「夜のご指導は如何?」−5







 かくん…と力の抜けた躰を背後から抱きしめて、コンラートは滑らかな背筋に涙を零した。
 SM紛いの激しい性交を提示して、怖じ気づかせようなどと言う姑息な策に動じることなく、有利は幾重にも鎧ったコンラートの理性を突破した。

 名付け子と、名付け親。
 王と臣下。
 一番の親友…。

 《健やかな成長》を望む故に、コンラートも簡単に屈することが出来なかったのだとはいえ、強いた行為はあまりにも過酷なものであったろうに…。

 《雄》として屈辱を感じるであろう行為の中に、有利はちゃんと見いだしていたのだ。 これが一方的に《貪る》行為ではなく、互いのピースを埋め合うような《繋がる》行為なのだと。

「愛しています…誰よりも、何物にも代え難く…あなただけを愛している…っ!」

 呪文のように囁き続けながら肩甲骨に、首筋にとキスを落としていたら、微かにぴくんと跳ねた四肢が、一時的に失われていた意識が戻ったことを教えてくれる。

「ほん…と……?…やぁ…っ!」

 コンラートの顔を見ようと身を捩るのだが、繋がったままの場所から悦楽が奔ったのが、あられもない声を上げてきゅぅ…っと内腔が収斂する。
 ぬめる肉壁の蠢きにコンラートも息を詰め、貫いた楔をゆっくりと引き抜いていった。

 どぷ…

 大量に含ませた白濁が蕾から溢れ、詰め物を奪われたそこはしどけなく開いてサーモンピンクの肉壁を晒し、ぴくん…ぴく、と蠱惑的に蠢いていたが、そのうち夜風に触れた華のように慎ましやかに閉じていった。(←そんなにゆっくり観察している場合ではない)

「ユーリ…身体は辛くないですか?」
「肉体的には結構しんどい…」

 ほふ…っと疲れたように息を吐くものの、やっと正面から向き合えたのが嬉しいのか、有利はにこにこしながらコンラートの背を抱きしめた。

「えへへ…良い筋肉の弾力ぅ〜…」

 すりすりと頬や鼻面を胸筋に擦りつけられると、何とも言えない幸福感が胸に満ちる。

『俺は…ひょっとして、何も失っていないのだろうか?』

 コンラートは驚きに目を見開く。
 肉体を繋げれば、これまで欲しても得られなかったものを手に入れる代わりに、こういった素朴な心の交流は失われてしまうのではないかと懸念していたのだが、有利は何一つ変わることなく無邪気に触れてきて、嬉しそうに笑ってくれるのだ。

 それが…泣きたいくらいに嬉しかった。 

「それにしても、眞魔国でも結構柔軟やってるつもりでいたけど、大股開きのまま動くのって結構大変だよね。慣れるまで何回か足が吊りそうだなぁ…」
 
 股関節の辺りをさすりながら有利が言うから、コンラートは慌ててその場所を一緒に擦った。

「いえいえ…言ったでしょ?あれは《試練》で、その後のが《愛の営み》です。もう…あんな道具を使ったりはしませんよ」
「本当?持続的にやったら股関節柔らかくなって、くそボールにも対応できるようになるかと思ったのに…」
「……お望みでしたら、やっても良いですけど」
「うーん…」

 どうやら真剣に悩んでいるらしい。
 眉根を寄せて呻いていたが、結局《はふっ》と息を吐いて躰から力を抜いた。

「ま…いいや。柔らかくなるのを通り越して脱臼しそうだしね。それに、あの体勢だとあんたとぴったり引っ付けないし」
「俺の躰に触れるのはお好きですか?」
「うん。弾力とか肌の感じとか…匂いとか、全部好き。これって、一人エッチの手伝いして貰った時からじゃないよ?あんたと初めて会って、あのしんどい乗馬行やったときから筋肉の感じだけは楽しんでたもん」
「そうなんですか?」

 にこにこと笑う有利の頬にキスを落とせば、汗に混じって涙の痕にも触れる。《好き》という気持ちを抱きしめて、《しんどい》のを乗り越える間、彼が流し続けた涙の味だ。

「ゴメンね…ユーリ」
「なんで謝るの?」
「あなたを…試すようなことをしました。気持ちを信じられずに、あなたが怖がるだろうと思って…初めてのセックスだったのに、あんなSMみたいなことまでさせてしまって…本当にゴメンね…」
「何言ってんだよ。だってさ…あんたは俺に対する《保護責任》みたいなのが強いんだもん。信じられなかったり、簡単に誘惑に乗ってこないのもしょうがないよ。俺だって、グレタがこんなこと言い出したらどうしようって思うもん」
「……っ!ぐ、グレタですか…」

 思わぬ強敵の登場にコンラートは息を呑んだ。
 勿論、ローティーンである彼女を有利が今すぐどうこうしようとしているなどとは思わないが、年頃になったグレタの方が、乙女として純粋に有利を欲してくる可能性はないとは言えない。

 一瞬の間に色々な状況が頭を巡るが、コンラートは結局狂おしげに有利の背を抱きしめたのだった。

「すみません…幾らグレタ相手でも、あなたを譲ることは出来ません…」
「あんたなぁ…《その時は、俺が身を引きます》なんて言い出したら平手打ちするよ?公衆の面前でね」

