第2部 第12話
有利たちが屋台を巡っている間に、小シマロン兵の皆さんは領主館に突貫工事を行ったらしく、サラレギーに宛われた客室は他の部屋とは明らかに質を異にしていた。細かな刺繍を施した綾布が幾重にも寝台の天蓋を形成しており、布団もふかふかとした羽毛布団にこれまた豪華な刺繍が施され、《何人で寝る気だ》と言いたくなるほどたくさんの枕が並べられている。そもそも、寝台自体が部屋中に充ち満ちている感じだ。ヘッドボードに小シマロン旗と同様の紋様が刻まれている所から見て、これも持ち込んだらしい。
「狭い部屋でゴメンね、ユーリ。お風呂もなんだか狭いみたいで困ったねぇ…ユーリと私しか入れない感じだよ?」
有利の腕にぺとりと絡みつきながらサラレギーが言うが、コンラートは素早く抗弁する。
「俺は浴槽には漬かりませんので、ご心配なく」
「あなたったらどこまでも付いてくるんだねぇ…忠実な犬のようだよ」
「何とでも仰って下さい」
《犬》扱いされたコンラートだが、それで言えばベリエスもそのように形容されるべきだろう。当然のように佇んでいるのだが、脱衣所がオフホワイトの色彩をしているせいで暗青色の衣服がやたらと目立つ。
「ええと…ベリエスさんは、そんなにがっつり着こんだまんまお風呂はいるの?」
「お構いなく」
有利の質問に対して、ベリエスのそれは実に素っ気ない。サラレギーに対しても似たようなものだから、嫌っていると言うよりはそれがデフォルトなのだろう。
そんなことに気を取られている間に、細い指がつつぅ…と背筋を伝った。
「あれ…ユーリって、顔は結構日に灼けてるけど素肌はとっても肌理が細かくて綺麗だねぇ…」
「あひゃ…っ!?さ、サラ…どこ触って…っ!」
「ああ、くすぐったかった?じゃあ私のも触らせてあげるよ」
《じゃあ》ってなんだ。
…と思いつつも、女の子みたいに華奢な胸筋に手を押しつけられてドキドキしてしまう。
…………なんだかコンラートの視線が痛い。
《俺のでは不満なのかい…?》何やら視線が物語っている。
不満など全然無い。
《サラの胸より断然あんたの胸の方が好きだよ!》と力説したいが、したらしたで照れ隠しに悪戯されそうだ。
最近、コンラートの悪戯は結構危険なのである。
「ああ…狭くてもお風呂は良いねぇ…。ほら、ユーリも早くお入り?」
すっかり《勝手知ったる人の家》状態のサラレギーは、素早く掛け湯をしてのびのびと湯船に漬かっている。《狭い》と評された浴槽だが5.6人は十分入れそうな大きさだ。海の近くでこれだけの淡水を用意するだけでも大変だったろう。
材質は青みがかった灰色の石で、小さな気泡のような凹凸があるので滑り止め効果もありそうだ。浴槽に漬かってみると水の中ではあまり凸凹は気にならず、寧ろ湯を吸って滑るような感覚がある。
「ん〜…気持ちいい…」
「ユーリもお風呂好き?」
「うん、だいすき」
「私達気が合うね…っ!」
「わ…」
首に手を回して密着されると、頬が合わさらんばかりに接近してしまう。
ああ…また突き刺さるような視線が飛んでくる。有利が悪いわけではないのだが、全力で謝りたくなるのは何故だ。
「サラ…ちかいっ!ちかいからっ!!」
「いいじゃない。お風呂は肌のお触れ合いっていうでしょ?」
「ハダカのつき合いのマチガイじゃあ…まあ、にたようなもんだけどさ」
「そぅそ。似たようなもん」
サラレギーはくすくすと笑みを零しながら抱きついていたが、自分の髪が顔に落ちかかると嫌そうに眉を寄せた。
