「彼女が軍服に着替えたら」

 

 

 1月6日。

 渋谷有利はやさぐれていた。

 明日から新学期が始まるというこの日になっても眞魔国からは音沙汰なく…有利は相変わらず女体のままなのだ。

 

 

「何でまだ眞魔国から呼び出し来ないんだぉぉ…っ!俺の身体、このまんまなのか…!?」

 うにゃうにゃと布団の上で転げ回る有利の元に、ぱたくたと軽快な音をたててウサたんスリッパの美子が現れた。

「ゆーうちゃぁ〜ん」

 語尾にハートマークが飛びそうな甘い声に、有利はげんなりとして肩を落とした。

 有利が生まれたままの姿(表現に問題あり)だった頃から、母がこんな声音を出すときには大体ろくなコトがなかったのだが、それはここ一週間というものの更に比重を増している。

 案の定、彼女の抱えた大きな紙袋の群れには有利ですら分かるようなロゴで有名ブランドの刻印がなされており、またしても元の身体に戻った際にはリサイクルショップ行きになるであろう衣服が増えたことを物語っていた。

「ん、ふっふー。ママねぇ、素敵なお洋服いーっぱい買ってきちゃったぁ!ほらほら、ゆーちゃん着てみて!」

「えー?やだよー。お袋の買ってくる服ってひらひらしてて、股ぐらが落ち着かないんだもん」

 ぶすくれた有利が着ているものは以前からの所持ウェア…一番肌合いに馴染むブルーの長袖シャツと、膝下までのゆったりした紺色スリークォーターパンツである。

 足は火照りやすい体質なので(兄にはお子ちゃまと言われるが、代謝が良いだけだと有利は主張したい)真冬でも大抵裸足だ。

「ねぇ…ゆーちゃん、今着てる服…問題があるって思わない?」

 ベットから起きあがった有利の姿に、美子のこめかみがぴくりと震えた。

「何で?楽だし、いーじゃん」

 きょとりと小首を傾げれば、美子の額には眞魔黒宰相を思わせる怒り筋が浮いた。

「何度言ったら分かるの有利っ!!」

 突然落とされた激雷に有利は思わずベットからぴょこたんっと降りると、居住まいを正して床上に正座した。

 自分の呼称が、愛称から正式名称に変化した際…美子の恐ろしさは激甚な嵐を呈するのだ。

「ゆーちゃん、今あなたノーブラでしょう!?あのね、今はそんなにぷりっぷりで重力に抗して弾力よく弾んでるかもしれないけどね、おっぱいってモノは垂れるの、良い?垂れるのよ!必ずっ!!」

 必ず垂れるのであれば放っておいて、その日時が少々近くなったところで別に構わないのではないかと思うのだが…怖くて口には出せない。

「だから眠ってるとき以外はちゃんと、身体にあった下着を着ておきなさい。良いわね?ほら、引き出しに一杯入れてるでしょ?これ着なさいっ!今すぐっ!!」

 押しつけられたのは美子の趣味丸出しのレースリボンつきブラジャーとパンツ。純白のシルク生地の所々に淡い桜色の小花が散らしてあるデザインである。

「うぅ…お、お袋…ちゃんと着るからさ…部屋出てよ……」

「何言ってるの、ママに見られて恥ずかしいわけないでしょ?」

 《恥ずかしいかどうかを決めるのは俺であってお袋ではないはず…》とは思いつつも、結局抗しきれずに半泣きで全裸になる有利は、恥ずかしそうに頬を染めて着替える姿に実の母親が微妙に萌えていることを知らない。

『んん〜…ゆーちゃんたら綺麗な身体してるのよねぇ…凄く胸が大きいとかいうわけじゃないんだけど、腰が細いし全体のバランスが良いから、すらっとして見えるのよね。それでいて服着ると、顔がちっちゃいせいでちまちましてて可愛いのよね〜…』

