「逆転劇」おまけ
〜友の教え〜









 ウェラー卿コンラートは勉強家である。

 正確には、興味があることに関しては恐ろしく執念深く習得する達である。
 だが、興味がないことに関しては《知ってますが何か》という顔をして凌ぐ技に無駄なほど長けていたために、全く手出しをしないという癖があった。

 その為…今日この日、コンラートは激しく追いつめられることになった。

 現時刻から残り3時間で情報収集を行い、これまでの経験にその知識を上乗せして万事完璧に行わなくてはならない事態が差し迫っているのである。
 何でもそつなくこなしてきたコンラートがそこまで追いつめられているもの…
 それは、魔王陛下との《情事》…であった。
 何しろ、コンラートには対男性のセックスに関する実践経験がない。お国柄として受け攻め共に誘われることは多く、軍の幼年学校時代には押し倒されかけたこともあったが、相手に《生まれてこなければ良かった》と思わせるような体験をさせることで事なきを得ている。

 そして…絶対に報われることはないと諦めていた恋が思いがけず実り、

『今夜…お部屋に伺ってもよろしいですか?』

 という囁きに、こくり…頬を染めて頷いてくれた人を満足させるために、コンラートは受験直前の学生のごとき殺気と集中力をもって事に望むことになった。

 絶対に失敗したくない…。

 初めて女性とやったときには相手が自分より年上であったこともあり、特に気負いもなく臨めた。高まっても何をしても頭のどこかが《こんなものか》と冷静であったこともあり、《本当に初めて?》…と、全てを教えてくれるつもりで居た女性に刮目されたほどだ。
 その後も着実に数と経験値を上げていき、女性に対してはまず不満を感じさせることはない…というか、二度目の逢瀬を熱望される領域に達している。
 なので、誘いを掛けたときには多分今回も何とかなるだろうと思ったのだ。
 しかし…約束の時間が近づくに連れて、段々不安が高まってきた。

 男性相手…それも、あんなに華奢で未成熟な少年相手に傷つけることなく、初体験で快感を覚えて貰うことが本当に可能なのだろうか…?

 女性用の段取りと解剖学的な構造に照らし合わせて有利の体格でシュミレーションしてみると、色々と帳尻が合わなくなってくるのだ。
 考えても見れば、十分な情報収集をして自分の技能が確かなものであることを確認してからやればいいようなものではあるのだが、事ここにいたって別の相手で試すなど言語道断だし、正直な話…さしものコンラートもはやる気持ちを抑えきれなかったのである。

『気は進まないが…頼れるのはあいつぐらいか……』

 眉根を寄せ、不承不承ながら軍靴を踏み出した先は、旧友の元であった。 



*  *  *




「…というわけで、必要な情報を要約して説明しろ」
「はぁ…」
「時間がないんだ。とにかく、ユーリがこの上なく気持ちよくイけるような秘密のテクニックを教えろ!」

 折良くというか悪くと言うか…うっかり眞魔国に居合わせてしまったグリエ・ヨザックは、目の据わりきった元上官に意想外の《授業》を強要されていた。
 場所は血盟城内のコンラートの自室。殆ど装飾というものを拝した殺風景なその部屋で、話題の割に殺伐とした表情のコンラートが机を叩く。
 彼らしくもなく焦っているようだ。

『そりゃ…趣味と実益を兼ねた性生活で色々エロエロ知っちゃいますけどぉ…』

 やる方もやられる方も経験はあるし、どちらもそこらの娼婦には負けない技量だと自負している。だが…実技でできるからと言って、それが人に教授出来るかどうかは別問題なのである。しかも相手が明らかに自分に気がなく、色気も素っ気もない…寧ろ殺気だった眼差しで見られているとなれば、やりにくいことこの上ない。

「じゃあ、脱いでくれますか?」
「嫌だ」

 プライドの高いこの男のこと…絶対しないだろうなぁ…と思っていたら、案の定その通りだった。

「…………俺が脱ぐんですか?」
「それも嫌だ。目が潰れる」
「……………あのね、隊長……それでどうやって教えろって言うんです?」  

 ここ近年、有利絡みのことになると無理難題を垂れ流しにする人ではあったが…思いかけず想いが実ったとかですっかり脳内に鳩が飛び交っているらしい。

「図示しろ。そして言語によって説明しろ」
「うう…」

『何が悲しゅうてこんな話題を、真面目な顔して伝達せにゃならんのよ…』

 ヨザックは軽く泣きそうだった。   



*  *  *




「コンラッド…!」

 魔王の居室を訪ねると、ぴょこんっ!と飛び出すような勢いで主が跳ねてきた。
 仔うさぎのように愛らしいその動きに、思わず鼻の下が伸びそうになるのを留めるコンラートであった。

「ユーリ…少しですが軽く摘めるものを持ってきました。後で一緒に食べましょうね?」
「わぁ!美味しそー。ちょっとずつ違ってるお菓子が一杯だ!」

 この辺りの主の嗜好は既に熟知している。
 甘いものも好むが、ベタっと甘すぎるものは嫌い。カリカリとした歯触りが好きなので、アーモンドをじっくりとキャラメリゼしたものは必ず入れる。そして、ナッツ類は幾つか塩味をきかせたものも用意し、これもやはり歯触りを重視してしっかりと煎っておく…。 大きくつぶらな瞳はバスケットの中身を覗き込むと子どものようにキラキラしていて、掴みがOKであることを教えてくれる。

