「ゆめうさぎ」




 12歳になる黒うさぎは、ある夜とっても良い夢を見ていました。
 
 ふくく…
 うふふ、うふうふ

 ふわふわとしてとっても気持ちがよいですし、時折、ちゅ…ちゅっと触れてくる感触がまた、何ともくすぐったいような心地よいような…不思議な感じです。

 黒うさぎはその感触がなんであるのか心当たりがありました。

『えへへ…これって、コンラッドにキスされてるみたいだぞ?』

 でも、きっとこれは夢だって分かっています。
 大きくて逞しい茶うさぎはとても我慢強いうさぎですから、黒うさぎが眠っている間にキスしたりはしないのです。
 
 ええ、こんなところにキスなんてしませんよ?

『…こんなところ?』

 意識をすると、ふわりと触れるように…滑るように移動していく唇の感触が、随分と際どいところまでやってきたことに、急に焦り始めてしまいます。

『あ…ぁ…そ、そんなとこ…』

 気が付くと、唇は黒うさぎのパジャマの襟合わせから入り込んで、ちゅう…っと感じやすい肌を暴いていくのです。それがいよいよズボンの中に潜り込んで、黒うさぎの大事なところに近づいていきますと、そわそわドキドキするような不安と同時に、身体の奥のところでうずうずと拍動するものも感じるのでした。

 目を瞑っておりますのに、瞼には楽しそうに唇を寄せてくる茶うさぎのお顔が浮かんできて、それがますます黒うさぎの胸を弾ませるのでした。

『なにをするんだろう?』
『なにを…してくれるんだろう?』

 ああ、これは《期待》ってやつです。
 茶うさぎ…のような感じがする夢が、自分に何をするのか待ちわびているのです。

 《16歳になるまでは、ユーリにエッチなことはしませんよ?》

 茶うさぎは事あるごとにそう言います。
 《愛されてるなぁ…》と思う反面、《でも、ちょっとくらいなら良いのに》と、焦れったく思う気持ちがありましたから、黒うさぎはその疼くような感覚に身を任せたくなりました。

 友兎たちがひそひそ話で囁き合うエッチなお話で、この大事な場所がとても気持ちよくなれるとこなのだと聞いてもいましたから、余計に今宵は大胆になってしまったのでしょう。

 朧な夢の感触に、黒うさぎは身を委ねました。
 


 そして………。



*  *  * 




 うぅ…
 ぇ…っく…

 しくしくと啜り泣く声に、茶うさぎはぴくんと耳を動かしました。

『ユーリ…どうしたんだろう?』

 楽しそうに寝言を漏らしていた黒うさぎが、急に震えたかと思うと布団から飛び出していったのが今から二分ほど前のことです。
 気配に聡い茶うさぎはそのことに気付いてはいましたが、もしかすると少しばかり漏らしてしまったのでは…と思って、ついていきませんでした。

 黒うさぎはもう、ずっとお漏らしなんてしてませんけど、万が一って事がありますからね。小さな恋兎の自尊心を傷つけるのは得策ではありません。
 じゃぶじゃぶと水で何かを洗う音も聞こえてきましたから、茶うさぎはその疑いを濃くしておりました。

 ですが…五分経ち、十分たっても啜り泣く声が止みませんし、黒うさぎもお布団の中に帰ってきません。
 不安になった茶うさぎが待ちきれなくなって、お布団から出ようとしたときです。キィ…と扉の開く音がして、黒うさぎが部屋に戻ってきました。

「…っ!?」

 茶うさぎは吃驚して声を上げそうになりました。
 だって泣きはらした目をして、ぺたんと耳を寝かせた黒うさぎが扉の影からこちらを伺っていたのですが、ずず…っと洟を啜ったと思うと、踵を返してどこかに行こうとしたのです。
 
 しかも、脚には何にも身につけておりません。
 パシャマの上だけ羽織った姿は何とも色っぽ…なんて言っている場合ではありません。こんな夜中に、薄着で何処に行くつもりなのでしょうか?

