第13話
多くの眞魔国民に《焦れったい》体験をさせているウェラー卿コンラートがどうしていたかというと、彼は彼なりに帰還の方策を練っていた。
その中でコンラートが選定した進路は、カロリア自治区ギルビット商業港であった。
双黒とコンラートを探し求める小シマロンの傘下にある港だが、サマナ大樹海で双黒が発見されず、焦れた軍隊が少数の兵を残した他は哨戒行動に入っている今、《どこだから安全》ということもない。
眞魔国を目指していれば、必ずどこかで危険な選択をしなくてはならないのだ。
その中では、上手く紛れ込めれば最も安全なのが海路だ。
とにかく外洋に出さえすれば、船を乗っ取るという方法もある。
それに、現在ギルビット商業港にはおあつらえ向きに眞魔国行きの船舶が入港予定だ。
例の要塞都市アリスティア公国の商隊が、眞魔国や諸島連合国に向けて大型の船舶を貸し切るとの情報を得たのだ。
《どうにかしてこの商隊に紛れ込もう》…そう決めたコンラート達は、一路ギルビット商業港を目指した。
これに際して、彼らは装いも変えた。
少女の姿をとっていたユーリは、カルナスでの目撃情報と一致しないように本来の少年の姿に戻った(本人にとってはとてもありがたそうだった)。髪は銅色に染めて少し端をざんばらにし、目にはやはり硝子片を入れている。如何にも元気な少年という感じだが、愛らしすぎるのがやはり難点か。油断しているとすぐに人目をひいてしまうのである。懸念したコンラートは、なるべくマントを被っておくようにと指示した。
そのコンラートだが、彼は《獅子のようだ》と評判だった後ろ髪を短く刈り詰めて少し明るい色に染め、目にはヨザックから借りた色硝子を入れて深緑色にしている。それだけで随分と印象が変わったから、この色硝子という代物はなかなか大した変装道具である。
何処で手に入れたのかと聞いたら、フォンカーベルニコフ卿アニシナが開発したものだと分かった。かなり奇天烈な人物だと聞いているが…能力についてはやはり高いものを持っているのだろう。
ヨザックも鮮やかな柑橘色の髪を紅く染め、こちらも色硝子を入れて瞳を紫にしている。確かに印象は変わるが、配色が鮮明すぎて少々目がちかちかするのが難点である。
《お前も髪を切ったらどうだ》と勧めたのだが、《乙女の命を切る気?》等と言うので、反射的に頭をはたいてしまった。
ただ、カロリア自治区に入る際にもヨザックが所属している吟遊詩人ギルドの名を利用しているため(ヨザックは複数のギルドに所属している)、 本当はあまり無体な事も出来ないのだ。
『実際の所、今の状況をこいつはどう考えてるんだろう?』
ドント爺さんが去ってから慎重に木を降りたヨザックは、暫くの間…無表情だった。
ユーリを殺すことは出来なかったにせよ、彼を連れて眞魔国に帰還することについてはまだ強い懸念を持ち続けているに違いない。
コンラートは敢えてその心情を問いただすことなく計画のみを伝えたが、まだまだヨザックとユーリだけを残して行動するには不安が残った。
* * *
『海だ…!』
風に乗って伝わってくる匂いから察しはつけていたのだが、実際に目にしてみるとやはり心が浮き立つ。青が有利が一番好きな色なのだ。
冷たそうな深い蒼が広がるさまは実に雄大で、水平線の彼方まで小島一つ無い。港の規模も大きいし、きっと大きな海原に通じる国際港なのだろう。
港の人々は全員薄着で、秋の終わりの時期だというのに寒そうな素振りをしている者はいない。ただ、重たそうな荷物を運んでいく労働者達が悉く老人であることに多少違和感を抱く。見渡したところ、働き盛りの若者は殆ど見受けられないのだ。
『なんだろ…過疎化が進んでんのかな?』
ファンタジックな世界に来たもんだと思っていたが、ここはここで都会に若者が流出して、3K職には老人しか残っていないのだろうか?
