【第2部】 第4話






 ルッテンベルク軍兵士は割り当てられた宿舎に入ると、先を争って身体を拭い、清潔な服に着替えていった。それは彼らなりの一張羅であり、その他にも目一杯お洒落はしたのだけれど…平均的に武骨な顔立ちの兵が多いせいか、色々と限界はある。
 とはいえいずれの顔にも浮き立つような喜びの色があったから、彼らを包み込む空気だけは、掛け値なしにぴかぴかの輝きを放っていた。

 用意が出来た者達は意気揚々と大規模な宴会場に集合していったのだが、旅団規模とはいえ1000人弱の人数が集えるような大会場を用意することは出来なかった。そこで会場を4つに分散させ、コンラートが周遊するという形を取った。

 最初の内はお誕生日会に呼ばれた子どものように、はしゃぎながらも緊張した面持ちであった兵達も、少し酒が入ってリラックスしてくると、もう唯の酔っぱらいと化してコンラートにしがみついていく。
 強面のいかつい男達に囲まれれば、精悍な筈のコンラートも常以上にほっそりと…如何にも《王子様》然として見えるのだった。

「閣下、閣下〜…っ!」
「さみしかったですよぉおおお……っ!!」
「ご無事で、本当に良かった…っ!」
「それも十一貴族に昇格だなんて…あぁあ…ご身分が高くなられても、俺たちを見捨てないで下さいぃぃい…っ!」

 コンラートは抱きついてわんわん泣き出した巌のような大男に、困ったように苦笑するしかなかった。椅子に座った状態で抱きつかれたから、大男の巨大な頭部がどっかりと膝の上に乗り、動くことが出来ない。しかもそのまま背後や横合いから他の連中に抱きしめられ、感動の涙を滝のように浴びせられるので、嬉しそうなのは勿論なのだが…少々しんどそうだ。

「見捨てない。見捨てないから…ほら、泣くなって…」
「閣下ぁ〜っ!」
「うぉおん…閣下ーっ!!」

 有利もこの場に同席しているのだが、あまりにも長い間隔絶され続けていた兵士達からコンラートを奪うわけにも行かず、会場の片隅で皿に取った料理をもぐもぐと食べ続けている。

 勿論、嬉しいのは物凄く嬉しい。
 こんなにコンラートが明確な好意を浴びせかけられる様子は初めて見たし、心から嬉しそうに笑っているのはこの上なく喜ばしい。

 だけど、ちょっとだけ…《嬉しいのは分かるけど…あんまりベタっとくっつかないで欲しいなぁ…》等と思ってしまうのだった。そんな風に思う自分が相変わらず恥ずかしいやらなんやらで、なるべく鷹揚に構えようとするのだけど、やっぱりやきもきする気持ちは誤魔化せない。

『うぅ〜…いい加減、俺も嫉妬深いよなぁ〜』

 最近とみに自覚はしているのだが、感じてしまうこと自体はどうにもできない。
 この場面で邪魔をするわけにも行かないから(あまりにも行きすぎた状況があれば誰かが止めるだろし)、苛立ちはぶすりと肉塊にフォークを突き刺すことで紛らわせる。

 しかし、手持ちぶたさにしていた有利に声を掛けてくる者がいた。

「王太子殿下、ご機嫌は如何ですか?」 
「えと…」

 真っ赤な髪と瞳はまるで血の色のようで、ぱっと見には不吉な印象さえあるのだが、全体的な風合いがからりと乾いた明るさに満ちているため、すぐに《楽しそうな人》に印象が切り替わる。
 確か、コンラートの留守を任されていたアリアズナという男の筈だ。ちなみに、アリアズナ・カナートがフルネームなのだが、出身国が人間の国家で姓名順が逆なので、カナートの方が姓であるそうだ。確か、グリエ・ヨザックなどはグリエが姓なので、混血の民はこの辺がややこしい。

 日中の埃まみれの旅装からは一変し、洒落た色つきの長衣に精緻な刺繍を施したものを羽織り、幅広の革ベルトを腰に二重掛けにして、飾り紐を垂らしている。どうやら無骨な男達の中にあっても、彼は結構な洒落者であるらしい。そういえば体つきもコンラートに近く、しなやかに弾む鞭のような体躯をしている。
 
