第3部 第6話
夏の盛りの王都では鮮やかな新緑が陽光を弾き、石畳に落ちかかる影と光のコントラストが目に眩しい。そんな中、血盟城に於いて行われた指導官の結成式でも、影と光の差異は強く印象づけられた。
ヴォルフラムはやはりコンラートに対して敵愾心を示すことはなく、ビーレフェルト家の当主たるヴァルトラーナですらどこか諦観さえ漂う眼差しで、現魔王の三兄弟を眺めている。
相変わらずコンラートに対するヴォルフラムの言葉遣いは厳しいものの、やはり根底に漂う親しみは周囲にも伝わってくるから、すっかり仲睦まじい雰囲気を漂わせるようになった彼らに、根強い純血崇拝者達は驚きの眼差しを送っていた。
『グウェンダル閣下はともかくとして、ヴォルフラム閣下までが…!』
それを咎めることなく容認しているヴァルトラーナの態度も合わせて、彼らの間には激しい動揺が巻き起こっていた。
* * *
結成式の夜にも、血盟城では盛大な宴が催された。先日行われた帰還を祝う宴から日数があまり経過していないこともあって、村田は今回不参加である。彼は眞王廟に宿泊しており、付き添いとしてヨザックが同行しているのだが、眞王や大賢者はともかくとして基本的に男の立ち入りを禁止している眞王廟のこと、ヨザックは付き添いが終わったらそのまま別の任務に就くことになっている。
このように幾らか参加者が少なく、規模も比較的小さかったが、その分アットホームな宴となった。
特に、グレタに対する扱いは《孫娘を迎えた実家》並に賑やかだった。宮廷に幼い姫がやってくる機会はここ近年無かったから、何処に行っても可愛がられるのである。
「グレタ姫、こちらのお飲み物も試してみられては?」
「是非こちらのお菓子も摘んで下さいな」
「ご厚意、痛み入ります」
丁寧な言葉遣いと、ちょこんとスカートを摘んで腰を屈める淑女の礼が何とも愛らしく、人々は先を争ってグレタの興を買おうとしていた。
グレタは分を弁えた立ち居振る舞いと、子どもらしい無邪気さを絶妙なバランスで保っていた。この辺りの匙加減は、やりすぎると《こまっしゃくれている》と判定されかねないが、ユーリやコンラートの愛とアニシナの叡智、そして確執を解いたダイクン王の信頼を受けたグレタは、穏やかな心地で自分を律することが出来るまでになっていた。
「グレタはすっかりにんきものだね?」
ユーリがにこにこ顔で声を掛けると、コンラートも安堵したように頷く。
すっかり引っ張りだこになっているグレタと他の面子の親交を見守る形で、二人は少し距離を置いていた。
「そうだね。人間ということで否定的な意見もあるかと思ったけど…やはり年齢的にも良い頃合いだったんだろうな」
「ああ、それもあるかも」
肉食獣でさえ、補食生物の赤ん坊には愛情を感じることがあるくらいだ。幾ら人間に対して抵抗感があったとしても、敵愾心を持たない朗らかな少女に対して、あからさまな敵意をぶつける者はそうはいないだろう。
「このまま、グレタが人間に対する好意的感情の担い手になってくれると良いね」
「うんうん、あの子ならできるよ。すごくかしこいもん」
「そうだね。アニシナでさえ常々褒めているくらいだから、やはり叡智に溢れているんだろうな」
アニシナは滅多に他人を褒めることはないが、グレタに対しては基本的に賞賛を惜しまない。元々、理知的な女性に対しては多少点が甘い向きもあるが。
話題に上ったついでにアニシナの方を伺うと、健啖家の彼女は食料を求めてテーブルを移動している最中に、フォンロシュフォール卿クリムヒルデに出くわしていた。
* * *
「おや、クリムヒルデ。随分と食欲が無さそうですね」
