「グリューネヒルダ号の変人」

おまけ


「グリューネヒルダ号の変態」











榊side:E



「ふ…ぐぅう……」
[エイジ…いけない子だね…]

 ギリ…。
 
 憂うような…それでいて何処か陶然とした声音が耳朶に吹き込まれると、そのままねっとりと舌が耳孔を嬲る。身体を亀甲に縛った紅い縄目は一部を引っ張られると全てが肌に食い込み、痛みと…喩えようもない悦楽が榊を煽り立てた。

 今、榊は船長に宛われた豪奢な一室…彼の《趣味》を色濃く反映した部屋で甘い責め苦を受け続けている。
 三角木馬の上で幾度も失禁したのだが、その度に火傷しない程度の熱湯を掛けられるので清潔は清潔だ。

 陰茎の付け根にはコブの付いた革ベルトが填められ、先端につけられたピンクローターが揺れる度にだらだらと粘液だけが溢れる。あまりに失禁と射精を繰り返すからと、先程取り付けられたのだ。

[エイジ…ああ、私の可愛い豚…。君がもう二度と一般社会で酷い事をしないように、私は丹念に調教してあげなくてはならないね]

 ぴしぃん…っ!

「ふぐぅん…っ!」

 鞭がしなって榊の背を打つと、堪えきれない悲鳴が喉から迸るが…真っ当な叫びを上げることは出来ない。複数の穴の開いた球を口に銜えさせられ、バンドで固定されているからだ。いわゆる、ギャグボールというSM道具だ。口を閉ざすことが出来ないので、だらだらと溢れてくる唾液で顎はおろか縄で縛られた胸までが唾液で濡れている。
 また、適度な力で打ち込まれた鞭は肌に紅い痕は残しても疵にはならない。ただ…じんじんと込み上げてくるような痛みが次第に快楽へと変わっていくのだ。

 もうどれほどの時間が経過したのかは分からないが、唯一つ言えることは…この責め苦は榊にとってあまりにもリアルな現実であり、苦しみと快楽を同時に与えてくれるものだということだ。

 榊の瞳は恍惚としてとろけ、憧れの対象であった叔父をこれまでとは違った色で見詰めている。

『ああ…俺のご主人様……。いけない僕を罰して下さい…っ!』

 《ふぐ…ふぐ…っ》と鼻で豚のように啼きながら、榊は恭順の意を叔父に示し続ける。
 今、彼の前に君臨する《ご主人様》は筋骨隆々とした海の男の肉体をドロンジョ様風ボンテージスタイルで纏め、目元には深紅の仮面をつけている。
 
 
 キャプテン・シュミットの名誉の為に言わせて貰えば、彼はこれまで一度として相手の同意無しに変態行為に及んだことはない。あくまで跪いて靴を舐めちゃうのが大好きなM男が相手の時だけ《女王様》として君臨していたのである。

 今回は極めてイレギュラーな例であったが、結果的にそれは榊を新たな天地へと導くこととなったのだった。
 彼は…極めて高いM男としての資質を持ち合わせていたらしい。

『ああ…ああ…叔父様!僕の女王様…っ!』

 
 榊はもう、有利に決して手出しはしないと誓ったし、平身低頭謝罪することも心に誓っている。

『ああ…僕は心を入れ替えたよっ!もうあんな卑怯なことなどするものか…。僕は…僕は…これからは、従順な黒豚として生きていくんだ!』

 榊の決意は固い。

 明日にでも有利の前に平伏して、履き古したスニーカーの踵でぐりぐりと頭部を踏みつけて貰いたいと強く強く願っているのであった……。








* コンラッド、頑張って榊先輩に口止めをしないと大変なことに…。嘘がばれるだけでなく、ドン引きした有利が恐怖の絶叫を上げるのは必至です。 *