 母親ならではの遠慮のない視線に、有利は慌ただしく下着を身につけた。

「お袋…こ、これで良いだろ?」

「だーめ!ブラジャーはね、こーやって脇のお肉をきゅきゅって詰めないと綺麗なラインが出ないのっ!!」

「うわわっ、息子のチチ掴むなよお袋っ!!」

 しかし、美子によって矯正された下着は流石に身体のラインを美しく際だたせ、有利がズボっと輪を潜るようにして身につけたときとは歴然の差があった。

「やぁん…凄っい可愛いわぁ、ゆーちゃん…流石自慢の娘」

「息子です」

「まだまだお嫁にやるには拙いところが多いけど、甲斐甲斐しいお婿さんのところに嫁ぐんだからこれくらいの方が可愛がられるかしら?」

「な…何言ってっ!!」

 ぽやんとしているくせに見る所はきっちりと見ている美子が、くすくす笑いながら話を変えた。

「そうそう…コンラッドさんの軍服、クリーニング仕上がったから一緒に置いとくわよ?」

「ん…ああ、サンキュ…」

 トルル…

 トルル……

「あら、きっと藤川の奥さんだわっ!」

 軽快な電話の呼び出し音に、美子は飛び上がって駆け出していく。

 携帯電話を好まない美子は、サザエさんよろしく自宅の固定電話で世間話をするのが大好きだ。仲の良い奥さん仲間の電話なら、おそらく1時間は話し込むに違いない。

 勝馬は4日から忙しく働き始め、今日も元気に休日出勤。おそらく深夜まで帰って来ないに違いない。

 勝利は元気に限定版ギャルゲーを求めて冬空のもと大行列を形成している筈。おそらく、そのまま秋葉原で不気味な買い物にいそしむに違いない。

 そしてコンラートはというと…

『先日のお詫びがしたいので…』

 と、一人で出かけてしまった。

『お詫びとかだったらさ、一緒に行ったって楽しいのに…』

 そう思いはしたのだが、何だかはにかんだように照れているコンラートを見ると、連れて行ってとは頼めなかった。

 きっと、彼は有利のために何だか良い物を買ってきて…それが何なのか楽しみにしながら、わくわく顔で箱を開ける姿を期待しているに違いない。

 彼は結構そういうところに拘る男で、秘密のプレゼントというのが好きなのだ。

 ちなみに、《お詫び》…というのは一昨日あった在る出来事のことを差している。  

 眠っている有利に対し…コンラートが淫行に及ぼうとしたのだ。

 しかし有利が激しく怒ったのはほんの数分の事で、すぐに仲直りはしたし、そもそもコンラートがそんな行為に及ぼうとしたのは村田の仕込んだ衣装と、そのまま寝込んでしまった有利のせいでもある。

『なんかさ…ついつい《女の子の身体がいいのかー!》って怒っちゃったけど…考えてもみたら、コンラッド…スタイル抜群の女の人引く手あまたな訳だし…俺のお粗末様なカラダでもってそう言うコト考えんのって、結構おこがましいような…。それに…』

 有利は下着姿のままぺたんと床に座り込むと、美子の持ってきたクリーニング袋を手に取る。

 綺麗にアイロン掛けされた軍服(一体、クリーニング屋さんは何なんだろうと不審に思ったことだろうが…)は、コンラートのぴんと伸びた背筋を思わせるしなやかさで有利の膝の上に広げられた。

『俺だって…時々、コンラッドの格好で萌えちゃうトコあるもんな…』

 眞魔国で初めて白い正装姿を見たときや、地球でこちらの服装に身を包んでいる姿にもときめいたが、こうして改めて見ると…やはりこの目に馴染んだ服装が彼には一番よく似合っていると思う。

『これ着てると、やっぱ《コンラッドだぁーっ!》って感じがするよな…』

 眞魔国に呼び出されたとき、言葉の通じない外人さん達から石持て追われ、マッチョメンに襲われて怖くて堪らなかったとき、栗毛の王子様が颯爽と現れて自分を助けてくれた…。

 そんな乙女チックな刷り込みがなされているせいかもしれない。

『んー…やっぱデカイよな…』

 広げた上着は、腰部分はほっそりとしているのに肩幅が広く、袖がすぅ…っと長い。

『ここはやっぱ…内緒でやっとくべきでしょ?』

 ちょっとドキドキしながら辺りをうかがい…そぅ…っと上着を羽織ってみる。

『ふぉっ!凄いぶかぶか…』

 腕を思い切り伸ばしてもちょこりと指先が覗くだけで、腕を下げればそれすらもすっぽりと隠れてしまう。肩幅も服というより布団のような勢いで余りまくっているものだから、前身ごろを掻き寄せれば着物のように重なってしまう。

 クリーニングのせいで彼独特の爽やかな香気は消えてしまっているけれど、素肌に触れる生地は何度も頬を寄せた肌合いなものだから…彼の温もりに包まれているような安心感がある。

 気が付けば、両袖を顔の前で合わせ…うっとりと目を細めて木天蓼(マタタビ)に酔う子猫のような表情で大きな軍服の感触に耽溺してしまった。

 

 …ふと目線をあげて、呆気にとられる恋人の姿を目の当たりにするまで…

 

*  *  *  

 

 

 コンラートが渋谷家に戻ってくると、美子は電話の横に椅子を置いて長丁場の世間話に興じていた。長話にする気満々なのは、椅子の脇にサイドテーブルや茶菓子まで用意しているところからも伺える。

 コンラートに気付いて一瞬笑顔を浮かべ、小さく手を振って帰宅を迎えたものの、すぐに生き生きとドラマの話に突入していた。

 そんな美子の様子に苦笑しながら階段を上っていけば、有利の部屋に近づくに連れて…じん…と胸の奥に甘い感慨が沸いてくる。

 小さなこの家の、有利の部屋。

 幼い頃から彼を育んできた、彼の息づかいの沁みたこの家の中で彼の姿を捜すとき…コンラートの胸には暖かい思いが満ちてくる。

 とてもとても嬉しいのに…何処か泣きたくなるような、そんな気持ち。

 愛おしいあの人の、懐に包まれているような安心感を覚えるせいだ。

 こんな事を言えば、有利は笑うかも知れない。

『あんたの方がでっかいじゃん。俺、いつもあんたに抱っこされてるのにさ』

 身体の上ではそうだろう。運動神経が良いくせに何もないところで転ぶという特技を持っている有利を抱き留めたり、何も躓かないときには自分から抱きしめに行くコンラートではあるが、あの小柄な少年の包容力はそういう肉体上の事柄では説明出来ない大らかさを持っている。

