第37話





「ねえ、渋谷君…このCMに出てるのって、コンラートさんだよね!?」

 10月の中旬、1年7組の教室は大騒ぎになっていた。
 朝方7時台のニュース番組で、10月末に発売されるカメラシリーズ《SAMURAI.Z》の紹介と共に、CM映像の一部が取り出しで放映されたのだ。
 有利の映像は今のところ後ろ姿と袖の一部が映っただけなので安堵しているが、コンラートは美麗な全身映像と鮮やかな剣技が全国放送されているので、さぞかし反響がある事だろう。

「う…あ、う…ん……」

 はにゅはにゅとした有利の返答に、コンラートの容貌が大好きでしょうがない山内は悶絶して悔しがった。

「むきゅわぁあ…っ!どーして早く言ってくんないの!?知ってたら絶対スタジオに入らせて貰ったのにぃ〜っ!」

 高梨は敢えて何も言わなかったが、だからこそクラスメイトには何も言わなかったのだと思う。今も、学級内の騒ぎが耳に入っているのかいないのか、いつも通りの表情で椅子に座っている。
 秋の蜜柑色の強い日差しが滑らかな頬に映えて、高梨の造作を思い出の写真みたいに彩っていた。
 
『高梨さんが黙ってるのって、それだけじゃないよね…』

 《言いたくなければ言わなくて良いわ》…彼女は確かにそう言った。だからこそ、有利も沈黙を続けていたのだけれど…有利達の旅立ちの時が近づいている今、何も言わずに行こうとしている事に、有利は言いしれない罪悪感のような物を感じていた。

 10月末、文化祭が終わった直後に有利たちは旅立つ。
 その事を有利はまだ、学校関係者の誰にも告げてはいなかった。

 この高校のクラス展示というのは比較的クラブ展示の方に押され気味で、例年それほど力の入った発表はないようなのだが、今年の1年7組は2学期が始まるなり熱心に取り組みをしており、この日も放課後残った連中が噂話に花を咲かせながら、女子は衣装の縫い上げ、男子は大道具の設営などをしている。

 7組の出し物は、会場である講堂全体を使った舞台発表である。
 基本的な設定は《からくりリレー》というもので、クラスの生徒が講堂の舞台・観客席・壁面の照明器具置き場、出入り口に位置して、発光性のボールをリレーしていく。ボールは時に手渡しでパスされ、投げられ、壁面の仕掛けを転がり、弾みながら講堂を一周していく。
 最初はテレビ番組の影響で《ドミノ倒しをしよう》という意見が多かったが、《場所を取りすぎる》との文化祭実行委員会の苦言を受けて、《それなら…》ということでこのような物になった。

 黙って見送ると間が持たない可能性もあるが、そこはアナウンス担当に美声で知られる放送部の松代奈美が実況中継を行う予定だし、吹奏楽部の連中が状況に合わせて即席BGMを流すというのでかなり楽しみである。

 さて、その中で有利はと言うと、観客席の中に座っておいて、スポットライトを浴びたら中央通路から舞台目掛けて投球するという役割らしい。それはまあ良いのだが…気になるのは、その時の衣装が何になるかだ。

 役割を聞いたとき、すぐに《草野球チームのユニフォームで良い?》と聞いたのだが、凄い勢いで却下された。どうやら、女子達が決めた衣装コンセプトが《不思議の国のアリス》と《鏡の国のアリス》であるらしい。確かに、不思議だったり鏡だったりする国に野球のユニフォームは無かろう。

『サイズはちゃんと調べて用意するから、当日までのお楽しみにしててね』

 そう言って、女子は男子達に衣装の内容を教えてくれない。
 これは…結構ドキドキものである。女子生徒の自分に対するイメージを暗に告げられるようなものだからだ。

 手先が器用な女子は今もちくちくと針仕事を続けているが、誰が誰の衣装を担当しているかも秘密なので、推測する事が出来ないのだ。
 出来れば…帽子屋かトランプの兵士、せめて3月兎くらいにして欲しいところだ。
 ハンプティダンプティは切なすぎる。投球しにくそうだし、スライディングしたら確実に割れそうだ。

