第3部 第17話








「…っ!」

 選択的に念話対象者を三人に絞ったにも関わらず、法力を使うサラレギーとベリエスには会話が盗み聞きされてしまう。
 けれど、身を震わせたサラレギーは幼い頃のように泣き出すことはなく、毅然として言い返してきた。

「私は、あなたの息子ですよ。どれほどあなたが否定しようとも、決して事実が覆ることはない」

 凛と張った声は、見違えるほど成長していた。
 それはそうだろう。不穏な国内情勢を抱え、油断のならない大シマロンと隣接して、僅か十代で小シマロンを切り盛りしてきたのだ。きっとしたたかな若者に育っているに違いない。

『お…ぉ』

 いけない。
 いけない。
 いけない…っ!

 必死に制動を掛けようとするアラゾンだったが、浸食してくる《凍土の劫火》はその力を上回った。

『地・水・風なき今…この世界は我がものよ…っ!!』

 典型的な《悪役の台詞》を発して、呵々と嗤う呪物がアラゾンの肉体から逃れ出ようとする。

【させるものか…っ!】

 この時、アラゾンは残る力を振り絞って、藻掻くようにして法力でできた巨大な腕を呪物に絡みつかせた。この場にいるのが鍵と増幅者だけなら、ここで全てを委ねてしまったかもしれないが、サラレギーが居るとなればそうもいかない。万が一にもあの子に危害が及ぶようなことがあってはならないと、我が忘れてしがみついた。

 ビターン…っ!

 まるで、袴の裾を踏まれた者よろしく、呪物は見事に床面へと叩きつけられる。ちょっとしたコントのような風情であるが、やっている方は必死だ。
 ブルン…っと呪物が藻掻く動きで弾き飛ばされたアラゾンは、今度は鋭い念話を飛ばす。

【ゲーゲンヒューバー…!】
「御意…っ!」

 この時のために噛ませ犬として飼っておいたゲーゲンヒューバーが、正しく意図を理解して飛びかかってくる。《地の果て》の匂いがついたこの男が剣をふるって飛びかかれば、案の定《凍土の劫火》は対抗心を刺激されて襲いかかって来た。
 火を噴く牙がゲーゲンヒューバーの脇腹に突き刺さって傷口を炭化させるが、代わりに、《凍土の劫火》の土手っ腹には剣が突き立てられる。

「ぐ…っ!」

 水の法石を固めて作った剣を突き立てれば、ある程度の足止めにはなる。この剣を有効に使うためにゲーゲンヒューバーは魔族であることを捨てた。
 《人間と同じ寿命になるのですよ》と確認はしたが、彼は《それでも良い》と答えた。常に死にたがっていた彼にとっては、またとない死に場所と思えたのかも知れない。

 ところが…出血と火傷によって意識を失い始めたゲーゲンヒューバーの元に、若い娘が泣きながら駆け寄った途端、彼は意識を取り戻して剣をふるい始めた。命を捨てるつもりであったのが、娘の出現によって、今すぐには死ぬに死ねなくなったのだろう。

「うぉおお……っ!」
「きゃーっ!ヒューブ、凄い出血っ!でも、死なない程度に頑張ってーっ!!」

 思わず脱力しそうな声援だが、ゲーゲンヒューバーは文字通り死力を尽くした。口から血反吐を吐きながらも、かなり健闘している。それでも流石に限界が来たとみるや、ゲーゲンヒューバーの手から法石の剣を奪い取り、コンラートが剣を振るった。こちらは混血だから、法石だろうが魔石だろうが、構わず使えるようだ。

【今の内に…頼みますよ…っ!】

 そう叫んだのを最後に、アラゾンは今まで《凍土の劫火》を封じることに専念していた法力を練り固め、その中に自らの命を封じた上で、機を見計らって我が息子へと飛ぶように差し向けた。

『この距離でやれば、もしや気取られてしまうかも知れないけれど…』

 《凍土の劫火》が昇華された時、サラレギーの命もまた取り上げられるようなことがあれば、アラゾンの命を送ろう。元々はそのようなことが起きたとも悟られずに実行しようと思ったのだが、ばれでしまっては仕方ない。

