虹越え3−3−1 修学旅行2日目の日程は午前中にホテルに隣接した民俗資料館の見学、早めの昼食の後は自由選択…とは言っても盛り場とてない地域のこと、ホテル周辺の土産物屋を冷やかしたり、昨日と同様にスキーをしたりという程度の選択肢である。 有利は1日中スキーでも良かったのだが、グループの女子3人が民俗資料館で刀剣や装飾品が見たいというので午前中はそちらに同行することになった。如何にも《勉強》という感じのコースで退屈しそうに思っていたのだが、同行者の一人が何げにこの見学先を気に入ったようだった。 ようだ…というのは、あからさまにその感想を言うわけではないのだが、その視線がふと気が付くと、ある方向を向いているのだ。 「コンラッド…日本刀好きなの?」 「…え?」 有利に話しかけられて、コンラートの声が一瞬跳ねた。 「そんな風に見えましたか?」 「ん…ちょっとね」 微かに小首を傾げるとダークブラウンの髪がさらりと額を掠め、何処か不思議そうに有利の方を見やる。 確かに、コンラートの視線は基本的には有利とその周囲に向けられ、常に危険がないか気を配っていてくれるのだが…日本刀、それも細かな細工が施された鍔や鞘飾りには反応しないのに、剥き身の刀身に浮かぶ乱刃文様…直刃の醸し出す怜悧な艶…そういったものが視界を掠めるときだけ、その琥珀色の瞳に銀の光彩が閃くのだった。 「…そうですね」 少し考えるように口元に左手を当てると、ぽそりと肯定の言葉を口にする。 「眞魔国の剣とは趣が異なる仕様ですし…確かに心惹かれるものがあるかもしれません」 普段は物を欲しがるということが基本的にない男で…本人もそのことを由としている風があるせいか、正直に心の内を明かすにも多少気恥ずかしそうな気配が漂う。 「そう言えば眞魔国にはこういう剣はないよね」 「ええ…大体、細身の剣は《突く》、段平は勢いで《叩き斬る》という感じなのですが…日本刀というのは実に鋭利ですよね…」 「そうだよね、眞魔国で見た剣ってそんな感じだったよなぁ…その点、日本刀ってまさに《斬る!》って感じだもんな。鞘とか柄の意匠は兎も角、刃の部分の鋭利な感じはコンラートに似合うかも」 「…俺はそんなに鋭利なタイプに見えますか?」 「時々ね?」 コンラートの雰囲気は何時も柔らかいが、本質はあの兄弟の誰よりも研ぎ澄まされた硬質な面を持っていると思う。いつもの柔らかさが全て嘘だとは思わないのだが、それがより周囲に対して《見せたい》コンラートの姿なのだということには薄々気付いている有利だった。 『でも…本人がそう見て欲しいと思ってるのに、わざわざ本質はこうなんだろ!って突きつけるのは失礼だもんな』 《親しき仲にも礼儀アリ》を胸にうんうんと頷くと、有利はさらりと話題を変えた。 「コンラッドはアニシナさん特製の携帯剣じゃ、やっぱ不満?」 「隠し持てる分、文句を言う筋合いはないのでしょうが…どこか脆さを感じるので、つい全力で撃ち込むのを躊躇ってしまいますね」 コンラートは思案げに左手で頬を撫でると、袖口に仕込んだ携帯剣を見やる。 「日本刀自体はある程度の物なら、高柳…いや、ワンちゃんに貰った金で買うことは出来るけど…でも、日本刀持って街歩いてたら一発でパクられるもんなぁ」 高柳は年末年始の忙しいシーズンを終えると、 『詫びにもならないとは思うが…』 と言いつつ、かなりの額の賠償金というか…上納金を納めてきた。 有利はいらないと言ったのだが、せめてこのくらいはさせてくれと彼も譲らなかった(尚、彼は芸能活動も引退すると言っていたのだが、こちらは有利の方が折れず、続けるよう薦められて活動を続けることになった)。 