『お洒落ハンターなのが、ルッテンベルクのトップに立つ資格なのかな…』

 なんて、馬鹿なことも考えてしまう。
 それでいけばヨザックだって資格がありそうだ。まあ、彼の場合は《お洒落さん》の意味合いが違うような気もするが…。

「流石はコンラートだ。良い酒用意してくれてるぜ?呑まないか?」

 にかりと屈託なく笑うアリアズナは、敬語を使うのが面倒になったらしい。親しげに杯に葡萄酒を注がれるが、その芳醇な香りだけで酔ってしまいそうだ。

「え…えと、おれ…さけ、のまないです」
「おりょ…?そっか、あんた眞魔国語を覚えたてなんだよな?」

 アリアズナは酒を無理には薦めず、注いだ酒は責任を持って、見ていて気持ち良いくらいの勢いで飲み干した。

「かー…っ。旨いっ!」

 ぐいっと口元を手の甲で拭って叫ぶが、まだまだ酔った風はない。コンラートも会場が変わるたびになみなみと酒を注がれるのだが、幾ら呑んでも頬が淡く染まる程度だから、眞魔国の民は日本人より遙かに酒に強いのだろう。

 気持ちよさそうに伸びを打ちながら、アリアズナは気易く話し掛けてくれた。よく考えると、コンラートやヨザック、村田以外の人とこんなに構えなく話をするのは久し振りだ。

「なぁ…あんた、この国に初めて来たときには全く眞魔国語が分からなかったって本当かい?」 
「うん。ぜんぜん分かるない」
「ふぅん…そんな状況で最初に会ったのがコンラートで、本当に良かったなぁ…」

 大きく頷きながら言われたので、有利も一緒になってぶんぶんと首を振った。

「うんうんっ!それ、すっごく思う!」
「だろー?あいつでなきゃ、こんな風にはならなかったぜ?」

 アリアズナが親しげに語りかけてくれるから、有利も思わず引き込まれて敬語など放り出してしまった。彼は警戒心を解くのが上手い性質らしい。
 あっという間に意気投合した二人は、盛んにコンラートのエピソードを出しては、自分たちが如何に《コンラッドスキー》であるかを確かめ合うのだった。

「なぁ〜?あいつってばさー、本当に何でも出来るのにさ、肝心なところで不器用だったりするからほっとけない感じするだろ?」
「そうなの!かっこいいのに、ドキドキかわいい」
「時々か?いやまぁ…ドキドキでも意味は合うかぁ」

 あどけない言い回しが面白いのか、アリアズナは有利が何か言うたびに楽しげに笑う。それがからかっているというより本心から楽しそうなものだから、有利も間違ったフレーズを口にしても恥ずかしくは無かった。
 新年の宴では自由に振る舞っているように見えても、《王太子として恥ずかしくないように》と、やはり気を張っていたのだと思う。そのせいか、こんな風に気を使わないで済む宴が楽しく感じられてきた。

「殿下、あっちでコンラート達と呑まないかい?酒じゃなくて果実汁だってなんだって良いさ。この雰囲気を一緒に味合うだけで、十分酔えるからな」

 そう言って手を引かれたことで、初めて気が付いた。
 アリアズナは一人きりでいる有利を放っておけなかったらしい。

「ああ、こりゃあ王太子殿下…!」

 有利が近寄っていくと、べったりとコンラートに張り付いていた兵達も急に背筋を伸ばして居住まいを正してしまう。そうされるのが困るからこそ離れていた面もある有利は、困ったように両手を振った。

「でんかとか呼ぶ、ない。おねがい、ユーリって呼んで?」
「そ…そのように馴れ馴れしい呼び方では、失礼にあたるのでは…っ!」

 顔色を変えてへどもどする兵士達に、アリアズナがばすんと肩を叩く。

「馬ー鹿、らしくねぇ遠慮なんかすんな。この通り、ユーリ自身が良いって言ってんだからよ。親しく呼んでやんのが礼儀ってもんだ」
「アリアズナ閣下!な…なんて無礼な…!」
「無礼だ何だって言って、仲間はずれにする方がよっぽどかわいそーじゃねえか。気の毒に、お前らに遠慮して壁の端っこでちんまりしてたんだぞ?」
「そうなのですか…っ!?」

