虹越え1−3−1







「暑ーっ!お袋、シャワー使うね!」

 なんだかんだで村田と喋りながら帰ったせいで、帰宅したときには夕方近くになっていた。

「いいわよ。ついでに風呂釜も掃除しちゃって!」
「えー?」

 渋谷美子の、母親らしいというか主婦っぽい《立っている者は何でも使え》的提案にぼやくが、それでもシャワーを浴びたあと素っ裸状態で風呂釜を磨いていると、兄の渋谷勝利が脱衣所に入ってきた。

「おい、有利。その辺にボールペン転がってないか?」
「風呂の中には無いだろ…って、そういや、そこの洗面台の上にあったような気がする」
「お、サンキュー」

 兄は直ぐに踵を返して出て行こうとするが、丁度掃除を終えた弟が浴室から出てくると、何の気なしに横目で様子を伺った。

『今日は…わりと元気かな?』

 それを確認するとほっと胸を撫で下ろす。ここ暫く、この確認作業は彼の習慣になっていた。

 春先の、まだ肌寒い気候の頃。ぼろぼろの衣服を脱ぎ捨てて浴室にへたり込んだまま、呆然とシャワーを浴び続けていた弟の姿が、渋谷勝利にとって結構なトラウマとなっているのだ。

 昔からおっちょこちょいで人が良くて…人を信じすぎて泣くこともある弟が、もどかしくもあり、たまらなく可愛いとも思っているのだが、そんな彼が荒涼とした瞳を見開いたまま泣くことも出来ずに蹲っていた姿は、まるで遺棄された死骸のように見えて兄を狼狽させた。一体何があったのかと、尋ねても弟は首を振るばかりで答えようとせず、それどころか、兄に詰め寄られていることにすら暫く気がつかなかったくらいだ。

 まさか強姦でもされたのではないかと全身くまなく見回り、触ってもみたがそれらしい痕はなく、小さな裂傷が幾つか見られただけだった。

 けれど、心に負うたその傷がいかばかりなものなのかは推察することも出来なかった。 どんなに落ち込んでも数日経てばもとの元気を取り戻すタイプなのに、何日たっても、何週間たっても弟は何処かぼうっとしていることが多く、心から笑う顔を見ることは出来なかった。

 しかし、それでも時間というのは有り難いもので、漸く多少は元気になってくれたらしい。

『心配かけさせやがって…この馬鹿』

 しかし、馬鹿な子ほど可愛い。実際、見てくれだって実に愛くるしいっ!と、渋谷勝利は強く確信している。何故だか学校では全くモテないと聞くが、何故なのか理解に苦しむほどだ。幾ら恰好良い系というより可愛い系とは言え、これほど可愛ければ何の文句があるというのか。

 くりくりとした黒瞳は水滴を纏う長い睫に囲まれ、小さな形良い鼻と上気した頬が描くまろやかな曲線は、つい示指で突きたくなるような愛らしさである(やると当然怒られるのだが)。

 水分の潤みを幾ばくか残した肌は、こんがりと灼けた小麦色の部分と、体幹や腿の白さがコントラストを為している。白い…とは言ってもよく運動しており循環の良い彼のこと、風呂上がりのせいもあって淡く紅を帯びた色彩は透明感のある健康的なものである。 



 その可愛くてしょうがない弟の首筋に、キスマークを見つけた瞬間の兄の動揺を何と表現したらいいのだろうか?