 気が付けば、ふわぁ…と羽毛のように軽く、暖かく…有利の想いに包まれているのは、寧ろコンラートの方なのだ。

『そんなあの方に、俺は甘えすぎているかも知れないな』

 ここのところ、有利は心配事続きで参っている。

 何しろ、十八年間慣れ親しんだ肉体を根本から再構成された上、その身体のままでコンラートに《愛されて》しまっているのだから…。

 それも、かなり濃厚に…。

『少々…自重した方が良いかも知れない』

 有利はコンラートと身体を重ねることを厭う訳ではないのだろうが、感じていること自体に酷く羞恥を覚えるようだ。

 無理もないことではある。

 男として生を受け、極々真っ当な性感覚を持つ少年が女のように抱かれていた上、いまや女そのものの身体で濃厚な性技を施されるのだ。抵抗感がない方がおかしい。

 今日は、ゆっくりとお喋りをして…明日からのことを話し合おう。

 そう思って扉をノックしようとしたのだが…10pばかり開いた扉の隙間から、見えてしまった。

 …コンラートの軍服を羽織り、幸せそうに頬を染めている有利の姿が。

『な…んだ?』

 無骨な軍服に包まれた体躯はその華奢なラインを際だたせ、袖口からはちょこりと細い指先が覗いて桜色の唇に寄せられている。

 そして…ちょっとしたミニスカート並みの長さを呈している裾野からは、ぺたりと床に投げ出されたしなやかな下肢が覗いており…軍服の合わせ目からは可憐な小花模様の下着が垣間見える。

 

 この究極最終兵器並の破壊力を持つ可憐さに打ち勝てと…? 

  

 コンラートの《自重》決意はあまりにも早い決壊を見せようとしていた。

 

*  *  *

「こ…コンラッド……っ!」

 有利の顔色は真っ青になり…ついで、反射性の血管拡張によって、かぁぁ…っと音がせんばかりの勢いで紅潮する。

 客観的に見て、今現在自分がしていた行為は…

『へ…変態行為っ!!』

 下着姿で人の服を着て悦に入っていたなんて…小学生が好きな子のソプラノ笛をこっそり舐めているのにも匹敵する変態具合では無かろうか。

 せんだってのコンラートの行為など比にならない勢いの変態具合だ。

 …と、少なくとも有利はそう思った。

「ゴメンナサイっ!!」

 平身低頭…妙に綺麗な土下座を決めると、有利はコンラートの軍服を脱ごうとした。

「ユーリ…そんなに慌てて脱がなくても…」

「だって…お、俺…あんたの服内緒で着ちゃって…ほ、本当にゴメンなっ!?なんか…あんたの服着てたら、あんたに抱っこされてるみたいな心地になって気持ちよくて…ぁあ〜っマジでゴメンっ!でも…マスかいたりはしてないからっ!」

「いえ…寧ろやっててくれた方が…」

「え?」

「いえ…コチラの話です。それより…先程の話の方が気になりますね」

「さっきのって…」

「この服を着ていると、俺に抱っこがどうのこうの…」

「う…」

 薔薇色に染まった肌は浮き立つように艶やかで、伏せられた眼差しは淡く水膜を纏って麗しい…。ことに、無骨な軍服から覗く素肌の、透き通るような白さは感動的なまでにコンラートの心を震わせた。

 こんな愛らしい姿で、彼は今なんと言っただろうか?

「俺自身が抱っこするのは…嫌ですか?」

「そんなこと…」

 有利ははっと面を上げると、恥ずかしげに眉根を寄せつつも…こつんとコンラートの胸に額を寄せた。

「…あ、あんた自身の方が良いに決まってんじゃん…っ!」

『無理…もー、無理ですから…』

 コンラートの理性は完全に瓦解した。

『あ…』

 ブルーグレーのストライプシャツを着込んだ長い腕が、軍服に包まれた華奢な体躯を抱き込むと…すっぽりとくるまれるような安心感がある。

『んー…やっぱ、コンラッドに抱っこされるの…凄ぇスキだー……』

 お腹一杯の子猫のように満足げな笑みを浮かべ、有利は逞しい胸に寄りかかって瞳を閉じる。てっきり、変態行為に呆れられると思ったのに…心の広い(有利視点)恋人は鷹揚に許してくれたばかりか、《抱っこ好き》の有利のために快く胸を提供してくれる。

『やっぱコンラッドって…優しいなぁ……』

 胸の中をひたひたと満たす暖かい思いに、有利はとろりと蕩かされた。

「ユーリ…キスしても良いですか?」

 はにかむような…年若い少年のような眼差しのコンラートが可愛いとすら感じられて、有利は自ら腕を伸ばして背を抱くと、そっと唇を寄せていった。

 不器用なキスは、それでも触れ合いさえすれば互いの思いによって甘く溶け、絡み合う舌が二人の境目を曖昧なものに変えていく頃には…すっかり充血した唇が紅を差したように艶やかなものになる。

 どんな極上の化粧も太刀打ち出来ないこの彩りを、知っているのはただ一人…

『俺だけが知る…あなたのこの美しさ』

 太陽のようにからりと健康的な少年が、その清廉な性質の中に艶やかな《色気》を綯い交ぜに織り合わせる時、彼は妖艶なあでやかさで男を誘うのだ。そんなこととは、きっと微塵も気づかぬまま…。