「あなたと違ってね」
蔑むような眼差しは鋭いが、舌鋒のわりに悔しげな色合いが滲んでいる。アニシナは形良い眉をぴくりと跳ねさせると、クリムヒルデに意図を問うた。
「人間であるグレタが宮廷人達に快く受け入れられているのが、そんなに腹立たしいのですか?」
「…っ!相変わらず、歯に衣着せぬ物言いをすること!」
「それが私の売りですからね」
勢い良く、同時に品よくフォークを動かしていくアニシナは、飄々として笑みを浮かべている。クリムヒルデの反感をまともに受け止めようとは思わないのだ。
『基本的にはこの子も、そう愚かな娘では無いはずだわ』
アニシナはクリムヒルデの才を認めている。純血貴族としての誇りが強すぎて色々と見失っている部分もあるが、正道に立ち返る機会はまだ幾らでもあろう。
『そういった意味では、指導官という役割は王太子殿下の教育というより、大貴族の次代を受け継ぐべき人材の養育にもなるでしょうね』
中には次代というより現代そのものの世代もいるが(ギュンターとか…)、特に反感を強く持っているだろう家系については、次代層が固まっているので問題あるまい。
「現実に目を開くことね、クリムヒルデ。そうすれば、今起こっている現象の正しい背景が見えてくる筈」
「相変わらず偉そうだこと…!」
「偉そうなのではないわ、クリムヒルデ」
ちゅるんと麺状の具材を咥内に吸い込み、咀嚼すると、アニシナは余裕の笑みを閃かせてクリムヒルデに一言残した。
「偉大なのですよ、私は」
「…っ!」
自信満々のアニシナに効果的な反論を為し得ないまま、クリムヒルデは奥歯を噛みしめるほか無かった。
* * *
宴もたけなわとはいえ、幼い少女には夜更かしの限界というものがある。アニシナは時計に目を遣ると、小首を傾げて宴会場を見渡した。
『おかしい…。グレタ姫に関しては心配性の王太子殿下が、こんな時間になっても放っているなんて』
それに、お目付役のコンラートの姿もない。一体これはどうしたことだろう?
仕方なく自己判断でグレタを寝室に送ろうと思ったのだが、丁度アニシナが少女に寄っていったとき、グレタは驚いたような声を上げて、フォンラドフォード卿エレルラインに問いかけていた。
「この茸…もしかして、エノア茸ですか?」
グレタの手には美味しそうな芳香を漂わせるスープがある。かなり辛口ではあったが、随分と美味しかったのでアニシナもかなりの量を食したし、宴の参加者にも評判の良かった一品だ。それが一体どうしたというのだろう?
「あら、ご存じですの?最近カロリア港から運ばれてきた、大陸の希少な茸と伺ったのですけど…。肌つやに良いと評判ですし、少しほろ苦いけれど、こうして辛い香辛料と合わせるととても風味があって美味しくなりますわ。姫のお年頃にはきつい味付けだからと思ってお勧めしませんでしたけど、良かったら召し上がってみます?」
「そ…そうではなくて!魔族の方はこの茸を食べても平気なんですか?」
「まあ…?平気とは一体?」
「これは私の郷里で《眠り茸》と呼ばれていますの。食べると凄く眠くなってしまって、食べた量によっては身体が酷く熱くなってしまう場合もあるんですけど…」
そういえば、アニシナも聞いたことはある。基本的には魔族も人間も毒や薬の類に対する反応は一緒なのだが、一部、効果に差がある場合があるのだと。人間ほどではないが、混血であれば純血魔族に比べると違った反応が出てしまうのかも知れない。
そう考えると、急に厭な予感がしてきた。《身体が熱くなる》というのも、何やら意味深だし。
「この料理を、フォンウェラー卿と王太子殿下は食しておられましたか?」
