「お庭番の観察記録」
〜 夜ヴァージョンA 〜







 寝台の下からこっそりと覗き込めば、信じがたいような光景が広がっていた。

『お…わ〜……』

 目元を長い黒布で縛られた有利は困惑した様子だが、激しく抵抗したりはしない。

 根底に強い信頼感があるためだろうが…それでも、淡く紅潮した頬と薄く開かれた桜色の唇…そして、端がへたりと下がった眉が心細さを示していて、ちんまりと寝台の上にへたり込んだ姿も相まって…ついつい傍に寄って抱きしめたくなるような可憐さを放っていた。

 コンラートの方もそれは同様であるらしく、無意識に伸ばした腕を《はっ!》…っと我に返ったように戻していた。

『別に…抱いてやりゃあいいんじゃねえの?』

 そうは思うのだが、あちらにもそれなりに《戦略》というものがあるらしい。

 視覚を奪った状態で、敢えて距離を置き…肌恋しい状態を作ったところで、甘い声がそっと囁いた。

「ユーリ…お口を開いて?」
「く、口…?」

 びくん…っと、有利の肩が揺れてのが分かる。
 短い沈黙の間に、色々なことが脳裏に想像されたに違いない。
 きっと、エッチなことを想像しているだろう有利の腿が…きゅうっと合わされた。淡く…汗も掻いている様子で、白い背中から立ち上る香りがここまで伝わってくるようだ。

 ひどく、緊張している。

 だが、それが嫌悪によるものでないことは確かだっだ。コンラートががっついてこないせいもあるのだろうが、有利は次なる言葉が掛からないことに焦れたように…ぺろりと小さな紅い舌で唇を拭った。

 ちゅ…ぷ……

 夜気の中に響く水音が、やけに淫らに響いた。

「……っ!」

 自覚があるのだろう。
 有利は耳まで真っ赤にしていよいよ肩を狭めていた。

「口…なに、いれるの?」
「良いもの。ユーリが…好きなものだよ?」
「…………っ……」

 《あ…む》と、有利の唇が物言いたげに動く。
 《入れる》なのか《挿れる》なのか……。
 
『それで随分と意味合い変わってくるよねぇ…』

 何だか一緒になってドキドキしているヨザックの前で、コンラートの指は機械の突起部分に掛けられている。
 どうやらこの機械は一瞬一瞬の風景を切り取るだけでなく、動いている情景も記録できるらしい。

『どんな感じで撮れてるんだ?』

 こっそり忍び寄って背後に回り込むと…機械の小さな画面の中に、有利の姿は刻々と記録され続けていた。
 
 唇を舐める舌の動きが大きく映し出されれば、清楚な中に潜む淫靡さが垣間見える。
 そぅ…っとコンラートが身を乗りだすと、更に息使いが感じ取れるほどの距離から…淡く隆起した胸とエプロンとの端境(はざかい)が、ぞくぞくするほどの色香を帯びているのが見て取れた。

 呼吸が、浅く速い…。

 女の子のようではないけれど、適度に筋肉のついた胸は少しばかり膨らんでいて…その先端で淡紅色をした桜粒が上下する様が、有利の興奮の度を教えていた。

『ちょこっと…硬くなってる?』

 これは、愛撫を知っている躰だ…。

「口、開けられない?ユーリの好きなもの、いれてあげるのに…」
「開け…るよ?」

 再度為された囁きは、掠れるような…切なげな響きがあって、有利は怯えと期待の混じる表情で反射的に口を開け…そして、ぴょいっと含まされたものに驚いていた。

「甘…」
「好きでしょ?その店のトリュフ」

 にっこりと微笑みながら、きょとんとしたような有利の顔を拡大して撮っていく。
 悪戯に成功した少年のような笑顔は幾度も死地を越えてきた男のようではなく、素のままの朗らかさで、有利の表情が驚きから笑顔に変わっていく様子を愉しんでいた。

『へへ…いい顔で笑うようになったもんだなぁ…』

 思えば、士官学校に入ってからコンラートの印象は変わってしまっていた。

 強力な守護者であったダンヒーリー・ウェラーを亡くし、歴(れっき)とした魔王陛下の息子でありながら、混血故に貶められ、正当な評価を得ることの出来なかった日々…そして、親友であったスザナ・ジュリアの死…。

