疲れたように瞼を伏せている。肉体的にも、精神的にも負担が大きかったのだろうか?彼がどういう反応を見せるのかとドキドキしながら身構えていた執事は、ほろりと滑らかな頬を転がる滴に、胸を突かれる想いがした。

「ゆ…ユーリ?気分を害されましたか?」
「ばーか」

 涙を滲ませながらも唇に笑みを浮かべて、くりんと仰向く姿は何とも愛くるしい。つぶらな瞳に溢れそうになる涙を堪え、上唇をきゅっと噛みしめている姿など目の当たりにしては、思わず身を屈めてキスの一つもしたくなるではないか。(やったらドン引きだろうが)

「害したりするかよ。あんまりあんたらがハードな人生…つか、魔族生?送ってるもんだから、感動しちゃっただけだよ」
「感動…ですか?」
「うん。何て言ったらいいのか分かんないけどさ、そんな色んなコトあったのに…」

 もにもにと噛んでいた唇を開放すると、有利は執事の瞳をじぃっと見つめて呟いた。

「俺のことを選んでくれて、ありがとう…な?」
「…っ!」

 手綱を放してぎゅむっと抱きしめてしまった執事を誰が責められようか。《ふげっ!》と、少々色気に欠ける叫び声を上げた有利も、感極まったように肩口へと擦り寄ってくる大型犬のような執事に文句は言わなかったし、珍しく村田も突っ込みはしなかった。

『ユーリ…大切な大切な、俺の愛し子っ!』

 ぐりぐりと額を押しつけ、執事は自分の選択を改めて肯定した。



*  *  * 




「さて…と。それで、これからどうしよっか?」

 村田に問われて、有利は《ふぅむ》と眉間に皺を寄せた。ほんの一瞬前まで、まさに同じ問いかけを執事に向かってしようとしていた有利は、正直なところ自分が聞かれる側に回ったことに《え?》と疑問符を浮かべたわけだが、そういえば、眞魔国に向かおうと選択したのは自分だったと思い出して冷や汗を掻いた。

『そ、そーだよな。俺って、コンラッドと村田の信頼受けちゃってるんだよな?』

 彼らの過去を知った上で有利を選んでくれたことに感激したものの、それは実に大きな責任を伴うことでもあった。片や《双黒の大賢者》と讃えられ、片や現役魔王の息子でありながら、混血魔族の旗手として複雑な立場にある人物達を伴うことはただ事ではない。

『そもそも、ここって眞魔国じゃないんだよな』

 そう。実はこの世界自体は確かに眞魔国が存在する時限軸ではあるのだが、この地域は執事達魔族とは敵対関係にある人間の国なのだという。魔族と人間の軋轢の話など聞くと、すっかり自分のことを人間だと信じ込んで過ごしてきた有利には目眩にも似た感覚が起こる。しかも有利たちが身に帯びる《黒》という色彩が、眞魔国では貴色と讃えられる一方で、人間世界では呪色として憎悪されているなんて、えらいカルチャーショックだ。

 執事は女性達の乗っていた馬車の家紋と、夜盗達が帯びていた地図から大体の現在地を割り出していた。おそらくここはタイラント国の北方領域だろうとのことだった。地図で概略を説明されたところによると、馬に乗ってこの速度で移動した場合、陸路であれば国境を越えるまでに1ヶ月程度かかるという。海路を使えば1週間で港に着くと言うが、問題は眞魔国へと向かう船が限られることだ。

 人間の国家と眞魔国は全く国交断絶をしているというわけではなく、一定の通商関係がある。ただ、宝飾品や香辛料と言った拘りの嗜好品の遣り取りに限られており、便数は極めて少ない。特定の商業ギルドが通商権を独占している形だが、彼らとてフリースルーというわけには行かず、互いの国境で厳重な検閲を越えて行かなくてはならない。

「とにかく、情報が欲しいよね」

 村田は4000年分の記憶があるとは言っても、そのうち2000年くらいは地球での生活だったそうだし、執事にしてもここ10年は全くこちらの世界の情報を得ていない。時間軸が一定の間隔を保っているかどうかも分からないとなれば、下手をすればそれ以上の時間が経過している可能性もある。かつての勢力図がそのまま維持されているとは考えにくかった。