「ユーリ、どうかしたの?」
「…っ!」

 黒うさぎはぴょん…っ!と跳ねて逃げようとしましたが、茶うさぎは怖がらせないように気を付けながらもきっちりと退路を塞いで抱き寄せました。

「身体が冷えているよ?」
「コンラッド…俺……」

 可哀想なくらい赤くなったお目々で見上げた黒うさぎでしたが、茶うさぎが自分を見ていることに気付くと、視線から逃れるように身動ぎました。

『ああ…この年でおねしょをしてしまったのがよっぽど恥ずかしいんだな?』

 茶うさぎはそう思うと、焦って起き出したりしたことを後悔しました。

「気にしないで、ユーリ。その…そういうのは、時々はしょうがないものだからね」
「コンラッドも、出たりするの…!?」
「ええ…そう、ですね……たまには」

 茶うさぎは武兎としての自意識と思いやりの心の間で暫しぐらつきましたが、結局のところ後者に傾いて頷きました。
 すると、少し黒うさぎの肩から力が抜けます。

「…本当?これって変な病気とかじゃないの?おちんちんから、白い汁がでたんだけど…コンラッドも出る?」

 心配そうにおずおずと訊ねてくる黒うさぎに、茶うさぎはひっくり返りそうになりました。

『え…ひょ…ふへぁああ…っ!?』

 心の中では吃驚仰天しても、表に出さずにいられたのは日々の習練の賜物です。
 それに暫くすると、《ああ…確かに、この年頃ならちっともおかしくないことなんだ》と気付きました。

 黒うさぎは、夢精をしてしまったのです。
 茶うさぎはうっかり異性間での性体験を早く済ませてしまいまして、その後も途切れることなく色々あれだったものですから体験したことがありませんが、他の兎から聞いたことはあります。

 そういえば黒うさぎはいつもいつもべったりと茶うさぎと一緒にいてマスターベーションをしたこともありませんので、溜まった精子がこんな形で放出されてもおかしくない年頃なのです。

「ユーリ…それは病気ではないし、ちっともおかしなことではないんですよ?ユーリがちゃんと大兎になってきている証拠なんです」
「え…?」

 黒うさぎは《信じられない》という顔をしてきょとんとしています。

「でも…パンツやズボンが濡れちゃうくらい、大兎は夜に白い液を出すの…?だって、コンラッドがパンツを汚して夜中に洗ってるのなんて見たことないよ?」
「それはこっそり汁だけ出していたからですよ」
「パンツを汚さずに出す方法があるの!?教えてっ!!」
「ええと…そのぅ…」

 困った事態になりました。
 教えてあげたいのは山々ですが、別のことまで教えてしまいそうで自分に自信がありません。

「まず説明しておくと、その白い汁は赤ちゃんの素なんだよ?雌の兎が持っているお腹の卵に辿り着くと、赤ちゃんになるんだ。だから、とても大切なものなんだよ」
「そうなんだ…!」

 昔の黒うさぎなら《おれもコンラッドの赤ちゃんがうめる?》と聞いてきたでしょうが、流石にそこは大丈夫のようです。

「でも使わないと溜まっていくから、 要らなくなったものは時々そうやって、眠っている間に出てしまったり、わざと刺激して出したりするんだよ」
「そうなんだ〜。で、どうやって出すの?」

 ああ…やっぱりそこに戻ってきましたか。

「お願い、コンラッド…!寝てる間にパンツが汚れるのはやっぱりやだもん!方法があるんだったら教えて?」
「ええ…と。はい…ええ……」

 茶うさぎが煮え切らない様子をしていたからでしょうか?また黒うさぎは不安そうな顔になってしまいました。

「………コンラッド、もしかして俺を慰めるために嘘をついてない?」
「い…いやいやいやっ!そんなことはっ!!」
「だって…凄く言いにくそうにしてるじゃん」
「それはそのぅ…。ユーリにおちんちんを見られるのが恥ずかしいからですよ」
「あ、そっか。おちんちんから出るのなら、トイレに行く時みたいに出してないと駄目だよね?」

