第2部 第23話






「ありがとう、ファンカーベルニコフ卿…」

 ふ…っと肩の力を抜くと、村田は嬉しそうに微笑んだ。

「礼を言われる程のことでもありません」

 珍しく謙遜しているようだが、これはまさにその通りだとアニシナが思っているからだろう。

「私は切っ掛けを作ったに過ぎません。そもそもは…王太子殿下のお力でしょう」
「ああ…本当に、渋谷は不思議な奴だよ。フォンウェラー卿の影響もあるんだろうけどね」

 魔族を《悪》と断定している教団の主軸に近い人物から、教義そのものの変更を自発的に導き出すなど、幾らアニシナの手腕でも不可能なのだ。まずはバルトンが深く有利やコンラートを敬愛するに至っていたからこそ、幾らかの促しで決意させることが出来たのだろう。

「ユーリは凄いでしょ!」
「ええ、あなたのお父上は素晴らしい方です。多少度を過ぎた熱々ぶりも、鼻で嗤う程度で赦してあげたくなるというものです」

 嗤うのは嗤うんだ…。
  
「さて、あの連中の様子でも見に行きますか」

 一行が病室に向かってみると、何故か…頬を上気させたバルトンが足早に退室するところであった。

「あ…そ、それでは失礼致します…っ!」
「あ〜…バルトンさん、頑張ってね〜…」
「お元気で」

 慌ただしく別れの挨拶を済ませた時点で大体予測は付いていたのだが…村田達は敢えて足を止めることなく、病室の扉を開いた。

「あっ!お、おかえり…っ!」
「やあ…尋問、上手くいったみたいですねっ!」

 村田は苦笑しながら指摘してやった。

「フォンウェラー卿…君らしくもないなぁ。どうしてボタンを一つ、掛け違えているのかな?」
「…っ!こ、これは失礼…」

 いそいそと襟を正すコンラートの鎖骨には、微かに淡紅色の痕があった。おそらく、寝間着に隠された左腕の接合部付近も同様であるに違いない。
 美子から交際に制限を設けられている二人も、フライングというか、《どこまでOKか》というギリギリラインを狙って繋がりを深めていたのだろう。

 純情な聖職者が見たら、赤面してしまうほどの繋がりを…。

「……うちのお父さん達って…仲良しだよね」
「上手い言い回しですね。そう思っていれば、精神衛生的にも良いでしょう」

 アニシナに頭をぽんぽんされながら、グレタは子どもらしくもない深い溜息をついた。 



*  *  * 




 旅立ちの朝が来た。

 寝台の上で優しく《おはよう》と囁きかけられた有利は、コンラートに導かれるまま脚を床へと降ろしていく。以前はぴょんっと一飛びにできていた当たり前の動作にも、今は少し時間が掛かる。
 時々苛々することもあるのだが…今は、コンラートの腕が引いてくれるから嬉しい。

 移植手術から数日の後、有利の身体が馬車の中であれば旅にも耐えられると診断された段階で、スヴェレラへと旅立つ事が決まった。
 
「蒸しタオルだよ」
「うん。ありがと」

 花の香りが移してあるのだろうか、蒸らしたタオルからは良い匂いがした。肺の奥までスッキリしそうだ。

「この匂い…あの、白い花かな?」
「ああ、サライアという名だそうだよ。潮風や寒さにも負けずに咲く、強い花だ」

 《また、見たいな》という言葉を飲み込む。その代わりに、胸一杯に深く息を吸い込んだ。
 《また、見る》、《絶対に、見る》…それは、自分の胸の中で誓おう。

「ユーリ、着替えのボタンを留めてあげようか?」
「いいよ。自分でできるし…」
「でも、俺が一本腕の時にはユーリだって手伝ってくれたろ?」
「あれもさいしょの時だけじゃん…。コンラッドってば、きようだから、すぐに右手だけでできるようになってたもんな」
「うーん…じゃあ、一番の上のやつだけ留めさせて?」
「……コンラッド、かほご…」
「仕方ないだろう?構いたくてしょうがないんだから!」