「…………っっ!?」

 だんっと壁にぶつかったことで、自分が反射的に1mの距離を後退したのだと知れる。

「何やってんだよ勝利」
「お兄ちゃんだろ!?…って、いや、そんな場合じゃないっ!ゆゆゆゆーちゃん!俺はそんなふしだらな子にお前を育てた覚えはないぞ!?」
「育てられた覚えもねぇよ」

 不満げにぷぃっと突きだした唇は、

『俺が兄じゃなきゃチューしとるわっ!』

 と断言できる(するな!)ほど艶かしくふっくらしていて、兄は身を揉まんばかりにして悶絶した。

「相手は誰だ!?ダンディ・ライオンズとかいうチームの連中か!?だからお兄ちゃんは社会人なんか入れるのは反対だったんだ!高校生だってごつい奴はごついじゃないか!お前が嫌がって暴れても抵抗できないような相手とチームなんか組むんじゃない!野球なんて中学生か小学生とやっとけ!」
「俺のチームは青空野球教室か!」
「ぁぁぁああああああぁぁぁっ!ゆーちゃんが!俺のゆーちゃんが汚された!」

 普段は冷静沈着で優秀な男の筈なのに時折壊れてしまう渋谷勝利に、眞魔国の王佐のことを思い出す弟だった。まぁ、流石にあそこまで汁っぽくはないが…。

「誰がお前のゆーちゃんか!泣くな、そして俺を抱きしめるな!暑苦しいっ!!大体何の話だよ!」
「とぼけるんじゃない!首筋にくっきりはっきりキスマークなんか付けやがって!」
「キスマーク?ああ、そういやそうだっけ」

 指摘されてもケロッとしているものだから、余計に兄の副腎髄質からカテコールアミンが大量放出される。

「無理矢理じゃないのか?合意なのか?うわぁぁぁぁっっ!」
「大騒ぎすんなってのに。これは村田がつけたんだよ。俺のチームにホモの人がいるから、その人の前で肌を見せるなって言われてさ」
「村田だと?あの腹黒眼鏡ッ子マネージャーかっ!馬鹿か有利!そんなの口実に決まってるだろ?あいつめ〜…よくも俺のゆーちゃんにぃ〜っ」
「もー、あいつはそんなんじゃないったら。確かに腹は黒いかも知れないけど、結構苦労人だし、良い奴なんだぜ?」 

『そんなのお前を誑し込むためのやり口に決まってるだろうが!』

 喉元まで出かかっている台詞をグッと押さえ込む。何が気に入っているのか知らないが、昨年辺りからやたら仲良くしている村田健は、弟にとっては結構重要なポジションにいるようで、彼のことをあまりにも悪し様に言い募ると逆に兄の方が人格的信頼度を下げてしまうのである。

「〜〜っっ!分かった。だが、どんな理由があってもキスマークなんか付けさせるな!チームのホモ野郎には、半径2メートル以内には近寄らないようにしろ。なんならネット越しに付き合え」
「隔離政策かよ」
「とにかく、気をつけろ。俺はお前のことが心配でしょうがないんだからな。少しは心配掛けないように気をつかえ!」
「ん…」

 心配をかけるなと言われれば多少申し訳ないという気持ちもあるのか、弟は俯きがちになってふくふくとした青いバスタオルに口元を埋めてしまう。

「それは、御免…。勝利が俺のことずっと心配してくれてるのは、知ってる…」
「そうだ。俺だけじゃないぞ?口に出さないだけで、お袋や親父がどれだけお前のことを心配してるか知ってるのか?春先のただ事じゃない様子にどれだけ肝を冷やしたと思ってる?それなのにお前、一度も事情を説明しようとしなかったじゃないか。お前だって家族が明らかに落ち込んでるのに何も言わなかったら動揺するだろうが?」
「うん…」

 しょぼんと項垂れる頭に伏せた猫耳の幻影が見えてしまい、エロゲーのやりすぎで寝不足なのかと目を擦る兄。

「そう…だよな。俺、何にも言わなかったもんな」
「ああ…」

 ぎゅっと目を閉じると、渋谷有利は頭一つ分高い位置にある兄の目を真っ直ぐに見返してこう言った。

「話すよ…俺。何があったのか。今まではとても口に出来るような状態じゃなかったけど、今なら俺なりに消化できたと思うから、ある程度は説明できると思う」

 