 そもそも、サラレギーが生まれたときにこの方法が採れれば、あのように呪わしい存在で聖砂国を危機に晒すこともなかったのだが、当時は方法を編み出していなかったのだから仕方がない。
 17年に渡って《凍土の劫火》を封じる中で、アラゾンは黙って浸食され続けていたわけではなかった。奇跡と呼ばれる蘇りの技がどうやって行われるのか、その原理を探り続けていたのだ。その結果分かったことは、《禁忌の箱》は決して命を生み出すことはないということだった。

 おそらくあの時、サラレギーの得た命は、《与えられた》ものではなかったのだ。
 きっと…生者から《毟り取った》ものであったのだろう。

 だから、アラゾンは万一の場合には自分の命を代わりにあげられるよう、方策を練ってきたのだ。

『もう、妾はあの子の事だけを考えても良いのだ』

 ほぅ…っと肩の力が抜けるのが分かった。
 


*  *  * 


  

 我が道を行くアラゾンの思惑はさておき、ユーリとヴォルフラム、そして村田も必死のぱっちで戦っていた。

「ぐ…っ…」

 《凍土の劫火》とシンクロしていくと、ドクン…っと一際強く鼓動したのを最後に、ヴォルフラムの心臓は動きを止め、鍵として作用し始める。後は時間との勝負だ。5分以上掛かれば、ヴォルフラムの脳に不可逆的な障害が残るか、最悪の場合は死に至る。

『お願い、応えて…っ!』

 ユーリはこれまでと同じように呼びかけをするが、《凍土の劫火》は流石に粘り腰であった。
 
『誰が貴様などに従うものか…っ!』
『いやいやいや、従うとかじゃなくってね?』

 ユーリが説得しようとするが、頑迷な自尊心を持つ焔は怒りも露わに燃え上がっていく。囂々とあらゆるものを飲み込んでいく力は、他者と分かり合うことなど不可能だと言わんばかりに振る舞った。

 しかし、そこに直進してきたのはヴォルフラムの力だった。厳密に言えば、鍵としてのヴォルフラムの意識である。これが予想外の(失礼)確かさを見せて、《凍土の劫火》を調伏していった。

『僕もそうだった』
『袂を分かった者と分かり合うことは、自分が膝を突くことと同意だと思っていた』
『けれど、違っていたのだ』

 あちらも精神攻撃を仕掛けてきているはずなのだが、ヴォルフラムはユーリの力を借りることなく《凍土の劫火》を昇華していく。独断専行を恐れた村田が一度接触したが、少し彼の意識を垣間見ると、安心したようにユーリの元へと戻ってきた。そして、ユーリを促してヴォルフラムの本体に寄り添い、救急救命法によって命の拍動を人工的に刻み続けた。

「彼は…短期間に随分成長したみたいだね。昇華の方は、すっかり任せてしまっても良いみたいだ」
「あのヴォルフがねぇ…」

 《我が儘ぷー》とさえ呼ばれていた少年は、どのような責め苦を受けても暴発することなく、《凍土の劫火》と正面から向き合っている。その根底にあるのは、コンラートへの深い信頼感であるようだった。唯一彼にとっても負い目であった事項を解消したことで、基本的に自己肯定感が強い彼は、いかな精神攻撃に対しても《それがどうした文句があるか》で返してしまうのだ。

 ある意味、周囲に気を使うグウェンダルやコンラートに比べると、刺激されるジレンマが少ないのかも知れない。ちょっと羨ましいような性格である。

 驚くべき事に、《これは手強いぞ!?》と思われていた《凍土の劫火》は、ものの数分の後にすっかりぽんと昇華されたのであった。

 とはいえ、そこに犠牲が無かったわけではない。



*  *  * 




 自分を噛ませ犬として使うことで、ユーリ達の防波堤となったゲーゲンヒューバーはやはり重態であった。虫の息になった彼は《これで最後》と覚悟を決めたのか、涙を流してわんわん泣いているニコラに対して、初めて本意を明かした。