 居直りか。
 有利が視力を失っていることに胸を痛めつつも、コンラートは嬉々として世話を焼く。どうやら、元々世話焼きな性格をしているのかもしれない。
 
「や…っ!ぱ、ぱんつの紐は自分でむすべるよぅーっ!むすびなおさないでーっ!」
「寝ている間にずれているよ。急に解けたら大変だろう?君がノーパンで誰かと会話している所なんて、想像するだけでドキドキする」
「さいきん、そんなあんたにいろんなイミでドキドキするよ…」

 頬を真っ赤にして抵抗する有利も、場合によってはコンラートのお世話を嬉しく思うこともある。それは、堂々と手を繋いで歩けることだ。
 まだ三角巾で吊っている左腕ではあるのだが、肘の部分に手を掛けていると、廊下にひと気がないのを確認してから、ぴと…っとくっつける。

『そうだ、あの治癒の力って…コンラッドにも使えるのかな?』

 意識が朦朧としている最中ではあったのだが、有利は上様の力を借りてコンラートの身体に治癒の力を送り、また自分に向かってループさせるという手法をとった。上様はあれから音信不通ではあるのだが…さて、どうだろう?

『上様…上様、コンラッドの腕を早く治して?』

 上様の声はしないが、胸が少し熱くなるのを感じる。それが指先に浸透して、コンラートに触れている場所から何かが移動していくのが分かった。コンラートに気付かれないように…ちょっとずつ、治癒の力を注いでいく。まだ自由になる力は少ないから、意識しなくても本当にちょっとずつのようだが。

『早く痛みが無くなって、元通り…自由に動けるようになってね…』

 そんなことを祈っていたら、窘めるように後ろから声が掛けられた。

「殿下…お気持ちは分かりますが、あまり焦ってはいけませんよ?」
「ぎ、ギーゼラ…」

 苦笑するような声にぎくっとして振り返ると、横合いから少し強引に引っ張られた。

「ユーリ、まさか…」
「え、えと…」

 コンラートの声が怒っている。どうやら、こっそり治癒をしていた事に気付かれてしまったらしい。

「俺の腕はリハビリを続けていれば、以前のように動けるようになるから、そんなことはしなくて良い。余力があるのなら、自分の目に使うんだ。俺の身体を介しても良いから…」
「でも…あれだけたくさん力をつかっても、目はダメだったんだもん。やっぱ、れいの花がないとダメなんだよ」
「だったら背中の傷を癒すか、体力を温存するんだ。良いかい?ユーリ…君はもう、君一人の身体の身体ではないんだから…」
「まあ…御懐妊ですの!?」

 ギーゼラが声を弾ませて言うのだが、言葉が難しくてよく分からない。

「ごかいにん?」

 誤解されやすい人みたいだ。

「赤ちゃんが出来たかってことさ、渋谷」
「あか…っ!?」

 村田の説明に吹っ飛びそうになった。性別を勘違いされているのか…あるいは、ファンタジックなこちらの世界では、男も妊娠できるのだろうか?

「おれ…赤ちゃんうめるの?」
「いやぁ…その方向の切り返しできたか。真っ赤になって『出来るわけ無いだろーっ!』って叫ぶと思ったんだけどなぁ…」
「できないのかよっ!つか、おれが赤くなるのきたいすんなっ!」
「猊下、ユーリをあんまり苛めないで?」

 ぽすっと腰にしがみついてきたのはグレタだろう。暖かい子どもの体温と、庇うように村田の前に位置どってくれるのが嬉しくて嬉しくて、ついつい相好が崩れそうになってしまう。
 
「ユーリは素直だから、何でも信じちゃうの」
「ぐ…グレタ…っ!そういうわけじゃあ…」
「ユーリ、コンラッドの赤ちゃんが産めなくても、グレタで我慢してね?」
「何言ってるんだよ、もぉ〜…」