「は…ぁ……っ」

 潤んだ眼差しがどれほど蠱惑的なのか。

 微かに開かれた唇から覗く白い歯列や、紅い舌がどれほど胸を熱くさせるのか…

 …知らなくて良い。

 知って良いのは、このコンラート・ウェラーただ一人だ。

『そう…きっと、あなた自身すら知らないのでしょうね?』

 この少年の持つ艶やかさこそが…大切にしたいと思うこの心の中で、獣のような欲望を呼び覚ましてしまうなんて。       

 それは、有利が女の身体を持つ持たないに関わりなく、常にコンラートを誘惑してやまない衝動であった。

「ん…む……」

 甘やかな口吻は陶然と有利を蕩かせ、もじもじと摺り合わされる内腿の奥がどんな変化を示しているか…場数を踏んだコンラートには手に取るように分かる。

 それでも、つい好奇心で苛めてしまう。

 いかにも優しい素振りで焦らした時、有利がどんな反応を示すのか…とても知りたいと思ってしまうのだ。

「すみません…ユーリの家で、こんなに激しいキスをしてしまって…。ミコさんに知られたら大変ですね。今日はこのくらいにしておきましょうか?」

「え…?」

 続きを強請るように揺れる眼差しが、コンラートの心を密かに浮き立たせる。

「そー…だけど……」

 もにもにと口の中に消える言葉が、羞恥と理性の間で揺らめく様が愛おしい。

 元来、清廉にして真っ当な理性を持つ彼が、身のうちを焦らす愛欲に突き上げられているのが分かるからだ。

「お、お袋の電話って長いんだっ!だから…もーちょっと……」

「ですが…こんな所を見られたりしたら、恥ずかしくないですか?」

「ぅ…」

 普段は男気に溢れた凛々しい眉が、苛められた少女のようにあどけなく寄せられる。

『かーわーいーいーっ!』

 心の中で叫びながらも顔は端正な形状を崩さない男、ウェラー卿コンラート。

 彼はこのポーカーフェイスによって今日まで生き延びてきた(こんな場面で生かされようとは。数年前までは思いもよらなかったが)。

「では、鍵を掛けてもよろしいですか?」

「うんっ!」

 元気よく頷くと、有利は仔うさぎのようにぴょこたんと飛び上がってからいそいそと鍵を閉めに行った。その後ろ姿は腿の半分くらいまでが軍服に隠され、すらりと伸びた素足が小気味よく動く。

 その細い足首を、きゅ…っと捉えてしまいたい衝動に駆られる。

 恥ずかしがるその内腿を押し広げ、隠された泌部を舐め上げたい…。

 が…今は我慢の時だ。

 今日のこの展開ならば、有利は自らコンラートの望み通りに動いてくれるはずだ。

「えへへ…も、一回…キスする?」

「良いですか?」

「うんっ、俺がしたいの」

 少し甘えた風な…鼻に掛かる甘い声で、有利は嬉しそうに唇を寄せてくる。

 暫く口吻を交わしていけば、覚え込んだ刺激に肢体が疼き出すのは時間の問題だった。

「コンラッド…」

「何です?ユーリ…」

 殊更優しい声音で紳士的に微笑むコンラートに、有利はもじもじと下肢を擦り合わせる。きっと奥津城から滲む愛液は自覚出来るほどに下着を濡らし始め、じんじんと疼き出している頃だろう。

「今日は…その、抱かないの?」

「抱きたくて、気が狂いそうです…」

 熱い息を吐き…一瞬、素の顔を覗かせれば、有利の面がぱあっと明るくなる。

「じゃあ…」

「ですが、この時間から外出してホテルに行くとなると夕食時間に掛かってしまうでしょう?余程の理由がないと、ミコさんが不愉快に感じられると思うんですよ。またカレーを煮込んでおられましたし」

 現在の時刻は5時。

 渋谷家の夕食はきっかり7時と決まっているから、あと2時間程度。確かに、学校関係者に見られないように気を使いながらホテルに入って、雰囲気をもう一度盛り上げてイタした後に帰って来るには時間がない。

 かといって…ここまで煽られたまま暢気にカレーを食べるというのは、若い身体には無理が過ぎるというものだ。

『うぅ…何でこんな時に限って冷静なんだよぉ…』

 いつもはこちらが恥ずかしくなるくらい情熱的に攻めてくれるから、有利はそれを《許す》という形で、ある意味気兼ねなく性交に励むことが出来る。

 ところが、コンラートの方がここまで控えめな態度を貫いてくると、有利の方が積極的にならざるを得ないのだ。

 何度も何度も…深く交わした口吻の余韻に、身体の奥が蕩けそうだというのに…早く、コンラートの腕でどうにかして欲しいのに…。

「じゃあ…ここで、しよ?」

 とうとう焦れて自ら誘ってきた有利に、コンラートは子どもを諭すように穏やかな声音で囁いた。

「ユーリ、俺もあなたが欲しい…ですが、ここはあなたのご家族がおられる家だ。もし…声が漏れたりしたら幾ら電話中とはいえど、ミコさんが飛んでこられますよ?すわ、大切な次男の一大事…とね」