「お風呂に入っていたのですか?」
「んー…何か緊張しちゃって…。その……き、綺麗にしとかなきゃいけないと思ってたし……」

 有利はバスローブ姿で頬を染め俯いたが、コンラートの掌が触れると、風呂上がりにしては少し冷たいように感じた。

「お待たせしてしまいましたか?」
「や…その、俺が早く入りすぎたんだよ!」
「では…俺と一緒に入って、もう一度暖まっていただけますか?」
「え…?」
「嫌?」

 宵闇に映える琥珀色の瞳が優しく細められれば、有利に否という余地などない。
 ぶんぶんと勢いよく頷くと、コンラートの手を引いて浴室に向かった。



*  *  *




「えへへ…一緒に風呂はいんのって久し振りだよね!」
「そうですね、ヒルドヤードではよく入りましたけど…。本当に、あの旅からユーリは風呂好きになりましたよね」

 何気ない会話を楽しみながらも…脱衣所で服を脱ぐ段になると、バスローブの合わせに触れた有利の手が…微かに震えた。

「…怖い?」
「違う…よ?ちょっと…は、恥ずかしいだけだから……」

 上衣を脱いだコンラートは背後からそっと有利に寄り添うと、薄いバスローブ越しに逞しい胸板を押し当て、力強い腕との間にすっぽりと華奢な肢体を包み込んでしまう。 

「ユーリ…俺はあなたを傷つけたりしない…」
「分かってるよ…そりゃそうなんだけど…俺、あのな?多分わかってると思うケド…女の子ともこういうコトしたこと無いんだよ!エロ本とかで何となくは知ってるけど…男同士ってのは全然分かんないし……」
「大丈夫、俺に任せて下さい…」
「…………あんたは男相手とかも、あんの?…体験?」

 ちょっと拗ねたように唇を尖らすと、くすりと耳元で苦笑されてしまい…有利はふるりと背筋を跳ねさせる。

「ないです。男で抱きたいと思ったのは…あなただけ。でも、あなたを決して失望させたりはしません。愛で何とかします」

 《何とか》するためにグリエ・ヨザックに泣きついた(脅しついたとも言う)のは秘密である。

 コンラートは腕に抱いた有利を少し傾けさせると、怖がらせないように柔らかい笑みを浮かべながら…そっと有利の唇に自分のそれを重ねていった。

「ん…っ」

 ふっくりとした下唇を吸い上げ、舌先でノックするように歯列を突けばおずおずと口が開かれ…ちゅるりと絡めた舌が柔らかく…時にきつく口腔内をまさぐれば、次第に有利の息は上がっていく。

 …息継ぎの折りに零れた吐息の甘さが、有利が既に感じ始めていることを教えていた。
 何度も角度を変えて交わされる深い口吻に、有利は次第に脳に霞が掛かったようにぼぅっとし始めた。

 薄く水膜を纏い…とろりと蕩けた黒曜石の瞳に、コンラートは《時期は来たり》とばかりに、はらりとバスローブをはだけさせると…横抱きに有利の身体を浴室へと誘(いざな)った。

 その間に、器用に自分のズボンや軍靴を脱ぎ捨てていく。
 有利が我に返る頃には、二人とも全裸で浴槽に漬かっていた。

「はれ…?」

 また少し、ぽぅ…っとしている有利の顎を捕らえると、再び酩酊状態にすべく口吻が再開され、湯の温もりとその行為に有利の意識が飛んだ頃合いを見計らって…コンラートの指に液状のソープが絡みついた。

「ぅ…く、んっ」  

 大理石のすべやかな浴槽に凭れると…長い指の…その形良い爪と先端の肉隆が、有利の秘められた蕾にぬるつくソープを塗り込んでいく。

 あらぬ場所への刺激に戸惑い…震える身体から抵抗を奪うように…この行為に違和感を覚える暇もなく《目的》を成就すべく、指は巧みな動きで蕾の襞を弄り痛みを与えぬように少しずつ奥へ…奥へと忍んでいく。



 グリエ・ヨザックの教え、その一…

『まずはケツの孔の洗浄ですぜー。なんせ、あそこを使ってセックスするわけですからね、かなり奥まで洗っちゃう必要があります。指で弄ってチンコ挿れるだけならそこまで気にしなくても良いでしょうけど、なんせ相手は初(ウブ)な坊ちゃんですからねぇ…。舌で丁寧に解してあげた方が良いです。でもケツの孔が汚くっちゃあ、あんた自身は平気でも、その後でキスされる坊ちゃんは堪ったもんじゃないでしょうからね。とにかく、キスで蕩けさせてる間に石鹸をよーくつけて洗っちゃって下さい』

 一々用語が卑猥で下品だったので…つい軽く殴ってしまったが、まぁ…あの筋肉量なら平気だろう。



「く…ふぅん……っ」

 それに…思わぬ効果もあるようだ。

 ただ洗浄のためにしている指遣いが既に快感を与え始めているらしく、まだ触れてもいない雄の部分が半ば勃ちになると共に、指一本を挿れるのが限界だった小さな孔が…呼吸に併せて花開くように緩む瞬間が現れだした。

 ぐ…っと、息を吐いたのに併せて近位指節間関節まで指を含ませたが、ソープのぬめりも借りて痛み無く挿入出来た。

「いゃあ…っ」

 少女めいた嬌声を上げて若鮎のように背筋が跳ねると、かぁ…っと頬を染めて有利が身を捩る。けれど…逞しい腕一本で細腰を掴まれ、引き寄せられれば…執拗なまでの優しさで解された蕾には、ずっぷりと指が含まされてしまう。



*  *  *




『や…やだよぅ……っ』 

 有利は含まされた指の感触を、きゅ…っと下唇を噛んでやり過ごそうとする。    
 気持ち悪かったり、痛かったりするわけではない…ただ、大好きな人の指をあんな恥ずかしい場所で感じていることに、ひたすら羞恥を覚えてしまうのだ。

