「ラブポーションbX」A

 

 

『息子さん、こんにちは』

『今日のお父さんは薬の飲み過ぎで危険なことになってるね?』

『ああ…でもそういえば俺、明るいところで君に会うの初めてだなぁ!』

『君ったら大きくてがっしりしてて反り返ってて…随分と偉そうというか立派というか…』



 

「あわわわわ……っ!!」

 思考上で一人漫談などやっている場合ではない。

 下着からぽぃ〜んっと勢いよく飛び出してきた雄蕊を目の前にして、有利は目を白黒させて大慌てした。

 これまでは出来たての恋人ということもあり、有利が恥ずかしがるので明かりも最低限しかつけず、そもそも基本的には深夜の寝室でしか情を交わすことはなかった。

 それが、周囲の声がこんなにも近しく聞こえる場所で、真っ昼間から男性器とご対面するというのは、有利にとって今すぐ脱兎の勢いで逃げ出したいような状況であった。

  逃げたとしても、軍人一筋80年のコンラートにはすぐに捕獲されてしまうだろうが…。

「あの連中…以前からずっと、あなたを狙っていたんですよ?俺はそれを目にしながら…ずっと思いを抑えていました。あなたはヴォルフの婚約者でしたから」

 自嘲するように囁いてすらも、その美声は渋みを滲ませてぞくぞくと有利の背筋に響いていく。

 何もかも好きなようにしてあげたい…そう思わせるほどに、コンラートの声は強烈な魅惑魔法でも帯びているかのようだ。

「けど…思いがけずヴォルフが婚約破棄をしてくれたおかげで…あなたに本当の想いを伝えることが出来ました」

「あの事がなかったらあんた…ずっと、耐えていたの?」

「たとえ我が儘ぷーでも…大事な弟ですから…」

 伏せられた睫は思いのほか長く、色を濃くした琥珀色の瞳が切なげに影を帯びるから…有利は目の前の欲望に唇を添えずにはいられなかった。

 恐る恐る、れる…っと舌先で嘗めれば、ぬめる先端は透明な雫をぷくりと浮き上がらせ、ちいさくあがった《ぁ…っ》という嬌声が愛おしくて、有利はぱくりと亀頭部分を口内に招き入れてしまう。

「あんたが言わなくても、俺…いつかきっと、あんたに告白してたと思う」

「嘘ばっかり」

「ほんとだよ?そりゃ…鈍いから気付くのに時間は掛かったかも知れないけど…」

「そう…ん……っ」

 育ててしまったこれが、後で自分に牙を剥くのだと知っていても…下着に自ら指先を差し入れ、ふにふにと小袋を弄ることさえ平気になってきた。

『こういうトコの毛までライオンみたい』

 付け根から丁寧に舌を這わせながら、毛並みを整えるように指でなぞると、満足げな声が降り注いでくる。

「上手ですよ…ユーリ。おしゃぶりが上手になったね」    

「馬鹿…おっさんくさいよ」

「ユーリに比べたらおっさんだからね。こういう事も好きなんですよ」

 くすくすと笑いながら有利の脇を掴むと、勢いよく抱え上げて器用にズボンを下着ごとずりおろし、勢いよく飛び出してきた花茎に舌を絡めれば、こちらは有利の辿々しい技量など遙かに凌駕する巧みさで持ち主を追いつめていく。

「ぁあ…や……駄目……っ。こ…声……殺せな……っ」

「いいですよ…この際、遠慮しなくて良いのなら、見せつけてやりたい…」

「いや…ちょっとは遠慮して……っ!公然猥褻は…駄目……っ!」

 明るい陽光に透ける睫の下から、実に楽しそうな瞳が見上げてくる。

 ちゅくちゅくといやらしい音をわざとたてているのも、有利が堪えきれなくなる瞬間を待ち望んでいるかのようだ。

 実際…何人かは目撃者が欲しいとでも思っているのかも知れない。

 

「ねえ、今…何か声がしなかった?」 

 

 聞き覚えのある声は、リネン類の洗濯を担当する若い女官のものだった。

 びくりと頭髪を掴む指に力が籠もり、地肌に掛けてしまったストレスがコンラートの眉を顰めさせる。

「気のせいじゃない?」

「ううん…だって、その辺でしたのよ?確かに陛下のお声だったわ!あの少ーし鼻に掛かった愛らしいお声は、陛下以外の何者のものでもないわ!」

 好奇心たっぷりでくるくると良く動く少女は、同僚の言葉を真っ向から否定して辺りを見回す。

「や…やばいよコンラッド…っ!」

「良いじゃないですか。彼女は随分とユーリの声に詳しいらしい…。折角ですから、佳い声を聞かせてあげてはどうですか?」

 例の塩辛の影響なのか、コンラートはいつになく意地悪な声をあげてくすりと嗤う。

「駄目……ゃ……らめ……」

 くち…くちゅ……

 粘性の音が次第に強くなっていく。

「駄目と言いつつ、あなたのここは随分と反応が良くなっていますね。意外と…こういうプレイ、お好きですか?だとしたら色々と開発しがいがありそうですね…」

「プレイっていうな…ぁ……っ」

「減らず口は相変わらずですね。こっちまで濡れているみたいですけど?」

 狭い路地裏で下草の上に仰向けにさせられると、上半身はきっちりと魔王服を着込んでいるのに、剥き出しにされた下肢を大きく割られ…双丘も拡げられれば無防備に蕾が空気に晒される。

