「キャンバス」
えっちしーん
※たぬき缶「キャンバス」5の車内「好きだよ」後に館に帰ってきたところからです。







 乱暴な扱いに少し草臥れ気味のシャツのボタンを外し、華奢な造りの鎖骨にかぷりと歯を果てる。

「痛…っ」
「嫌?」
「イヤ…じゃあないけど、そういうとこ触られる事ってないし…。つか、あのさ…今更ながら何だけど…」

 有利はもごもごと言い淀んだ後、ぽつ…と頬を真っ赤に染めて呟いた。

「あの…あのさ?今から、何すんのかな?」
「…………」

 何となく予想はしていたのだが、このまま流れで行けるのではないかと甘く見ていたコンラートは、しばし沈黙しながら有利の胸元を探っていた。

 館に戻ってきた後、あからさまに《やっちゃうぞ》と言いたげな寝室に案内するのではなく、有利が慣れているだろうサンルームに招いたのも狡い計算によるものだったかと思う。

『君が…好きだよ』

 実のところ、あの一言を口にするだけでも精一杯の勇気を必要としたのだ。スザナ・ジュリアの件で大切な者を得ることに臆病になっていたというのもあるが、そもそも、恋愛に関しては自分を高みに置いて達観するというスタンスを崩すことに警戒心がある。

 何もかも忘れて溺れることに躊躇いを覚えるのだ。

「……ユーリ…君も俺のことを好きと言ってくれた気がするんだけど…」
「うん。好きだよ!」

 朗らかに認めてこくこくと頷く有利に愛欲の色はない。実に清々しく健康的な眼差しが、彼の中に《セックス》という選択肢がないことを教えてくれる。

「…………」

 拙い。変な汗が背中を流れている。
 今まではコンラートの側が少し雰囲気を出してキスでもすれば、女性の方から服を脱いでくれたものなのだが…有利はどこまで分かっているものか、きょとんと仔犬のような瞳で見上げている。

 《何すんのかな?》と聞かれても、コンラートにしたところで、具体的にどういうことをしていいのか実は分からないのだ。男性相手にどうこうする日が来るとは夢にも思わなかったのだから…。

「全身に、キスしたいんだけど…良い?」
「口だけじゃなくて?あ…も、もしかして…アーダルベルトがしてたみたいな格好しなくちゃいけないのかな?あれ、関節痛かったんだけど…」
「いや、あんな格好はしなくて良いよ。あれはちょっとしたSMだから…」
「そ…そっか…!俺、危うく大人の階段登っちゃうところだったんだね?」

 分かってなかったんかい。
 そもそも、SMは大人でも味あわずに生涯を終えることが多いかと思われる。

「縄で縛ったりはしない。ただ…恥ずかしい格好はさせるかも知れない。君の全部を見て、キスをしたいから…」

 場合によっては、アーダルベルトがさせたのよりももっと恥ずかしい姿をさせてしまうかも知れない。まっさらな印象の有利を見つめながら、自分自身の妄想にコンラートは頬を染めた。

「…っ!」
「嫌なら、今の内に言ってくれ。君が俺を好きだと思う気持ちと、俺が君に対して抱いている欲望の形が違っていても、それは仕方のないことだから…強制はしない」
「よよよよ…欲望っ!?もしかして…俺たち、セックスすんの!?」
「………」

 真顔で言われると、何と返して良いのか分からない。極力普段通り冷静な顔を崩したくないと思うのに、気が付いたら沈黙の間に頬が上気していた。
 かなり恥ずかしい…。

「セックス…するのかぁ……」
「嫌なら良いって言ってるだろ?」
「いやいやいやいや…なんか、吃驚しただけ。そう言う意味で俺のこと欲しいって思ってくれてんだと思ったら、なんか…」

 有利はぽりぽりと指の先で頬を掻くと、照れ隠しみたいにぐりり…っと頭をコンラートの胸に押しつけた。

「なんか…嬉しいカモ……」
「…っ」
「鎖骨、俺も噛んでも良い?」
「…良いよ…」
 
 おずおずとちいさな手がコンラートのシャツをはだけて、柔らかい唇と白い歯が鎖骨に触れていく。遠慮がちな噛み口はくすぐったくて…思わずくすくすとした笑みがこぼれてしまう。

「もっと強く噛んだ方が良い?」
「いいや…丁度良いよ」
「嘘。あんた笑ってるような余裕があるじゃん」

 自分がされたときにはそれどころでは無かったせいだろうか。悔しそうに眉根を寄せると、コンラートのシャツを大きくはだけて逞しい胸筋を露出させて、胸の尖りに恐る恐る舌先を伸ばす。

「ん…っ…」

 それは、予想外の快感だった。
 尖りを中心として電流様の刺激がぴりりと肉の深い部分を伝っていき、あろうことか、ズボンに隠されていた雄の象徴にまで達してしまう。こんな稚拙な愛撫であっても、愛する人からの刺激だとこんなにも感じてしまうのだろうか?