「この近くで情報が得られそうな街ってあるかな?やっぱ、酒場とか市場とかでの聞き込みってRPGの基本だよね?」
「そうですね」

 くすりと苦笑する執事に、ちょっと頬が紅くなってしまう。

「あ…あ、ゴメンな?RPGとかって…その、この世界の現実味がまだ無いからってのもあるけど、俺の知識ベースってちっこいからさ」

 こういう時はどうしても自分の未熟さとか、至らなさを思い知らされる。緑の匂いが立ち込め、爽やかな風が吹くこの世界は《剣と魔法》が存在する世界ではあるけれど、多くの人々が実際に生きている《現実》でもあるのだ。決してリセットの効くゲーム世界などではない。

『コンラッドにとってはここは敵地で、1ヶ月は掛かるって場所に故郷があるんだ』

 その故郷とて、帰ったら素直に抱きしめ返してくれるような人ばかりではない。暗殺されそうになって異世界に渡るという流転の人生を歩んできた執事が…いや、ウェラー卿コンラートが一体どんな気持ちで居るのか、有利はもっと親身になって考えるべきだろう。

 いや…考えたいのだ。有利自身が。

『そうだよ。もう、コンラッドは俺だけの執事じゃ無いんだ』

 未だ水気を含んだ執事服に身を固めてはいるが、この世界での彼は《ウェラー卿コンラート》なのだ。残してきた混血の仲間達や、複雑な関係にある血縁者達がどうなっているのか、心配していないはずはない。

「いえいえ、お気になさらず。それに、基本方針としては間違っていません。お二人の衣装もどこかで替えなくてはなりませんしね」
「そーだよね。この格好で馬乗りとかナイもんな」

 コンラートが雰囲気を変えようとしてくれていることにも気付くと、有利はすっかり安堵してぴらぴらとスカートの裾を摘んでみせた。ここまで着てきた服では目だつそうだし、黒髪を晒せない以上はこのくりくりウェーブカツラで違和感のない服を着る必要があるが、せめてズボンは穿きたい。このままでは腿とか剥き出しでマヌケだ。

「ウェラー卿、何で後に下がるの?」

 村田の指摘に、有利はきょとんと小首を傾げる。

「んなことねーだろ。コンラッド、寧ろ乗っかかってきてるぜ?」
「うん。上半身はね。でも、下半身が引けてる」
「たまたまじゃない?」
「タマかな〜。竿の方の問題じゃないかな?」
「んんん?」

 村田は頭が良すぎるせいか持ちネタが古すぎるせいか、時々突っ込みの意味が分からない。有利はクエスチョンマークを大量発生させながらぱかぱかと馬上に揺れた。コンラートはと言うと、何故か《ははは》と曖昧な笑みを浮かべたまま何も言わなかった。



*  *  *




 ほどなくしてそこそこの大きさの街にはいると、コンラートはドレスと宝飾品を質草に入れて幾ばくかの現金を手に入れた。その頃にはすっかり衣服も乾いていたから、執事服の端正な男が華やかなドレスを質に持っていってもさほど違和感は抱かれなかったという。

 その金で御一行は食糧や軽い毛布、水を入れる革袋、衣服等々、旅に必要な物資を手に入れた。

「ああ〜っ!やっと楽になったぁ〜っ!!」

 くりくりの巻き髪を左右で分けて三つ編みにした有利は、膝下丈のズボンを穿いてくるんと回転した。その上には村娘風のワンピースを着てはいるが、ドレスと比較すれば格段にラクチンだ。村田もほぼ同じような格好をしている。

 やっと街中にあっても違和感のない衣装になったことですっかり緊張も解け、コンラートの案内で入った飯屋でもくつろいだ雰囲気になった。古い木製の家屋はどこか西部劇を思わせるような店作りで、妙なBGMなど掛かっていない辺りが日本育ちの有利には新鮮だった。
 
「あんたのそういう格好も初めてだね〜。ラフなのも似合うな」
「畏れ入ります」 

 照れくさそうに口の端を上げたコンラートは、本当に今までとは違って見えた。こちらの世界の人々は大体、有利のイメージからすると中世ヨーロッパ的な衣装を身につけており、コンラートも大体はそれに倣っているのだが、幾つかの革ベルトを腰と肩に掛けて剣や荷物をコンパクトに身に帯びている。その様子は実に旅慣れた感じがして、彼を見ていると《何もかも安心》という気になるから不思議だ。

『こういうの、男の甲斐性っていうの?包容力あるっつーか。畜生…羨ましいぜ』

 実は100歳を超えているというコンラートではあるが、有利が100歳になったからと言ってコレと同じだけの器を身につけていられるか相当怪しい。単に老けているだけかも知れない。