*  *  *




 その日、夕食を食べ終えた後の居間で渋谷有利は約束通り、家族への説明を行った。

 眞魔国で魔王になっていたこと。

 何度か2つの世界を行き来していたが、余計な心配を掛けたくなくて黙っていたこと。 そして、二度と行けなくなってからは、ショックが大きすぎてとても説明できなかったこと…。

 まだ完全に乗り越えたわけではないし、もともと理路整然と話すことが得意な方ではない。つっかえたり吃(ども)ったり…何度も時系列を行ったり来たりしながら話すのだが、いつもは短気で人の話を中断する兄も、茶々を入れる母も、おちゃらけた父も…続きを促すように頷きと目配せを送るだけで、話を留めることはしなかった。

「そんな訳でさ。ずっとみんなが心配してくれてるの知ってたんだけど…。言えなかった。ご免なさい……」

 ぺこ…と下げた頭を、暫く挙げることが出来なかった。

「ゆーちゃん…」

 息子の肩を、渋谷勝馬はそっと抱き寄せた。そして伏せられたままの頭に掌を乗せると、わしゃわしゃと撫でながら囁いた。

「お前はよく頑張った…。父親として、誇らしいよ。そりゃあ話して貰えなかったのは寂しかったけど、俺だってお前が魔王になることなんて一言も説明しなかったもんな。本当は成人してからって約束だったから、馬鹿みたいにその言葉を信用しててさ、もう連れて行かれて、冒険させられてるなんて気づきもしなかったよ。…御免なぁ。びっくりしたろ?…辛かったろう?本当に、よく頑張った。そんで、よく…無事に帰ってきてくれた……」
「そうよぉ、ゆーちゃん。お母さん…お母さんね、すっごくゆーちゃんのこと心配してたんだけど、そんな辛いことがあったなんて…気付いてあげられなくて、御免ね…?」

 美子はもう耐えきれなくなって、次男に似た大きな瞳からぽろぽろと涙を零すとしゃくりあげた。

 分かり合い、支え合うホームドラマのような光景を…一人呆然とした面持ちで見やっている男が居た。

 渋谷家の長男である。

「親父、お袋、有利…………お前等……。なんでそんなに分かりあってんの?」

 半眼に開いた釣り気味の瞳が、小さく震えている。
 明らかに、信用していない目である。

「勝利、お前もゆーちゃんのこと褒めてやれよぅ。ゆーちゃん、すっごく頑張って眞魔国救っちゃったんだぞ?救国の英雄さんなんだぞ?」
「そんなゲームみたいな話、信用できるかよ!?魔族?創主?眞王?何の設定だそりゃあ?」
「だって、本当にあったんだからしょうがないじゃん?」

 謀られているのかと激高する兄に対して、黙っている後ろめたさが無くなった分、落ち着いた風情で弟は答えた。

「本当に、あの国はあったんだ。そこで俺は色んな失敗をして、でも色んな人…魔族にも、人間にも助けられてどうにかこうにか目的を果たしたんだよ?褒めてくれなくても良いから…勝利、その事だけは認めてよ」

 何時の間に、弟はこんな表情をするようになったのだろうか。
 何事かを成し遂げ、傷ついても再び立ち上がったという弟は、随分と静謐な表情を浮かべていた。

 勝利が、哀しくなるくらい切ない眼差しをして…。

「…分かった」

 ソファに深く腰を沈めて嘆息する長男に、父親は彼が納得しそうな具体的事例を挙げた。「なぁ勝利。お前だって昔、魔族に会ってるんだぞ?」

「はぁ?俺が?」

 何を言い出すのかと胡乱げな眼差しを送る勝利に、勝馬は戸棚からアルバムを引きずり出してきて、一枚の写真を見せた。

「ほら。小さい頃、この人に会ったことがあるだろう?」
「…!?」

 見せられた写真は正確な記憶力を誇る渋谷勝利の海馬に確かに刻まれた姿だった。

 ロバート・デニーロ似の、サングラスを掛けた長身の外国人…。

 《ボブ》と名乗った男だった。



『君の弟は将来、遠いところでとても辛い選択を迫られたり、苦労をすることになる。彼を直接助けることは君には出来ないが、間接的にサポートすることなら出来る』
『今、私がついている地位を何時か君が継いでくれれば、それが出来る』
『小さな国程度の組織を、やはり小さな国の国家予算並の金額を使って維持させる仕事だよ…』