『愛する人…』

 今更ながらに、その言葉に感動を覚える。
 スザナ・ジュリアを喪ってからずっと、自分にはそんな者を得る権利など無いのだと信じていた。その枷を払ってくれた相手が、同時に愛する人になるだなんて…何という不思議だろう?

『ほんの数週間前まで、俺は君がこの世界に生きていることも知らなかったのに』

 ちうちうと幼い愛撫を続ける有利が愛しくて愛しくて…堪らず、コンラートは少年の両の手首を頭上で戒めると、ソファに横たわる無防備な胸に、熱情をそのままぶつけるような勢いで愛撫を仕掛けていく。

「ひあ…っ!」

 胸の尖りは綺麗な桜色をしていて、ねっとりと唾液を絡めて二指で弄れば身をくねらせて嬌声を上げる。それは、思いがけないほど艶やかな痴態であった。
瑞々しい若鮎のような身体がぴちん…っとソファの上で跳ね、押さえ込んで思うさま桜粒をねぶれば、悲鳴に近い声が上がってじたばたと脚が上下する。

 そちらも押さえようとして掠めた指先に、股間の高ぶりが触れた。
 気をよくして前立てを開けようとすると、更に抵抗は激しくなる。

「嫌々嫌っ!ちょ…た、たんまっ!!」
「俺に触れられるのは…嫌?」

 抵抗の激しさが本気で切なくて、思わず切なげな声を上げると…有利は困ったような顔をして苦鳴を上げる。

「そう言う顔とか声とか…狡い」
「どうして?」
「だって…なんでも聞いてあげたくなるもん」
「それは、惚れた弱みというやつだね」

 《これは良いことを聞いた》とばかりににんまりしていると、有利の口角が明確に引きつった。

「ねえ…ユーリ、見たいよ。君の全てを…俺の前に晒して?」
「くきぅう〜…」

 わざと二人の間に距離を置いて、有利の手を取って前立てに添わせると…躊躇しながらも、覚束ない手がホックとファスナーを外していく。

「下着も…ずらして?」
「絵に…描いたりしない?」

 涙声で有利がいうから、くすりと笑って請け負う。

「大丈夫。ユーリの可愛いところは、全部俺だけのキャンバスに残しておくから」

 もしかするとこっそり、三次元空間のキャンバスにも描いてしまうかも知れないが…それは有利にも見られないように隠しておこう。

「ね…お願い」
「う…」

 高圧的な態度にはてこでも抵抗する有利も、どうやらコンラートの哀願には滅法弱いらしい。そういえば、初めてモデルを頼んだときにもそうだったように思う。

『愛されているんだなぁ…』

 その実感が、こんなにも嬉しいと感じるなんて思わなかった。

「お…降ろしたよ?」
「ありがとう、ユーリ」

 心から御礼を言って顔を沈めていくと、下着の間から覗く花茎がぷくりと勃ち上がって滴を垂らしている。

「嬉しいな…感じているの?」
「そういうこと言うなよ〜っ!」

 また隠そうとして伸ばしてきた指に舌を絡め、その指ごと花茎を両手の間に包み込めば、もう言い訳できないほど明瞭に蜜が溢れ出して、心なしか白濁した液まで絡めていく。

『これが男の子の陰茎か…』

 間近で確認するそれは、コンラートに新鮮な驚きをもたらした。勿論、男性モデルを使って絵を描いたこともあるから凝視したことはこれまでにもあるし、ギリシア彫刻のデッサンの時などはそれこそこの部位だけを画面一杯に描いたこともある。だが、こんなにも新鮮な感動を味わったことはなかった。

 先端を口に含むと、海の香りと味がして…ぷにぷにとした質感の肉が意外と気持ちいい。

「ひぁ…ん、くぅうん〜…っ…」

 上擦った声を上げて跳ねる有利が可愛くて…余計に泣かせたくて愛撫を深めていく。鈴口を乱暴なくらいに舌先でなぞったり、甘く歯を立ててやったり…根方から筒状にした掌でごしごしと擦れば、泣き声混じりの嬌声が救いを求めて腰をうねらせる。