「ねえ、文化祭にはコンラートさんも来るの?」
「うん、来るって言ってた」
「やったぁ〜っ!ねえねえ、渋谷君。サインとか貰えるかな?」
「練習しとくように言っとくよ」
「ありがとう!」
 
 山内さんはそばかすだらけの顔を笑み崩して、縫い上げ中の衣装を抱き寄せた。ちょっと待ち針が当たって痛そうだ。

「CMの映像もすっごく良かったわぁ〜っ!コンラートさん、絶対これからいっぱい仕事来るよ?」
「そ…っかな……」

 高梨をちらりと見やる。

 彼女は事務所の重鎮というわけではないが、紹介者なのだからその後コンラートが事務所に入る仕事の全てを断っている事や、そもそも事務所の所属タレントとして登録していないのも知っているはずだ。撮影に加わったスタッフも《是非!》と頼み込んでいるらしいが、今の状況で受けられるはずもない。

 事情通の女の子というのは、こういうとき勿体つけて《私は知ってるのよ》という顔をするものだが、高梨はこの件に関して全く口を開こうとはしない。
 ただ…栗色がかった勝ち気そうな瞳は、時折何かを言いたげに細められて有利を見た。

 口に出して《話して》とは言わなくとも、彼女が気にし続けている事は確かだった。

 それが何だか気になって、有利は帰り道に声を掛けてみた。高梨は流石に目を見開いて、少し緊張した面持ちで裏庭に来てくれた。

「高梨さん、あのさ…ちょっと良い?」
「なに?」
「こないだのCM撮影の時に、変な怪物出てきたろ?」
「コンラートさんと会話していた、あれね」
「うん…あのさ、ちょっと信じられないかも知れないんだけど…聞いてくれる?あれがなんなのかとか…俺が、7月に…本当はどこにいたのかとか…」
「…良いわ。教えて」

 何故、高梨に説明しようという気になったのかは分からない。
 何も言わずに旅立つ事に不安を覚えていたのか…彼女なら信じてくれるのではないかと思ったのかも知れない。

 ともかく、有利はあるがままを話した。
 引きずり込まれるようにして異世界に連れて行かれた事も、《禁忌の箱》を再び封じるために、また旅立たねばならないことも…。

 語り終えた後の沈黙の中、高梨が髪を揺らすと、巻髪がはらりと頬を覆った。髪の一部をくるくると巻いて、高い位置でギンガムチェックの細リボンで結んでいるのだが、これが束になって高梨の表情を隠す。

『うーん…妄想の激しい奴って思われたかな?』

 しかし、高梨はそのままゴシ…っと目元を袖口で拭うと、くるりと後ろを向いてしまった。

「高梨さん…?」
「見ないで。今、変な顔してるから」
「え…わ、笑うの我慢して変顔になってるとか!?」
「違うわよっ!」

 振り向いた高梨は…泣いていた。

「高梨さん、どうし…」
「分からないわ。何だか…色んな感情がぐるぐるして、整合性がつかないの」

 高梨は《ふぅ…》っと息をつくと、ポケットからハンカチを出して目元を拭いた。美少女は泣いても可愛いから凄い。
 いや、いま気にしなくてはならないのは泣いている要因の方だが。

「驚いたのと悲しいのと嬉しいのが、混じってるみたいなの」
「一番二番は分かるけど、最後のは一体…」

 旅立つ事で《悲しい》と思ってくれているのなら、何故《嬉しい》などと言う感情が出てくるのか。

「よく分からないけど…嬉しいの。渋谷君が秘密を明かしてくれた事が…多分、凄く嬉しいんだわ。でも、明かしてくれた内容はあなたが…それに、コンラートさんも、下手すると帰ってこないかも知れないなんて話でしょ?なんかもう…ぐるぐるしちゃって、頭の整理がつかないのよ!」
「ご…ごめん……」
「謝るような事でもないわ。内緒でいなくなるよりはずっと良いもの」