 大きくて…節くれ立っていて…でも、優雅な動きを見せる逞しい指。

 有利の悦楽を誘うように肉壷の中で蠢くたびに、その節が《ぐりり…》《ぬりゅ…》っと…抉るような大胆さと、淫靡にぬめる感触とを同時に与えてくる。

 何度か出し入れされて、ソープを絡め…内部を無理なく擦りあげられる。

 コンラートと一夜を過ごすということがどういう事なのか…漠然としかなかったイメージが、その一本の指によって明確なものになっていく。

 多分…これだけでは終わらない。

 有利の蕾の奥…秘めやかに息づくその肉筒は、コンラートによって《女の子》にされてしまうのだ。
 こうして解されて…コンラートの雄峰を突き込まれるのだ…。

『コンラッド…気持ちよくなれんのかな?』

 その場所が傷つくかどうかより、それが有利には気に掛かった。

 何の勘違いだか知れないが、この国では有利はやたらと《至高の美貌》だのなんだの絶賛の誉れを受けている。だが、その正体が単なる素朴でがさつな野球少年に過ぎないことは…有利が一番知っている。

 育ちきらない未熟な身体…コンラートの、野生の獣を思わせるしなやかな体躯に比べれば悲しくなるほど貧弱だし、彼がこれまで相手にしてきただろう豊満で成熟した女性達の蜜のような身体に比べても、筋張っててちんまりとしていて…性対象というよりも、愛玩動物みたいなものなのではないかと思う。

『がっかりしないかなぁ?』

 それが一番不安なのだ。

 何を思ったのか、有利を好きだと言ってくれたコンラートを失望させるのではないか…。

『こんなものか』

 なんて、呆れられたらどうしよう?
 性的な意味で必要とされなくても、まさか嫌いになったりはしないだろうが…

『コンラッドに子どもだって思われたくない…』

 今更ながらに有利の未熟さを知り、愛だの恋だのを語る対象ではないのだと言うことを認識される可能性は十分にあった。

 不意に…記憶のどこかに引っかかっていた、同級生のモテ男の発言が蘇る。

『マグロの子ってかなわないよねぇ…今時処女だとか言っても、中年のオッサン相手ならともかく、タメの俺らにとっちゃ硬くてテク無しのくせに欲求だけ大きい女なんてウザいだけじゃん?指入れるだけで痛い痛いって叫びやがるし、俺のを挿れたら蹴りつけやがったんだぜ?マジでむかついたからそのままにしてラブホ出ちゃったよ』

 有利とは180度ベクトルの違う人生を歩んでいそうなクラスメイトの言葉に、聞いた当時は随分とむかついたものだった。

 有利なら、初めての子なんてきっと大切に抱く。
 自分もテクなしだから満足させられるかどうかは自信ないけど…。
 等と思っていたのだが、まさかそれから1年もたたないうちに《抱かれる》側に回ろうとは想像だにしなかったわけだが…。

 実際問題、自分が今ここで泣いて喚いて蹴りつけたりしたらコンラートはドン引きだろう。それでなくとも有利の苦しみや悲しみに敏感な彼のことだ。子どもに無理を強いたと己を恥じて、二度と手を出してくれないかも知れない。
 絶対に、二度と俺から離れるなと厳命してあるけれど、身体が近くにあっても心が離れてしまったら同じ事だ。

『嫌だなんて…絶対言えない……』

 どんなに恥ずかしくても、その言葉は喉奥に閉じこめてしまおう。
 有利は唇を噛む歯列に力を込めようとした…が、一瞬の隙をついてするりと入り込んできた指が、がじりと歯列に挟み込まれる。

「…っ!コンラッドっ!!」
「駄目ですよ、ユーリ…あなたの唇が切れてしまう」
「そんなことより…いま…俺、思いっきりガリって…っ!」
「平気です。あなたが傷つくことに比べたら…こんなもの軽いものですよ」

 コンラートは淡く血の浮かぶ指先をぺろりと舐め上げ、すぐに気遣わしそうに…有利の下唇に指を這わせた。

「痕が残ってる…」
「う…その……俺、変な声だしたり、変なこと言っちゃいそうだから……」
「いいんですよ…全部聞かせて下さい。いえ…聞きたいんです、俺が……」
「…やあぅっ!」

 ぬじゅ…っと肉筒の中で蠢いていた指は、中指。
 空いている四指がやわやわとマシュマロのような二つの袋を弄り出すと、未知の快楽がじわりと骨盤に放散する。

「ひぃ…ぁっ……っ……ゃっ」

 有利の唇から離れた指が…水面にゆっくりと沈み込むと…しゅるりと有利の肉棒に絡みついて…優しく、揉むように上下される。

 初めて他人の手に包まれたそこは、堪えきれない蜜液を溢れさせ…手の動きに併せて湯の中に粘性のその液体を混ぜていく。

『ゃ…くらくら……する……っ!』

 大きな母指頭が…熟れた果実のように爆ぜる先端の部分に押し当てられ、ぬりゅりゅ…と擦られれば、幾ら湯の中でも水とは違うぬめりがそこにあることをコンラートに教えてしまう。

「駄目…コンラッド……っ!で、出ちゃうから……っ」
「お湯…汚れるのが嫌ですか?」
「ん…ぅん……っ」

 それだけの問題でもなかったが、懸命に何度も頷くとコンラートは得心いったように手を離し、有利の身体を浴槽の外へと引き上げてくれる。

 ホッと安堵する反面…腹につくほどに隆起する若い欲望を満たした肉茎は、持ち主の意図とは裏腹にぴくぴくと震え…たらりと零れていく蜜が二つの袋へ…そして、今だ指を含まされたままの蕾へと伝い降りていく。

 そう…肉壁をまとわりつかせた指は、いまだ抜かれてはいないのである。
 しかも、有利は自分がいまどんな姿を思い人に晒しているのか自覚すると、激しい羞恥に刮目してしまった。
 湯でしっかりと温められた大理石の床面に仰向けに寝かされ…緩く曲げた下肢の間にコンラートが位置し、その視線の先には…。