 慣れた所作で手早く注文をすると、数分で良い匂いをさせた食事が卓上に載る。《ぅわぁ!》と嬉しそうな歓声を上げたら、人の良さそうな給仕のおばちゃんがデザートも追加してくれた。欠食児童に見えたのだろうか?(まあ、間違ってはいない)

「やっとまともなご飯が食べられるのもありがたいね〜」

 コンラートが狩りや漁をしたり森の植物を採集してくれたお陰で食べるものには事欠かなかったが、流石に調味料までは入手出来なかった。おかげで、食事に塩分が含まれているだけで涙が出るほど嬉しい。ビバ、ナトリウム。その他の栄養素も身体の隅々まで行き渡るようで、夢中で貪ってしまった。

 けれど、ふと気付いた有利はちょっぴり眉を顰めてコンラートを促す。

「コンラッド、あんたも食いなよ」
「最初に頂きましたよ?」
「あれって…毒見だろ?ちゃんとした食事じゃないっつーの」
「はは」

 《バレましたか》みたいな顔をするこの男、確かに一番最初に手を出したからさぞかし腹が減っているのかと思いきや、一皿ずつ味を確かめ、それから二人用の皿によそってくれた。そうしておいて、満足そうに二人が食べ進むのを見ているものだから、しばらくしてからやっと意図に気付いた。万が一を考えて、怪しいものが入っていないか確かめてから二人に食べさせ、自分が食事としてとるのはその残りと決めているらしい。

 執事としてではなく、臣下としての立場がそうさせるのだろうが、知識と身体馴染みの点から毒見に関してはお世話になるとしても、食事は食事だ。身体が必要とするだけ食べて欲しい。何しろ、馬上の旅の間は更に有利達だけに食べさせて、自分は我慢していた風だったのだから。

「そういえば、情報も少し入りましたよ。あと1週間程度旅をすれば、どうやら俺の知人が出没する地域に入るようです」
「…出没?」

 ちゅるちゅるとスパゲティのような料理(味はきしめんっぽい)を口に含みながらも、妙な表現に小首を傾げてしまう。《居る》のではなく、《出没》するのか?

「知人って…野生生物なの?」
「いえ、一応魔族です。それも混血。ただ、夜盗やってるみたいですけどね」
「えーっ!?」
「元々は軍籍にあったんですが…俺が居る間も風当たりが強い部署でしたからねぇ。左遷くらいはあるかと思いましたが、まさかまとめて出奔しているとは予想外でした」

 ちゅるりとスパゲティもどきを口に含んだコンラートは、少し自嘲するように口の端を上げた。

「旧知の友ではありますが、あまり過大な期待はしないで下さいね。恨まれているかも知れませんから」
「ばっか!事情があってのことじゃんっ!!」

 ぶばっと口からスパゲティもどきが溢れそうになるが、もがもがと慌てて咀嚼してからもう一度口を開くと、身を乗り出して顔を付き合わせた。
  
「あんたこっちでは暗殺されたことになってんだろ?だったら、死んだはずのあんたが蘇って、知り合いが喜ばないはずないじゃんっ!」
「遺体は上がっていません。それをどう使われているかが問題なんですよ」
「え…」

 村田はもうお腹が一杯になったのか、口元をナプキンで拭って冷静な眼差しを浮かべる。

「そうだね。失踪扱いにして人間の国に渡ったことにされたとか、どう利用されているかは分からないよね」

 確かにそう言う可能性もあるのかも知れない。
 けれ、けれど…。

「でもあんたはこうして今、生きてるっ!」

 がしりと肩を掴んで、有利は真っ直ぐにコンラートの目を見て叫んだ。周囲の客や店員達が不思議そうに見ているが、それでも言葉を止めることは出来なかった。

「生きてたら、なんとでもなる。本当のことは、伝えようと思う限り必ず届くんだよっ!!」

 16年しか生きていない自分が、100年もの月日を生きてきたコンラートに対して偉そうに言えることではないかも知れないけれど、それでも伝えたい。その信念だけはきっと、何年生きているかに関わりなく、本当のことだと思うからだ。

 コンラートは驚いたように目を見開いていたけれども、少しずつ…蕾が開くみたいにしてふわりと微笑むと、嬉しそうに有利の頭を撫でてくれた。彼には珍しいくらい素直な表情に、有利の方がドギマギしてしまう。

「はい」

 《なに、その新妻みたいな素直なお返事》…そんなことをもぐもぐと口の中で呟くと、有利はどすんと椅子に腰掛けて次々に皿を空けていった。コンラートはまだ遠慮がちにではあったけれども、有利に促されるままちゃんと食事らしいペースで料理を口に運んでいく。

 それが、嬉しかった。






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