 それでも、目の前で女の子が泣いていれば謝りたくなるのが人情というものだった。



*  *  * 




 有利の打ち明けた話は、俄には信じがたいものであった。
 だが、そうであるからこそ逆に…《真実なのだろう》とも思えた。

 突飛すぎて、逆に有利のような性格をした少年が騙す目的で口にするとは思えなかったし、彼に妄想癖があるようにも思われなかった。

 何より、高梨は自分の目とカメラが映した物を信じている。

『あんな怪物…真鍋さんがいうみたいに人が作った仕掛けとは思えなかったもの』

 他の撮影スタッフもそう思っている事だろうが、それをスクープとして報じないのはやはり突飛すぎて、直接目にした者以外は信じないからだろう。せいぜい東スポの一面を飾るか、年末特番の未確認生物特集に登場するくらいな事だ。

『渋谷君は、信じられる人だわ』

 おそらく…彼が高梨を信じてくれたからこそ、そう思うようになったのかも知れない。
 CM撮影の時、コンラートが言っていた事も思い出された。彼は、高梨の情熱を理解して、有利もまたそうなのだと教えてくれた。

 《信じて、信じられる》…その事が、こんなにも感情を震わせる事を高梨は初めて知った。今流している涙の大部分はそこから来ているのだと思う。
 信じて打ち明けてくれた事、そして…その人が目の前から居なくなってしまうかも知れないという事…。様々な思いが交錯して、高梨を泣かせているのだ。

「おい…お前ら、何してんだよ」

 校舎の影から咎めるような声を掛けてきたのは、同じクラスの瀬名海斗だった。部活が終わって更衣室に行く途中だったのか、結構肌寒い季節だというのにバスケットの練習用ユニフォームのままで、ジャージも羽織っていない。

「何でもないわ。気にしないで」
「気にするなって言われても…。泣いてんじゃん、高梨」
「それでも気にしないで」

 《二人の間の事だから》と言いかけて、そういえば、半分くらいは二人の間だけの話では無いのだと気付いた。

『渋谷君は、積極的にクラスメイトと繋がりを得ようとして頑張ってる気がしたけど…旅立ちの事は、伝えるつもりなのかしら?』

 休学措置は執らないというが、クラスの中で比較的仲の良い生徒にまで黙って行くつもりだろうか?高梨が意見するような事ではないのだが…少し、気がかりだった。



*  *  *

 


 部活を終えた瀬名は校舎の裏から聞こえる泣き声に気付いた。

 ただ、泣きじゃくる声は激しいものではなかった。会話の声が震える程度だったから、大した事ではないのかな…とも思って、《余計な事はすまい》と通り過ぎようとした。

 だが…会話の内容が漏れ聞こえてしまった。

『あなたが…それに、コンラートさんも、下手すると帰ってこないかも知れないなんて話でしょ?』

 声の主は同じクラスの高梨…そして、相手が有利なのだと分かった瞬間に、盗み聞きしていた後ろめたさなど吹っ飛ばして瀬名は乱入していた。

「渋谷…お前、帰ってこないかも知れないってどういう事なんだ?コンラートって…お前を助けてくれたって奴だろ?そいつと一緒に、一体何をするって言うんだよ」
「え…っ!瀬名、聞いてたの!?」
「…っ!盗み聞きしたのは謝るよ…。だけど、ちょっと聞き捨てならねぇよ!お前…このクラスにしっかり関わって、やってくって…宣言したばっかじゃんか。それが…帰ってこないってどういう事だよ!?」

 話している内に語気は次第に荒いものへと変わっていき、気が付けば有利に歩み寄って肩を掴んでいた。

「何か言えよ!」
「ちょ…っ、瀬名君…止めなさいよっ!」
「瀬名…落ち着いて、瀬名…っ!」

 荒っぽく揺さぶられる有利は可哀想なくらい痛切な表情をしていたけれど、それが事の重大さを示しているように思われて、瀬名の頭には余計に血の気が昇ってきた。

 2学期の初めに何かが気になってから、瀬名の視線は有利を追うようになっていた。けれど、あまり接点がなかった二人は結局それほど深い関わりを持つ事はなかった。
 それでも…目が合ったときに笑いかけてくれたり、一緒に昼食をとりながら笑い話をするのがとても楽しかった。文化祭の準備だって同じ壁面掲示の担当だから、文化祭の前日準備の時には色々と深い話もしてみようなんて思っていたのだ。

 それが…瀬名には何も言わないまま、何処かに行ってしまうと言うのか?