「じゃあ……っ」

 有利は身を翻すと、箪笥の中から大判の蒼いバンダナを取り出すと、紐状に捩って口に噛ませ…後頭部できつく結んでしまった。

「息…苦しくないですか?」

「んーふ!」

 下着の上に大きな軍服を纏い、猿轡を填めた姿でふるふると首を振る有利に…コンラートは鴨が葱を背負う図を思い浮かべた。

『ああ…なんて美味しそうなんだろう』

 ぷっくらとした胸の尖りが、ブラジャーの下から押し上げられている様がちらりと伺え、動きに合わせて薫る有利の匂いが…熟し始めた白桃を思わせる。

 がぶりと噛みついて、その芳醇な味わいを口内一杯に味わいたくて…心中でコンラートは舌なめずりをした(顔は相変わらず紳士面をしていたが…)。

「唇にキスを出来ないのが残念ですが…」

 くす…と苦笑を漏らしながら、コンラートの唇が有利の白い胸元に落とされる。

 本当は大きく噛みついて歯形や鬱血痕を残し…この身体の所有権を主張したいのだけれど、何時誰に見られるか分からないこの環境下でそれは許されない。

 その分の思いを込めて…ねっとりと舌を這わせれば、敏感な素肌はすぐに紅潮して匂い立つような色香を漂わせた。

「ん…っ」

 軍服の生地を胸元だけ広げ、ちゅくちゅくと音を立てて舐りあげれば、薄いシルクの布はすぐに半透明に透けて桜色の尖りを浮き立たせる。

『直接舐めて…』

 眼差しで訴えても、今日は一体どうしたというのだろう…優しい仕草で…けれど、執拗に布越しの尖りを舐られ…囓られ、乳輪ごと摘み上げられながらも、ブラジャーは何時までも身に帯びさせられたままで、いっかな脱がせてくれる気配がない。

「………」

 暫く考えていた有利だったが、おずおずと手を伸ばすと…震える指でフロントホックの継ぎ目を押そうとする。

 …が、その指ごと舌に捉えられ、爪の甘皮から指の股まで…ねっとりと舐め上げられてしまう。

『なんか…もどかしいよ……直に、欲しいのに…っ!』

 涙目になって見つめれば苦笑するように精悍な面が解れ、ぷる…っと指先でブラジャーをずらすと、同時にまろび出た尖りに…見せつけるようにして熱い舌が這わされた。

「…っっ!!」

 猿轡がなければ、美子が驚いて飛び込んでくるくらいの嬌声を上げていたに違いない。

 コンラートの口腔粘膜から媚薬でも流されているのではないかと思うくらい、散々に焦らされた身体は鋭敏に粘質な温もりを追い、無意識のうちに伸ばされた上肢が…開かれた下肢が…コンラートの腰に絡みついていた。

 まるで逃がすまいと追いすがるような激しさで、コンラートを求める身体。

 幼さの残る面差しは、次第に淫靡な艶を纏い始めている…。

「ん…っんんん…っ!」

 喘ぎと唾液とを猿轡に染みこませながら、有利は抱き込んだコンラートの頭部に縋りつき…愛おしげにそのダークブラウンの頭髪を撫でつけた。

 大好きな人が、愛おしさを滲ませた眼差しで自分の胸を舐めしゃぶっている。その恍惚とした面差しは、全部自分に向けられたものなのだと…そう思うだけで、じゅん…と熱く潤む場所がある。

 だが、それは今の身体だからこそ特に明瞭に感じさせられるだけで、今思えば少年の肉体であった時から、実はそうだったように思う。

 

 

 初めて、コンラートを想って自慰を行った夜…恥ずかしさと申し訳なさで涙が出た。

 まだ、自分の思いに気が付いて間もない頃で、まさかコンラートも同じ思いでいてくれたなんてちっとも気付かなくて…切ない思いが、自分の指を肉茎に絡ませていた。

 明確に、彼とどうなりたいという展望もないというのに…有利の中の雄の部分はコンラートを想い、大きな掌がこの場所を包み込む様を想像して膨隆していった。

 浅ましいこんな自分を、コンラートが好きになってくれる筈など無いと…掌を汚す白濁を見つめながら泣いた。

 そんな自分が情けなくて、泣いてばかりの毎日が苦しくて…なによりも、彼を好きだと思うことを恥じている自分自身に対して《悔しい》と感じた。

 どんな風に思われても、コンラートという男が自分は好きだ。

 そして、その思い自体はとてもとても大切なものだから、何人たりとも…例え自分自身であってもその思いを誹謗することは許さない。

 そう思ったから、あの日…有利は真っ直ぐにコンラートを見つめて、告げたのだ。

 

 好きだと…。

 

 憧憬の念だけではない、肉欲をも含んだ恋情なのだと…精一杯の思いを込めて告げた後、気が楽になった有利は…

 …笑った。

 その笑顔は、後になってコンラートにこう表現されたものだった。

『安堵しきった…天使のように清らかな笑顔でした』

 天使のようだかどうだかはよく分からないが(照れ隠しに思いっきりはたいてしまったし)、その時…安心したのは確かだった。

 コンラートが自分を見る瞳の中に、驚きは確かにあったけれど…蔑みについては一欠片も含まれることはなく、眼差しは逸らされることなく自分に注がれていたから…

 

 もう…それだけでよかった。

  大切な想いを、大切なものとして受け取ってくれたから。

 

 だから…閉じた瞼に恭しく口吻られ、次いで…込み上げる思いを御しきれなかったように、荒々しく掻き抱かれた時には…自分が一体どうなってしまったのか暫く分からなかった。