 そんなにショックだったのかと思うほど、男達はガビンと衝撃を受けていた。しょんぼりと宴会場の片隅にいる有利を想像したら、えらく切ない気分になったらしい。

「おれ、なかましてほしい。ね…ユーリ、呼んで?」

 アリアズナの心遣いを無駄にしないよう、自分に出来る精一杯可愛い顔をしてきゅるん…っと男達を見上げると、誰もが悶絶して瞳をとろかした。
 流石、《双黒効果》は絶大だ。

「ゆゆゆゆ…」
「ゆ、ユーリ…」
「なーに?」
「いやぁあ〜…」

 思い切って呼んでくれた大男に愛らしく返事をすれば、でろりと鼻の下が伸びてしまう。その様子に勇気が出てきたのか、次々に男達がアプローチをかけてくる。
 
「ユーリ、こいつを食べてみないか。甘くて旨いんだ!」
「こっちも旨いよ?」

 子どもにでもするみたいに、フォークの先に刺したケーキを差し出してくるから反射的にぱくりと口にして《おいしい!》と微笑めば、もうもう…男達の目尻はとろけそうなほど垂れ下がってしまう。
 流石、《小動物に餌付け効果》も絶大だ。

「ユーリ…あまり食べ過ぎるとお腹を壊すよ?」

 次々差し出される食べ物を素直に口に入れていたら、コンラートが椅子に座ったまま心配げに抱き寄せてきた。そうされると、お膝に抱っこでますます子どものようだ。  

「全く…こうなるから呼び寄せないようにしていたのに…」

 ぎゅうっと有利を抱きしめて、恨めしげにアリアズナを見上げるコンラートの息は流石に酒臭い。既に四つの会場を梯子しており、胃袋が破裂するのではないかと思うほど呑んでいるのだから当然と言えば当然だろう。

「あぁん?そうは言ってもよぅ…。こんな可愛いのが寂しそうにしてんのは、ほっとけねーだろが」
「それは重々分かるんだが…」

 そういえばコンラートもちらちらと視線を送っては、《どうしたものか》という顔をしていた。実は結構気にしていたのか…。

「あんた、本当にユーリに惚れ込んでるんだなぁ〜。でもさ、そのわりに手出しはしてねーみたいだけど…なんで?」
「でがらし?」

 有利はきょとんと小首を傾げ、コンラートは何とも嫌そうな顔をして咳払いをしている。
 何やら口の中でぶつぶつと、《何でそう言うことにばかり、無駄に聡いんだ》といったことを呟いているようだ。

「手出しだよ。ユーリは16歳を越えてんだから、コンラートに寝台であんあん言わされたって大丈夫な年だろ?」

 アリアズナは相当に開けっぴろげな気質であるらしい。
 豪快に笑ってとんでもないことを言い放つから、副官であるケイル・ポーという青年に思いっ切り頭を殴られていた。こちらはまだ若いが、麦わら色の短髪が精悍な印象の、落ち着いた風貌の青年だ。

「閣下!親しみを示すにしたって、幾らなんでも口が過ぎますよっ!!その…こういう事には色々と事情がおありでしょう?ユーリ殿下は16歳になられたとは言っても幼いご様子…コンラート閣下は、成熟されるのを待っておられるのでは?」

 純情な性質らしいケイル・ポーは頬を染めてそんなことを言う。
 だが、これはこれで有利当人としてはかなり恥ずかしいし、ちょっと抗弁したくもなってしまう。

「おさなくないもん!エロいことできないの、おふくろとのやくそく。しかたない」

 《エロい》という言葉はこちらの世界にはない言葉であったのだが、文脈から察した男達は口々に繰り返した。アリアズナなどは特に気に入ったのか、にこにこしながら覚えたての言葉を使う。

「エロいこと、いつになったら解禁なんだい?」
「えっとね、あと2年。《こーこーそつぎょー》したら、エロいことたくさんするの!たのしみっ!!」

 《エロいことたくさん》のくだりで、何人かが珍妙な顔をして蹲った。
 確かに、《食べ過ぎ呑み過ぎには注意しなくてはならないな…》と有利は思う。みんな胃袋には自信があるのだろうが、幾ら何でも限度を超えたに違いない。
 紅い顔をして身を捩っているし…アルコール中毒とか大丈夫だろうか?