 恥ずかしいほど蜜を垂らすピンク色の肉茎と、指をしゃぶり続けるはしたない蕾…ふくふくと震えるマシュマロのような袋が、卵色の灯火の元に晒されているのだ。

「ゃあ…み、見ないで……っ!」
「どうして?こんなに綺麗なのに…ああ、こんな所の毛も貴色なのですね…乾いたらふわふわになりそうだ。それに、ここも綺麗な桃色でとても可愛い…自分でも、あまり弄られたことがないのでしょう?」
「…!」

 返事に困るような質問をされて絶句してしまうが、コンラートの方は確かめるべくもない事実と捉えたのか、返事も待たず果実のような先端部分をぱくりと口の中に招き入れてしまう。

「んゃ……っ」

 甘い声が迸り、有利の手はコンラートのダークブラウンの頭髪を掴むが…その動作は引き離そうとしているのか押しつけようとしているのか…有利本人にも不分明なところだった。 

 飴玉でもしゃぶるみたいに…実に美味しそうにぷるんとした先端を舌で弄り回し、くちゅくちゅと恥ずかしい水音を立てて愛撫される。

『も…駄目……っ』

 このままではコンラートの口の中で粗相してしまう…有利は必死でコンラートの頭を外そうとするが、甘い痺れに犯された腕には最早その力はなく、湿気を帯びたダークブラウンの頭髪を愛おしげに撫でるだけだった。

 く…っと硬く研ぎ澄まされた舌先が、尿道口の中まで愛撫しようと押し込んで来られた瞬間…同時に肉壁を抉る指が感じやすい場所を捉えた。

「ひぁっっ!!」 

どくどくと放たれる奔流は、誘い込むように口腔内へと吸い上げられ…舐られ…管の中からじくじくと零れる残滓までもが丁寧に舐め取られて、コンラートの喉が…ごくりと鳴った。

 普段有利であれば、自分の欲望を示す白濁を嚥下されたと知れば大慌てで身を起こすところだろう…だが、今の有利にそんな動きは不可能だった…。

『う……そ……』

 コンラートに達せられた肉茎を中心に、身体中が蕩けるような甘い感覚に囚われて…ふなふなと力が入らなくなってしまったのだ。

 有利とて年頃の少年である。何度かは自分で扱(しご)いて自慰をしたこともある…が、卓越した舌技を誇るコンラートの愛撫はそんな拙い到達とは次元を異にするものであった。

『何で俺…こんなにじんじんしてんだよ……っ』

 自分で到達したときにも気持ちいいには良かったが、その感覚は《打ち上げ花火》に似ていた。ドカーンっと一発欲望を放出すれば気持ちの良さは白濁と共に流れゆき、後には軽い脱力感が残るだけだったのに…コンラートに舐め上げられ、吸い取られたそこは…じんじんと熱く疼いて再び勢いを盛り返していく。

 まるで…《もっとして欲しい》とおねだりするように勃ち上がり、ぷるん…と先端を震わせるピンク色の肉茎に、コンラートは喜んでしゃぶりついた。



*  *  *




『ああ…なんて可愛いっ!』

 快楽のままに甘い嬌声を上げて達した主をその眼差しで視姦しながら、コンラートは満足そうに喉を鳴らした。

 飲み下した液体は濃く…有利が自分でも殆ど《処理》をしていないのだと知れる。そんな無垢な身体を暴く後ろめたさはまだあるものの…この身体を味わえるのは自分だけなのだという幸福感に目眩がしそうになる。

 コンラートのものよりも二回りは小さい肉茎は淡いピンク色で、ぷる…と口から出して観察すれば、濡れて光る先端部分は充血して一際濃い紅色を含んでいる。若い欲望は一度の到達では満足出来ないのか、軽く括れた部分を舐めあげれば簡単に勃ちあがり…緊張しきった裏筋をコンラートに見せつける。

 思わずしゃぶりついてしまったコンラートであったが、身じろぐ有利の背が大理石の上で滑ると、こんな硬い場所に寝かせていてはならないと今更のように気付く。



 そこで、ヨザックの教えその二が脳裏に蘇った。

『あんたがしゃぶってやりゃあフェラなんて初体験の坊ちゃんのことだ、メロメロになって何度でもおっ勃てちゃうでしょうけど、あんまり調子に乗っちゃ駄目ですよ?物事には限度ってもんがありますからね。あんたが突っ込む前にイかせ過ぎちゃうと肝心の時に勃たなくて痛い思いをさせちゃいますからね。挿れる時に一番気持ちイイ!って記憶を身体に植え付けちゃうんですよ?』

 用語の下品さ以前に、有利に対する馴れ馴れしい口調が気に入らなくて鳩尾に一発入れておいたがあの筋肉男のことだ、大丈夫だろう(軽く黄色い液体を吐いていたが)。



「ユーリ、すみません…こんなところで。すぐに上がりましょうね?」
「ん…ん……」

 こく…と頷く有利だったが、その瞳はまだ少しぽんわりとしており…心地よい余韻に浸りきっているらしい。

『ああああぁぁぁぁ…っ!可愛いっ可愛すぎるっ!!』

 こんなに気持ちよくなってくれるのなら何度でも舐めしゃぶり、ミルクタンクが空になるまで絞り上げてあげるのに…っ!とは思いつつも、コンラートの欲望の方も大概切羽詰まった状態になりつつある。余裕を無くして突き込んでしまう前に、有利の泌孔を更に蕩けさせておく必要があるだろう。

 コンラートは人形のように軽々と有利の肢体を抱え上げると、複数枚のバスタオルを惜しげもなく使って、素早く水分を拭うと寝台に直行した。



*  *  *




 ふか…

 ふんわりとした掛け布団の上に脱力した肢体を優しく横たえると、寝台にコンラートも乗り上げて覆い被さる。
 …と、ぽたりと数滴の雫がコンラートの髪を伝い…白い肌の上で弾けた。

「ゃ…っ」
「失礼…自分を拭くのを失念しておりました」

 有利に風邪でも引かせてはならじと集中するあまり、自分のことをすっかり忘れ去っていたコンラートであった。
 しかし…それに気付いてもやはり有利の方が先に気になっしまい、先程有利をくるんでいたタオルで胸や腹に散らせてしまった雫を拭う。