「ニコラ…すまなかった。君を誰よりも幸せにしたかったのに…私には、こうすることしかできなかった」
「ヒューブ、そんな今際のきわに言うような発言しないでーっ!」
「すまない…本当に、すまない」
「でもどうせ言うなら、《すまない》じゃない方が良いわ。愛してるって言ってみて?」
「……………」

 泣きじゃくりながらも要求は突きつけてくる恋人に、死にかけた男はぐっと息を呑んだ。観衆が…横で見ているのだが……。

「言っちゃえ言っちゃえ。この際だし」
「そーそー、ニコラは散々焦らしプレイを受けてんだし、その位のサービスはあって然るべきだよねー」
「そうだ!この馬鹿者めっ!散々彷徨った挙げ句にそんなちんけな言葉しか言えないのかっ!それでも男かっ!恥を知れっ!!」

 何だか双黒のコンビが脇からけしかけるし、先程まで心臓が止まっていたはずのヴォルフラムにはしこたま怒られるしで、ゲフ…っと色んな意味で胸がいっぱいになりながらも(ついでに血反吐を吐きつつも)、ゲーゲンヒューバーはやっとのことで口を開いた。

「あ…愛してる…」
「ヒューブ、あたしも愛しているわ!だから、まだまだ生きて、10人くらい子ども作りましょうね?」
「ニコラ…」

 ちいさな温かい手が、疵だらけの男の手をしっかりと握ってくれる。焼け爛れた手は激しい痛みを訴えているが、知覚が残っていることを今は有り難いとさえ思えた。

「愛してる…君と、生きたかった」
「あらやだ。《生きたい》でしょう?」
「………」
「ほら、《生きたい》って言ってみて?」

 悲壮感を漂わせて、懸命に《素敵な死に様》を演出しようとするのに、武人の美学をニコラが粉々に打ち砕いていく。瞳一杯に涙をたたえて、それでも…精一杯明るい笑顔を湛えて、無意味な美学という名の死に神を蹴散らしていくのだ。

『ああ…私の惚れた女は、強いな…』

 感嘆の吐息を漏らしながら、ゲーゲンヒューバーは観念して、注ぎ込まれる癒しの力を受け入れた。

「…生きたい……」

 久し振りに、そう思えた。



*  *  * 




 一方、こちらには大変気まずい組み合わせがいる。

「……ベリエス、私が死ぬというのは、一体何処情報だったのかしら?」
「……陛下ご自身が、そう予測されていたのでは?」

 照れくさいのか、互いに視線を合わさないようにして会話している。
 気分を出して《この命果てようとも…!》と想っていただけに、肩すかし感も大きいようだ。
 いや、ユーリに励まされた時から命を捨てる気はなくなっていたのだが、それにしたって、もうちょっとこう危機的な何かがあるのではと思っていたのだが…。

 それでも、じわじわとしみ出すように感じられる想いは、やはり喜びであった。

「さて、母上のご機嫌でも伺おうかな」

 シャ…っと天蓋ベッドに吊されていたカーテンを開くと、サラレギーはすぐに後ろ手に閉めた。なるほど、これは姿を見られたくなかったのも頷ける。ベール越しにも、肉体の殆どが焼け爛れてしまっているのが分かった。

 それでも…母は、生きていてくれた。

【お久しぶりです、母上】
【………】

 念話で対話を試みるか、返事は無い。意識がないわけではなさそうだが、彼女もまた虚脱状態であるらしい。無理もないだろう。余程の覚悟を決めて眞魔国にやってきたろうに、思いがけないほど小さな被害(瀕死の男には悪いが)で済んだのだから。

【無視ですか?でも、私はもう騙されませんからね】

 動けない身体に手を伸ばして、干涸らびたような感触の手に触れてみると、まだ微かに温もりはあった。その事にえらく安堵して、サラレギーはアラゾンの枯れ枝のような身体を抱きしめる。

【母上…あなたが私を愛しているって、もう知ってるんですよ?だから…観念して下さい】
 
 尚も念話を続けようとしたら、やっとの事で短い返事があった。

【耳は聞こえています。声を…聞かせなさい】

 こういうのを《ツンデレ》と言うのだと、異国の友は教えてくれた。

『友、か…』

 気恥ずかしくて、大仰に口にすることしか出来ないけれど、それでも確かに感じてはいるのだ。あの脳天気そうな少年が、自分にとって喩えようもなく大事な存在であるのだと。
 自分自身、渇望しているなんて気付きもしなかった大切なものを、あの少年はなんて惜しみなくくれたのだろう?

