「華のようなあなた」A










 コンラートに送ってもらって魔王居室へと戻った有利は、羽織っていた天鵞絨を肩から落とすと勢いよくドレスも脱ごうとした。

「おや、もう脱いでしまうんですか?」
「当たり前だっつの!もーぐったりだよぉ〜…」

 5時間に渡って着せ替え人形にされた挙げ句、化け物華と対決させられればいい加減脱力するというものだ。
 コンラートの方もそれは分かっているから、珍しく好みのその衣装を纏い続けることを強制したりはしなかった。
 その代わり、てきぱきとホックを外しファスナーを外し…

「あの…ウェラー卿コンラートさん…一体ナニをしておられるのでしょう?」
「いやぁ…ナニかしたいなぁと思いまして」

 胸をほっぽり出して透ける素材の紐パンとガーターベルト、縁取りの刺繍も華麗なストッキング姿になったところで悪戯な指がそろりと背後から絡みついてくる。

「ぁん…ちょ……っ!」

 疲労のあまり抵抗しようとするその耳元へ、切なげな声音が注ぎ込まれる。

「…怖かった」
「…え?」

 何かに怯えるようなその声は、コンラートのものとは思われないくらいに掠れ気味で…有利は思わず肘鉄を食らわせようとした腕を止めてしまう。 

「あんな植物風情に…あなたの身体を蹂躙されるところだった…」
「コンラッド…」  

きゅうん…っと胸が震える。
 有利はくるりと身体を回転させると、コンラートと向き合う形で首筋に腕を伸ばした。

「馬鹿…それ、俺の台詞だよ?」
「そうですね、あなたは…とても男前に母を庇ってまでくれたというのに…すみません」
「えへ…」

 神妙な顔をされれば、結局はこの男に甘い有利は自ら背伸びをして唇を寄せていったりするのである。

「この身体を好きにできるのは、あんただけだよ…」
「ユーリ…」

 深く唇が重ねられ、あえやかな水音を立てながら口吻が交わされる。
 有利はベッドに腰を下ろそうとして、サイドボートに置いた華に気付いた。

「あ…この華、持ってきてたんだ?」
「ええ…千年淫華に鉢が吹き飛ばされておりましたので、勿体なくて」

 銀色の水差しにそっと一輪刺された蒼い華は《大地立つコンラート》。
 有利の大好きな…そして、大切な華だ。

「綺麗…」
「嬉しいな…俺の名を冠する華を、あなたに褒めて頂けるなんて…」
「ん…好きだよ。派手さはないけどさ、凛として…潔くて、立ち姿がとっても綺麗な華だよね」  
「…あんまり褒められすぎると照れてしまいますね。俺のことを言われているわけでもないのに…」
「馬鹿…」

 くすくすと笑み零れる有利はすっかり愛撫を受け入れる体勢になっており、シーツの上で艶やかに身を反らせてコンラートを抱き寄せる。

 この時…ベッドサイドにそろりと忍び寄る気配を、コンラートは見過ごしてしまった。
 
 普段のコンラートであれば…いや、相手が魔族なり人間であればどれほど恋人との蜜事に溺れていたとしても、気づかぬ事などなかったろう。
 だが、相手は人ではなく…動物ですらなかった。

 そう…植物、千年淫華の生き残りだったのである。
 
 千年に唯一度だけ蕾をつけ、淫靡な蜜をたたえる華を咲かす。
 それだけを目指して時を過ごしてきたこの植物にとって、この危機を甘んじて看過することなど出来ないのだ。

 咲きたい…咲きたい。

 極上の精気を吸って、どんな華よりも艶やかに咲き誇りたい。
 千年淫華はシュヴァリエらの伐採・焼却処分を受けるよりも先にその触手を分離すると、這いずりながら血盟城まで辿り着き、甘い蜜をもたらす乙女を求めて壁をよじ登ってきたのだ。

「ゃあ……んん…っ……!?」

 突然…無防備に恋人の愛撫に溺れるその脚に、ぬるりとした触手が絡みつき…淫らに蠢きながらふっくらとした双丘へと伸びていく。
 温室にあったものほどではないが、直径が2〜3pほどの紫がかった緑の触手がぬるついた粘液を纏いながら俊敏に有利の身体を捕らえると、一気に拘束に掛かる。 

「ユーリっ!!」
「ぃやーっっ!!」

 しゅるり…しゅるるるる……っ!
 