ヨザックは港の老人に何か話しかけていたかと思うと、コンラッドを顎で促し、有利の手を引いて小屋のような所に誘った。そこは大きな食堂らしく、新鮮な魚を素揚げや塩焼きにして売っているようだ。野菜や穀類が少ないのは嗜好の問題だけではなく、この辺ではあまり育たないのかも知れない。塩分の濃い土壌だと、栽培が難しいのだと聞いたことがある。
『でも…港っていったら色んな物流の中継点なんだから、ちょっとは魚介類以外も食べられそうなもんだけどなぁ…』
これだけの規模の港であれば相当潤うのではないかと思うのだが…働いている人自体はそうでもないのだろうか?
案の定、老人達の何人かはサンダル履きの足が一部赤く腫れており、痛風に掛かっているのだと知れた。
魚介類にはプリン体という成分が多く、これだけを偏って摂取しているとどうしても尿酸値が高くなって痛風と呼ばれる関節炎になりやすくなるそうだ。ただ、漁村や港町では経験的にその事を知っているから、代々伝わる発酵食品のようなものを食べる習慣があるはずだ。
よく見ると、痛風に掛かった老人達はやはり凄い匂いのする発酵豆を囓っていた。
ファンタジーの世界でも、生活習慣病の脅威は存在するらしい。
そんなことを考えていたら、ヨザックに肩を叩かれて何か布のようなものを渡された。どうやら使い込まれた素材のエプロンらしい。帆布に似た生地なのが港っぽい。
『う…でっかいなぁ……』
老人とはいえ体格の良い労働者が多いせいかエプロンはどう詰めても大きく、腕まくりをしているとまるで裸エプロンみたいだ。
着てみて《どう?》という風にコンラッドを見上げたら、何だか少し複雑そうな顔をしていた。
やっぱり、似合わないのだろうか。
* * *
『この子は…どうしてこう、何を着ても可愛いんだろうか?』
コンラートは馬鹿ップルみたいな事を考えながら、裸エプロン風味のユーリを眺めていた。表情が動かないのは感銘の度が小さいからではなく、訓練の賜である。
「隊長、丁度人手が足りなくて難渋してるみたいだ。昼時に給仕を手伝ったらタダ飯と干物をくれるってさ」
「ああ…」
ヨザックとコンラートもエプロンを着て給仕を務めた。
彼らが合流を望んでいるアリスティア公国の商隊はまだギルビット商業港に到着しておらず、数日間はここで待機せざるを得ないのだ。場合によっては、今日のうちに食料を買い込んでおいて、周辺の森で野営した方が良いかも知れない。
給仕をしている間、店の者や客の噂話を聞いたところでは、どうやらここ最近の間に、急速にカロリア自治区では徴兵が進んでいるらしい。宗主国である小シマロンは盛んに軍備を整え、何か大きな戦に備えているというのがもっぱらの噂であったが、それは双黒とコンラートの探索だけでなく、《禁忌の箱》自体に絡む話なのだという。
『そう言えば、ヨザもそんなことを話していたか…』
どうもここ最近、大・小シマロンでは挙って《禁忌の箱》探索に励んでいるらしい。
当然と言えば当然なのだが、異世界からもたらされるという双黒を手に入れたとしても、《禁忌の箱》を持っていなければ何にもならないのである。このため野心的な国家では、盛んに占いや発掘作業が進められているのだという。
「だがよぉ、俺ぁ…妙な噂を聞いたぜ?その占い師どもが、一斉に占いの力を弱めたって言うじゃないか」
「ああ、領主様が信頼なすってたペルパント占い通りのビビも、自慢の水盆に罅が入ったって聞くな」
「なんでも、とんでもなく大きな魔力がこの大陸で炸裂したからってことだが…」
「反応が大きすぎて、目盛りが振り切れたとか何とか…そんなこと言ってたな?」
船の乗組員らしい男達が盛んにそんな話をしているから、コンラートはそちらに意識が行きすぎるのを止めなくてはならなかった。
彼らの話す《とてつもなく大きな魔力》というのが、ユーリ以外に考えられなかったからだ。
『占術師の索析能力を乱すほどの力なのか…』
火事を消すために無数の水蛇を放出したユーリの魔力は確かに凄まじかった。しかも、この子はあれだけの魔力を要素の薄い人間の土地で使ったのだ。
あの一件の後、コンラート達は占術師達の網の目をくぐるために直線コースを採らず、わざと細かく道を変えたのだが…ひょっとするとそれは不要だったのだろうか?