「今度は、私が母上を愛しているって、力ずくで教えて差し上げます。覚悟して下さいね?」

 ぎこちなく、母の腕が動いてサラレギーの手を掴む。客観的に見ればミイラが動くようにぎこちない姿であったのだろうが、サラレギーの目元には涙が滲んだ。
 母の方はというと、表情には見た感じ変化は無い。なのに、何故だか言葉よりも雄弁に、盲いて落ち窪んだ眼窩は語っていた。彼女が、どんな犠牲を払ってでも護りたいと、愛おしいと思ってくれていたのだと…。

『随分と分かりにくい愛情でしたけどねぇ…』

 馴れてきたら、是非嫌みの一つも言ってやろう。アラゾンはアラゾンで相当弁が立つようだから、きっと嫌みの応酬になるに違いない。
 それでも、誤解したまま相手を傷つけ、自分はもっと傷ついているよりずっと良いはずだ。



*  *  *




「あー、サラもお母さんもぶじでよかったねぇ」
「女王様の身体を《無事》と表現して良いかどうかは微妙だけどね」

 ユーリ達は王族用の別荘に戻ると、一息ついてお茶にした。既に夜半を過ぎているから刺激の低い茶葉を使っているが、やはり興奮さめやらぬ状態ではとても眠れはしないだろう。

「それにしても…最後の《禁忌の箱》が、こんな風に昇華されることになるなんてね」

 今までの三つを考えれば、もっと大規模な被害が出ていてもおかしくなかったし、得体の知れない聖砂国が絡んでいるだけに《渋谷やビーレフェルト卿を利用しようとするのでは》とか、村田としても色々と事態を想定していた。
 それが、よもやこんなにも平和的に解決されるとは思わなかったのである。

「ぜんぶヴォルフがやってくれたし、サラのお母さんもすごく協力してくれたしね。やー、おれはこんかい、ぜんぜん出番なかったねー」

 ユーリが少々肩すかしを感じつつも、安堵したような笑顔を浮かべると、コンラートは綺麗な切子杯に湛えられた酒を含んでくすりと微笑んだ。

「ユーリの出番が無かったなんて、本当に思っているのがユーリらしいよね」
「えー?だってなかったよ?」

 きゅとりと小首を傾げれば、《可愛くて堪らない》という顔をしてコンラートの手が漆黒の髪を掻き混ぜる。

「ヴォルフをこんなに逞しい男にしてくれたのは誰だっけ?」
「そりゃああんただろ?」
「きっかけを作ったのはユーリだよ」
「もー、ぜんぶおれのこーせきみたいに言うんだから。持ちあげすぎだよ?」
「そんなことないよ」

 《確かにね》と、村田も思う。
 ユーリらしいことではあるが、本人が意図せずしてやったことではあっても、やはり《凍土の劫火》の昇華は時間を掛けてユーリが達成させたも同然なのだ。

 言うまでもなく、鍵であるヴォルフラムと宥和を計り、その精神を成長させたこと、更には、これまでの三つを昇華させてきた実績があったからこそ、追いつめられたアラゾンが一か八か国を出てまで昇華という方法に掛けてみる気になったはずだ。

 あの場での直接的な展開にしても、一つ一つのちいさな事物が繋がりを持った時、大きな網となって《凍土の劫火》を捕らえたように思う。アラゾンにとってのサラレギー、ゲーゲンヒューバーにとってのニコラは、間違いなく彼らに火事場のくそ力を発揮させたはずである。

『運命の申し子…ってことなのかな』

 しみじみと感じ入りながら、村田も暖かいお茶を飲み下した。

「そういえば、《凍土の劫火》ってけっきょく、サラの命はもってかなかったね。おれ、《だれも傷つかない》とか大みえきったけど、ぐたいてきには方法考えてなかったんで、たすかったよ」
「うーん…」