「んんっ!」

 胸に触れたタオルの感触に…ぴくりと有利の背筋が跳ねた。

『う…』

 先程身体を拭っているときには起こらなかった邪念が…バスタオルの肌合いにすらびくりと震え、胸を掠める布地の擦過で淡く硬度を増した突起物を見ていると…ふつふつと沸き上がってくる。

「ゃ…んっ!」

 ぷっくらとした突起を舌で転がせば甘い嬌声が上がり、欲望に従順な肉茎は触れられてもいないのにぷるん…と揺れて透明な滴を零してしまう。その様があまりにも可愛らしくて…ついつい悪戯心を出して、かりり…と突起に歯を立てれば、切ないような悲鳴を上げて有利が身を捩った。

「ゃだ…や……か、噛んじゃ…ゃだ……っ」
「痛い?」
「違う…けど……ゃ……じんじんする……」
「こんな風にしても?」
「やーっっ!!」

 突起ごと周囲のやわやわとした皮膚を吸い上げ、陰圧に引き上げられた先端をちりり…っと硬く尖らせて舌先で抉れば、有利の欲望はたらたらとしどけなく滴を垂れ流して自分の蕾を潤ませてしまう…。

『…なんて眺めだ!』

 コンラートは、こく…と喉を鳴らした。

 少し身を引いて見下ろせば、清楚でありながら…だからこそ酷く淫猥に映る映像があった。

 豪奢な寝台に寝かせられ、頬を真っ赤に染めて切なげに瞳を閉じた少年…その面は初々しく恥じらいに満ちて水晶のような涙の粒を浮かせているくせに、肢体の方は全く対照的な様相を見せている。

 若鮎のようにしなやかな身体はその精神の戸惑いとは裏腹にあからさまな欲情を示し…唾液をたっぷりと塗り込められた胸の突起はぬらぬらと艶を帯び、陰部でこれ以上ない程に追いつめられた場所は熱い吐息をふぅ…とかけてやるだけで、ぷく…ぴゅぐ…と音を立てて滴を零していく。

 その滴には今や白濁した液すら混じり、淡いピンク色の茎を伝い降りていく様は果物に掛けられた練乳のように甘やかに映る…。

 そしてその流れの行き着く先に…つい…っとコンラートの指が這わされた。

 ぬる…くちゅ……

「ヒ…ぁっ!」

 可哀相なくらい感じて跳ねるその下肢の間で、男の指をきつく締め付ける蕾…けれど、愛液によってしとどに濡れたその場所は、周囲の液を少し馴染ませればぬるりと滑って簡単に指先を飲み込んでしまう。  

 そこでまた友人の言葉を思い出した。



 ヨザックの教えその三…

『とにかくぬめりです。なんといってもぬるぬる感が命です。上級者になれば多少乾いてる方がきつい擦過で感じるって事もあるでしょうけど、なんせあんたらのサイズは規格がまるっきり違う筈ですからね。オイルでも何でも使って、これ以上ないって位ぬるっぬるにしといて下さい。こないだ坊ちゃんになんと無し聞いてみたら、《うんこの太さはバナナ一本くらい。快眠快食快便が自慢だよー》と言っておられたので、ぬるぬる状態にしてあんたの指3本が無理なく入るくらいにしとけば裂けずに挿入出来るはずですよ』

 《お前…何の必要があってユーリのうんこのサイズなど聞き出したんだ?》と聞いたら、《そんなに怒んないで下さいよー。坊ちゃんのケツにバナナ刺した訳じゃなし…》等と暴言を吐くので、脇腹の浮遊肋の辺りに中段蹴りを入れておいた。

 その時、微かに《ペキ…》という軋轢音が聞こえたが…まぁ大丈夫だろう。ヨザックはカルシウムも沢山取っていそうだし。



 コンラートはいったん指を引き抜くと、そぅ…と寝台脇に置いておいた籠に手を伸ばし…愛らしく盛られた菓子の中から綺麗な小瓶を取りだした。それはヨザックに貰った(奪い取ったとも言う)高価なオイルで、《そういうこと》を念頭に入れて作られたもの(当然未開封)である。

 繊細なクリスタルのキャップを外すと芳醇な香りが辺りに漂い、掌にとろりと流し込んで暖めればすぐに馴染んで品質の高さを伺わせた。

 くぷ…

「コンラ…ッド!?…やっ!」

 今度はたっぷりとオイルを絡ませた指を蕾に添わせれば、有利自身は反射的に括約筋を締めてしまうのに…その場所は驚くほどスムーズに指を招き入れてしまった。

 恐るべしオイル。

 潤滑性万歳。

 ぬるぬると指を出し入れしながらコンラートは感嘆した。

 そして指を入れたまま蕾の周辺にたっぷりと唾液を絡め、息づく襞や外陰部と肛門の間にとゅるりと舌を這わせれば、嫌々をするように有利の腰が揺れるが…皮肉なことに、その動きによって肉茎はぷるりと左右に揺れ、したたる滴を一層増やしてしまう。

 じゅぶ…

 ずちゅ……っ

 恥ずかしい粘性音を響かせて抜き差しされる指は次第に奥へ奥へと有利の内部を犯し、入り口の狭さとは対照的に、熱く蠢いて柔らかな肉壁にちゃぷちゅぷと液体を絡めていく。

 2本の指を無理なく挿入出来るようになった頃、また友人の言葉を思い出した。



 ヨザックの教えその四…

『膀胱の真下にある前立腺は尿道に貫かれてて、ここに精巣から運ばれてきた精液が精管を通って合流してきます。こいつは直腸の前壁の所で、あんたの指を根本近くまで突っ込んだときに指先に触れる筈です。年とってくるとこいつが異常に腫れてたり、ボコボコしだして前立腺炎だの前立腺癌だの発見することがあるんですがね、坊ちゃんのはさぞかしぴちぴちのぷっくぷくで良い感じの弾力なんでしょーね。あー、俺も隊長が留守の時にこっそり悪戯しちゃおうかなー。坊ちゃん感度良さそうだし、俺のことだってそんなに嫌いじゃなさそうだから、泣いて頼んだら指で弄るくらいはさせてくれそうだしねー』