『いや、占術師達もいつまでも無力化しているわけではあるまい』
強い力を持つ者はそろそろ回復して、ユーリの居場所を突き止めてしまうかも知れない。油断は禁物だ。
『それにしても…《禁忌の箱》を使おうなどとは何と愚かな…』
一体何をどう考えたら、眞王陛下ですら完全に滅ぼすことが出来なかった恐るべき創主を、自分の意のままに操れるなどと思うのだろう?
どう考えても開放した途端に制御不能に陥り、世界を崩壊に導くだけだ。
そこまで考えて…乱暴に頭を掻いた。
『馬鹿なことを…。その崩壊を導くとされる双黒を殺すことが出来なかった俺が、どれだけ大きな顔をして連中を責められると言うこともあるまい』
視線を送れば、ユーリはちいさな手に大ぶりなおたまを持って熱いつみれ団子汁を注いでいる。荒くれ者揃いの船乗り達も、給仕の少年がちっちゃくて可愛らしいものだから妙にニコニコ顔になっている。
ユーリが良い匂いのする大鍋を嗅いではお腹を鳴らしていると、無骨な顔をした老女が自分の椀を手元に押しつけてきた。ユーリがお礼を言って口を付けると、皺だらけの顔に《にか…》っと人好きのする笑顔を浮かべる。
ユーリはコンラートとヨザックにも目配せをして《食べる?》という顔をしていたが、身振りで《食べなさい》と指示した。
申し訳なさそうにしながらもズズーっと汁を啜ると、出汁の利いたその味わいが気に入ったのか、《ぷはーっ》と実に美味しそうな顔をする。その様子を見ると、椀をくれた老女はまた笑顔になって、他の客も小魚の素揚げをユーリの口に放り込んだりする。
『不思議な子だ…気が付くと、見ている者を幸せな気持ちにさせてしまう』
そう…ユーリは、彼を殺そうとした者の気持ちさえ変えてしまった。
『君は、一体どういう運命を持つ子なのだろうな?』
アルザス・フェスタリアはユーリが《禁忌の箱》を開く鍵のひとつであり、コンラートがユーリを導くだろうと予言した。
今のところ、それは成就しつつある。
だが…アルザス・フェスタリアは本当に、全てを見通した上でそう告げたのだろうか?
『随分とせっかちそうな少女に見えたが…』
眞王廟の巫女と言えば、式典などで目にしても、大抵は物静かでたおやかな…よく言えば大人しい、悪く言えば生きているのかどうか分からないような様子だったのだが、アルザス・フェスタリアは一種独特の雰囲気を放っていた。
自分の中に溢れる力を押さえかねているような…常にもどかしい鬱屈を抱えているような…そんな感じだった。良くも悪くも、活力が有り余っているのだ。
もしかすると、巫女としてではなく普通の少女として活発に動き回っている方が、彼女の為には良かったのではないだろうか?
コンラートの師匠であるフォンクライスト卿ギュンターも、例の託宣が下された後に渋面を浮かべてこう言っていたことがある。
『能力の高い予知者には、時として未来の像が見えると聞きます。ですが…それが果たして未来の全てなのでしょうか?私には、まだ起こってもいない事態の一局面を捉えて騒ぎ立てることは、実際に起こりうる未来を歪めてしまうのではと懸念しますよ』
その時には、師匠がコンラートを慰めているくらいにしか思わなかったのだが、実に正鵠を突く言葉なのではないだろうか?