アニシナが強い口調で給仕に問いただすと、びくりと震えて喋り出す。
「ええ、殿下が随分と気に入られたようで、たくさん召し上がっておられましたし、コンラート閣下にも勧めておいででした。ま、まさか…人間に対してそんな効果があるとは知らず、申し訳ありません!」
恐れ入って真っ青になっている給仕に、グレタは慌てたように手を振った。迂闊に責任を感じさせすぎて、厨房の使用人達が罰せられては困ると思ったのだろう。
「いいえ、決して毒になるわけではないんですよ。ただ…もしかしたら、変なところで寝入っておられるかも知れませんわ」
何ともはや、ユーリはともかくとしてコンラートには珍しいことである。彼は幼少の頃から毒に身体を慣らしていて、危険なものであればすぐに気付くはずだ。もしかすると、なまじ毒とは断定出来ない成分であったから、余計に気付きにくかったのかも知れない。
「グレタはこのまま寝室で休みなさい。あの連中は、私が責任を持って拾い集めておきます」
「でも…ユーリのことが心配だわ。あんなに可愛らしいお父様ですもの、うっかり廊下でお休みになっていたら、あの綺麗な唇に口づけしたいとか、すべすべのほっぺを撫で回したいとか…そういう出来心を起こす人がいないとも限らないわ!」
「………そう、ですねぇ…」
確かに、その可能性は否定できない。
「そ…それを言うなら、コンラート様だって心配ですわ!普段は隙のない所作で鎧っておいでの閣下が、しどけなく横たわっていたりしたら。…だ、誰だって出来心というか、下心というか、水心というか…そんなものを抱いたりしかねませんっ!ととととと…ともかく、物凄く心が動きかねませんわ…っ!!」
動揺しまくっているらしいエレルラインは、《誰にも知られずに、閣下を拾ったりなんかしちゃったりしたら…っ!》とぶつぶつ呟きながら、真っ赤に染まった頬を両手で包み込んでいる。妄想内容によっては、なかなか油断できない女性といえよう。
「ユーリはもっと心配よっ!」
グレタは声を潜めると、ひそひそとアニシナの耳元に囁きかけた。《ユーリはご家族との約束で、まだ処女なんでしょう!?万が一、操をコンラート以外に奪われたりしたら可哀想過ぎるわ…っ!》…確かに、その心配もある。
《貴族でござい》と気取っていても、魔族は基本的に享楽的な部分が強い。酒の勢いも手伝えば、眠ったまま目覚めない相手をどうにかしようという不届き者もいないとは言い切れなかった。
それにしても、これでは親子逆転だろう。養女に操の心配をされる父というのは、そんなにはいない筈だ。
「エレルライン、グレタを寝室に連れて行って下さいな」
エレルラインは《私はコンラート様をお捜しに…》と言いかけたが、先程の様子からみて、万が一発見したときに《出来心》を起こさないとも限らないと判定されたのだと察して頬を染めた。
「わ、分かりましたわ。アニシナ…どうか、コンラート様をよろしくね?」
「ええ、任せておきなさい」
とはいえ、一人では少々心許ないと感じたアニシナは、エレルライン達の後ろ姿を見送ると、目に付いたグウェンダルの首根っこを掴んだ。
「あなたの弟が貞操の危機です、手伝いなさいグウェンダル」
「な…なんだ?」
ぎょっとして目を開大させるグウェンダルの横で、居合わせたヴォルフラムも血相を変えていた。
「コンラートの危機とはどういうことだ、アニシナ!?」
「おや、いたのですか。小さすぎて分かりませんでした」
コンプレックスを刺激されて《むきーっ!》と歯がみするヴォルフラムだったが、すぐに我に返る。この辺り、多少は性格の安定化が進んでいるのだろうか?
