第三章 XーIエロ
『あの坊やの顔を、もーちょっと見とくんだったな…』
アリアズナは厩で愛馬の毛を梳きながら、ふと屋外に出た理由を思い出していた。
先程も遠目に姿は見たものの、あのさらさらとした黒髪や驚くほどに肌理細かであった頬には、もう一度触れておかないと損をするような気がした。
コンラッドの拳は飛んでくるかも知れないが、もう彼の性格や行動パターンは読め始めている(…と、思う)。
次は避けられるだろう。
しかし、探しに行こうと動いた脚はすぐに止まってしまう。
…というか、動けなくなってしまう。
「ん…っ」
堪えきれず…といった風情で、押し殺したような甘い声が漏れる。
ずくりと股間に来るその声は、どこか聞き覚えのあるものであった。
『…っ!?』
厩の戸口に入って来るなり、息をもつかせぬ性急さで舌を絡め合う恋人達は…噂の二人組であった…!
思わず息を潜めて身を屈めると、身長差のある二人は何とかしてその間隙を埋めようと言うのか、有利の方は精一杯爪先立ち…コンラッドの方は有利を両腕で抱きかかえるようにして、角度を変えながら何度も口吻ている。
華奢な体躯の有利は喘ぐようにして息継ぎをするが、コンラッドに好きにされているという印象はない。
寧ろ、積極的なのはこちらの方だ。
自分の身体でコンラッドの全存在を確かめたいとでも言うように荒々しく着衣をはだけると、大きなサイズのシャツの合間から目を灼くほどに白い肌が露出する。
薄闇の中でぬめるように光るその肌にコンラッドの唇が寄せられれば、《ゃん…》っと、切なげな嬌声があがって、ダークブラウンの頭髪に指が絡まる。
くち…
ちゅ……っ
「ゃ…も、良いよ…早く、欲しいよ……」
「駄目だよ…ちゃんと馴染まさないと…」
自ら下着ごとズボンをずらし、半ば勃ちとなった花茎を晒してみせる有利にアリアズナはひっくり返りそうになってしまう。
『ぇええええぇええ……っ!?…ぼ、坊や…無茶苦茶積極的じゃねぇかっ!』
《褥のことなんて何にも知りません》…という顔をしているくせに、猛々しいまでの押しを見せる有利はコンラッドによってそこまで開発されてしまったのだろうか?
それとも…これが元々の資質なのだろうか?
知らず、アリアズナの喉は《ごきゅり》と音を立てる…。
「ユーリ…無理を言わないで?俺はあなたを傷つけたくはない…」
「やだ…ちょっとでも長く、あんたと繋がっていたい…っ!」
泣き声混じりの声が切羽詰まったような色を帯びているのが、情欲を感じかけていたアリアズナの胸に《づくん》…っと響く。
『ああ…この子は、恐ろしくて堪らないんだ…』
有利はケイル・ポーが察したように、離ればなれになり…もしかしたらこれが今生の別れにもなりかねない恋人を、取り縋って止めたいという衝動と戦っているのだ。
けれど…彼は、コンラッドを止めはしない。
それはきっと、この世界を救いたいという望みと共に…コンラッドの心に残る《傷》を思う故ではないだろうか。
護ることが出来なかったルッテンベルク師団と共に戦うことで、何らかの形で過去を清算出来ると信じているのではないのか…。
「ユーリ…」
困ったように声を潜めるコンラッドだったが、鎧の隙間から手を差し入れられ…雄蕊を擦り上げられると甘く噛み殺した声が上がる。
「ん…っ」
『うっわ……っ』
こんな声を出すのか…と、アリアズナは何とも言えない居心地の悪さに尻が痒くなってしまう。
なんというか…兄弟の性交を覗き見ているような気分だ。
「お願い…」
跪いた有利が鎧の影に顔を寄せれば、その中で何が行われているかが如実に音声から伝わってくる。
ぬ…ちゅく…
くぷぷ……っ
舌が絡みつき、口唇が吸いつく…濡れたような音が淫らに耳孔を擽り、あえやかに響くコンラッドの声音が絶妙のハーモニーを見せてアリアズナを煽った。
『あのちいさな…形の良い唇が、あいつのデカイやつを含みこんでんのか?』