『……いや、希望的観測で自分を励ましすぎるのも問題か…』
ふぅ…っと溜息をつくと頭を振って想像を振り払う。
* * *
魚のつみれ汁と魚の素揚げというプリン体たっぷりの食事は、味としてはとても美味しかった。特に大鍋で煮たつみれ汁は給仕中にもこっそりお客さんに貰ったりしていたのだが、昼時を過ぎて店の面々と食べる時にもお代わりしてしまった。
ついでに夜も手伝うことになったらしく、《呼ぶまでは好きにしていて良い》という雰囲気だったので、コンラートやヨザックとあり合わせの道具で釣りをして遊んだりした。
しかし、ふと…気になるものが視界を掠めた。
『あ…れ?』
秋の高い空にふわりと浮かぶその姿は…有利がこの世界に導かれるきっかけとなった、金色の蝶ではないだろうか?
『あの模様…間違いないよな?』
妙に気になってコンラートの袖を引っ張り蝶を指さすと、コンラートも小首を傾げていた。彼にとっても珍しい蝶だったのだろうか?
「ねぇ…あの蝶、ちょっと追いかけても良いかな?」
身振り手振りで意志を伝えると、コンラートとヨザックは顔を見合わせていたが、有利が蝶を追いかけていくと《仕方ないな》という風に肩を竦めてからついてきてくれた。ヨザックなどは並んで釣りをしていた老人に声を掛けると、釣り用の網を借りてきてくれた。
あの曰(いわ)くありげな蝶を魚臭い網で捕まえて、祟られたりしないのだろうか…。
整備の悪いでこぼこ道を歩いていくと、蝶はえらく立派な建物に入ってしまった。
「あ〜…」
流石に不法侵入は出来なさそうだ。実際、屋敷に近づいただけで警備員らしき連中が寄ってきた。手にはがっしりとした槍を握っており、眦は釣り上がっている。
「あ…ご、ごめんなさい…。蝶を追いかけてただけなんです〜」
随分と厳重な警備だ。
よほど大事な宝物があるか、狙われやすい人でもいるのだろうか?
警備員から有利を庇うようにしてコンラートが前に出てくるが、その背中が…一瞬ぴくりと跳ねたような気がした。
* * *
昼食後、ユーリがえらく大きな蝶を追いかけていた。
眞魔国と大陸諸国の動植物については大抵の知識を入れていると思ったのだが、コンラートにも見覚えのない蝶だった。
『へぇ…随分と綺麗だ』
黄土色の天鵞絨のような地肌が光沢をもち、後翅外縁に蒼い斑紋が並ぶ。
光を浴びると、鱗粉のせいか黄金のように鮮やかな光沢を帯びていた。
ユーリは余程興味を惹かれたのか、手が届かないのを跳躍して捕らえようとしたり、ひらりと翻る羽根を追って通りを駆けていこうとする。それでも、一人で動き回ってはいけないことは分かるのか、身振りで《一緒に捕まえて》と頼んできた。
仕方なしに一緒に追いかけていくと、蝶はよりによって領主館に入ってしまった。
港の家屋は匂いが籠もらないように、余程の寒さでないと戸口や窓を開け放っていることが多いから、大抵の家なら一言声を掛けるだけで入れるのだが、瀟洒な造りの領主館は流石に警備が厳重で、とても《蝶を捕らせて下さい》などと言い出すことは出来なかった。
ユーリもそれは理解出来るようで、わたわたと警備員達に言い訳をしている(伝わるわけもないが)。
「すまない、この子と蝶を追っている内にあなた方の領分まで入り込んでしまったが、他意はない」
「その儒子(こぞう)をしっかりと躾ておけよ!」
そう人柄が悪いようにも見えないのに、警備員達は妙にピリピリとした態度で怒声をあげた。これでは、余程重要な秘密がこの領主館にあるのだと言っているようなものだろう。
『そう言えば…小シマロンの使者が来ているという話だったな』