 瞬く間に触手は有利の四肢を絡め取ると、くりゅ…くりゅっと嫌らしげにうねりながら胸の膨らみを際だたせ、ぬるついた先端部分で吸い上げるようにして感じやすい場所を掠めていく。
 下腹から腿にかけて絡みついた細い触手がびぃん…っと張りつめて泌部を晒すような形で拘束されると、恋人の愛撫によって潤み始めていた下着がしとどに蜜を吸って雌芯の姿を露わにした。
 ずるる…っとベッド伸したから這い出てきたのは本体と思しき巨大な蕾で、のたうちながら有利の胸元に腰を据えた。

「ゃ…ゃあ…ゃああ…っ!コンラッド…コンラッド、助けてぇぇっ!!」
「くそ…っ!」  

 咄嗟に剣を掴もうとした腕に触手が絡みつくと、コンラートの腕を腰の部分で括るようにして拘束し、襟元に絡みついたものが一気に引き下げられると、カーキ色の軍服が紙のように引き裂かれる。
 逞しい胸筋…そして、引き締まったウエストが露わになると、触手は喜んでいるかのようにうねうねと踊ってズボンのベルトと前立ての合わせを引きちぎる。

「く…ぅ……っ!こいつ…」
「コンラッドーっ!!」

 なんということか…身じろぎ出来ないほどに拘束されたコンラートの雄蕊へと触手は絡みつき、鈴口や茎の部分にどろりとした液を塗りつけるようにして扱き始めたのである。
 そして有利のちいさな下着をつぃ…っとずらすと、ぷるりと顕れた淫襞を掻き分け、複数の触手によって奥の蜜壷が覗き見えるまでに開こうとした。

「あ…ぁ……っ!」

 震える雄蕊は塗り込まれた液体…おそらくは強い催淫作用を持つ媚薬によって腹を打たんばかりに高ぶり、触手の力で否応なしに引き寄せられると、つぷりと有利の淫襞に含み込まれていく。

「こいつ…俺達のセックスに強引に混じることで淫欲を貪ろうとしています!」   
「ゃだ…そんなの……っ!」

 怯えて身じろぐ有利だったが、その動作までもが甘い電流のように下腹へと放散し、コンラートを含んだ淫襞がぷるる…っと震える。

「ひぁ…っ!」

 信じられない。

『嘘…気持ちいい…なんて……っ!』

 そう…信じられないほどに、コンラートの雄蕊が触れてくるだけで奥底の感じやすい場所を抉られているかのような快感が奔り、とくりと蜜液が溢れてくるのだ。
 
 じゅぶ…
  
 ゆっくりと含まされる雄蕊に合わせて涎のように愛液が零れて双丘に伝うと、まるで潰された水蜜桃から甘い蜜が滴っているかのようだ。

「ぁぁあ…っ!」

 気持ちいい…こんなのは嫌なのに。
 背徳的な悦びが胸の尖りを硬くさせ、それでなくても感じやすいその場所を捏ねるようにして触手が押しつぶし…くりゅりと濡れた液を塗りつけていく。
 濡れたその場所からじんじんと染みるようにして悦楽が全身に広がり、きつく腿を締め付ける触手の痛みまでも心地よいものとして捉え始める。 

「ん……ゃぁぁぁあああ……っ!!」
「すみません…ユーリ…っ!」

 ごぷ…ぐぐぐ……っ

 最奥にずぶずぶと銜え込まされた雄蕊が肉壁を擦りあげ、体腔一杯にその形状を感じさせられた有利は涙を零して仰け反った。

「ぁ……あ……っ」

 ぐ…っぐ…っぐぐ…っ!
 律動的に腰を揺らされれば張りつめた雄蕊は恣に蜜壷を蹂躙してしまい、それでなくとも弱い場所を擦り上げられ、媚薬めいた樹液に侵される有利はひとたまりもない。
 あられもない嬌声を上げて仰け反るたびに肉壁を収斂させてしまい、愛おしい男の高ぶりを助長してしまう。
 
 ど…ぷ……っ!

「ひぃ……ぅ…っ!」

 最奥を抉られた瞬間にどくりと放たれた情欲を受けると、有利の肢体は持ち主の想いとは裏腹に…びくびくと甘美な悦楽を享受してしまう。
 その時…有利の胸元に陣取っていた、人の頭ほどのある巨大な蕾がゆっくりと広がりはじめ…
 
 淫唇を思わせる、鮮やかなサーモンピンクの華を咲かせたのである。
 
「…っ!」

 華を纏う有利は、思わず状況を忘れさせるほどにあでやかで…コンラートは思わず息を呑んで見惚れてしまったのだった。
 だが、衝撃はそこに留まらなかった。

「くぅ…っ!」

 ぐい…っと大腿が引き上げられると双丘がシーツから浮き、雄蕊を含まされていない方の泌部…すなわち後宮の入り口たる蕾の襞を押し開けるようにして、太めの触手がぬるぬると液体を擦りつけてきたかと思うと、《入りたい…》という意図も露わにぐいぐいと先端を燻らせ始めたのである。
 しかも、ぼこ…ぼこぉ…っと隆起していく触手は陰茎に似た形状を取り始めた。
 先端部分はすっかり膨れあがり、どう見ても亀頭としか思われない姿に変じている。

「ゃだ…やだよぅ…怖いよぉぉ……っ!」

 ぼろぼろと涙を零して怯える有利に、コンラートは唇を噛み破って口角から血を流していた。

「すみません…俺が……至らぬばかりに…っ!」
「ふぇ…ぇええん……っ」

 ひっくひっくとしゃくりあげる有利を何とか慰めようにも、コンラートもまた胸の尖りを慰撫され、有利と繋がった蜜壷の中にまで入り込んだ細い触手に鈴口を弄られて、甘い責め苦に苦鳴を上げるしかなかった。

「くそ…くそぉぉ…っ!」

 どこからか突破口を開くことは出来ないのかと、コンラートは上体を反らして重心を高くするが、その動きに合わせて有利の蜜襞が蠢き…
 ぬ…ぽ…っ!と抜け出た雄蕊がびぃんと跳ね返って、夥しい量の白濁を有利やシーツ、そして触手へとぶちまけてしまった。

 しゅるる…っ! 
 しゅるるるる…っ!! 