 有利は手探りでグレタの頬を探すと、そっと両手を添わして囁きかけた。

「がまんとかじゃなくて、グレタはだれともかえられない、だいじなだいじなおれの子だよ?」
「ユーリ…」
「おれはこっちの世界のことあんまり知らないから、もしかして男でも子どもうめるのかな〜って、ちょっと思っただけだよ」
「そうなんだ」

 グレタがほっとしたように息をつくのが分かる。だが、顔を見て確認できないのが辛かった。

『もしかして、まだ誤解してるのに我慢してるとかじゃないよな?』

 子どもにそんな腹芸は出来ないと信じたいのだが…やはり自分の持つ感覚の一部が働かないというのは不安なものだ。

『あれ?でも…どうしてコンラッドにはあんまりこういう不安、感じなかったんだろう?』

 目が見えなくなってからずっと、コンラートは傍にいてくれた。そのせいか、有利は突然視力を失ったにしてはあまり衝撃とか、喪失感を受けなかった気がする。

 ただ…グレタを励ます為に手を離した事でコンラートの肌を感じられなくなると、急に心許なくなってきた。ふわふわと両手を宙に舞わせて、コンラートの腕を探してみる。

「…コンラッド?」
「ここにいるよ」

 自分でも恥ずかしいくらいに心細そうな声になったのだろう。コンラートは何時にも増して、蜂蜜みたいに優しい声で囁きかけながら、きゅうっと手を握ってくれた。

「ほら、また俺の左腕を掴んでおいで?」
「うん…!」
 
 ほーら、不安じゃなくなった。

『我ながら現金…』

 周りがどういう目で見ているか想像するとかなり恥ずかしいのだが…今は心細い身の上と言うことで許して頂きたい有利であった。

 

*  *  * 




 視力がないわりに(ないからこそ?)甘い甘い生活を送っていたコンラートと有利だったが、いよいよカロリアを発つことになった。
 別れ際は寂しさと同時に、物々しい警戒網が敷かれていることも感じ取れた。
 ギルビット港に残していくルッテンベルク軍の面々も、カロリア兵と共同して警備に当たっている。スヴェレラを刺激しないように最小限の隊で有利たちは出立するのだが、万が一の場合には出撃できるよう、カロリアに軍備を残していくのである。

 彼らを纏めるのはフリンで、彼女の指揮下に入る形でルッテンベルク軍師団長の一人リーメンビューゲルが待機軍を担う。フリンはカロリア、ルッテンベルク両軍の間をよく取り持っているようだ。

『フリンも真剣に対処をしてくれている…』

 以前の送別式でも、彼女としては考えられる限りの警戒網を敷いていたはずだが、結果として最悪に近い状況に陥りかけた。今でこそフリンに対して同情の気持ちも湧くが、あのまま有利を失っていたらと思うと…コンラートは自分がどうなっていたのか分からない。
 《咎がある》と思った者達全てを殺した上で、自決をしていたのではないか…漠然とそんなことも思ってしまう。

『いや…今は物騒な物思いなど余所にやってしまおう』

 風に乗って、カロリアの人々が手向けてくれた花弁が宙を舞った。《風の終わり》を昇華させてから一斉に咲くようになった春告草を摘んで、人々は涙を浮かべながら別れの歌を謳う。 


 愛しき君よ 今はさらば
 我ら再び会いませむ

 星々の導きによりて 会いませむ
 千と百の日々越えて 我らの時は結ばれん


 不揃いな…それだけに、胸に染み入る歌声に有利もそっと涙している。
 今回は襲撃を警戒して馬車の扉を開くことは許されていなかったが、その分、声を限りに有利は歌った。


 あいませむ
 あいませむ…

 
 噎び泣くような歌声は、細い銀糸のように震えながら…カロリアの大気に染みていった。
 コンラートはそっと有利の手を握ると、細い肩を抱き寄せて頬に唇を寄せる。表情が見えない分、思いをより分かりやすく伝えたくて、最近頓にボディランゲージが多い。