「言えよ…何か、言ってくれよ…!」

 高梨ではないが、思わず泣いてしまいそうだ。しかも打ち明けて貰った高梨に比べて、瀬名は言って貰えない事に泣いてしまいそうなのだから結構情けない。

 その時、騒ぎを聞きつけたのか、天羽と及川が駆け寄って両側から瀬名の腕を掴んだ。

「瀬名、もう止めとけよ」
「止めて…瀬名君っ!」
「天羽…及川」

 一重まぶたの鋭い目元が誤解を招きやすい天羽だが、この時は何故か…やけに優しい眼差しをしていた。まるぽちゃな及川も、つぶらな瞳に涙を滲ませて大柄な瀬名を見上げている。

「言いにくい事なんだよ。クラスの連中全員に…言って回れるような事じゃないんだ」
「そうよ…瀬名君、分かってあげて?」
「何だよ…お前らは知ってるのかよ?」
「直接渋谷から教えて貰ったわけじゃないが…推測はしている」

 この高校の水準からすれば飛び抜けて優秀な頭脳を持つ天羽が、凛とした顔で言い放つ。その言葉には何やら重みがありそうだ。
 隣でうんうんと頷いている及川は、おそらくその《推測》に関する会話に共感したのだろう。

「推測…?」
「ああ…渋谷は、おそらく…」

 ごくり…

 有利や高梨までが息を呑んで天羽の言葉を待った。


「渋谷は、星の王子様なんだ…!」


 しぃいいん……

 秋の盛りの校舎裏に、深い静寂が訪れた。



*  *  * 



「え…?」

 真相とはまた違ったベクトルに《突拍子もない》話に、有利は愕然としてしまう。

「そうなんだろう?渋谷…そうでなきゃ、説明が付かないよ。お前を救ってくれたコンラートって人の腕…完全に、《生えて》いたじゃないか」

 天羽と及川は、《俺たち(私たち)は分かってるぜ(よ)?》と言いたげにマイルドな眼差しを送ってくれるのだが、有利としては一体どういう反応を示したものか分からない。

「…っ!?えと、あ…あれは…っ!」
「俺の親、あの人と勤め先一緒なんだよ。それがあんまり驚いてるからこっそり銀行に行って盗み見してきたんだ。…ちょっと誤解を招くかも知れないけど、その…更衣室にも入ってさ」

 コンラートは銀行内部では制服を着ているから、その更衣の時に見たのだろう。
 どうやって見たのかは追求してはいけないのだろうか?(空いているロッカーにでも入っていたのか…)

「同僚には《急死した親族の腕を移植して貰った》なんて言ってたけどさ…地球人の技術じゃ、あり得ないんだよ!どんなに皮下縫合を丁寧にやったって、あんなに継ぎ目無く縫い合わせる事は不可能なんだ。…となれば、やっぱり…ずっとそうじゃないかと思ってたけど、渋谷…お前は科学技術が飛躍的に発展した星から来た…異星人なんだろ!?」

 この熱の入れよう…。ひょっとして、クールでニヒルな秀才君と思いきや、実は天羽という少年は不思議現象大好きっ子だったのだろうか?