「そうかー、そりゃ楽しみだな〜…うん。でもよ、2年もこの絶倫男に禁欲生活させんのも気の毒な話だよな」
「ぜつりん?」
「余計なことを教えるなアリアズナっ!」

 コンラートは有利を横にやると、アリアズナの口を塞ごうと掴みかかっていった。しかし…流石の彼もかなり酒が回っているのだろうか?頬や眦が結構な紅色に染まっている。そのせいかアリアズナは大して苦もなくコンラートを押さえ込むと、生き生きとした顔で語り続けるのだった。

「あのなー?こいつ、あんたに会うまでは花街の帝王と呼ばれて…」
「アリアズナっ!」

 コンラートは必死の形相で抵抗を試みるが、不利な体勢で組み付かれたせいか拘束は揺らぎもしなかった。
 アリアズナは益々気分が盛り上がってきたのか、訴えるような口調で有利に語り掛ける。

「なーユーリ…おふくろとの約束も大事だが、ちょっとはヌいてやってくれよ?そうじゃねぇと、やりたい盛りの男を放っておくんだ…浮気されても文句いえねーぞ?」
「うわきっ!?や…やだやだっ!!」

 ぶるる…っと顔を振るってしまう有利に、コンラートは強く断言する。

「浮気なんかしないから、心配しないでユーリ!」
「いやいや…せめて一人上手の手伝いくらいはしてもらえよ。ほら、こーやってやるんだぞー?口でやっても良いからな?頑張れよー」
「だから余計なことを言うな、アリアズナっ!…て、どこを触ってるっ!」
「アリアズナ閣下っ!何て事をっ!!」

 股間を掴んでまさぐるアリアズナに、手加減を忘れた男達の拳が集中したのであった…。


 翌朝、自分の部屋の寝台に着の身着のまま転がされていたアリアズナは、頭部に生える無数のたんこぶに呻いたという…。



*  *  * 


 
 
『全く…面倒見が良すぎるのも考えものだ…』

 アリアズナを撃退した後、コンラートは有利の手を引いて寝室に向かいながら、憮然として友人のことを思い返していた。
 ヨザックと並ぶほど古い付き合いであるアリアズナは、本当に良い奴であるのは間違いないのだが…下ネタも含めてコンラートのことを心配しすぎなのである。

「ユーリ…変な話題で盛り上がってしまって悪かったね。あいつは楽しい男ではあるんだが…ちょっと下世話な程の世話焼きなんだ」
「ううん…あのひと、だいじなことゆってた気がする…」
「ユーリ…?」

 あの遣り取りから、有利はずっと黙りがちだった。それは《浮気》云々の話が不快だったのだとばかり思っていたのだが…何故だか有利は頬を染め、思い詰めたような顔をしている。

『あれ…酒の香り?』

 コンラート自身が酒精をぷんぷんさせていたので今まで気付かなかったが、どうやら有利も酔っているらしい。おそらく、先程混乱の中で薦められた飲み物の中に果実酒か何かが含まれていたのだろう。

 扉を開けてするりと寝室に入り、じぃ…っとつぶらな瞳で見上げたかと思うと…上擦った声でとんでもないことを言い出したのだった。

「コンラッド、おれ…ミリョクない?」
「は…?」
「だって…あかい人はああ言ってたけど、そもそもコンラッド…おれなんか見てて、ちゃんとエロいきもち、なる?」
「いやいや…何を言って……」
「おふくろのやくそく、まもるだけ無く…おれがミリョクないから、コンラッド…エロいきもちならない、ちがう?」

 しょんぼりして俯いてしまう有利に、《この可愛い子を…どうしてくれようか!》と悶絶してしまう。

「あ〜…もうっ!ちょっと日本語で行くよ?」

 埒があかないと見たのか、有利はとうとう眞魔国語を諦めて母国語に切り替えた。
 
「あのさ、正直に言っていいからね?あんたに何て言われても、ショックは受けても…絶対、あんたのこと好きだから…。だから…ホントのこと言って?俺なんか見てて…ホントに、エロいことできそう?あ…す、好きでいてくれるのは十分わかってんだよ?ちゃんと嫉妬とかもしてくれるし…でも、それとコレとは別なのかも〜って、何か心配になっちゃって…。そういうのって、親友としてはともかく恋人としてはどうなのかなって…」
「あのね…」

 ふぅ…っと吐息を漏らすと、コンラートは困り果てた顔をして有利を抱きしたまま、自分の腰に巻いたベルトを片手で器用に外していった。この聞き分けのない少年に、分かりやすい証拠を見せる必要があるようだ。