 ちょっぴり…同席した村田の視線が痛いが、見なかったことにしよう。



*  *  * 




 カロリア領を抜けて暫く進軍していくと次第に緑が姿を消していき、大陸は地形・気候を変化させていった。視力を失っている有利も又、《空気がちがうね》と呟いた。ルッテンベルク軍は今、スヴェレラへと通じる砂漠に差し掛かっているのだ。

 大気は冬とはいえども日中は熱く乾いている。かと思うと日が陰った途端に強烈な寒気が押し寄せてくるから、馬上で進軍している兵士達はさぞかししんどいだろう。宿営地も何処でも良いというわけにはいかず、都合の良い地形から地形へと予定通りに進軍していく必要がある。そうでないと、無為に兵を失う可能性もあるからだ。

「女の兵士さんたちも馬でいどうしてるの?」
「戦闘兵はそうだね。アニシナなどは先陣切って走っているよ」

 グレタも今はアニシナと共に馬の乗せて貰っているようだから、馬車の中には有利とコンラートと村田だけだ。

 本来ならコンラートが先頭で指揮を執るのが筋だが、万が一の襲撃に際して、決して有利を傷つけさせないため傍にいてくれる。
 なので、現在の指揮官はコンラートに任命されたケイル・ポーだ。5人いる師団長の中では最も年が若いが、正確で迅速な行軍に定評がある為に指名された。

「うわぁ…ちょっと見てみたいかも」

 ちょっと《暴れん○将軍》のOPみたいな印象が脳裏を掠める。この場合は、《暴れん坊大貴族》か?

「すぐ見えるようになるよ」
「うん…」

 《見たい見たい》とあまり言うと、周囲が気を使うかなと思って努めて言わないようにしているのだが、どうしてもコンラートの前では素直に声が出てしまうらしい。

『ま…あんまり気にしすぎても、逆に気遣われちゃうかも知れないよな』

 目が見えないのは事実なのだから、あまり気負いすぎるのも良くないだろう。現実をあまり否定しすぎると、《ハゲなのは全員知っているが、カツラがずれていても何となく言い出しにくい》みたいな状況に陥ってしまうかも知れない。
 そこで、見えない分の元を取るようにして、耳を楽しませることにした。

「ねー、コンラッド…何か歌ってくれる?」
「良いよ。何の歌が良い?」
「ん〜…《かいじゅうのバラード》が良い。ちょうどさばくにいるし」

予想外の選曲に、同じ馬車に乗っている村田の方が驚いていた。

「渋谷が応援歌以外をセレクトするのも珍しいけど…。フォンウェラー卿…あの歌知ってるの?」
「多分、歌えると思いますよ?シブヤ家でお世話になっている時に、教育テレビでやっているのを一度見かけましたから」

 教育テレビで童謡を覚える《ルッテンベルクの獅子》…想像すると、ちょっとおかしな感じだ。しかもコンラートは耳と記憶力が良く、一度聴いた歌は大体歌える。おそらく、父と共に旅をしている間に異国の言葉を歌で覚えたと言うから、その時の名残なのだろう。

「ふぅん…渋谷が《この歌、結構好きなんだ》とか言ってたわけ?」
「どうしてそう、見てきたようなことを…」 
「違うわけ?」
「まあ…そうなんですが……」

 ごにょごにょ言っていたコンラートは誤魔化すようにして歌い始めた。
 小学生合唱団の歌声とは違って、コンラートがしっとりと歌い上げるとまた別の風合いを持った歌に聞こえてくるから不思議だ。


 ある朝 目覚めたら 遠くにキャラバンの
 鈴の音聞こえたよ 思わず叫んだよ

 海が見たい
 人を愛したい
 怪獣にも心はあるのさ


「砂漠の歌って言うけど…これ、砂漠を出て海を目指す歌なんだよね?」
「う…まぁ、たしかに逆なんだけどさ…。さばく見ると、なんか頭をよぎらない?」
「まあ、ヘンテコな歌だけど妙に頭には残るよね」
「俺もわりと好きですよ。こんな風に…急に目覚める事ってありますからね」
「君は身をもって知っているだろうしね」