「やだ…髪に揚げ物の匂いが付いちゃってる。早く洗わなきゃ!ベリエス、手伝って?」
随分と神経質なものだ。そういえば、着替えの時に有利の懐から飛び出したチイが足下を駆け抜けたときにも、黒くてすばしっこい家庭生息昆虫を見たとき並の嫌がりようだった。
忠実なベリエスはその辺の機微はよくよく弁えているのか、如何にも武人といった風情の顔のままで袖を捲ると、逞しい腕を肘まで露出して石鹸を泡立てる。甲斐甲斐しいものだ。
「ユーリ、俺も洗ってあげるよ」
「え…?」
なんだろう…コンラートの笑顔が軽く胡散臭い。恋人にこういう言い方もアレだが。
どうしようかなと思ったのだが、先程から自分の意志ではないもののサラレギーと必要以上に密着しているのは確かなので、こくんと頷いて身体を任せる。
「お痒いところはありませんか?」
「コンラッドにあいすぎ…カリスマさんぱつ屋さんになれるよ?」
「お褒めに預かり、光栄至極」
たっぷりと泡立てた石鹸で洗われると、確かに多彩な匂いが染みついた髪がすっきりしてくる。サラレギーと同じ石鹸を用い、リンスの役割を果たす特別な酢も使ったので、何ともフローラルな香りだ。サラサラ具合も2割り増し強い(サラのだからという駄洒落ではない)。
しかし…コンラートが続けて身体まで洗うと漸く悪戯の意図に気付いた。何でもないような顔をしてするすると触れてくる指が胸の尖りや下腹を掠めるのが、感じやすい体質の有利にとっては拷問に近い。
「痒いところはございませんか…?」
だから、耳元でそんな色っぽく囁かないで欲しい。
「……っ!」
痒いところはないが、勃ちそうなところがあると言うわけにはいかず、有利は声を殺して耳朶に吹き込まれる美声と、巧みな指先の愛撫に耐えた。
サラレギーの方はと言うと…ちらりと視線を向けた先では安心しきった顔をしてベリエスの手を受けている。
「ん…気持ちいい」
「お痒いところはございませんか?」
同じ囁きをあちらも繰り返しているが、こちらと違って健全な感じだ。
不健全な恋人の悪戯で、有利はすっかり茹で蛸になってしまった。
* * *
「はふ…」
「ユーリったら、顔が真っ赤〜」
「のぼせちゃった…」
ころんと寝台の上に転がっていると、紅い頬を指先で突かれる。
コンラートは少し反省したのか、なんだか神妙な顔をして壁に張り付いている。
館勤めの侍女が冷たい飲み物を持ってきてくれると、ベリエスとコンラートの毒味後に飲ませて貰った。この毒味というシステムにはなかなか慣れないが、異国の地とあっては致し方ないところなのだろうか?
『コンラッドだって王子様なのにな』
そうごねたら、《俺がやりたいんだ…ね、やらせて?》と可愛くおねだりされてしまったので断り切れなくなった。最近、コンラートの有利転がしがどんどん巧みになっていくのは気のせいだろうか…。
サラレギーが語りかけてくれる言葉を聞きながら、とろとろと下がってくる瞼に抗しきれず…有利はすぅすぅと眠りの世界に旅立ってしまった。
* * *
「無邪気な顔をして眠るねぇ…」
つん…と頬を突いても目覚める気配はない。サラレギーからすれば信じられないような無防備さだ。あどけなく開かれた唇は花の蕾のようで、ついぷにぷにと指で突いて感触を愉しんでしまう。
お風呂でふざけて触れたときにも、意外なほど肌はきめ細かで繊細な感じだった。髪だって、丁寧に洗って梳ると驚くほど見事な艶を持つ。
きっと、成熟すればとろけるような肢体になるのではないだろうか?