「実はですね…」
状況を説明すると兄弟達は眉根を跳ね上げ、その辺にいた側近達やギュンター達に知らせると、すぐに捜索を開始した。
* * *
『拙いな…』
ユーリがお手洗いに行くと言い出したとき、コンラートはついていこうとしたのだが、何故か頬を染めたユーリが《来なくて良い》と言い張るので、時間差で様子を見に行った。どうやら、用足しの際に音が聞こえたりするのが恥ずかしいらしい。
しかし、ユーリが出て行ってから数分もしないうちに身体に異変を感じたコンラートは、急いで後を追った。
次第に呂律が回り難くなり、如何ともしがたい睡魔によって歩行も怪しくなってくる。この異様な眠気は、絶対に生理的なものではない。口にしたものの中には、毒や薬らしき反応は無かったのだが…。
しかし、すれ違いになったのか経路が違っていたのか、トイレにユーリの姿はなかった。コンラートはとにかく自分だけでも覚醒状態を保とうと、咽奥に指を突っ込んで胃の内容物を全て吐き出したが、やはり眠気は去らない。既に何らかの成分が腸管から吸収されたのだろうか?
『ユーリはどうしているだろう?』
コンラートは唇を噛んで己を戒めた。どうやら、ここ最近平和暈けしていたのが祟ったらしい。以前のコンラートなら決してあり得ないような失態だ。
かつてのコンラートであれば、たとえ毒の気配がなかったとしても、このような宴席で多くの酒や食べ物を摂取することは無かった。毒に慣らした舌であっても、全ての毒をより分けられるはずもないから、とにかく致命的な量を摂取しないように気を付けていたのだ。
どうやら、グウェンダルだけではなく長い間確執のあったヴォルフラムまでもが親しみを示してくれるようになったことで、すっかり有頂天になっていたらしい。
しかし、幾ら彼らの心証が良くなったとはいえ、やはりここは魑魅魍魎跋扈する宮廷人達の集う場所だ。弱みを見せればいつ何時、隙に突き込まれないとも限らない。
ほら…今も、コンラートにとっては微妙な立ち位置にいる男がやってきたではないか。
「おや、随分と眠たそうだね。そのまま眠り姫になってしまいそうだ」
しなやかな細身の体躯はやや華美なスーツに包まれ、背中までウェーブを描いて流れていく銀髪は、ギュンターのそれよりも派手な印象がある。純血貴族としての矜持が強い、フォンギレンホール卿サーディンだ。
幾分嫌みな笑みを浮かべつつも、コンラートに対する意識が強いことは間違いない。
『昔から、こいつは何かと突っかかってきたものだが…』
取りあえずは、この男がユーリの方に行っていなくて良かったと安堵する。タイミングを誤れば、コンラートに見せつけようとしておかしな手出しをしかねないからだ。士官学校時代にも、コンラートと身体の付き合いがあった女性を籠絡しておいて、コンラートとも別れたのを知るとポイっと捨てるようなことがあった。
本人は認めたがらないが、要はコンラートという存在に興味津々なのだろう。
「どうも浮かれすぎて、酒を過ごしたみたいだね。恥ずかしいな…」
「…えらく素直だな」
髪を掻き上げ、薄く笑いながら壁に凭れると、サーディンがごきゅりと喉を鳴らして瞳を眇めているのが分かる。こうして見ると、何とも分かりやすい態度をしていることだ。性的な意味でもコンラートに興味があるのだろうか?