 流石に仲良しの二羽でも、排泄行為を見せ合ったりするようなことはありませんから、黒うさぎもそれ以上は無理を言えませんでした。
 ですから、茶うさぎはてっきり黒うさぎが諦めたものとばかり思っておりました。

 ところが、黒うさぎは茶うさぎの手を引いてお風呂に向かいますと、自分の目元にタオルを巻いてからこう言いました。

「俺は目隠しをしておくよ。だから、コンラッドもおちんちんから赤ちゃんの素を出しても恥ずかしくないよね?」
「え…っ!?」

 手探りで茶うさぎのズボンを下着ごとずらすと、黒うさぎは自分のそれよりも随分と大きなおちんちんを取りだして吃驚しました。

「わあ…お風呂に入るときよりも大きくなってない?それに、何だか硬くて…どんどん上を向いていくよ?」
「あ…ゆ、ユーリ…そんな…息の掛かるところで、そ…っ…」
「あれれ…?なんか、さきっちょが濡れてきた。これが赤ちゃんの素?」
「それは…先走りで、その後に…」

 茶うさぎは足下に跪いた黒うさぎにおちんちんを弄られて、息も絶え絶えに堪えます。
 このような甘い責め苦に、そうそういつまでも耐えられるものではありませんから、覚悟を決めると手を添えて、ごしごしと少々荒っぽい手つきで高めていきました。

「こうして…竿の部分を擦ったり、先の部分をぬるぬると指先で滑らしたり…」

 そして何より、大好きな兎のことを思い浮かべて妄想の翼を羽ばたかせるのがコツです。
 この状況ではとても口に出せませんけどね。

「ん…出る…っ!」
「わ…ぁ……」

 射程方向を黒うさぎのお顔からずらして、壁に向かって茶うさぎは白濁を飛ばしました。びゅ…っと勢いよく迸ったのが、黒うさぎも掌越しに感じられたのでしょう。驚いたようにお口を開いておりました。

『ああ…このお口に突っ込めたら…!』

 いえいえいえいえ、駄目ですから…っ!
 茶うさぎは軽く上がった息を整えながら、ついでに思考も整えていきました。

 ですが、黒うさぎの攻めはこんなものではありませんでした。

「凄い…!これならパンツを汚さずに出せるね!よし、今度は俺がやってみるからコンラッドが目隠しをしててね?」
「え…?」

 拒絶する隙を与えず、黒うさぎは目元をタオルで覆い隠してしまいます。そして茶うさぎの手には、ちいさなおちんちんが握らされたのでした。まだ陰毛も生えていない黒うさぎの陰部は、つるんとして大変可愛らしいですが…その感触が、大兎とこんなことをして良い場所ではないと言うことも物語っておりました。

「ごしごししたら良いんだよね!ねえ、こう?」
「え…ぇ……」

 強制的にお手伝いをさせられる茶うさぎは、ズボンから露出させたままだったおちんちんを再び膨らましてしまいました。

『こ…こんな事が度々あっては、俺の自制心がもたない…っ!』

 涙が出そうですが、今はそれ以上に精子が出そうで困ります。

 嬉しさと哀しみと困惑の入り交じった日常生活が、あと4年続くのです…。
 その間、本当に茶うさぎは野獣にならずに済むのでしょうか?

 頑張れ茶うさぎ。
 ゴーゴー茶うさぎ。

 ひとつ予言しておくよ。
 君は必ず黒うさぎとエッチできるようになる!

 その日を信じて進め、茶うさぎ!

 でも、ひとつだけ謝ってもおくよ。

 結婚して、晴れて堂々とエッチできるようになったと思った途端、狸山の創作意欲が薄れてしまうかもしれないよ…。 

 描けなくても、幸せなエッチを営んでね…茶うさぎ。


おしまい





あとがき


 茶うさぎには悪いですが、やっぱり結ばれる前の珍妙な遣り取りが楽しい…。
 ウリ様の発案、琥珀様のアシストを頂きましたこのお話、期待されたものとは違う流れのような気もしますが〜…楽しんで頂ければ幸いです。