「こ…コンラッド?」
「誘った君が悪い」
「う…うんっ!受けてたちますデスよっ!」

 本当に分かっているのかいないのか…。《絶対分かっていない》という自信があるコンラートは、溜息混じりに前立ての釦も外すと…一目瞭然な《証拠》を突きつけたのであった。

「………分かった?」
「………分かった」

 こっくりと頷いた有利は、しゃちほこばった顔をして、ぎくしゃくと性能の悪いロボットみたいな動きで跪いた。よりにもよって…《証拠》の前に。
 そしておもむろに両腕のシャツを肘まで捲り上げたかと思うと両手をかぎ爪状に立て、決意を込めた眼差しでコンラートを見上げるのだった。

「誘った責任、とっても良い?」

 真っ赤に染まった頬とウニウニ動く指の感じからして…《一人上手》のお手伝いをしてくれるつもりらしい。

「……っ!」

 《ゴメンなさい、ミコさん…》…コンラートは心で遠い地の義母に詫びた。
 このどうにもこうにも可愛すぎる恋人のアプローチを無碍に出来るほど、コンラートの自制心は強靱ではない。

 だが、《待てよ…?》と急に不安になってしまう。

「ちょっと待ってユーリ…。君は、俺が欲情するかどうか不安に思ってたみたいだけど…君の方はどうなんだ?」

 股間丸出しにしたまま真面目な顔をしていう台詞でもないが、結構切実な疑問なので、ついつい語調が強くなる。

「俺の方こそ、君があんまり純粋で清らかすぎるから…俺に欲情してくれるのかどうか不安になるんだよ?」
「え…っ!?お、俺…っ?」

 顔を更に真っ赤にして有利は股間を押さえる。
 
「見せて?」
「えーーーーーっっ!?」

 ぼふんと火を噴きだしそうな有利は反射的に逃走を試みるが、流石のコンラートも酒量を過ぎたのか、この珍妙な事態に興奮してしまったのか…彼らしくない乱暴な手つきで有利を捕らえると、易々と四肢を押さえつけて下着ごとズボンを脱がしてしまう。

「や…やめ……っ」
「…っ!」

 すらりとした下肢の間で存在感を示すものに、コンラートは歓喜の声を上げそうになった。うっすらと抱いていた懸念が一瞬にして氷解し、悦びの波動が腰骨を突き上げていく…。

「お粗末なものでゴメンなさいぃ〜…」
「何言ってるんだ、ユーリ…とても、可愛いよ…」

 可愛い。
 本当に可愛い。

 そんな可愛いモノがアレしてコレしてナニをして………。

 おや、安心したせいだろうか?
 …何やらクラクラする。
 
『あ…れ……?』

 数十年ぶりに味わうその浮遊感が、《泥酔》を意味していると悟ったときには遅かった。

 《コンラッド…!?》…有利の声を遠くに感じながら、コンラートはふぅ…っと意識を手放してしまった。



*  *  * 




「こ…コンラッド…」

 すぅ…すぅ……と健やかな寝息を漏らしているから、急性アルコール中毒という可能性は少ないだろう。そのことにほっと安堵すると、有利の股間で反応を示していたものは《しゅるるっ》と勢いを収めてしまった。

 コンラートの方も同様で、下着の中から引き出されていたものはくたりと脱力している。ただ、こちらは勢いを収めても大変立派な形状と大きさを誇っていた。
 それに対して結局何もしなかったというか、出来なかったことがちょっと残念なような何なような…。もにょもにょ。

 少々複雑な心境に陥りながらも、《このまま起きたら吃驚するよな?》と思い、ズボンの中に収めてあげた。更にはふわりとお姫様抱っこで寝台に…運ぶことは物理的に出来ず、仕方がないので布団の方を床に運んで、コンラートの身体をどうにか転がして、自分もそのまま同衾する。

「ふぅ〜…またのお楽しみ…かな?」

 ちょっと残念だが、これだけでも収穫はあった。
 コンラートが間違いなく有利を《恋人》として愛してくれていることを、大変下世話な形ながら確認することが出来たし、密かにコンラートも不安に思っていたらしいことが解決できたのだ。

「これからも宜しくね?コンラッド…」


 《大好きだよ…》と耳元に囁いて、ちゅう…っと頬にキスをした。 


 明日の朝のコンラートがどんな顔をしているのか、今から楽しみである。
 


 
 

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