 ただひたすらに強く抱きしめられ、初めて味わう深い口吻に酔わされた後…耳元で熱く囁かれた時、激しい電流を流されたように…有利は暫く呆然としていた。

『愛しています…愛しています……ずっと…ずっと前から…あなただけを……っ!』

 狂おしい声音は、涙混じりのものだった。

 臣下として、名付け親として…そして何よりも、《婚約者の兄》という立場から…コンラートは自分の思いを一生封印しておく気だったらしい。

 何の気無しにヴォルフラムと有利が肩を抱き合い、頬を寄せ合っているだけで…笑顔の影では心を切り刻まれるような心地だったと、彼は自嘲めいた口調で零したものだ。

 

 

『あの日から…少しだけ時間が過ぎた。俺はこんな身体になったけど…でも、変わらずコンラッドは俺を好きだって言ってくれる。こうして…抱き合える』

 それは凄いことなのではないだろうか?

 コンラートが愛してくれるというなら、こんな身体でも何だか少し自分のことを好きになれる。  

 …そんな気がして有利は微笑むと…コンラートの手を引いて自分の女芯に添わせた。

『最後まで…して?』

 そう眼差しで促せば…上質な酒を思わせる琥珀色の瞳がふわりと芳醇な香気を漂わせるようにして…綻ぶ。

「では…失礼します」

 ぷに…と下着越しに女芯を押せば、溢れる愛液が既にとろりと下着を濡らし…軍服を汚しかねない勢いで双丘を伝い始めていた。

 軍服が汚れること自体は構わないが、それを再びクリーニングに出すのは問題だろう。

 コンラートは、有利を境地に追い込みたいわけではないのだ。

 しかし…軍服を纏った有利の姿は全裸よりもなお色っぽくて、脱がせてしまうのが勿体ない…。

 そこでコンラートは有利の体位を誘導すると、俯せにして高く腰を上げさせ軍服の裾を捲り、下着を少しずらして女芯を露わにし…吸い上げるようにして舐め上げたのだった。

「んんんーっっ!!」

 こり…と充血した陰核を囓られれば、舐めずる舌も間に合わないくらいに愛液が溢れ、ふわふわの兎毛を汚してなお床面に滴ろうとする。

 それを防ぐように、丁度滴り落ちるその位置に…枕カバーを重ねたものが置かれる。

「……っ!!」

 青いタオル生地のカバーは肌触りの良いもので、有利のお気に入りだ。

 けれど…唯一つ困りものなのが…寝涎をつけるとはっきり分かるくらいに色が変わってしまうことなのだ。

『俺ので濡れたのが丸わかりにーっ!』

 流石に恥ずかしくて身を捩るが、今日はやけに紳士的すぎるきらいのあったコンラートが、今度はがっしりと双丘をホールドして許してくれない。

 それどころか、震える女芯から滴った雫が枕カバーに描いた模様が気に入ったのか、明らかに笑みを浮かべて愛撫を施し始めた。

「んんんんーっっ!!」

 ギブアップを求めるレスラーのように激しく身じろげば、階段下からひっきりなしに続いていたためにBGMと化していた美子の声が…止まった。

「…っ!」

 気づかれた?

 …ひやりとして動きを凍らせてしまったのも束の間、美子はくしゅんと盛大にくしゃみをして、再び会話を始めた。

 ほっと安堵したものの、急に恥ずかしくなって動きが怯え気味になってしまう。

 自分から誘っておいてもう後には引けないが…我ながら、なんという事をしているのだろう?

 実の母が僅かな距離と薄い扉を隔てた場所で暢気にお喋りをしているのを聞きながら、18歳の息子は100歳越えの屈強な軍人に陰部を舐め上げられているのだ。

『でも…欲しいんだ……』

 疼く場所に、コンラートの雄蕊を抉り込み…激しく擦りあげて欲しい。

 その後背に位置する菊華までもが、愛おしい肉を求めてひくついているのが…まさにそのコンラートの瞳にはまざまざと見えていることだろう。

『なんて可愛い…』

 ぷ…く…と粘性の音を立てる人差し指と薬指が、それぞれに前後の孔へと浅く突き込まれ…くにくにと円を描くように蠢けば、水蜜桃のような双丘は薄紅色に染まって焦れたように嫌々をする。

 じんわりと指の深度を増せば、明らかに悦びを表して震え…《もっと》とおねだりするように突き出されてくる。

 急にきゅぽん…と抜けば哀しげに、ひく…と収縮するから、代わりに尖らせた舌を菊華にねじ込ませてやる。

「くぅ……ん…ぅぅっ!!」

 生々しくて嫌だと以前は言っていたものだが、ここまで焦らせばそんなことは言っていられない。猿轡越しの嬌声は艶を帯びて鼻に掛かり、続きを求めて後宮が収斂した。

 くにくにとそのまま舌を蠢かせながら、二本の指をずるりと蜜壷の中へと埋めていけば、溢れる愛液がたらたらと指を伝い、音を立てて抜き差しされるたびに恥ずかしい染みをタオル地の上に描いて行く。