「そうですね…飾るために持っていても意味はないですからね…剣はあくまで、貴方をお護りするための道具ですから…」 そう言うと…先程まで幾分和らいでいた気配が、音がしそうな程の冷厳さで引き締められ…真摯な眼差しが有利に注がれる。 そんな風に真剣な眼差しを向けられると… 『な…何か照れちゃうよ』 頬に上がってくる熱を散らすように、有利は慌てて視線を逸らした。 だから…そんな有利の仕草にコンラートが寂しげに目を眇めたことに気付くことはなかった。 『距離を…置かれているのか?』 以前はこんな風に真っ直ぐな誓いの言葉を向けても、多少照れはしても目を逸らすことなど無かった。しかし、最近は時折…有利の眼差しが故意に逸らされることがある。 以前、口の悪いオレンジ髪の友人に嘆息混じりに言われたことがある。 『隊〜長ぉー…あんたって基本的にどんな奴とも広く・浅く・無難に付き合って巧く世の中渡っていける人なのにさぁ…こと陛下が絡むと人が変わるっつーか、魔族が変わるっつーか…ちょっと不気味なくらい執念深くなるよなぁ…なんつーか、あんたがストッパー無しでその愛情捧げたりしたら、正直あのお子さま陛下には重いんじゃねぇの?』 あの頃の友人はまだ有利との付き合いが浅かったので、その人と成りに信奉しつつある現在は違った感想を持っているのかもしれないが、今でも言われた内容についてはいたく自覚している部分がある。 コンラートが有利に向けている態度は、基本的に優しく…少し揶揄かい気味で、軽やかな…とにかく《警戒心》を抱かせない事を前提に展開されている。だが、最近それにも綻(ほころ)びが見え始めたような気がする。繕う事が下手になったのか…それとも、抱いている思いが限界を超えようとしているのか…。 ちらりと様子を伺うと、有利は少し屈んでガラスケースの中身を見るとも無しに見やっているようだった。俯くその頬に真っ直ぐな黒髪がしゃらりと音を立てて落ちかかり、冬に入って白さを増した首筋が襟足から微かに覗く。 とくん… そんな様子を目にするだけで、鼓動が跳ねる。 その細い首筋に唇付けを何度も落とし、甘い声を上げさせたくなる。 身体が少年であろうが少女であろうが、それが有利なのだと認識するだけで…反射のように身体が熱くなる…。 くらりと…脳の奥が眩む様な感覚に見舞われて、目元をそっと押さえた。 『隠し通さなくては…俺のこの欲望に気付かれでもしたら………』 有利が誰よりも自分のことを慕ってくれていることは知っている。だからこそ、信頼を裏切ったときの反作用は大きいものだろう。 下手をすれば、有利を性的に欲するあまりに忠誠を誓っていたなどと誤解される可能性すらある。 『俺の身体が目当てだったのかよ!?』 などと、やりたい盛りの彼氏に怒る女のような台詞など叩きつけられた日には、そのまま良い枝振りの木と丈夫なロープを探してしまいそうだ。 * * * 民俗資料館内のうどん屋で腹ごしらえをした後、午後は有利達男子の希望でゲレンデに向かうべく館内を出た。暖房の効いた館内で暖かい麺類を食べた後なので、うっすらと掻いた汗が一気に冷やされて一同はぶるりと背を震わせた。 「ぅっわ…寒ぅ〜」 「渋谷君は大丈夫?」 昨夜高熱を出していた有利を気遣うように楠田が声を掛けてくるが、言われてみてふと有利は気付いた。 『…全然、寒くない……』 かといって熱のために身体が火照って苦しいと言うこともない。ぽかぽかと丁度良い心地に体幹部から温もりが伝わってきて、手指も…雪泥混じりの雪道を歩く足先すらも暖かだ。元々体温は高い方だが、これは幾らなんでも奇妙である。 