「でちゃう…も、離して…お願い…っ…」
「出して良いよ」
「俺がやなの〜っ!」

 ぼろぼろと涙を流し始めた有利だったが、生理的な衝動をやり過ごすには限界があったようだ。一際強く吸い立ててやれば、《あっ…》という切羽詰まった声を残してどくんと蜜が弾ける。濃い少年の精液は数回に分けてコンラートの口腔内を打ち、濃厚な苦みに少し眉根が寄る。

「らめって…いったろに……」

 はぁ…と胸をせり上げさせながら文句を言うから、腰の辺りを何度もさすって宥めて遣った。

「ユーリが俺の口でイってくれて、俺は嬉しかったよ?」
「そういうのにヨロコビを感じるなよ〜っ!」
「じゃあ、もっと男らしい快感を求めても良い?」
「え?」

 有無を言わさず身体を反転させれば、その動きの間に下肢へと絡みついていたズボンと下着を完全に剥いてしまう。すると夜光に映える双丘が白く浮かび上がり、両の掌で左右に押し広げれば、淡紅色をした蕾が怯えるように縮こまった。

「ひゃ…っ!」
「力…抜いていて?」

 無理だろうなと分かっていても、一応は言ってみる。これ以上の行為は《しても良い?》等と伺いを立てると余計に有利が辛いだろうから、このまま快楽の波に載せて押し切ってしまおう。

 到達したばかりで感じやすくなっている花茎に再び指を絡めながら、コンラートは羽織っていたパーカーのポケットからローションの瓶を取り出す。ホテルでアーダルベルトが買っていたものだ。自動販売機のようになっていたから、機械から取り出した段階で買い取りだったのである。

 それを片手で器用に開け、掌の中で十分に暖めてからとろとろと蕾や花茎に絡めていく。びくびくと震える背筋へと宥めるように唇を這わせながら、次第に肉筒の壁を割りほぐしていく。

「くぅん…んん〜…」

 あえやかな吐息をタオルケットに染みこませる有利だったが、熱に煽られているせいかその声音は苦しいだけではない心地を伝えてくれる。

 再び花茎が完全に勃ちあがり蕾が十分に解れた頃、コンラートもまたズボンを降ろして自分の高ぶりを大気に晒した。

 それは、不思議な光景だった。

 白く光る双丘に紅を纏った鳶色の肉棒が突き立てられ、蕾の中に侵入しようとしている。こぶりなお尻と逞しすぎる雄蕊のサイズ比は暴力的なまでの差異を示すから、本当に大丈夫なのかと不安を覚える。

「ユーリ…痛かったら言って?」
「ん、ん…」

 もう快感を追うことに必死になっているのか、有利の声は些か心許ない。だが、抵抗が弱いことにつけ込んで肉棒を進めていけば、悲鳴を上げて有利の背が跳ねた。

「い…ぐ……っ…!」

 痛みと言うよりは、異物感が酷いのかも知れない。
 羞恥による抵抗とは色を異にする必死さでソファの革をかき寄せると、有利の喉から獣じみた悲鳴が上がる。

「や…怖い…よぅ……っ」
「怖がらないで…入っていくのは、俺だから…」
「嫌々…やぁ…っ…」

 涙をぼろぼろ零して嫌がる有利に、コンラートは折り重なるように肉体を載せていく。もどかしげに上体を覆う布地を脱ぎ捨てて胸と背筋とを密着させると、淡く汗ばんだ肌がぴたりと合わさり、浅く速い互いの息が絡まり合う。

「お願い…怖がらないで、俺を…受け止めて…?」
「コンラッド…」

 縋るように…祈るように囁きかければ、有利の声に力が蘇る。無理に首を回して後ろを伺うと、精一杯の笑顔を浮かべてみせた。

「良いよ…来て?」
「ユーリ…!」

 ずぷ…と埋め込まれていく凶暴な肉を、少年の華奢な肉体は必死で受け止める。棘だらけで偏屈なコンラートの人格そのものを包み込むように、少年は恐怖に耐えて柔らかな肉を晒してくれる。自分の一番弱い部分を顕すことで、コンラートの棘を溶かしてしまう…。

「ユーリ…ユーリ……」

 何度も何度も突き込み、引き抜きながら、下腹を満たす欲情よりも熱いものが胸を満たしていく。ぴたりと合わさった肉体の合間から芳醇に立ち上る感情が、二人をすっぽりと包み込むようだった。

「愛している…っ!」

 強く、激しくそう告げた瞬間に、コンラートは欲情の猛りを少年の体腔内に満たしていったのだった。


 
 
  ※無理矢理黒いたぬき缶にそぐうようにと書いてはみたものの、やっぱり取って付けた感が強かったのでここだけ黒いたぬき缶収容にしてみました。どうも若獅子風次男が生真面目過ぎて、エッチシーンが似合わない…。