『凄い…こんなに濡れるんだな……』

 コンラートの愛撫に感じて、乱されて…溢れる蜜のひとしずくまでもが愛おしく感じられる。こんな無粋な布地に染みこませるのは勿体なくなって、蜜壷の入り口に唇を押し当てて吸い上げれば…丁度刺激された陰核によって肉襞が収斂し、ぷしゃあ…と噴き上げる熱い潮がコンラートの頬を濡らした。

「んーーーーーーっっっ!!」

 今や猿轡は溢れ出す唾液でぐっしょりと濡れ、留めきれなかった滴りが細い顎を濡らしていた。その影から溢れる嬌声は鈍く大気を震わせ、感じやすい乳首をこりり…っとカーペットに擦りつけて更に悦楽を深めてしまう。

 気をやった有利はもう腰を維持していることなど出来ず、かくりと力を失って頽れてしまった。

 悦楽はじわじわと有利の肉体を浸し続け、溢れる愛液を枕カバーで拭われれば…多すぎるぬめりは含みきれずに布地と女芯の間で銀色の糸を引いた。

「……っ」

 切れた糸の断端が粘膜を弾く感覚にさえひくりと震え、有利はころりと仰向けになって喘ぎ続けた。  

 そんな有利の下肢をM字型に折り曲げると、濡れそぼる蜜壷の入り口へゴムを纏った猛々しい雄蕊が押し当てられる。懸念される蜜対策として腰に宛われたのは、真新しいフレアースカートだった。

 よもや、美子の(余計な)愛情の塊もそんな扱いを受けるとは思いも寄らなかったことだろう。しかし丸洗い出来る素材なものだから、こっそり洗って干しておくことも考えるとこの場には持ってこいなのだ。

 ぐぷ…と押し込まれる雄蕊に、全身が性感帯と化した有利は歓喜の涙を零し、腰に添わされた大きな掌が労しげに撫でつけられる感触にさえ悦楽を感じていた。

「んん…ん…んーっっ」

 ずぶ…ずちゅ…といやらしい音を立てて何度も蜜壷を責め立てられ、佳いところを抉られるたびに嬌声は鼻を抜け、溢れ出す唾液に窒息しそうになる。

 快楽と苦痛とが綯い交ぜになった高揚感に、有利はしゃらしゃらと音を立てて髪を振り乱し、真珠のような涙の粒を宙に舞わせた。

 交接部から滴る液は後宮を濡らしながら滴り、フレアースカートに染みを作っていく。その事を恥ずかしいと思うような余裕は有利にはなく、覆い被さってきたコンラートに乳房を揉みしだかれ、両の指で濡れた乳首を乳輪ごと強く捻られながら二度目の絶頂を迎えた時、コンラートもまたゴムの中に溢れるほどの精を放った。       

「く…は……ぁ……っ」

 激しい収斂は細い肉筒を更に狭め、絶妙な蠢きによってコンラートの精液を絞りだしていく。あまりの心地よさに甘い吐息を漏らしながら、コンラートは有利の上体を抱えて慕わしげに腰を揺すった。

 そうすれば、じんじんと響くような脈動が二人の継ぎ目部分を熱く…甘く溶かしていく。

 何処までも蕩けあって…境目のない生き物に変じていきそうだ。

「ユーリ…ね……後ろにも、欲しい?」

「……ん………」

 まだ朧な瞳のままで、有利が小さく頷く。

 欲しい…。

 もっと欲しい……。

 貪欲な蕾は愛液を纏い、コンラートの猛りを待ち侘びるようにひくついてみせた。

「でも…まだ俺のここはすぐにはユーリに挿れられないんだ……」

 仕立ての良いコーデュロイパンツの中から覗く雄蕊は十分な大きさを保っているが、薄いピンク色のゴムを纏い、先端部分にぷくりと液体を溜めている為か…重みに負けて少しばかりだらりと垂れ下がっている。

 仰向けのまま、しどけなく横たわる有利の口元から濡れそぼったバンダナが外され、代わりに雄蕊が添えられると…求められている事を予測して有利の頬が染まった。

 コンラートの精を満たしたゴムを外し、口で高めてくれと言うことなのだろう。

 まだ数えるほどしか行ったことのない行為は何とも有利の羞恥心を煽るものなのだが…明るい場所で彼の性器を口に含むことには少し好奇心が働いた。

 血盟城のコンラートの居室で何度か行った時には、一本の蝋燭だけが頼りの薄明かりの中で…それも、羞恥に殆ど目を閉じた状態でやっていたのだが…正直、有利の愛撫にどれ程コンラートが感じてくれているのか知りたいとう気持ちもある。

『ちゃんと勃つのは勃つんだけど…本当に、気持ちいいのかな?』

 有利はおずおずと手を伸ばすと、ぴるる…とゴムを雄蕊から外していった。

 無機質なゴムの影から現れてくる、コンラートの柔らかな粘膜。

 感じやすく、傷つき易いであろうその場所に間違って爪をかけたりしないように、不器用ながら慎重な手つきでゴムを外しきり端を玉結びにすると、こぷりと堪った液体が妙に可愛らしく小風船のようにゆらゆらと揺れた。