領主ノーマン・ギルビットは身体が不自由なのであまり外出しないが、かなり領民想いの人物であるらしい。このため徴兵された若者達を連れ戻すべく、小シマロンの担当官と盛んに交渉しているようだ。その人物の気分を害したりすれば、領主の取り組みが水泡に帰すかも知れない…そのように警備員達は懸念しているのだろうか。
ふと視線を巡らせると、領主館に入っていく馬車が見えた。港町で使うには腐食の懸念がある金属を使っていたから、小シマロンのものではないかと推察される。
その馬車が整備不十分な石畳に引っかかってガタン…っと弾んだ瞬間、カーテンの隙間から大柄な人物が見えた。
それは…コンラートにとって見覚えのある人物だった。
「……っ!」
コンラートは急いでヨザックとユーリを誘導すると、目に付きにくい細道にはいる。
「…気付いたか?ヨザ」
「ああ…グランツの旦那だ。あいつ、一体ここで何をしてやがんだ?」
フォングランツ卿アーダルベルト…本来なら今頃、十貴族の中でも勇猛を持って知られるグランツ家の当主となっていた筈の男だ。
大戦末期に最愛の婚約者フォンウィンコット卿スザナ・ジュリアを喪った彼は、その死の経緯がどうしても納得出来ず、眞魔国のやり方を嫌って国外に出奔してしまった男だ。
人間の流民と共に盗賊まがいの集団を作って、度々国境を襲っては撃退されてきたのだが…小シマロンの使者としてあの馬車に乗っているのだとすれば、今までの活動とは規模が違う。
『何をするつもりなんだ…アーダルベルト』
アーダルベルトとジュリアの婚約は家同士の取り決めによるものだったが、二人の間にはそれだけではない繋がりがあったのだと思う。
ジュリアの親友であるコンラートは、周囲が思うよりも遙かに、この二人のことを祝福していた。
純血貴族が眞魔国を支配することを、息をするよりも自然なこととして捉えていたアーダルベルトも、ジュリアとの精神的な交流によって少しずつだが視野が広がり、作戦行動を考える上でも混血部隊を従来のような《捨て石》にすることを由とはしなくなっていた。
あのまま二人が結ばれていれば、眞魔国はまた別の雰囲気を持つ国になったかも知れない。
『ジュリアは確かに、純血貴族の不手際で窮地に追い込まれたかも知れない…だが、壊滅しかけた部隊を見捨てることが出来ず、命を賭けて救おうとしたのは…他ならぬ、ジュリア自身なんだぞ?』
そう思うからこそ、コンラートは彼女の死を乗り越えることが出来たのだ。
やりたいことは何としても貫く彼女が、護ろうとしたこの国だから…絶望することなく、支え…変えていきたいと願ったのだ。
確かに、今の眞魔国には歪みがある。
国の功労者であるはずのコンラートが、こうして託宣一つで窮地に追い込まれている事も腹立たしい。
だが…逃げて何が変わるというのだろう?
眞魔国に反旗を翻し人間に手を貸して、アーダルベルトはその先にどんな未来を築こうとしているのだろうか?
それは…ジュリアが望んだものだと思うのか?
『アーダルベルト、お前のしようとしていることが眞魔国を脅かすものであるなら…俺は、何としても止めなくてはならない』
それが憎いシュトッフェルを益するような行為であろうとも、あの国に残してきた大切な連中や、民を護るためには戦わねばならない。
「ヨザ、日が落ちたらアーダルベルトの動きを探ってくれるか?」
「…心得た」
ここで《俺が行く》と言えないことに、ヨザックの方でも感じるものがあったのだろう。少し皮肉げに口角を上げた。
「俺がいないからって、羽目を外してユーリといちゃいちゃすんなよ?帰ってきたら突っ込んでた…なんてのは、身の置き所に困るからな」
「馬鹿な…あんな子どもに何をすると言うんだ」
温泉で感じたときめきのことなど棚に上げて、コンラートは呆れたように嘆息した。
→次へ
|