不思議に思いつつ、その温もりの根元を求めて胸に手を遣ると…思い当たるものがあった。 『まさか…この蝶?』 煌姫のあの性格から考えて、そんな気の利いた措置を執ってくれるとは思えないのだが…それでも確かに蝶は心地よい熱を発して、有利を凍気から護ってくれていた。 『………ありがとう…な?』 半疑問系ではあるのだが、それでも謝意を小さく口にすると…胸の蝶がぱたぱたと羽ばたいたような気がした。 * * * 「なーんか面白くねぇの」 「あの外人の警備員さ、ちょっとイッちゃってるよな?」 「だよなぁ?普通、あのくらいのこと言っただけであんな凄むかぁ?つか、あの迫力が出せる時点で尋常じゃねぇよ…」 ぶつぶつと文句を言いながら歩いている三人組は今朝方有利に絡み、コンラートの視線で地獄を見た連中であった。土産物屋を歩いてみても、時々フラッシュバックのようにあの視線が思い出されて背筋を凍らせていた。 「俺が思うに…あいつ絶対渋谷と犯ってるって!」 「犯るって…やっぱ、アレ?」 「そりゃあアレだろ」 高齢者か長年連れ添った夫婦のようにこそあど言葉で会話している彼らは、気が付くと土産物屋が並ぶ通りを過ぎ、古びた民家が並ぶ裏通りに入ってしまった。そして街路脇に寄せられた土まみれの雪塊などに八つ当たりをしている内に、彼らはふと小さな庵のような物に気付いた。 「何だこりゃ?」 「何かを祀ってるみたいだけど…」 お地蔵さんが入るくらいの大きさの庵にはまじないの札のようなものが何枚か施されていたが、色褪せて干涸らびたそれが元々どういう文字だったのか伺い採ることは出来ない。 一人の少年が扉を開けようとするが、比較的気の小さそうな友人が止めようとする。 「おい…止めとけよ。俺そういうの苦手なんだよぉ…何か呪われそうじゃん」 「気がちっせぇよなぁ…お前。いいじゃん、ちょびっと中覗くだけだし」 「そうそう、あれでも何か良い物入ってるかもしんないし」 そう言って扉を開けてみると、中にあったのは一振りの剣であった。鞘や鍔飾りの意匠自体はよく見れば手の込んだ細工を施されているが、如何せん、手入れが成され無いまま放置されていたのか、全体的にくすんで色の違いも分からない有様であった。 「なーんだ。やっぱがらくたかぁ…」 そんな物だろうと分かってはいたのだが、それでも一応は剣ということで、抜いてみれば中に良い刃が入っているかも…などと思いつつ、言い出しっぺの少年が左手で剣の鞘を掴んだ。 この少年…実は、今朝方有利の肩に手を触れた少年であった。 その彼が鞘に触れた途端…剣はかたかたと不気味な音を立てて振動を始めた。 「おい…変な音たてんなよ。不気味ー…」 「いや…俺、震えてないし……何だ?この剣……」 かたかたかたかた………… かたかたかたかたかたかた………… 震えているのは、鍔の部分だった。 鞘を掴んで呆然としている少年の手は確かに震えてなどいないのに、鍔の部分だけが奇妙な律動をもって自動的に動き続けているのだ。 「おい…もう、返しとこうぜ……何か怖いよ…」 「お、おう……」 気の小さい少年に促されて剣を立てかけてあった場所に戻そうとする。…と、剣を掴んでいた少年は手掌面にびりっ…とひりつくような痛みを感じて反射的に手を引っ込めようとするが、剣は掌に張り付いたように離れない。それもその筈…よく見れば剣と掌との隙間にはびっしりと氷が張り付いていたのである。 「う…う、ぅわっ!」 びききっ!と音を立てて氷の領域が拡大していくのに少年は慌てて手を振るったが、そんなことでその現象が留まることはなかった。