 こういったことは結果が全てだから、後付で理由を考えても何と言うこともないのだが、学者肌の村田としてはやはりそれなりの理屈をこねてしまう。

「そもそもサラレギーの命って、別に《凍土の劫火》が与えた訳じゃないんじゃないかな?」
「えー?でも、真っ青になって死にかかってたのが生き返ったって…」
「そこがミソだよ。考えてもごらん?血の気が無いからって、その人は本当に死んでいるのかな?」
「あ…」

 村田の指摘に、ユーリとヴォルフラムも顔を見合わせた。
 《凍土の劫火》の鍵として存在したヴォルフラムが、まさにそうだったではないか。

「もしかして…単に、心停止してただけ?」
「そう。奇蹟が起きるのが決まって、死んだ直後だったってのが怪しいんだよ。多分、何らかの理由で心停止を起こした病人に対して、《凍土の劫火》が身体の中を通過することで、AED的な効果をもたらしていたんじゃないかな?」
「なるほど、電気ショックのような役割を果たしていたと?」

 コンラートがそう言うと、ユーリは感慨深げに呟いた。

「一台のAEDがあれば、サラのお母さんはあんなからだにはならなかったんだ…」

 ユーリも垣間見ただけだが、天蓋ベッドの中から挨拶してきたサラレギーの後に、真っ黒な人影があった。あれが全て火傷なのだとしたら、なんという責め苦だったのだろう?

「こればっかりは、それぞれの文化段階に於ける最善を尽くすことしかできないわけだからね。仕方ないさ。それに、渋谷はこれからのことを考えないといけないよ?」
「へ?」

 村田は悪戯っぽく笑うと、摘んだ焼き菓子をユーリに向かって翳した。

「どうやら、あの女王様は後継者を聖砂国に据えてきているから、これからは療養も兼ねて小シマロンで生活することになるらしいよ?」
「へえ、親子みずいらずで良かったじゃん」
「…ってことは、小シマロンには強力なブレーンが出来ることになる。大国の切り盛りをして、異種族との間に子を儲けてすら能力的には信奉されていた女傑が、信頼を取り戻した策略家の息子と組んで、領土の分捕り合戦を始めるんだからね」
「ええ〜っ!?まさか、眞魔国にせめてはこないでしょ?」
どーだかねぇ。恩義は恩義、欲は欲ってタイプだし。それに、小シマロンの横には国力の疲弊した大シマロンが転がっている。うかうかしていると、シマロンを再統合した巨大国家が大陸に現れるよ?」
「ひえー…それはありそう」

 その強力タッグに対抗するためには、眞魔国の招待に応えてくれた大シマロン北朝の皆様方と、しっかり連携を取っておく必要があるだろう。
 なお、ベラール率いる大シマロン南朝にも招待はしたが、使者は罵声を浴びせられて引き返してきた。《大シマロン主催の武闘大会こそが、正当な国際大会である》と主張していたから、眞魔国のものはパクリ扱いされているのだろう。

 正直な話、大シマロン南朝については近隣の小シマロンが屠ってくれた方が都合が良さそうだが、それで小シマロンの国力があまり大きくなりすぎても、サラレギーが妙な野心を起こしかねないし、巨大な法力を誇るアラゾンが息子の為に大張り切りしかねない。
 
『あの王様…渋谷のことは本気で気に入ってるんだろうけど、実に《それはそれ、これはこれ》っていうタイプっぽいもんね』

 度々侵攻計画を企てては、不利になると《ゴメンね〜部下が暴発して》と誤魔化し、上手くいくと《ゴメンね〜でも、勝負は勝負だから、ここの領土もらっとくね?》と、しれっとして言い出しそうだ。

「頑張ってね、魔王陛下」
「村田も手つだってね?」
「ああ、勿論」

 夏休みの宿題だろうが学科のレポートだろうが、国家の未来だろうが、《君のためなら何だってしてあげるよ》と思う村田であった。




 
 

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