 村田の言葉に、コンラートはくすりと苦笑したようだ。
 そういえば、有利と出会うまでのコンラートはあまり感情表現の豊かな方ではなくて、色々と計算した上で反応の仕方を選んでいるところがあったのだという。

 《本意のままに行動していたら…さて、どうなったろうね》…以前、どこか遠い目をして、昔の選択を思い返しているのを見た。好きなように生きていたいと思っても、そうは行かないことが多い。
 逆に、好きなように生きたつもりで結局のところは袋小路に入り込んでしまうこともある。

 コンラートは、かつての選択をどう思っているのだろうか?
 中には、時を遡って選択を変えたい…なんて事もあるのだろうか?
 
 そんなことを考えていたら、急にガクン…と馬車が急停止をかけた。

「ん…何?」
「フォンウェラー卿…」

 村田の声に緊張が走る。彼は、進軍中の襲撃を何よりも恐れていた。スヴェレラを刺激しない為に、最低限の武装しかしていないルッテンベルク軍は、大シマロンが本気を出して全勢力をぶつけてくれば太刀打ちできるような軍規模ではないのだ。
 そうなったらとにかく、全速力でカロリアに逃げ込まなくてはならない。

「大丈夫。斥候はヨザです」
「それで安心できるわけ?」
「聞いた瞬間の、あなたの表情が物語っておられるでしょう?」
「……」

 ばつが悪そうに村田が黙ってしまった。
 でも、やはりヨザックを信頼しているのだと思う。ちいさく吐いた息は、少し冷静さを蘇らせていた。

「でも…何が起きてるんだろうね?」
「本隊が戦闘に入ったわけではないですね。角笛によると…どうやら、斥候部隊が怪しいものを見つけたらしいですが、それも武力衝突には至っていないようです。念のため、一時停止しているんだと思いますよ」
「すごい…コンラッド、音だけで分かるの?」

 有利が感心しきってコンラートに尋ねると、聞き分けの仕方について少し説明してくれた。…が、耳を澄ましてもそうそう理解できるものではないらしい。

「混戦になると土煙や障害物で旗などが見えないことがあるから、ルッテンベルク軍は特に音による交信を重んじているんだよ」
「ふぅん…見えないのを、ちゃんと工夫しておぎなってるんだね?」
「そうだね」

 コンラートは《だからユーリも工夫するんだよ》とは言わなかった。その代わり、大きな掌でさふさふと髪を梳いてくれる。その感触が気持ちよくて、ついつい有利は手を伸ばすと自分の頬に宛った。



*  *  * 




 さて、バカップルはさておき斥候として周囲の警戒に当たっていたヨザックはと言うと、少々面倒なものに出くわしていた。

『なーんだってこんなところにいやがる…』

 《ちっ…》と舌打ちして眺めた先には、一体何を考えているものか…一人の大柄な戦士が、騎馬姿で構えている。
 
 その男には見覚えがあった。
 嫌でも忘れるはずがない…。

「フォングランツ卿アーダルベルト…」

 斥候隊の他の面々も、複雑そうな表情で前方を眺めている。
 かつては十貴族の雄、グランツ家の長子として当主たることを約束されていた男。

 そして…眞魔国を出奔して敵対行動を取った上、《地の果て》開放実験に際してはウルヴァルト卿エリオルの誘拐に関与し、コンラートが左腕を失う誘因となった男…。

 エリオルは現在、待機軍と共にギルビット港に留まっているが、さて…この男は一体どの面さげてコンラートに会うつもりなのだろうか?

『会う気…なんだろうなぁ……』

 アーダルベルトは馬から下りると剣と弓矢、衣服に仕込んだ暗器を取り出して砂地の上に置き、悠然と構えている。虜囚になりに来たというわけではなさそうだから、面会を求めに来たのだろう。

 ヨザックはまた舌打ちしつつも、部下に命じてコンラートに状況を伝えさせた。

『余計なことをするんじゃねぇぞ?』

 威嚇するように睨め付けるヨザックをどう思っているのか、アーダルベルトの表情から伺いとることは出来なかった。

 





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