ふと興味を覚えて尋ねてみる。
「ねえ、フォンウェラー卿…もうユーリのお尻は味わったの?」
「ご想像にお任せします」
「ふぅん…」
淡々と返答するコンラートの顔を暫く眺めてから、楽しそうにサラレギーは嗤った。
「まだなんだ。意外とお子ちゃまなんだね」
「そうなのでしょうね」
「……つまんない。ユーリの意識がないとそんなに素っ気ないんだ」
「そう…ですね」
くすりとコンラートは苦笑している。なにがそんなにおかしかったのか、素直に楽しそうな微笑みだ。
「ユーリは、特別ですから」
「特別ねぇ…」
何となく張り合いたくなってちらりとベリエスを見やるが、彼は何を言うこともなく静かに佇んでいる。偉丈夫二人が居並ぶ姿は一幅の絵画のように見事であり、なかなかに見応えのある風景である。
『童貞…ってことはないか。魔族の年の取り方は人間の1/5の速度と言うから、きっと百歳は越えているだろうし…お風呂の様子だと性欲は感じているみたいだったね』
それがどうして性交をしていないのだろう?やはりユーリの方がお子ちゃまだからだろうか?
「いつか結婚するの?」
「ええ」
珍しく、端的な事実承認だ。これだけは自信をもって断言できるらしい。
王が世襲ではないという風変わりな国家だから、同性婚にも抵抗感がないのだろうか?
『さぁて…この男を籠絡するのは難しそうだ。やっぱり、絡め取るとすればユーリの方だろうな』
無邪気で可愛いお人好し…きっと、手に入れるのはとても簡単なことだ。
《あふ》…と欠伸をすると、本気で眠くなってきた。あまり強くもない身体に長旅が応えたらしく、ベリエス以外の者が傍にいるといつもなら決して落ち着かないのに、今はとにかく眠い。
『まあ…明日でもいいや』
元気いっぱいなユーリに付き合うには、体力が必要だろう。そう思ってサラレギーは瞼を閉じた。
* * *
すぅ…すぅ…
健やかな寝息を立てて眠る二人の少年は、レース細工とシルクの布地に囲まれて何とも愛らしい様子だ。そんな二人を見やりながら、コンラートは影と一体化しているようなベリエスに尋ねてみた。
「ベリエス、君はサラレギー陛下に仕えて長いのかい?」
「ああ」
返答は短かったが、会話の余地はあるらしいと知れる。
「優秀な王だと聞くが…君の目から見てどうだい?」
「王を賞賛することはあっても、評価する口は持ち合わせない」
「そうか」
大体想像したような返事であったので、会話はここで途切れるかと思った。しかし暫くすると意外にも、今度はベリエスの方から声を掛けてきた。
「ユーリ殿下は、サラレギー陛下の御友人として縁(えにし)を結んで下さるだろうか?」
「もう結んでいるよ。俺が不安になるほどね」
「いつもあのように気さくなのか?この方は」
「ああ。勿論、相手は選ぶけどね」
「そうか…」
ベリエスは相変わらずの無表情だったが、窓から差し込む月明かりが白い面に降り注ぐと、微かな微笑みを浮かべているように見えた。
「サラレギー陛下には、一般的な意味での御友人はおられない」
「それはまた…寂しい友人関係だな」
少子化とかそう言う意味でないのは明確で、若くして王になったサラレギーは常に周囲を警戒しているだろうし、そもそも性格的に腹の底を明かすのが苦手なタイプと見受けた。
「ユーリ陛下と、仲良くして頂けるのなら…」
《ありがたい》…語尾は夜気の中に溶けていった。さて、どこまで本気なのか分からないが、この遣り手の護衛が職務以上の忠誠を主人に抱いているのは確かなようだった。
最初はそれを《恋心》なのかと思っていたコンラートだったが、時折滲むベリエスの瞳にはそういう気配はなく、風呂場での様子も全く情欲を感じさせなかった。
『年も離れているようだし、《可愛い子ども》という感じなのかも知れない』
たとえ毒蛇のように腹黒くとも、ベリエスにとってはそうなのだろう。
* * *
翌日は公的な会談となり、フリンや村長も含めて《歌謡祭》の打ち合わせが行われると共に、サラレギーの側から正式な謝罪があった。ただ…その内容がフリン達を納得させたかと言えば、幾らか問題があった。