 ぷるん…と限界近くまで高められた花茎は、あろうことか…有利の顔面に向く形でロックオンされている。

「さあ…いまからココを弄ってあげたら、ユーリは自分のミルクを浴びちゃいますね」

「や…嘘……っ!駄目…っ!」

 思わず大きくなってしまう声を、耳の良い女官が聞きつけてしまう。

「やっぱり陛下だわ!しかも…《や…嘘……っ!駄目…っ!》って艶っぽく言った!絶対言ったっ!!」

 瞳を輝かせて興奮する女官に、有利は泣き出しそうな心境になってしまう。

 

『ぎゃーっ!!』

 

 こんなあられもない姿を見られるくらいなら、いっそコンラートのものを嘗めているときに発見されていれば良かった!

 もしかして、ミミズにおしっこを掛けて腫れたところに治癒術をかけているとでも思ってくれたかも知れないし!(←迷信です)

 下半身剥き出しで自分の精液を浴びる王様なんて、自分が家臣なら絶対見たくない(…というか、何の関係のない人のそれでも見たくはない)。

 しかし、思いがけない救いの手がもたらされた。

「メイ、あなたは何も聞かなかった…ことにしときなさい」

 同僚はそう断言すると、メイと呼ばれた女官の襟首を掴んでズルズルと引きずり出したのである。

「違うわよ〜っ!絶対聞いたんだったら!」

「だからこそよ。空耳ならまだいいけど、本当に聞いていたんだとしたら余計に追求しちゃ駄目よ?それがこういうところに勤める女官のマナーってものなんだから」

「なにそれ!?」

「いい?メイ…私は前の勤務先で、余計なものを目にし、耳にしたせいで消された女官を知っているわ」

「……っ!」

「いいこと?自分の身が可愛かったら、こういう状況下では絶対に気付いたことを口にしちゃ駄目」

「えー?」

  文句は言いつつも…《消された女官》の噂は怖いのか、メイは大人しく引きずられていったようだ。

 通路付近には…不自然なほどの静寂が戻る。

 

 チ…っ

 

「いま舌打ちした!?ねぇねぇコンラッド、いまあんた舌打ちしたよね!?」

「気のせいですよユーリ。それより…いいんですか?このままで…」

「良くないけども〜っ!俺にどうしろと!?」

「おねだりしてください。《俺のミルク飲・ん・で》…って」

「……っ!!」

 一体何を言い出すのかこの男…真っ赤になってぱくぱくしていると、唾液で濡らした指がくちくちと蕾の中に分け入り、傷つけないように慎重にではあるが…ゆっくりと挿入されて…有利の弱い部分をこりこりと刺激し始める。

「まだ後ろだけではいけないでしょうけど…」

 ぺろりと紅い舌が突き出されると、そのまま高ぶる花茎の裏筋を舐め上げる。

「ここ…弱かったですよね?」

「ひぁあ……っっ!!」

 びくびくと震えて硬度を増す花茎は血管を浮かべて腹を打ち、今にも吹き出しそうな勢いで有利の上半身を狙っている。   

「コンラッド……はわわ…」

「ね…言って?ユーリ……」

「んん…っ……」

 くり…っと肉筒内で蠢く指の動きに煽られ、有利は我を忘れて叫んだ。

「飲んで…俺のミルク……っ!」

「良くできました。良い子だね…ユーリ……」

 茎を掴まれ、方向転換させられた先端が唇の中に含み込まれると同時に指の動きは激しさを増し…深い密度の感覚の中で、有利は溢れ出す情欲の証を恋人の口の中に放ったのであった…。

 

*  *  *

 

「ぁ……ゃん……っ!も……無理……」

 コンラートの自室に連れ込まれた有利は、それから一晩中(昼間からやり続けているので、正確にはプラス半日である)抱き続けられた。

 お互いもう勢いよく吐き出す物もなくなって、ゆるゆると薄い液が持続的に溢れてくるのだが、それがまたじんわりとした快感をもたらしてくる。

「コンラッド…ねぇ……く、薬…もう切れたんじゃないの!?」

「まだまだ駄目ですねぇ…。ちっともやった気がしません」    

「ふぇぇええ……んっ!」

「気持ちよくないですか?」

「そんなことはないけども〜〜っ!!」

 確かに気持ちは良い。

 だが、何事にも限度問題というものがある。

 有利は本日何度目かになる頂点を迎えると、やはり何度目かになる意識喪失を味わったのであった。

 

*  *  *

 