見る間に氷は手首から肘、腕へと拡大し、体幹部に至ると一気に少年の身体を薄氷の中に閉じこめてしまった。 「わぁぁぁあっ!」 傍で見ていた二人の少年は絶叫して凍った少年に取り縋るが、氷は勢いを増してその二人までもを飲み込んだ。 3つの氷柱の内の一つが震えると、剣だけが割れた氷の間からすぅ…と宙に浮かんでいった。 轟々と風が鳴り、剣を中心として吹雪が起こると…残された少年達の姿は吹き付けてくる雪の中に閉ざされていった。 * * * ゲレンデでスキーを始めて1時間程度が経過した頃、天候が悪化し始め、元々人も疎らな上級者コースには、すっかり有利達のグループしか人が居ない状態になっていた。 「何か…風強くなってない?」 「雪も降ってきたし、そろそろ戻った方が良いかも」 有利達も下山しようと斜面を降りかけたその時。 かたかたかたかた………… かたかたかたかたかたかた………… 「何だ…?変な音がする」 「有利…あれをっ!」 コンラートの指さした先では、一振りの見事な剣が萌葱色の彩紐を靡かせながら…灰白色の空に浮かんでいた。 「力在る者よ…」 「え?」 殷々と響く音は威風堂々たる武人の声を思わせる。重低音というとついグウェンダルを思い出すが…彼よりももっと年嵩に感じられる、少し掠れた声であった。 その声は、どうやらあの剣から響いてくるようだ。 「や……何!?」 そのことに周りの生徒達も気付いたのか、身を震わせて剣を凝視する。 「力在る者よ、我を佩剣とし…氷雪の力を得よ」 有利が確認するように自分の鼻先に指を向けると、剣は頷くように少し傾いだ。 「俺に…力を貸してくれるのか?」 「そうだ」 氷雪の力と言われても四大元素に対応していないのだが…貰って良いものなのだろうか? 「うーん…あんたの力を貰って、俺はあんたに何をすりゃいいの?」 うまい話には裏がありそうな気がして、有利はぽりぽりと頬を掻きながら聞いてみる。 「おーい渋谷…そんな普通に会話しないで……」 平静に会話を交わす有利に、周りで見ている生徒たちは引き気味だ。 「何もいらぬ…我が望みは力在る者の元にて存分に力を振るうこと…」 「はぁ…力を振るうって、具体的には何がしたいの?」 何故だか懐疑的な気分になってしまい重ねて尋ねると、剣は喜びを表すように一層激しく鍔なりの音を響かせた。 「血を吸いたい…」 「へぇ…って、えーーーーーーっっ!?」 予想以上に物騒な希望に、有利は内容確認を行うなり叫んでしまった。 「我はかつて力在る武将の佩剣であった。彼は戦場で並ぶ者とて無き剛勇であった…」 剣は誇らしげに身を震わせ、在りし日の持ち主のことを語った。 その武将は戦場では確かに剛勇を誇っていたらしいが、世渡りの下手な人物であったらしく、領地も人材も不十分な所領に押し込められた挙げ句、罪を負わされて失意の内に非業の死を遂げたらしい。その武将の怨念が取り憑いたのか…剣は鍔なりの音を立てて持ち主を過剰な殺生に駆り立てるようになり、小さな庵に封印されたのだった。しかし、その封印自体おざなりなものであったらしく、別段それによって剣自体は力を失うことはなかった。寧ろ、雪深いこの地方に安置されることで年々氷雪の精霊を取り込み、一己の妖怪として成り立つまでになったのだ。 「我を用いよ…我を用いよ……」 誘いの声を乗せて大気が震えるが、有利はこの物騒な剣を手にすることに躊躇いを覚えた。 「悪いんだけど…あんたの望みが血を吸うことなら俺には使ってあげられないよ。俺は戦争反対の流血反対派だからさ。モルギフみたいに飼い殺し状態になっちゃうよ?」 まぁ、モルギフの場合は本人(?)