 

 水平線の彼方に沈む鮮やかな夕日の前で、小さな弟を抱きしめる勝利に彼は語った。

『東京都知事じゃなくて、魔王だったのか…』

 その業務には、今までやってきた勉強などが通用するのだろうか?

「あれ…が、魔族?」
「そうだ。地球の魔族、それも魔王だよ。その彼がお前に後継者になることを依頼していたんだ。なんと、渋谷家の長男次男で地球と眞魔国の王様をやることになっていたのさ」
「俺のは終わっちゃったけどね。そっかぁ…勝利は地球で魔王をやるんだ」
「お前も知らなかったのか?」
「うん。つーか…親父、こういう事はもっと早めに教えといて欲しかったよ。俺たち二人とも組織の一番エライ立場につくのに、本人達が全然知らないってどういう事だよ?」

 全くである。

「まことにもって面目ない!」
「そうよぅ、ウマちゃんたら。あたしだって全然知らなかったんだから!酷いわ。まだ何か秘密があるようなら離婚よ!」
「そんなぁ、嫁さん〜っ!」
「わー、離婚危機勃発かぁ…」

 脳裏に浮かぶ『リンゴの木』という言葉が妙に懐かしいのは何故だろう。次男は小首を捻った。長男が地球の魔王に出会うことになった事件と関わりがあるなど、記憶力の怪しい彼には気付く術もない。



*  *  *




 大賢者様の置きみやげ(キスマーク)は、渋谷家に融和と理解をもたらした。

 あくまで結果オーライなところが大賢者様の行状らしい由縁である。

 しかも、今のところ本来の目的(ホモ避け)は果たしていない。

 表皮の鬱血巣は小さな内出血に過ぎないので、健康人であれば周囲の組織に吸収されて2.3日程度で姿を消すわけだが、つけられた翌日の月曜日に再び活躍することとなった。

 やはり本来の目的とは違うところで…。

 

*  *  *




「ねぇ渋谷…この首についてるのって………キスマーク?」

 月曜日の放課後。被服室に渋谷有利を呼び出した篠原楓は色んな場所のサイズを測り始めた。先週の話し合いの中で、やはり女子だけがメイド服で給仕というのは、男子が裏方オンリーのようで寂しいという意見がなされ、男子はギャルソン風に白いシャツに黒い蝶ネクタイ、腰エプロンという出で立ちで給仕をすることになった。午前午後をそれぞれ2ターンに区切って4交代制にすることで全ての生徒が給仕に関わることになり、空き時間には他のクラスの見学も出来るということでこの案は好評だった。

 男子の使う腰エプロンは安く売っている既製品で十分間に合うのだが、《手作りしてあげる》という美味しいシチュエーションで既に仲良くなっている男女がちらほら見受けられる。

 渋谷有利も例外ではなく、先週《お友達》となった篠原楓(ちなみに、さん・君づけもなくなった)に制作を約束され、今こうしてサイズを測って貰っている。ただ、腰のサイズだけでなく、肩幅やら腕の長さやらをやたらと細かく採寸されているのをおかしいと感じないのは、やはり渋谷有利という少年は鈍くできているのだろう…。