昔、湖で一斉に水浴びをした時に見る機会があったのだが…《夜の帝王》の名が伊達ではないことを、コンラートのそれは証明していた。
「ユーリ、お尻を俺に向けて?」
「ぅん…っ!」
こっくりと頷いて、素直に晒された双丘は真っ白で…すべやかで…アリアズナは《ごくり》と喉を鳴らしてしまう。
「…っ…」
瞬間…コンラッドの顔がこちらを向いた。
「…………っ!」
《ひ…》っと喉が鳴りかけるが、寸前で押しとどめていたら…コンラッドはそのうち頭を巡らせ、目の前の恋人に集中し始めた。
「ゃ…っ!そ、そんなとこ……っ」
「いいから…」
何をしているのかと興味を引かれて、危険を覚悟でおずおずと頚を伸ばせば…コンラッドは合わせた有利の太股の合間に、自分の雄蕊を挟み込んで前後させていた。
* * *
『熱い…』
自分から積極的な行動に出たくせに、今まで体験したことのない性技を与えられると…有利は怯えたように背を丸めてしまう。
敏感な内腿に挟み込まれた雄蕊はやけに熱くて、最大限にコンラートが接触してくると、お尻に硬い装甲を感じると同時に…自分の花茎とコンラッドの雄蕊とが接触しているのを感じる。
そのまま二つの肉棒を合わせて大きな掌に包み込まれれば、ぐちゅりと濡れた音が響いて互いの欲望を感じさせた。
ぐちゅ…
ちゅぐ……じゅ…っ
「ん…くぅん…っ…」
普段よりも激しく、性急な手つきで追い上げられれば…堪えるつもりなどない性感は素直に愛欲を感じて蜜を滴らせていく。
とろとろと零れていく粘液はすぐさま雄蕊を濡らし、それが内腿の間を前後するたびにぬるついた音と感触で有利を高めていく。
濡れた手は時折、解れ具合を確かめるように蕾へと挿入されるものだから…それもまた有利の性感を鋭敏に高めていった。殆ど触れられていない胸の桜粒までが痛いほどに硬く痼り、気まぐれに掠めていく指先が《ぴぃん》と先っちょを弾けば、あえやかな声が喉奥から響いてしまう。
「あ…熱くて…おっきぃ……っ…欲しいよぉ…コンラッド…意地悪しないで、頂戴…?」
「すぐに挿れてあげる…ユーリが、上手にイけたらね」
耳朶に甘く囁かれ、きつめに首筋を噛むと同時に《きゅう》っと花茎を握り込まれれば、高められていたそれは呆気なく情欲を開放してコンラッドの掌を白濁で染めた。
「ぁ…はぁ……ん…っ」
ぴゅぐ…どく…っと数度に分けて放たれる迸りはコンラッドの手によって雄蕊に絡められ、十分に濡らされた蕾へと太い亀頭部分が押し当てられる。
ぐ…ぷ…っ
「はぁん…っ」
自分でも恥ずかしくなるくらい淫猥な声が漏れるけれど、そんなことを気にしていられたのは、ずぶずぶと太い肉棒を差し入れられている…そう自覚できていた間だけだった。
「ん……っ…」
「凄い…締め付けて…俺を食いちぎってしまうおつもりですか?」
「そ…な……っ…ぁん…っ」
燻らすようにゆるゆると前後させた後…感じやすい肉粒を押し潰すようにして擦られれば、軽口にまともに応対することも出来なくなる。
コンラッドの存在を息が止まるほど身体の奥底に感じながら喘ぐことは、幸福感と切なさを感じさせる行為であった。
すぐに…その温もりが離れていくことを知っているからだ。
『でも、これが最後じゃない…っ!』
絶対に…絶対にまた会うのだ。
会って、一緒に未来へと歩んでいくのだ。
その為には、有利は彼に言っておかなくてはならないことである。
「コン…ラッ……っ…」
激しく突き上げられ…再び勃ち上がりかけた花茎を巧みに嬲られながら、有利は懸命に声を発した。
「お願い…無事に、帰ってきて…ぇ……」
「帰ってきます…誓います。あなたのもとに、必ず帰ると…っ」
背後から体幹を抱き込まれ、一際強く突き込まれた瞬間…コンラッドの雄蕊は頂点を迎えて、有利自身も触れることの叶わない深部へと欲望の証を注ぎ込んでいく。