《自分にも責任がある》と謝罪しながらも、サラレギーはあくまで《地の果て》開放実験は自分の指示によるものではなく、暴走した部下が独断で遣ったことだと主張した。
村田はこれを評して《政治家ってのは時代や国が違っても、言うことは同じらしいね》と皮肉った。何かと《秘書のせい》になってしまう自国の事情と重なったらしい。
それでもサラレギーは分厚い(心の)面の皮をぴかぴかさせながらこう宣言した。
『今後は悪虐な大シマロンに対して、眞魔国と共に共同戦線を敷いていくつもりです』
実際に大シマロンとやり合うとなったら、真っ先に後ろから蹴り飛ばしてきそうだ…とは思ったが、賢明にもコンラートは口にはしなかった。
一方、有利は会議の間中サラレギーの発言に何か思うようだったが、上手く纏まらないのか口にはしなかった。やはりコンラート達と同様、サラレギーの言葉を疑っているのかとも思ったが、そう言うわけでもないらしい。ぽそりと呟いていた言葉にコンラートは眉を寄せた。
『いっしょにたたかうって…サラとおれが考えてるのは同じなのかな?』
《絶対違うだろう》と思ったが、有利の疑問は大切にすべきだと考えて、敢えて聞き役に徹した。もう少しで何か纏まりそうなのだったのだが、それを待つ前に会議はお開きとなった。
夜にはささやかながら宴が催されると聞いて、サラレギーが早めに用意をしたいと言い出したのである。
* * *
「ユーリにはどれが似合うだろう?淡紅色とか意外と似合うんじゃない?」
「え〜?おれがきると、コイみたくなるし…」
《屋根よりたかく飛ぶのはちょっと…》とぶつぶつ言うのだが、構わずサラレギーは部屋中に衣服やアクセサリーを敷き詰めている。色取り取りの布地は素人目にも美しい綾布で、中には《魅惑のランジェリー》なのではないかと背筋が寒くなるようなものもある。
「サラ…なんでこんなのがあるの?」
ちょっとドキドキしながら摘み上げたのは、華奢なレース細工に花柄刺繍をあしらったガーターベルトだ。ご丁寧に繻子のストッキングも太腿の部分にお揃いの花柄があしらわれている。おまけに、細腰を強調するようなビスチェまである。
「村田…お前もサラをせっとくしてくれよ〜。おれにはにあわないって!」
「いやぁ…でも、君が持ってきた服って確かに地味だからね。なんなら借りても良いんじゃない?」
「えーっ!?」
村田が友達を見捨てるような発言をすると、傍に控えてたヨザックが《ひそ》…とコンラートに囁く。《俺は猊下が可愛い服着てるトコ見てみたいなぁ〜》…と、わざと聞こえるように囁くのだ。
身分の問題があって、このような場で親しげに声を掛けることが出来ないというのもあるが、これは多分に村田の反応を狙ってのことだと思う。
「村田はなにをきるの?」
「僕は持ってきた黒衣だよ」
「ひでーなー…おれだってそれが良いよ」
村田がそっけなく言うとヨザックは目に見えてしょぼんして、ぶつぶつとなにごとか呟いている。《ああ…俺が着付けて差し上げたら華のように艶やかなお姿になるのに》…とのことだが、それは村田も願い下げだろう。
そんな遣り取りをしているうちに、サラは気に入った服をとっかえひっかえ着替えては、コンラートに見せていた。
「どうかな?フォンウェラー卿」
「とてもお似合いですよ」
「この辺とか…ちょっと品がないかな?」
「いえいえ、とても色っぽいです」
ちら…っとスリットの入った太腿を見せつけるから、有利の脳はかぁ…っと熱くなってしまう。心なしかコンラートの顔もにやけているような気がする。
後々聞いたところでは《全く興味がないのに聞いてくるので、営業用スマイルに顔を固めていたんです》とのことだった。
『むむむ…』
何となくムキになった有利は思いっ切り扇情的な衣装をひっつかむと、わっさわっさと着こんでコンラートに聞いてみた。
首元は前は詰まっているのだが背中が大胆に開いている長衣だ。裾は長いが、幾重かの薄布が歩くたびにしゃらしゃらと揺れる服は光の加減によって脚が際どいところまで透けてしまう。
「コンラッド…どう?」