 濃い精液の迸りを、干魃時に天雨でも浴びたみたいに歓喜して触手はのたうち、もっと寄越せと言いたげに雄蕊に絡みつく。

「ひぁう……っ」

 急に抜け出た雄蕊の摩擦によって、人知を越えた快楽を感じてしまったのだろう…有利は漆黒の瞳を虚ろにさせて脱力すると、淫襞をひくつかせ、蜜壷からこぷ…りゅり…っと愛液と精液の混じった混濁液を滴らせる。
 大きな雄蕊を含まされていたそこはぽかりと開いてサーモンピンクの肉を覗かせており、こんな状況でなければあまりに淫靡な麗しさに、飽かず眺めていたことだろう。

 だが、勿論いまはそれどころではない。

 コンラートの目の前で…後宮と蜜壷とに宛われた陰茎に似た触手…それも、華奢な有利の身体を抱き潰してしまいそうな巨大なものが今まさに挿入しようと鎌首を擡げていたのである。

「やめろぉおお……っ!!」

 前後の見境もなくして、唯々身を強く揺らして暴れたコンラートは、勢いのあまりサイドボードの一輪挿しにぶつかった。
 ばしゃあっと冷たい水と、そして一輪の華がベッドにぶちまけられる。

 その途端…悲鳴を上げて触手が華の周囲から退いた。

「何…!?」

 蒼い花弁は、温室で打ち据えられたせいで部分的に色を変えているものの…それでも本来の澄んだ色味を湛えて白いシーツに映え、紫と緑が混じり合ったいやらしげな触手は、尻尾を膨らませた猫のように《大地立つコンラート》を威嚇した。
 どうやら茎から成分がしみ出したらしい水もまた警戒の対象であるらしく、水の染みたシーツからも躙るようにして触手が退いていく。

 有利に降りかかるようにして落ちてきた華は、まるで主をその身で護ろうとするかのように…清らかに…健気に咲いてた。
  
 コンラートは身を強引に捻って手首を拘束する触手に水を浸すと、肌はなんともないのに触手だけが塩酸が掛かったように…じゅるると熔け崩れていく。

「ユーリ!」

 手の拘束を解かれればこちらのものである。
 コンラートは俊敏に剣を手にすると、瞬く間に触手を有利の身体から引き剥がし、のたうつ巨大な華を一刀両断した。

 きしゃああぁぁぁ……っ!!

 恨みがましい絶叫を残し…千年淫華は絶命した。

*  *  *



「コンラッド…コンラッドぉ……っ!」

 ひっくひっくとしゃくりあげ、有利はコンラートの胸に抱き寄せられたまま、当分泣きやむことが出来なかった。

「怖かった…怖かったよぉぉ……っ!」
「すみません…ユーリ。俺が不甲斐ないせいで、恐ろしい思いをさせましたね」
「ぅうん…う、うぅ〜…。違うよ…あ、あんたのせいじゃない…。でも、こわ…っ……怖かったよぉ…っ!」 
「ユーリ…」

 コンラートはひたすらに有利の髪や背を撫でつけ、少し落ち着いてきたところでお風呂に連れて行くと、触手のもたらしたぬるつく樹液を丁寧に洗い流していった。

「あの華がなかったら…本当に危ないところでした……」
「うん…あれ、どうしてあんなに効いたのかな?」

  《愛の力です》と言うのは流石に羞恥によって憚られ、コンラートは尤もらしい理由を考えてみた。

「あの華には幾らか殺菌作用があるとは聞いたことがあります。ひょっとすると、それが千年淫華と酷く相性の悪いものだったのかも知れませんね」
「そっかぁ…流石あんたの名を冠する華だよね!怪物華も打ち倒なんて…」

 有利は何か気の利いた言い回しはないかと頭を捻っていたようだが、ふと思いついたのか、にっこりと笑ってこう言った。

「最強の毒華だよねっ!なんかしゅわーっとかって怪物華溶かしてたしっ!」

「…………そうですね」

 自分のことを言われているわけではない。
 なのに…ちょっぴり口角が引きつってしまうコンラートだった。

おしまい



あとがき

 MAKI様のリクエストで、「黒次男×標準or女体有利でエロ満載な触手ネタ」でした。
結果的に、「恐怖!妖怪千年淫華」…っていう、ちょっとゲ○ゲ鬼太郎的な話になってしまいました(鬼太郎は受でしょうか?)

 ここ暫く「黒いたぬき缶祭」状態でしたが、これで当分ネタはありません。
 また何かに萌え要素を見いだしましたら書き綴りますね〜。
 よろしければネタなど振って頂けると助かります。


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