 言われるままに色んなポーズを取って採寸して貰っていると、ふと篠原の手が止まり、件(くだん)の台詞を言われたのである。

「ああ、それ?昨日、村田って奴に嫌がらせでやられたんだよ。ひでぇだろ?擦っても全然取れないんだぜ」

 嫌がらせというわけではなかったのだが、その目的を正確に話すのも恥ずかしいのでそういうことにしておく。

「そりゃとれないわよ。キスマークって言っても口紅じゃないんだから!」

 村田と同じような指摘を受けて頬が染まる。

「でも良かった!先週恋人はいないって聞いたばっかりだったのに、もう出来たのかと思って焦ったわ」

 女の度量を上げて再攻略を目指しているのだから、そうそう他の女に渡しはしないつもりだ。

『また、あたしのこと好きって言わせてやるんだから…』

 乙女の決意を甘く見て欲しくない。

「ねぇ…そういえば、渋谷って童貞?」
「え?っなっ…えぇっ!?お、女の子がそんなこと口にしちゃイケマセン!!」

 見る間に上気していく頬が、雄弁に語っていた。

「ふぅん、童貞君か」
「いやゃああっ!あだ名みたいに呼ばないでぇッ!」

 渋谷有利は首まで真っ赤にして悶絶した。

「渋谷はさぁ…エッチとかしたいって思わないわけ?あたしのこと先週フッたじゃない?だけど、返事先延ばしにするとか、口だけは付き合う約束しといてエッチだけやっちゃおうとは思わなかったの?」
「そんな不誠実なこと出来るわけないだろ!?」

 キッと眼光を鋭くすると、結構男前に見えたりする。

 内心、ぽっと胸が温かくなるのを感じつつも、篠原は揶揄うように続けた。

「不誠実って…よく言うじゃない?下半身に理性はないって」
「下半身にはなくても上半身にはあるだろ?それに俺、恋人が出来ても結婚するまではそういう…エッチとかはしないって決めてるんだ」
「ぇえっ!」

 今度こそ驚いて声が裏返ってしまった。

 篠原もまだ性交にまで及んだことはないものの、漠然と結婚までには何回かするんだろうなぁとは思っている。別に海の見えるホテルでベットにバラを敷き詰めて…みたいな馬鹿っぽい事を考えているわけではないが、好きでたまらない人から迫られたら、断ることはしないだろうと思っている。

『今、渋谷がキスしようって言ったら…』

 目を閉じて、待つだろう。

 雰囲気によっては胸とか…際どいところを触られても、嫌とは言わない気がする。

 しかし、当の本人にはその気はないという。

「そんなに驚くかなぁ?だって、子供が出来たらどうすんの?少なくとも高校生とか大学生の間に出来たら、女子は学校に行けなくなっちゃうだろ?まぁ、男の方も退学かも知れないけど」
「だって、コンドームとかあるじゃない」
「コンドームの回避率って100%じゃないんだって。やってる途中に外れたり、ゴムが裂けることだって無いとは言えないんだよ?男の方は《失敗した》で済んでも、女の子はそうはいかないだろ?」
「…渋谷て、そういうのちゃんと考えてる人だったんだ」

 そもそも中絶なんて行為は選択肢の中に欠片も入ってないのが凄い。

「だって、抱きたいくらい好きな子に子供産むか産まないかで悩ませたりしたくないよ。他がどうでもこうでも、俺は自分の子供はみんなに祝福されてる状態で受け止めてやりたいもん!」

 きゅーん…っと、甘酸っぱいような気恥ずかしいような感覚が胸に広がる。

『く……かっ、可愛い!』

 抱きしめてグリグリして頬ずりしたい衝動に駆られてしまう篠原楓だった。

 今時こんな事を大まじめにぶちかませる高校生が居るとは思いもしなかった。

 また、そんな男にときめいてしまうとは更に思ってもみなかった。

 自分としては、付き合う男には危険なくらいセクシャルなタイプを予想していたのだが、まさかこんな乙女系男子にハマるとは…。

「渋谷、あんた…何時までもそのままでいてね?」
「え?そ、そう?」

 急にぎゅっと手を握りしめられて、渋谷はきょとんと小首を傾げた。

『そう、ずーっとそのままでいて。いつかあたしと結婚して!』

 ターゲット、ロックオン。

 篠原楓の標準はきっちりと渋谷有利に定められた。








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