「……うーん…。ユーリには、ちょっと大人っぽいんじゃないかな?」
ガーン
サラレギーの服では手足とかが寸足らずになると言うことだろうか?欧米人に比べたらこの寸尺の違いはしょうがないではないか。
「サラの方がきれいだもんな。おなじ服きたら…おれのほうがカッコわるいよな?」
「ユーリ…?」
泣きそうになって俯いていたら、耳元にひそ…と囁かれた。
『そんなに扇情的な姿で人前に出たりしないで?居ても立てもいられなくて…物陰に引きずり込んで、悪戯をしたくなってしまうよ』
ぼん…っ!と顔から火が吹き出そうになった。確かに見下ろした布地は恥ずかしいくらいに薄くて、振り返った壁にはすべやかな背中を露出させた自分が居る。変に張り合ってとんでもない服を着るところだった。
「コンラッド…おれに似合う服、見繕ってくれる?」
「喜んで」
《君に似合って…それでいて、他の奴には肌を見せない服を選ぶよ》と囁かれて、有利は《愛されてるなぁ…》としみじみ感じたのだった。
* * *
「あーあ…あの連中ったらどこでもかしこでもお構いなしにハートマークをまき散らすね…ラヴ不法投棄もいい加減にして欲しいよ」
「その辺は私も同意するねぇ…」
変なところで意見が一致した村田とサラレギーだったが、互いに視線を向け合うと次の言葉を交わす元気はなくなったらしい。すぐに顔を背けると自分の従者に声を掛けた。
「ベリエス、この服はどうかな?」
「まことにお似合いです。陛下」
「うーん…お前ときたら何を着てもその返事なんだもん…張り合いが無くなるよ」
「申し訳ありません」
褒められても貶されても動じないベリエスは淡々と頭を下げている。こう言うところだけはサラレギーも不満らしい。
「何か言いたそうだね?」
村田がヨザックに水を向けると、彼は嬉しそうに破顔した。
「ビューティーアドバイザー★グリ江ちゃんにアドヴァイスをお求めですか?」
バツンと風が来そうな勢いでウインクされるから、つい反射的に返事が短くなってしまう。
「いや、別に?」
とは言いつつも、村田は敷き詰められた衣服とアクセサリーの中から小さな水色の花型ブローチを取ると、胸元につけてみた。
「似合う?」
「髪に付けても綺麗ですね。あとは、もう少しこぶりな同系色の花と合わせると…ああ、これなんかどうです?」
「ふぅん…」
幾つかの銀鎖と合わせて胸元に飾られると、元々布地は品質がよいものであるだけに、適度に華やかな印象に変わる。
「君は自分の着る物以外では結構趣味が良い」
「ガーン…グリ江はいつも輝いておりますのに…」
「君のは悪目立ちって言うんだ」
そんな風にくさしながらも、村田は微かに微笑みを浮かべて礼を言う。
「うん…でも、本当にこれは似合うや。ありがとう…」
「どうしたしまして」
はにむように微笑む少年と筋肉達磨に、サラレギーはぷくんと唇を尖らせていた。
「もぅ〜…私の衣装が一番助言を得られないみたいだねぇ」
「サラはなに着てもにあうよ?」
慌てて有利が助け船を出す。
「本当?ね…ユーリ、これはどうかな?」
「うん、きれいきれい。サラ、うなじがすっきりしてて、カミゆったのもきれい」
「うっふふ〜…ユーリ、意外と褒め上手だね?あ、君にはこっちが合うんじゃないかな?あ〜っ!それ以前に、下着をちゃんとつけないとっ!基本だよ?」
「えーっ!?あ、あれ着るの?いやいやいやっ!なんか女のひとみたいだしっ!」
「そんなことないからっ!絶対身体のラインが綺麗に見えるからっ!」
「やーっっ!!」
《勘弁してくれ…》という顔で、コンラートが懸命に有利救出を試みようとしている。女子高生の更衣室に入り込んだような心地でいるらしい。
『基本的に、渋谷を丸め込もうとして意識的にしているんだとは思うけど…』
はしゃぐサラレギーは実に愉しそうだ。おそらくは本人も自覚することなく、有利との触れ合いを楽しんでいるのではないか…そんな風にも思えるのだった。
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