「眠ってしまいましたか…?ユーリ……」

 眠っているのか気絶しているのか…。幾度も絶頂を迎え、体内の奥津城に男の欲望を注ぎ込まれた少年はくたりと脱力し、しなやかな四肢をしどけなく投げ出して意識を飛ばしている。

 コンラートが濡れタオルで清拭し、彼の身体には大きすぎるシャツを着込ませても…いっかな目覚める気配はない。

 健やかな寝息を立てているところをみると、最初が気絶であったにしても今ではすっかり眠りを満喫していることが分かる。

 先程まで濃厚な愛撫を受けていたとはとても信じられないくらい清廉な面差し。一片の穢れすら感じさせないその頬に、コンラートは恭しく唇を寄せた。

 

 これでこの少年を手に入れたと考えるのは早計だろう。

 

 桜の若木…かつて、幼い有利にまみえた日に小さな小枝を拾って眞魔国へと運び、手ずから育んだあの木のようには、結界などで閉じこめておくことはかなわぬ身だ。

 この子のもつ器と使命はあまりにも大きく、伸びゆく世界はいつかコンラートが追えぬほどの広がりを持って拡大して行くに違いない。

 だが…いまだけは、この腕の中で安んじて日々を過ごして欲しい。

 過保護と呼ばれようがどうしようが…このちいさな手が世界を掴めるように、その土台をコンラートは培うつもりでいる。

「我が王よ…我が、愛し子よ……」

 手の甲に口吻を寄せれば、うみゅうと主の口元がへの字口にまげられた。

「んー…コン…ラッド……」

 眠り人の呼びかけに応えてはならないと何かの言い伝えで聞いたことがあるものだから、返答は控えていたのだが…次の瞬間、有利の唇が奏でた音声に…コンラートは口元を覆うことになる。

 

「愛してる…よぉ……」

 

 恥ずかしそうに囁く有利は、夢の中でもコンラートに強要されているに違いない。

 《愛してる》…現実と夢の境が不明瞭になるほど感じさせる中で、何度も言わせた言葉だ。

「愛してますよ、ユーリ…」

 ちゅ…っと音を立てて額に口吻ると、コンラートはそっと毛布で主を包み込み…その上から自分の腕を回した。

 目覚めたら、有利は怒るだろうか…恥ずかしがるだろうか?

 その両方かもしれない。

 少なくとも、真っ赤になって自分の腕の中で藻掻くであろう姿を思い浮かべて、コンラートはくすくすと笑った。

「可愛い可愛いあなた…なるべく長い間、俺の腕の中で護らせて下さいね……」

 とろりと、酩酊に近いような心地で薄れていく視界の中で…ふわりふわりと桜の花弁が有利の頭髪に落ちかかっていく。

 その様にうっとりと見惚れながら…コンラートは幸せな眠りに就くのだった。



 

おしまい


 

 

あとがき

 

 Rento様のリクエストで、「眞魔国でマニメor原作設定(次男出奔には触れず)、桜舞い散る中で黒コンの濃口エロが有利に迫る!桜餅は一体どう絡むのか!?」という小話だったのですが…す、すみません…っ!桜餅は掠りもしませんでした! 

 

  黒コンはなんとなく達成できたような(当社比)ですが、さほど吃驚したようなエロには発展しなくてすみません。

 

 多少なりと喜んで頂ければ幸いです。

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