 打ちのめされ、荒みきっていた眼差しをこんなにも楽しげに…柔和にしてくれる存在は、きっとこの渋谷有利だけなのだ。

 そのことが嬉しくて堪らないと感じる自分もまた、随分と変わってしまったものだとヨザックは苦笑するのだった。

「コンラッド、これ…美味しい!もっと食べたいな」
「ええ、どうぞ…」

 ホワイトチョコのトリュフを長い指が摘むと、今度は飛び込ませるのではなく指先を含ませるようにして口腔内に挿入される。
 何の疑いもなく口に入れた有利だったが、もにもにとチョコレートを食べようとする中に指の存在を感じて困惑し…次いで、恥じらいを見せて俯こうとした。

 コンラートの指が意地悪に口腔内に留まり続けているために、有利は含みきれない唾液とチョトレートの混ざり合った液体を、つぅ…っと口角から零してしまったのだ。
 勿論、目隠しをしたまま白い液体を伝わせるその顔貌は、きっちり機械の中に記録されていく…。

「こ…こんひゃっと……」
「ああ、勿体ない…」

 ぺ…ろ……っと、殊更ゆっくりと舐め上げられて、有利は《ひゅう》…っと喉を鳴らし、反射的に反り返ったその頚にも液体は流れていく。
 それなのにコンラートには容赦が無く、新たに褐色のチョコレートを含ませてはこれもとろとろに蕩かせ…溢れ出た液体を首筋から胸元へと誘い込んでいく。

 舌はその度にねっとりと肌を伝い、鎖骨を甘噛みしたりするけれど…感じやすい桜粒はわざと外しているのか、可哀想なくらい硬く変化しつつあるのに愛撫を求めて震えている。

「こん…ひゃ……っ…」
「ほら…綺麗になった」

 はぁ…は……っと浅く速い呼吸を繰り返す有利は、確かにもうチョコレートでは汚れていなかったのだけど…もどかしげに摺り合わされる太股の間では《何か》がとろとろに溢れ出しているはずだ。

 けれど、コンラートは何も気付いていませんという顔をして、有利の口元に新たなアイテムを押しつけていく。

「今度はこれを銜えてみて?」
「ん…?これ、あ…人参?」
「わー…可愛らしいですよ!凄くお似合いです。いや〜…グウェンが見たりしたら、悶絶したまま絶句しそうですね。ギュンターは失血死しそうですし…」
「………そう?」

 照れたように人参に囓りついている有利は確かに愛らしく、揺れる白いウサ耳とも相まって超絶可憐なお姿である。…のだが……。ヨザックはあることに気付いてしまった。

『あれは…夜仙果じゃねぇのか?』

 根っこのように硬く、囓れば幾らか甘い味のする夜仙果は生薬として重宝される代物なのだが…。その効能は強い性欲増強である…!

 案の定コンラートに言われるままポーズを取り、その度に夜仙果を囓る有利の息が益々妖しく変化していく。

 夜仙果を銜えて四つん這いになった有利はあられもない姿を晒し、羞恥に内腿を震わせながらも…そのこと自体に興奮するかのように、コンラートに向かって小振りな尻を振って見せた。
 黒い紐パンの腰部分で白いふかふかした尻尾が揺れ、その下では殆ど剥き出しとなった水蜜桃のような尻が誘うように揺れている…。
 
 よくまあ、鷲づかみにして嘗め回すのを我慢できるものである。
 その分…嘗め回すようにして映像を撮っているわけだが…。

「良いですよ、ユーリ…ああ、そのまま…そう……お尻を突き出して?うさぎの尻尾がとても可愛いね…。グウェンに見せてあげたいな」

『心にも無いことを……』

 絶対、この男のことだ。猊下の機械を使ってはいるが、何か考えがあるに違いない…。
 これまでの生涯では滅多に発揮されることの無かった独占欲は、現在今までの分を取り返す勢いで凝縮し、濃厚なものとして有利の身に降り注がれているのだ。
 幾ら敬愛する兄とはいえ、こんな姿を見せる筈がない。