も納得しているようだし、曲がりなりにもここ一番の大勝負の時には活躍できたわけだが…この殺る気満々な剣にそういう扱いをするのは、働き盛りの団塊の世代に早期退職を求めるようなものだろう。 「なんと…我を拒絶するというのか?貴殿は我が今まで会いおうた中では最高の力を誇るというのに!」 「んなこと言われても、利害が一致しないんじゃあなぁ…」 拒絶されたと分かった途端、剣は苛立たしげに震えてますます凍気を強めていった。 「ならば、力ずくでも使っていただく!」 「悪徳訪問販売業者かあんたはっ!」 自分目掛けて突っ込んでくる剣を避わそうとしたところへコンラートが身を滑り込ませ、間一髪のところで携帯剣を実用サイズにして剣の突撃を払いのけた。 「ぬ…貴公、なかなかの腕前だな…だが、それにしては髄分と粗末な剣を使うことよ!」 魔剣は呵々と嗤うとコンラートと数合斬り合いを演じた。 この時、有利の心に魔剣に対する恐怖など殆どなかった。 大仰ではあるが、どこか間抜けな印象を受ける妖怪に思えたし、なんと言ってもコンラートの技量に対する信頼感はそうそう揺らぐものではない。 だが…何合目かの斬り合いの後、鈍い音を立てて根本から折れたのは… コンラートの、剣であった。 「く…」 「久方ぶりに楽しませて貰ったぞ、茶眼の異人よ。だが…もう、貴様に用はない…」 かたかたかたかた………… かたかたかたかたかたかた………… 鍔鳴りの音が不穏に響き…魔剣の周りを渦巻く吹雪が勢いを増して辺りを包み込む。 「みんな、逃げろっ!」 強ばっていた篠原達は、有利の一喝で我に返ると逃げるどころか有利の元に近寄ろうとするものだから、有利は額に意識を集中させて呼ばわった。 「《風》関連の奴…白狼族でも何でも良いから、今…来てくれ!」 轟っと大気を裂いて吹き付けてきた風が、魔剣の作り出した吹雪を押し返す。その風の中に時折過ぎって見えるのは、紛れもなくヘテロクロミアの鋼と、その仲間達であった。 「俺の友達を麓まで運んでくれっ!」 頼みに応じて幾つもの旋風が巻き起こると、その場に居合わせた生徒達の身体がふわりと浮き上がり、何が何だか分からず暴れるその身体を有利の望む場所へと誘っていく。 「なんと…見込み違いであったか?折角呼び寄せた力をそのように使うとは…折角使役している力をその身から離してどうするというのか?」 「そう言うことが説明されなきゃ分かんない奴と手を組む気はない…帰れ!」 「そうもゆかぬ…我は眠りすぎた。戦場と血飛沫が我を待っておるのだ!」 「いや、待ってないからっ!」 狂気というにはあまりにも悲壮感のない…どちらかというと稚気を感じさせる単純な欲望…。しかし、単純であるだけに迷いがないのだろうか…魔剣の力は予想以上の威力を孕んでいた。 がががかかかかっっっっ! 「うわっ!」 鍔鳴りの音を響かせてぶるりと魔剣が震えると、幾筋もの冷たい光が勢いよく放たれ、思わず叫びをあげる有利をすんでの所でコンラートが引き寄せる。危ういところで直撃を免れた有利だったが、周りの様子を見やって息を呑んだ。 放たれた冷気の欠片が木々に当たると、それらは瞬間的に氷の膜に包まれ、永遠に春の訪れを拒むようにその息吹を止めたのだった。 「…瞬間冷凍かよっ!」 出来の良い冷蔵庫の機能のようだが、冷凍される側としては落ち着いてなどいられない。 「《風》、《水》っ!」 必死で要素を呼び寄せようとするが、眞魔国で有利を護り続けてくれた水蛇は何故かこの時帰ってこず、反転して駆けつけようとした鋼達も間に合わなかった。 先程よりも密度と威力を増して放たれた冷気の群は遠慮容赦なく…見境無く周囲を穿ち… 愛しい男の身体をも貫いた。 |