「あああ…天羽〜……?」
「みなまで言うな、渋谷。良いんだ…俺たちの記憶を操作して一時的にクラスメイトになってたって事に後ろめたさを感じてるんだろう?だけど…俺には分かってるよ。これ以上説明なんかしなくたって…お前が友好的な異星人だってことはな!」

 分かっちゃてるのか、そうなのか。
 確信しきった天羽に、もう別の説を展開する隙間はなさそうだ。

「そうよ…渋谷君。だって、そうとしか考えられないわ。だって…あなたの入学時の写真、一学期に見たときには気に留まった覚えがないのに、今見たら…凄く可愛いんだもん。こんなの、天羽君の仮説以外では説明つかないでしょう?渋谷君は1学期までは、本当は私たちと一緒に生活はしていなかったのよ。2学期に入ってから、周囲に溶け込むように情報操作をしたんでしょ?」

 及川まで瞳をキラキラさせながら語ってくれる。そんなに天羽の設定がツボだったのか。

「渋谷君が内緒で星出をして、地球に入るときにUFOの操作を誤って、危うく大気圏で燃え尽きそうになった所を護衛のコンラートさんが命がけで救ってくれたんでしょ?《殿下の身がご無事なら、俺の腕など安いものですよ》…なーんてなんーんて言いながらっ!」

 及川は勝手にエピソードを付加して盛り上がっている。

「コンラートさんはこのままでも良いって言い張るのに、渋谷君はコンラートさんの腕が失われたままである事に耐えられなかったのよ!それで、故郷の星と通信をして、コンラートさんの腕を戻して貰う代わりに自分も帰る事を約束したんだわ…そうなんでしょ!?」
「ええと…及川さん……」

 夢見がちに空想を膨らませている及川を止めようとするが、そこですかさず出てきたのが、涙も止まった高梨であった。

「そうなのよ…光枝ちゃん」
「瑞穂ちゃん…」
「ごめんね?光枝ちゃん…。渋谷君の家庭の事情だから、あなたにもどこまで話して良いのか分からなかったんだけど…実はそうなのよ。私は、渋谷君が地球に不時着したときにUFOから降りてくるところを目撃しちゃったから、みんなより色々教えて貰っていたの」

 ほぉお…

 天羽と及川が納得の溜息を漏らす。

「渋谷君は別の星の眞魔国って国の王子なんだけど、望まぬ結婚を強制されそうになって、地球にやって来たのよ。推察通り、コンラートさんの腕を元通りにする医療装置を送ってもらう代わりに星には帰る事になったけど、みんなとの思い出のために文化祭が終わるまでは待ってくれって言っているそうなの」
「本当…!?渋谷君、私が縫った衣装…着てくれるの!?」
「はうっ!?及川さんが縫ってた衣装って…」

 《取りあえず、アレではありませんように》と祈っていた服ではないのか。
 だが、この流れで拒否するにはかなりの精神力を必要とする。

「う…うん……」
「良かった…。写真撮ったら…大事にするね?渋谷君も…私たちの事、忘れないでね?」

 こくっと頷くと、涙を浮かべる及川を高梨が抱きしめた。

「泣かないで…光枝ちゃん。それにね、渋谷君は何とか、家族を説得してみるって言ってるの。本当に愛してるのはコンラートさんだから、彼以外の人とは結婚しないって言い切るつもりだそうよ」
「高梨さんーーっっっ!?」

 高梨には色々と秘密は明かしたが、その件については一言も言っていなかったはずなの
 だが…。泡を食いながら高梨を見やると、《ここは勢いで乗り切っちゃいましょう》という顔をしている。

「おい…渋谷、マジで…?」
「そ…その推測は俺の仮説の中にもなかった…」

 何故か瀬名と天羽が二人してよろめいている。
 《星を越えたホモでご免なさい》…と謝るべきだろうか?

「えと…そ、その…ほ、他の連中には言わないでっ!!」
「本当…なのか、そうか……」

 何故か四つん這いになって、二人は涙に暮れてしまった。

「じゃあ…渋谷君、もしかしたら…帰ってこられるかも知れないのね…!?」
「そうよ。だから…文化祭、思いっきり盛り上げてみんなで良い思い出を作って、渋谷君の帰りを待ちましょ?それが…私たちに出来る最大のエールだわ」
「そうよね…うん、頑張ろう…!」

 エイエイオーっ!

 元気に盛り上がる女子と、困惑したり落ち込んだりしている男子が見事な好対照をなしていた。 






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