脳内が白く電撃様の衝撃に見舞われて、痺れるような…痛いような快感が下肢から力を抜こうとするけれど、有利は力一杯踏ん張って(そのせいで、余計にコンラッドを締め付けることになったわけだが)…哀願するように叫んだ。
「誰を…傷つけることになっても、お願い…っ!俺のために…無事に帰ってきて…」
「ユーリ…」
有利の声は涙混じりのものとなり…縋り付いていた柵に顔を伏せて啜り泣く。
シャツのはだけた肩は儚げに震えていた。
「たとえ相手を殺してしまっても…それは、俺の為だと思って…。あんたが、気に病んだりしないで…っ!」
* * *
『あの坊やにとっちゃ…デカイ覚悟なんだろうなぁ…』
敵対する人間をコンラッドが斬り殺すことになってもいいから、無事に帰ることだけを考えてくれと…そう、懇願しているのだ。
戦い慣れした男達からすれば《何を馬鹿なことを》と失笑するところだろうが、アリアズナは…彼にしては珍しく笑い飛ばすことが出来なかった。
血を嫌っているだろう有利にとって、それを口にして明言することがどれほど重いことなのか…彼を知ったばかりのアリアズナでもうっすらと推し量ることが出来たからだ。
「分かりました…どんな手を使ってでも、俺は帰ってきます」
「うん…卑怯でも、なんでもいいからね…」
「色仕掛けでもいいですか?」
「…………」
有利は頬をぷくっと膨らませて…口をへの字口に曲げている。
返事はない…。
どうやら場を和ませるための冗談が、えらく気に入らなかったらしい。
『おりょ…?』
コンラッドの嫉妬深さを頭蓋で感じたアリアズナだったが…どうやら有利の方も結構な焼き餅焼きであることに気付いた。
『可愛いねぇ…』
どんなに絶大な力を持っているとしても、有利はその中でアリアズナやその他大勢の平凡な者達と同じように悩み…苦しみ、恋の痛みに胸を締め付けられるのか…。
いや、もしも彼が自分の恋情を護ることだけを考えるような少年だったなら、それは可能だった筈だ。何しろ魔王陛下なわけだから、コンラッドを一分一秒でも離したくないと望めば、鎖で繋ぐことだって出来るはずなのだ。
それをせず、わざわざ何の利益にもならない戦いに恋人を送り出すのはどうしてなのか…。
『この子が、そういう子だってことか…』
何とも単純にして、感覚的な結論だ。
誰かの苦しみに寄り添い、自分だけを幸福の花園の中に置いておくことを良しとしない性格…深い慈愛というものが、彼の中には自分でも持て余すほどに溢れているのだろう。
『護って…やりてぇな』
じんわりと胸に溢れてくる想いに、無意識のうちにアリアズナは鎧の胸壁に手を当てていた。
冷たいはずの金属が…やけに暖かく感じられる。
その気持ちが果たして伝わったのかどうなのか…。
「はぁん…やぁ…ぁん…っぁあん…っ!…コンラッ…や…激しい…っ!」
「俺を欲しがってくださったのは…あなたでしょう?」
「そ…だけど…やぅ……っ」
感じすぎて涙を零す有利の脚を抱え上げ、精力的に突き上げていく度に《ぴゅく》…っと溢れる蜜が花茎を伝う。
『ありゃま〜…淡紅色の綺麗なチンポだなー…』
感心して見詰めるアリアズナの視線の先で、大きく広げられた両脚の間に有利の可愛らしい花茎が露わになり、その細身に突き込むには大きすぎる雄蕊が出し入れされる。
『………』
アリアズナは、自分の股間に視線を向けて《むにゃり》と奇妙な顔をした。
今…自分が反応しているのが、可憐な有利の喘ぐ姿であることが、信じられなかったからだ…。
これまで成熟した女体にしか感応せず、たとえ美しくとも少女に対しては欲情したことのないアリアズナであるのに…一体どうしたことだろう?
途方に暮れるアリアズナを尻目に、吐精を急ぐ恋人達は次々に情欲を放つのだった。
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