 唇を尖らせた有利の発言に、意図を察して目を見開く。
 公衆の面前での平手…それは、古式ゆかしき眞魔国の風習ではないか。

「俺ね…あんたが俺に《試練》とやらを与えた段階で、実はかなり勝算を感じてたんだよ?だって、その段階で俺は《対象内》になってたってことだろ?」
「ばれてましたか…」
「そりゃそうだよ。だって俺…グレタが俺とセックスしたいって言い出しても、やっぱり抱けないと思う。試すこともできないよ。だから、あんたが試してくれるっていった段階で、絶対俺の好きなんだって確信したもん!」
「…降参です。見事な推理だ」
「えへへ〜…」

 誇らしげに胸を張る有利だったが、一つだけ誤算があったろう。
 それは…《成し遂げた感》を漂わせる有利とは対照的に、コンラートの性欲の方はまだまだまだまだ滾っていたという点である。

 有利はコンラートの肩にもたれ掛かるようにして寝台に押し倒すと、硬く抱き合って眠りに就こうとしていたのだが、唇を重ねて舌を絡め合うと、押しつけていった雄蕊に吃驚して腰が引ける。

「え…え?あ、あんた…さっき俺の中でイったよね?」
「あと一回…いえ、二回くらいお邪魔したいんですが…無理でしょうか?」
「いやいやいや…む、無理じゃないんだけど…。そのぅ…あのぅ……」
「お尻が辛い?」
「ぅ…ぅん…」

 恥ずかしそうに頷く有利の蕾を探れば、顔を真っ赤にして身を捩った。目元には微かに涙が浮く。

「こ…擦れて…ちょっと、痛い…」
「そう…じゃあ、無理はさせられないね」
「ゴメンね…?」
「いいえ、俺の方こそ我が儘を言ってゴメン…初めてなんだから、粘膜への刺激が強いよね…。やっぱり、今日は表皮に頑張って貰おうか?」
「え?」

 きょとんとしている有利をころりと仰向けにし、両脚を閉じた状態で胸に抱え込ませる。そして、ぴったりと合わさった腿に雄蕊を挟み込ませると、オイルと白濁に濡れたそこでぬりゅぬりゅと前後運動を繰り返す。



*  *  * 




「わ…わ…っ…」

 身体的な負担は格段に低い。
 だが…一度我に返った精神にとって、自分の腿に長大な肉棒が挟み込まれて、紅い亀頭がにゅるると出たり入ったりしている様子や体感は、何とも衝撃的なものだった。
 その内コンラートの指が伸びて、くたりと寝ていた花茎と雄蕊とを並べて掴み、手淫まで加えているのだから堪らない。

「ああ…こっちは元気だね。勃ってきたよ?」
「ふわ…だ、だって…っ…!」

 コンラートに認めて貰いたくて一心不乱だったときには何とか耐えられたものの、生々しい感触が羞恥を刺激すると先程までの強気が嘘のように狼狽えてしまう。

「な…何か……急に恥ずかしくなってきたんですケド…っ!」
「大丈夫。要は慣れだから」
「そういうもん…っ!?」

 半信半疑ながら、手を引かれて二人分の陰茎を一緒に握り込むと、熱く濡れた感触に互いの興奮を感じ取って、確かに羞恥が薄れていく。
 流石は場数を踏んでいるだけあって、コンラートの方は心が通じ合っているということを認めてしまうと、良いように有利を誘導して快感を高めていく…。

「一緒にイこう?ユーリ…」
「う…ぅん…っ」

 琥珀色の瞳に見つめられて、奔馬のように跳ねる鼓動を感じながら…有利は内腿と手とをすぼめていった。

「ん…やぁあん…っ!!」

 どぷ…っと弾けた白濁は二度目とは思えないくらいに勢いよく放出されて、有利の下腹や胸はおろか、口元にまで飛沫が跳んでくる。
 コンラートはそれを満足げに見つめると、腰を引いていく。

 …が、油断した有利の躰はふわりと抱え上げられ、背後から両膝の裏を抱え上げられる。視線が向かった先には、先程壁に設置された大きな姿見の鏡がある。

「ちょ…っ!ま、丸見えなんですけど!?」
「そこが良いですよね」

 同意を求められても困るのだが…鏡越しにコンラートの笑顔を確認すれば、拒絶の言葉など口にすることは出来なかった。

『も…好きにして?』

 自分に対して半ば呆れるような心地になりながらも、有利はコンラートの胸に身を預けた。
 
 この胸を満たす幸福感に比べたら、少々(?)恋人が《性豪》(笑)な事などなんぼのこともない。

『恋人…』

 その響きに早速ニヤニヤしてしまう。
 
『ま…色んな事を教えて貰いながら、ガンバロっと…』

 気長に行こう。

 二人の恋人生活はこれからなのだから…。




おしまい



あとがき


 松本テ○リ様や「蒼いきりん」の仔上圭様の作品で個人的には充足していたのですが、リクエストを受けて書いてみました「閨房のお勉強」がテーマのお話。

 余所様のお話では「攻が強引で何を考えているのか分からない★」というのに惹かれるのですが、自分のトコだとやはり、「冷たい素振りをしてても、実は攻が一番テンパってる」話になるのでした。
 原典の設定的魅力は半減している気はしますが、そちらは原典を読めばいいよね…ということでご了承下さい。

 3月には疲れてエロモードに入れませんでしたが、何とか生活も軌道に乗ってきて、楽しく書けました★