 それから三日の後、薬が抜ける頃には有利は全精力を使い果たしてぐったりと脱力し、コンラートは悪いモノでも抜けたみたいにすっきりした顔で、艶々した光沢を湛えていた。

「ううう〜…何かこの三日で失ってはイケナイ何かを失った気がする」

「得たものもあるじゃないですか。随分と…」

「だーかーらー〜っ!それが不味いんじゃ〜んっ!」

 それはもう色々と開発されてしまった有利は、後戻り出来ないほど濃厚な道に踏み込んでしまった。

「すみません…俺はとっても楽しかったんですが、ユーリにとっては辛い三日でしたね…」

「もー…辛いばっかりじゃなかったって分かってて言ってるだろ?」

 ぽかっと胸を叩く仕草も見ている者が馬鹿馬鹿しく思うくらい甘いので、この二人に関して言えば、実のところそれほど被害があったわけではない。

 大変なのは…もう一組、いや…二組か?

 

*  *  *

 

「私は一体……」

「良い頑張りでしたよグウェンダ〜ル?少し体調が戻ったら、またよろしくお願いしますね?」

 ほくほく顔のアニシナの横で、グウェンダルは呆然と自分の身体を見詰めた。

 

 何故…紐パン一丁でアニシナの実験室にいるのだろう。

 いやいやいや…それよりも一体何故、自分には豊かな胸がぽい〜んと生えているのだろう?

 経過を覚えていないわけではないのだが、自分の記憶の中にあるものが真実だと認めたくない。 

 

「アニシナ…私は一体何故あんなことを…!?じ…自分が信じられないっ!!」

 心なしか声が高いこととか、紐パンの中にあるべきものがないとか、腰が小気味よく括れていることが物凄く気になるが、確認したくない。

「ほほほ…あなたと来たらとても従順で可愛かったですよ。詳しく知りたいですか?」

「し…知りた……」

 知りたいのか知りたくないのか…。

 グウェンダルはふるふると子ウサギのように震えながら、唇を噛みしめた。

 彼にとって最大の謎は、この悪魔となんだかんだで手が切れないことだ。

「仕方がないですねぇ…ま、そのような恰好でいつまでもへたり込んでいるものではありませんよ。女体に冷えは禁物です」

「言うなぁぁぁぁ……っ!!」

 

 グウェンダルの絶叫が夜の静寂に響いていった。

 

*  *  *

 

「あの…ギュンター閣下ぁ……これは一体どういう訳なんでしょーか?」

 ここにも、知りたいけれど猛烈に知りたくない男が居た。

「おや…ヨザ、急に何を言ってるんですか?」

 眞魔国きっての美形王佐ははにかむように微笑むと、つん…っと形良い指先でヨザックの胸筋を突く。

 弾力性のあるその張りをうっとりと見詰めながら、ギュンターは自分の裸体に薄衣を巻き付ける…。

「昨夜のあなた…とても素敵でした。最初は強引で私も戸惑いましたけど、あんなに激しく求められたのは初めてのことでしたから…今ではもう、あなたに全てを捧げたいという気持ちで一杯です」

 語尾にハートマークを滲ませて菫色の瞳が輝くのを、ヨザックは慄然とした思いで見詰めた。

 

 何故…自分はギュンターと同じベッドでこんなに親密な空気を醸し出されているのだろう?

 いやいやいや…それよりも一体何故、この部屋には男臭い据えた匂いが充ち満ちているのだろう…。

 経過を覚えていないわけではないのだが、自分の記憶の中にあるものが真実だと認めたくない。 

 

「あの…俺……どーしてあんなコトしちゃったんでしょうね?」

「うふふ…最初はアニシナの薬を恨みましたけど…。今となっては新たな扉を開けてくれたことに感謝しています。それよりヨザ。あなた…私をこんなにメロメロにしておいて、無かったことにしたい…なんて事はありませんよね?」

 いつもいつも割を食い、鼻血を出して昏倒するかハンカチを噛みしめているだけの印象しかなかった男が、整いまくった顔で冷然と凄むととてつもなく迫力がある…ということをヨザックは初めて知った。

「ええと…ちょっと任務を思い出し……」

「他の者に任せておきなさい。それより…我に返ったのでしたら今後のことを詰めておきましょう?」

「え…えぇえええ…………っ!?」

 

 ヨザックの絶叫が夜の静寂に響いていった…。




 

 国家の中枢にある者達が数日間こんな調子でも回る眞魔国は、奇蹟の国と言って良いだろう。






 

おしまい

 

 

あとがき

 

 龍蘭様のリクエストで、「アニシナさまと大賢者が共同開発した惚れ薬を誤ってコンラッドが飲んでしまい、呑んでからはじめて見た有利に腰が砕けるような良い声で恋人同士にも関わらず愛の言葉を囁き膝に乗せて触りまくるコンラッド(裏バージョンで)」というお話でした。

 

 ギャグですよ。

 ええ。ナンセンスギャグです。この話は。

 道義的な意味合いとか、他の話との関連は考えちゃ駄目です。

 

  頼まれてもいないカップリングの方ではっちゃけてしまった感が強いですが、コンユの方だけでも楽しんでいただければ幸いです。


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