 いい加減コンラートの暴力に辟易していたのか単に喧嘩が売りたかったのか、ヨザックはそう言い放つと俊敏な動きで窓枠に飛びすさった。

 多分、コンラートが抜刀してくるとでも思っていたのだろう…ヨザックは動きのない元上官を不思議そうに見やっていた。

 そして…次の瞬間、《冗談ですっ!》と絶叫しながら逃げ去ったのだった。

『呪われろ…』

 地獄から沸き上がるような瘴気を纏うその声と殺気に…かなりの度合いの本気を感じ取ってしまったからだろう。



 コンラートは二本の指を鈎状に曲げると、それらしき引っかかりを最初は優しく…次第に、こりこりと強弱をつけて弄び始めた。

「ゃっや……何…!?そこ……そんなトコ……変…だよっ!!」

 恥ずかしい場所にもたらされる…今まで感じたことのない種類の悦楽を受け止めかねて、有利は悲鳴に近い嬌声を上げた。

 眦には幾筋も涙が伝い…堪えようとして頭を震うたびに、漆黒の髪がしゃらしゃらと涼やかな音をあげて宙を舞う。

 くぷ…
 ぐち……

 淫靡な音が自分の身体から響いていることが信じられない…信じたくない。
 そんな場所への刺激で感じている自分が堪らなく恥ずかしい…。

「やだ…もぅ……やだよぅ……」

 哀しげに泣きじゃくり始めた有利の様子に、コンラートはさーっと血の気が引くのを感じた。



*  *  *




「気持ち悪いですか?すみません…あなたに気持ちよくなって欲しいのですが、俺が下手なばっかりに…」

 きゅうん…というような風情で覗き込まれると、有利は途端に拒否出来なくなってしまう。

『そんな顔で…そんな声出したら、狡い……』

 強引に組み敷かれれば例え力でかなわないとしても、有利は持てる力の限りを尽くして大暴れするだろう…けれど、大好きな人に包み込まれるようにして愛されると、それがどんなに恥ずかしいことでも享受しそうになるから恋とは不思議だ。

『恋…変て字に似てるもんな…昔の人ってエライよな……』

 そう言う意味で故意に似せたのかどうだか分からないが、確かに、世の人々は真剣に故意をすればするほど挙動不審になるものだ。

 コンラートとて、遊びで有利を抱くつもりならもっとスマートに出来たはずである。

 しかし、百年越えの人生の中でも覚えのない程の恋に墜ちてしまったコンラートには、今まで培ったどんな手管もこなれた愛の言葉も、有利に対してだけは上手く張り巡らすことが出来ないのだ。

 有利は観念したように瞼を閉じると、おずおずと…羞恥心をねじ伏せるようにして大腿を開いていった。

「気持ち悪くは…ない、よ」
「では…続けてもよろしいですか?」
「………お願いシマス……」

 両手で真っ赤になった顔を隠すと、有利は震える下肢を限界まで開いてコンラートに晒した。



*  *  *




『なんて可愛い…っ!』

 羞恥に身を揉むようにしているくせに、コンラートを想って大胆に下肢を広げる有利…。

 しなやかな大腿は透き通るような白さを呈しており、すべらかな肌にそっと唇を寄せて強く吸い付けば、面白いように紅色の痕が浮かび上がる。
 花弁のような所有の証を夢中になって刻んでいけば、全身に振りまかれる唇撫に有利はふるふると肉茎を震わせて腰を捩った。

 有利の高ぶりは二度目の解放を求めて、強請るようにミルクを零し続けている。

 コンラートは、そこで最後の助言を思い出した。
 逃げ出したヨザックを投げ縄で捕獲し、有利を最高に気持ちよくイかせるための必殺技(?)を教えろと強要したのである。

 

 ヨザックの教えその五… 

『必殺技ねぇ…確かに、どんなに頑固に嫌がってた奴でもヒィヒィ言ってイきまくってた技がありますけどねぇ…』

 何故かヨザックが言い淀んでいたのは少々気がかりだが、確かに効きそうな技ではあったので思い切って使ってみることにした。



 コンラートは有利の腰を引き上げると、その下にふわふわの羽毛布団をきゅきゅっと丸めて入れておいた。そうすると無理なく有利のお尻が浮き上がり、コンラートの前に秘められた場所を露わにしてしまう。

「え?…ちょっ…っ!」

 慌てて有利が藻掻くのをトスンっと指先一本で抑え、にこにこと爽やかな笑顔を浮かべて腿を抱えていく。



*  *  *




「ちょちょちょ…っ!」

 慌てたのは有利である。

 腰を浮き上げられて向かい合った状態で、腿の後側を抱えた男が倒れ込んでくるのだ…身体の方は柔らかいのでそれほど苦しくはないが、とんでもない場所が剥き出しになって…それが自分にも相手にもよく見えるという状態が何とも恥ずかしい。

『う…わ……っ』

 どきんっと胸の中で心臓がジャンプした。
 これは乙女系のトキメキでは断じて無い…。
 どちらかというと…ジェットコースターがゆっくりとコースを上がっていって、急降下しようとするその先の景観が見えたときの…

 …《恐怖》に近い。

『デカイ!デカ過ぎですよコンラッドさんっ!!』

 同じ男としては腹が立つくらい立派な逸物が、哀しいくらい可愛らしい有利の屹立の隣に位置しているのだ…。
 隆々とそそり立つ様はさながら中国の霊峰のよう…淡く褐色を帯びた色合いは使い込まれた経歴を物語っており、《こんなトコまで歴戦の勇士かい!》と、軽く突っ込みたくなってしまう。