「あれ…?グウェンに見せるといった途端に、どうしたんですか?ここ…」
「ひぁ…っ!」

 嫉妬めいた声が響いたかと思うと、しゅるりとコンラートの手が下腹に潜り込み…半ば勃ちとなった花茎を黒い布地ごとゆるゆると揉み込んでいく。

「ユーリはグウェンに見られたいの?こんないやらしい姿で…蜜を零しながら誘ったりしないで下さいね?」
「違……ひ…っ!…」

 意地悪なまでの巧みさでぷにぷにと先端を嬲られれば、中途半端に煽られていた花茎は奮い立ち、布地の下であるにもかかわらず濡れた音を立てて掌の中でぬめる。

 くちゅ…
 ぢゅ…ぷ……
  
「も…ゃ……止め……」 
「止めて良いの…?」

 くすくすと笑みを零しながら、コンラートの片手はもう一方の手が嬲り続けている花茎を機械の中に写し取っていく。《止めて》と言いながら動きを止めようとする手に、有利自身の手が掛けられる様子に笑みが一層深まった。

「や…じかに…触っ……。焦れったい…よぉ……っ」
「どうしようかな?」

 意地の悪い声を掛けながら、更に苛めっ子な指が双丘に半ば埋まっていた紐パンを指に掛け、後ろにぐぃっと引いてしまう。

「ひぁん…っ!」
「やらしくて…可愛い声!」
「や…ゃ…っ、それ…やめ…っ!」

 く…くぃっと巧みに牽引される布地が刺激をもたらすのか、有利の花茎はもうそれだけの刺激で到達してしまいそうに見えた。

『あ〜…う〜…畜生!舐めしゃぶってやりてぇ…っ!』

 生殺しの愛撫はヨザックにしても同じような効果をもたらしているらしく、勃ちあがった雄蕊は先端を濡らして前立てを圧迫している。
 有利の中に突き込むような真似は間違っても出来ないが(←即死させて貰えればラッキーという程度の扱いをされそうだ)、自分のものは自分で慰めつつも、何とか有利の情欲を開放してやれないものだろうか?

 荒くなりそうな息をどうにか押さえつつ、ヨザックはぎゅうっと痛いくらいに雄蕊を握り込んだ。
 手の中で、どくんっと跳ねる熱が疎ましい…。

「止めて欲しい?じゃあ…どうしたい?ユーリ…」
「それ…は……」
「言えないとこのままだよ?」
「……お…願い……。イかせて……」

 もう涙混じりになってしまった声が、濡れながらシーツに染み込んでいく…。
 その声にぞくぞくと欲情している癖に、コンラートはまだ恋人を焦らすつもりでいるようだ。

「その前に、もっと可愛い恰好が見たいな。このままだと、有利の顔が見えないからね」

『自分で誘導しといてナニ言ってやがる…』

 突っ込みたいが突っ込めない。
 音声にして突っ込んだが最後、土手っ腹に剣を突っ込まれてしまう。

「ほら、これでよく見える」

 有利は膝裏を掴まれると、仰向けで大きく開脚したままコンラートに股間を晒すことになってしまう。
 淡い燈火のもとでも明確な高ぶりが、黒い紐パンを押し上げて苦しそうに震えていた。

 自分で視認することは出来ないことが、コンラートからの視線を余計に意識させるのか、有利はこれ以上ないと言うほど全身を朱に染めて、両手をクロスする形で顔に掛けて嫌々をした。

「…は、ハズカシーよぉ……」
「俺は恥ずかしくないです」
 
『あんたはそうでしょうよ……』

 こんな時まで無駄に爽やかな声に、ヨザックは思わず目頭が熱くなった。
 気の毒な魔王陛下…恋人の経験値が桁違いなのに、精一杯ついていかざるをえないのが切ないところだ。

 考えてもみれば向こうっ気の強い有利のこと、こんなことを強要されているのであれば何としても抵抗してみせるだろう。
 それが、あんなにも愛らしく《嫌々》するだけの…寧ろ《誘っているのか》と言いたくなるくらいの抵抗しか見せないということは、結局の所コンラートが愛おしくて堪らないのだろう。