『このまま眠ったりするとややこしいな…』
こんな男に連れ込まれて、自分自身が《変な手出し》をされるのも困りものだ。昔ならいざ知らず、今は操を立てるべき相手がいるのだから。
コンラートはそっと壁側に置いてあった花瓶に手を伸ばすと、茎に指を添え、さり気ない動作でパキリと棘を折り取る。それを掴んだままポケットに入れて強く握り込めば、少し意識が晴明になるのを感じた。
「ああ…少し酔いが醒めてきたみたいだ。心配かけたな」
「…そう、つれなくする事もないじゃないか」
サーディンから身を離そうとしたのだが、そうはいかないようだ。目元に不穏なものを漂わせた彼は、コンラートの腕を掴んで引き戻そうとし、その折りにポケットへと入れられた手がおかしいのにも気付いたようだ。
「…?コンラート、何を…」
「よせ」
無理にポケットから引き抜かれた手を暴かれると、予想外に血の滲む手にサーディンの目が見開かれた。
「…こういう趣味があったのか?」
「……………ああ、まあ…そうなんだ」
いっそのこと、そういう事にしておこうかなと思ったのだが、サーディンの方はコンラートよりも今の状況を把握しているらしい。
「嘘をつけ。全く…相変わらず私のことを信用していないのだな!」
「そういうわけではないさ」
「警戒しているのだろう?眠ってしまった隙に、何をされるかと…」
「…君が仕込んだのか?」
眦に殺気を込めて睨め付ければ怯んだようにサーディンの腰が引けるが、すぐに気を奮い立たせて向き直った。
「ち…違う!グレタ姫とアニシナの会話をたまたま聞いただけだ!人間から《眠り茸》と呼ばれている食材が、うっかり料理の中に紛れ込んでいたのだと…!!」
「ああ…なるほど」
眞魔国と人間の国にはこれまで殆ど交流がなかったのだが、最近になってから食料品や自然物の行き来が盛んになりつつある。特に野山から取れた食材については、幾らコンラートとは言えど全てを把握しているわけではないので、見逃してしまったのだろう。
「まあ…警戒するのも仕方ないけどね。実際、私はこの好機に王太子殿下とお近づきになろうと思っていたのだから」
「サーディン…」
「ふふ、良い目だ。そうだよ、コンラート…君は私を警戒すべきなんだ。私は、君にとって危険な存在なのだと認識すべきなんだよ」
興を誘われたように、サーディンの両腕がコンラートを壁に縫い止めるように伸ばされ、整った貴族的な容貌が接近してくる。その顔は悦に入ったように輝き、瞳はこの上なく輝いていた。
「俺を怒らせるために、ユーリを傷つけるような真似をしたら…」
《殺す》…。
その囁きに慄然とはしながらも、サーディンに引く気はないようだ。喜色を浮かべた唇が挑むようにコンラートの耳朶に寄せられ、睦言とも言える甘い囁きがもたらされる。
「ああ、殺せば良い…。そうしたら、君は二度と私のことを忘れられなくなる。君が唯一本気で愛した少年を汚した者として、心に刻めば良いんだ」
この男は病んでいる。あるいは、《病んだ》と思いこむことに甘美な喜びを感じているようだ。欲望の方向を誤ったまま突き進もうとしているのなら、コンラートとしても最後の手を使わざるを得ない。
「まどろっこしいな、サーディン」
「なに?」
今、コンラートの琥珀色の瞳は甘美な毒を湛えているだろうか?
唇は、娼婦のように妖しい笑みを湛えているだろうか?
男を誘う、淫らな罠を掛けることが出来ているだろうか?
「俺が欲しいのなら、何故直接奪いに来ない?」
「……っ!」
サーディンの瞳がこれ以上ないほどに開大され、次いで…ごくりと喉が鳴る。
余裕さえ感じられた瞳には、狂おしいまでの直接的な欲望が渦巻き、擦り寄せられてくる肉体は一部が熱くなり始めていた。
ぺろりと薄い唇を紅色の舌でなぞり、上目遣いに囁きかける。
「初めての《雄》を俺に刻むことが出来たら、それこそ…生涯忘れ得ない男になるだろうよ」
「コンラート…君、は…」
《だから、ユーリには手を出すな》…男心を擽るためには決して口に出来ないが、本当の願いはそこだった。
精一杯蠱惑的な笑みを浮かべると、コンラートは全身から力が抜け、意志の制動を外れていくのを感じた。しなやかな肢体はなすすべもなく壁に沿って頽れていき、熱を帯びた身体がちいさく震える。
サーディンの腕に力が籠もって、コンラートを抱き上げたのが分かった。
『ユーリ…どうか、無事で…』
抵抗し得ない睡魔に引きずり込まれながら、コンラートはきつく唇を噛んだ。
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