 勃起しても少し辺縁に皮の残る有利のそれとは異なり、堂々たる彫りをもつ雁首はギリシア男根主義全盛期の彫像を思わせる…。
 無駄に芸術性の高い屹立の横に、地方のお土産品のような自分の物を並べるのは本当に勘弁して貰いたいと思う。

『うぅー…分かっちゃいるけどさぁ…色々コンラッドが大人だってコト見せつけられちゃうよな…』 

 そんな風に拗ねて唇を尖らす有利だったが、実はそんな感傷に浸っている余裕はなかった。

 その二本の屹立は…《マイルドセブンと子どもの足の大きさ比較写真》のように、二人の体格差や成熟度比較の為に並べられていたわけではない。

 コンラートの大きな掌によって人肌程度に暖められたオイルが…二本並べて両手で掴まれ…擦りあわされたのだ。

「ぎゃひぃっ!?」

 そのあまりに淫猥な光景に有利は頬を真っ赤に染め、何とか自分のものを掌から救い出そうと手を伸ばすのだが、すぐ傍にあるはずのそこには何時までたっても到達することが出来なかった。

 ずりゅ…ずちゅ……
 ぷちゅ…っ 

 羞恥を誘う粘性の音に耳孔を犯され…何より、硬く強張った裏筋どうしをきつく擦りあわされることで、放出の時を切望する肉茎が主の想いとは裏腹に暴走を始めてしまったのである。

 手は空しく宙を掻き…結局、主の口を封じる事でささやかながら働くのみであった。

『ぎゃーっっ!こんなんで感じるな俺っ!!』

 そんなことを言われても…生理的にこのような機能をもって生まれた肉茎に罪はない。 少しの間冷たい空気の中に放置されていたせいもあり、暖かくて硬い《仲間》に擦りつけられることに素直に喜んで、とゅるとゅると先端から雫を溢れさせてしまう。

 ぐりぐりといやらしく擦りあわされる屹立に、マシュマロのような二つの膨らみどうしも、すっかり乾いてふわふわになった兎毛ごと押しつけられるものだから、何とも複合的な快感でもって有利を責め立てる。

 しかも…コンラートはこれだけでは許してくれなかった。 

 一つの手で屹立どうしを激しく絡めさせながら…一方の手で、有利の蕾を犯し始めたのである。
 潤沢に解されたその場所には新たなオイルが注がれて、ぴゅぐぴゅぐと音を立てて抜き差しされる指が3本に増えても、もはやその入り口を閉じておくことは出来なくなっていた。

 ずぶ…

 一際深く差し込まれた3本の指が、既に覚えた場所…感じやすい膨らみを腸壁越しに抉ったその時…あろう事か、コンラートの屹立は有利の外尿道口を塞ぐように…キスでもするように感じやすい先端部分を押しつけ、ぐりゅりとねじ回されたのだ。

「に゛ゃあぁぁあああ……っっっ!!」

 獣じみた絶叫が有利の喉から迸る。

 散々焦らされた上に出口を塞がれる形で放出してしまった精液が尿道壁を拡張させた上、感じやすい前立腺を強く擦られたことで…まるで弾けるような勢いで有利は射精してしまった。

「あっあっあっ……っぃゃやぁぁぁぁっっ!!」

 嬌声と言うより悲鳴に近い声を上げて…大きく黒曜石の瞳を見開いた有利は全身で反り返った。

 その勢いで大量の精液を吐き出す肉茎は前後に揺れ…有利とコンラートの顔や胸…辺りのベットに至るまで若い熱情を飛散させてしまう。
 凄まじいまでの快感に翻弄される有利はしかし…この行為にまだまだ続きがあることを知らなかった。

 尿道と前立腺への同時刺激…ここに《もう一つの要素》を加えて、ヨザックは《魔の三連コンボ》と呼んでいた…。

 《もう一つの要素》…それは、まだ射精している最中の身体に…ずぶりと屹立を挿入されることであった。

「ゃぁぁうっっ!!」

 涙と吐精が止まらぬ幼い身体をこじ開けて、成熟した屹立が残酷なほどの果断さで抉り込まされる。しかし…十分な愛撫で馴らされた上、精を迸らせている最中の身体に力を入れることなど叶わず、寧ろ悦んで飲み込むようにして…オイルを漏らしながらコンラートの高ぶりを迎え入れた。

「…くっ!」

 意識的に、コンラートは太い先端部分を飲み込ませた辺りで早く達した。

 こちらも散々自戒を続けて限界近くまで溜め込まれていた精液は、唸りをあげて有利の腸壁を叩く。そうすることで指でも届かなかった奥津城に大量の精液を送り込まれた肉筒は、うじゅる…っと淫猥にうねりながらコンラートを包み込んだ。



*  *  *




 コンラートは熱い息を吐くと…大量の精液の助けを借りて、いまだ硬度を失わぬ屹立をずぶぶ…と最奥まで突き込んだ。

『入り口は清楚に硬く閉ざされていて今もきつく引き絞られるのに…この奥津城の淫蕩なうねりはどうだ!?』

 感嘆の声が胸に沸き上がるが、《どうだ?》と言われても有利としては困るところだろう。

『どんな手練れの娼婦でもこんなに熱く絡みついては来ない…なんて淫靡で…素敵なんでだろう!』

 さて…この時、コンラートは《ヨザックの教え》を全て消化したものと思いこんでいた。…が、しかし…彼は愛しい人と結ばれた喜びに我を忘れるあまり、実は最後の教えの続きを失念していたのだった。