 何をされても、最後は抵抗できないくらいに…。

『健気だねぇ…』

 さてはて、一体どこまで耐えられるのだろうか?
 何だかその限界点も気になるところだ。

「ねぇユーリ…さっき、グウェンのことを言ったら濡れていたのは、本当に関係ない?」
「あるわけ無いだろ!」

 念押しのような言葉には流石に引っかかるものがあったらしい。
 先程までの可愛らしい声ではなく、ちょっと男らしく否定して見せた。

『お…?喧嘩になるか?』

 それはそれで心配になってドキドキしていたのだが、そんな懸念はするだけ無駄であった。
 色事に限って言えば、ウェラー卿コンラートに死角はないらしい。

「そうですよね…!嬉しいな」
「当たり前だろ?お…俺はぁ……あ、あんただから、こーゆーこと……」
「そうですよね?男前なユーリが恥ずかしい恰好をみせてくれるのも、こんなことをさせてくれるのも…全て、俺が相手だからでしょう?……嬉しいな…本当に、嬉しい」
「えへへ…」

 照れたように笑いながら機嫌を直す有利だが、自分の置かれた状況がどんなものであるのかスコポンと失念している感がある。

「では、俺以外のものが触れても興奮したりはしませんよね?」
「もう、しつこいな!しないよっ!」
「じゃあ…試してみますね?」

 有利の紐パンがずらされると、小さな桜色の蕾がお目見えする。
 まだ何ら愛撫を施されていないのだが、それでもしとどに濡れてきた蜜が幾らか滲んできたのか、うっすらと湿ってひくついている。

 そこに…《くぷ》…っと押しつけられたものがあった。

「え…な、ナニ…っ!?」
「行きますよ?」

 蕾の中にくぷりと入り込んできたのは細い管のようなもので、その本体はコンラートの手の中に収まった袋状のものであった。その手がゆっくりと握り込まれていくと…袋の中に詰め込まれていた何かが、じゅるる…っと音を立てて有利の内腔に入り込んでいった。

「ゃや…ゃぁああ……っ!?」
「力抜いて…ユーリ。ほら…もう大丈夫…少し変わった潤滑剤を入れただけですよ?ただ、ちょっとたっぷりだったから吃驚させてしまいましたね?」
「や…ふぁ……」

 言葉通り潤沢に含まされたらしいジェルは、コンラートの指が少々迅速過ぎる動きで入り込んでも、荒っぽく色んな方向に蠢かせてみても痛みを訴えることはなかった。
 それどころか、指がぬるぬると擦過していくたびに有利の声には色香が濃く立ち込め、艶やかに響いてはヨザックの雄蕊を成長させていった。

『く…んぁあああ……っ!』

 力一杯扱きたい…っ!
 この素晴らしいおかずを前にして、指一本出せない状況が恨めしい…っ!

「うん…もう良い頃かな?」

 ぐぷぐぷと最後確認のように指を揺らめかせると、コンラートは指を抜き出し…どぷりと溢れてくるジェルに《栓》をする。
 それは夜仙果…硬く、結構な太さを持った生薬であった。

「ふぅん…く…っ…ゃはぁ………っ!」

 ぬ……ぷ…。

 流石に指のようには行かない夜仙果を、有利を傷つけぬように細心の注意を払ってめり込ませていくコンラート…。
 夜仙果はしかし、栓としての機能を果たすには構造上難しい面があるらしく、ずぷぷ…っとめり込んでいくたびにピンク色をしたジェルが内腿を伝って垂れていく。

「ここ…佳い?」
「ゃだ…やぁあ…っ…コン、ラッ…やーっ!」

 まだ半ばほど迄も挿入されてはいないものの、緑色の葉っぱを垂らした植物が清廉な少年の中へと埋め込まれていく様は実に背徳的で、それがまた…映像として記録されているのだと思えば一層その思いは深くなる。

『やべぇ…っ!』

 苦悶と快楽の入り交じった表情でシーツに頬をすり寄せる有利を眺めながら、ヨザックはとうとう雄蕊に絡めた手を上下させ始めてしまった。
 脳髄を電撃に似た甘い痺れが襲い、直接女の中に突き込んだ時よりも激しい快感に、声を殺すことに必死になってしまう。

 下着の中でどくりと白濁を吐き出したのは、有利ではなくヨザックの方だった。

 頂点に行き着く直前で、有利の花茎はコンラートに付け根部分を握り込まれていたのである。 

 
  



→次へ