 ヨザックの教え…補足……

『ねぇ隊長…余計なことかも知れませんがね、坊ちゃんが初心者だって事だけは忘れない方が良いと思いますよ?』

 珍しく老婆心から出た言葉はしかし…この地点のコンラートの記憶野には、存在したとしても問題視されていなかった。



『ユーリ…ユーリ……っ!なんて素晴らしい身体をしてらっしゃるんですか?』

 コンラートの屹立は一度達したものの、その勢いは衰えるどころか肉筒の心地よさに陶然として大きさを増していく。細い腰を掴むと、その凶器のような高ぶりを激しく抜き差しして…何度も熱情を注いでいった。

 …互いの継ぎ目から白濁した液が漏れて内腿を伝うほどになっても…有利はもう拒絶の声は上げなかった。 
 しかし…何か急に心を引き留めるものがあって動きを止めると、コンラートは有利の顔を覗き込み…

 …そして、心臓を鷲づかみにされるような衝撃を受けた。

「……っ!」

 有利は…表情を失っていた。

 眼差しは開かれてはいるが朧に霞んで何も映しておらず、幾筋もの涙が頬を伝っており…あどけない唇は力無く開かれ、飲み込めない唾液がやはり口元を濡らしている。

 忘我の表情に、コンラートは血の気の引く思いで我に返った。

 無垢な有利は他人の手によってただ普通に射精させられるだけでも…大好きな人の前で吐精することに激しい羞恥を覚えるというのに、続けざまに感度の限界を超える快楽を注ぎ込まれることで、メーターが振り切れてしまったのである。
 過ぎた快楽は…幼い少年の初体験としては過度の刺激量だったのだ。

 もう半ば意識を失った状態でコンラートの情熱を受け止め…身体だけは懸命に反応して、健気に精を吐きだし続けていたのだろう…。
 コンラートは繋がった場所から慎重に己の屹立を引き抜き…そして、どぷ…と溢れ出た白濁液の量に…自分がどれ程有利の身体に耽溺していたかを自覚して青ざめた。

「ユーリ…ユーリ…っ!」

 くたりと脱力した肢体を掻き抱き、懸命に呼びかけ…キスを送る。
 そうする内に霞んでいた瞳には生気が蘇り…まだ幾ばくか《ぽやぁ…》としているものの、心配そうに覗き込んでくるコンラートの表情を捉えると、はにかむように微笑んだのだった。

「えへへ…気持ち、よかった?」
「はい?」

 予想外の台詞に…コンラートの頭の螺子が飛びそうになった。
 てっきり、泣かれるか罵倒されるかと覚悟していたのだ。

「途中から俺…訳分かんなくなってボーッとしてたんだけど、あんたが俺の名前呼びながら抱いてくれるのはどこかで感じててさ…嬉しかった。あんたが本当に欲しがるものを、俺はあげられるんだなーって」
「……それは…ちょっと違うんです、ユーリ……」

 困り果てた犬のように眉根を下げてコンラートが言うものだから、有利はきょとんと小首を傾げる。

「俺はあなたに気持ちよくなって欲しかったのです…。それが俺の一番の幸せ…一番の《欲しいもの》だったのに…俺は自分ばかりが気持ちよくなってしまって……。すみません、身体が辛かったでしょう?」
 気遣わしげに大きな掌で頬を撫でられると、有利ははにかみながも…甘える猫のように瞳を細めて擦りついた。
「そりゃ…凄いところがドロドロになっちゃって…凄ぇ恥ずかしかったし何か色々吹っ飛んじゃったけど…でも、俺だって気持ちよかったよ?」
「本当に?」
「うん…その………本当はさ、俺…やる前は色々覚悟してたんだ。きっと凄く痛いだろうけど、あんたが喜ぶんだったら我慢しようって…でも、あんた…凄く丁寧に俺を解してくれたろ?だから、身体の方も痛くはなかったし…」

 言いかけて…下唇をはにはにと噛んで俯いてしまう。
 言ったものか言わないものか判じかねるようにきょろきょろと彷徨わせていた瞳が、ちらりと上目遣いにコンラートを覗き、そして…意を決したように言葉を綴ったのだった。

「あんたとすることは…何だって俺にとっちゃ、一番幸せで楽しいことなの!」
「…………ユーリ………あなたは俺を甘やかしすぎです……」

 端で聞いている者がいれば《全くだ》と同意してくれるところだろうが、有利の方はそうは思わなかったらしい。如何にも不思議そうにきょとんと目を見開いている。

「…なんで?逆だろ?俺の方がいつもあんたに甘やかされてるじゃん」
「いやいやいやいや……。俺のは甘やかしているわけではなく、臣下として名付け親として極正常な扱いですよ?」

 この答えは有利のお気に召さなかったらしい。
 ぷくぅ…っと目に見えてふくれると、小さな拳でドンッとコンラートの胸板を叩く。

「《臣下》とか《名付け親》とか…こういうときに言うことじゃないだろ?」

 ふてくされる顔や言い回しまでが殺魔族的に愛らしいと、コンラートは判別する。

「それでは…《恋人》として極正常に扱っていると言えば?」

 いつもの調子を取り戻して悪戯っぽく微笑めば、先程とは違う方向に口をへの字に曲げて頬を染めた《恋人》が、鷹揚に頷いてくれた。

「……まぁ、いいよ。それなら……」
「それでは極正常な恋人として、ドロドロにしてしまったお詫びにお風呂に入れて差し上げますよ」
「へ?」

 きょとりと小首を傾げる有利をふわりと抱き上げると、そのまま風呂へと直行する。

「あの…まさか……洗ってくれるって……」
「ええ、洗わせて頂きますよ?」

 にっこりと微笑む爽やかな笑顔が無駄に眩しい。

「爪先から髪の毛の先まで…舐めるように、ね」  



 その後…有利が『舐めるように』洗われたのか『舐められ』たのかは皆様のご想像にお任せします。




おしまい






あとがき


 エロパートはいつものコメディエロと相成りました。
 寒くなったというのにエロ神様にやる気がないらしく、気合いの割に不発弾な話でしたが、多少なりと笑って頂ければ幸いです。