『コンラッドの…赤ちゃんの種、か』

 なんだか捨てるのが勿体ない…。

 コンラッドの子どもが欲しいという想いはうっすらとではあるが…心のどこかにある。

『いつか…もし、出来るのなら…』

 この人の子どもを、この身に宿したい。

 今はまだ未成熟な自分にはその現象を受け止める自信はないし、やはり男の身体に戻って思いっきり動き回りたいのだけど…。

 いつか…本当にその思いが高まった時、有利はアニシナに相談してしまうかも知れない。

 《あの薬を、もう一度くれないか》…と。

 ふるる…っと有利は頭を振ると、そっと小風船をブランドものの紙袋の上に載せた。

 ぽいっとゴミ袋に捨ててしまうことは、何となく躊躇われたのだ。

 そして有利の辿々しい指が伝うのにさえ感じたらしく、再び頭を擡げ始めた雄蕊にちゅく…と唇を寄せると、ぐぐ…と迫り上がるようにして角度が上がっていく。

 そぅ…と目線をコンラートの顔に送れば、精悍な顔が切なげに上気し…薄く開かれた口元と切羽詰まったような眼差しが、酷く扇情的だった。

『俺ので…感じてくれてんだ……』

 かぁ…と胸の奥が暖かくなる。

 思い起こせば…少年の身体でコンラートに抱かれていた時、彼は好んで有利の花茎をしゃぶってくれた。

『俺の愛撫であなたが感じていることがよく分かるのが、凄く嬉しいんですよ』

 初めての時には《汚いから止めて》と泣き叫ぶ有利に、困ったようにコンラートがそう説明したものだった。

 今では、彼の気持ちがよく分かる。好きな人の欲望が、自分の愛撫で高まっていく…それは、羞恥の中にも隠しようのない悦びを溢れさせるものだった。

「もう…いいですよ、ユーリ」

 可憐な花弁を思わせる口元から、ぬるりと抜き出される巨大な雄蕊はえらくグロテスクに見えて…こんなもので有利の唇を犯していたのだと思うだけで、ずくりと欲望が込み上げてくる。

「気持ちよかった?」

 そう問いかける…伺うような上目づかいが堪らなく愛おしくて、その滑らかな頬を撫で転がしたい気持ちと、このまま大量の精液をぶちまけて汚してしまいたい欲望とが鬩(せめ)ぎ合ってしまう。

 愛情と嗜虐心とは表裏一体なのだろうか?

 コンラートは自分の獣性に轡を掛け、何とか御しきるとにこりと微笑んで、前者の…頬を撫でるという行為を選択した。

「ええ…とてもお上手だ」

 すり寄るようにくりり…っと揺すられると、滑らかな頬の感触が刀傷だらけの掌を優しく擦過していく。熟れた水蜜桃のように、強い擦過で皮膚が剥がれてしまうのではないかと心配になるくらいだ。

 コンラートはふわりと有利の身体を抱き上げると、後背から抱き寄せる形でM字に開いた下肢を両脇から抱え上げ…つぷ…と菊華へ亀頭部分を押し当てた。

「ぁ…駄目……このままじゃ、俺…声が出ちゃうよ……っ!」

「大丈夫ですよ、ユーリ…後ろを向いて?」

「ん…?」

 言われるとおり素直に振り向いたその唇を覆い、強く舌を絡ませると同時に…有利の自重でもって深々とその後宮を刺し貫いた。

「………っっっ!!」

 片手で頬を押さえて顔を逸らすことを許さず、嬌声ごと舌を奪い取って絡み合わせ…片脚を抱える腕と力強く跳ね上げる腰とで激しく肉壁を抉れば、先に愛撫されていた蜜壷が《こっちにも頂戴》と強請るように愛液を零し始める。

 ぐちゅ…

 にゅぐ……

 恥ずかしい水音が嬌声自体よりも明瞭に部屋の中に響くと、《きゃはぁー》という美子の笑い声が階段下から伝わってきて、びくんっと跳ね上がった身体は背徳心の為か…余計に興奮してしまう。

『お袋…ゴメン…でも、でも…』

『気持ちいいよぉ…っ!…コンラッドのチンコに擦られて…俺のここ…メチャメチャ悦んでる…っ!』

 二つの孔は一本しかないコンラートの雄蕊を…その寵愛を奪い合うように収斂し、口腔内は巧妙な舌技に蕩かされて、この場所までが性器であるかのように快感を覚えている。

 ほんの一年前までは何も知らなかったこの身体は、今ではすっかりこの男に開発され…自分の身体の何処が、どうやって感じるのか…愛されると充血して蜜を零すのか、その持ち主よりも恋人に詳しく知られてしまっている。

「イっちゃ…ぁん…イっちゃうよ…コン…ぁ……っ」

 口吻の合間から零れる途切れ途切れの嬌声に混ざり、溢れた唾液が互いの頬を伝っていき、突き上げる動きに合わせて宙を舞うと、雫になって上下運動を続ける乳房や…濃い紅色に変じた尖りに散っていく。

 滑らかな肌を伝う唾液は淫猥な艶を帯び、コンラートの情欲を一層煽り立てるのだった。

「ユーリ…っ!」

 右の膨らみを背後から鷲づかみにすると、その柔らかな感触とは対照的に、こりこりと硬く立ち上がった尖りが興奮を示して掌を刺激する。そのまま四指をむにむにと蠢かせながら…ぐい…っと上体を反らせると、有利の体内に含ませた雄蕊の角度が変わってまた違った場所をえぐり出す。

「んんーっっ!」

 ぬるつく女芯をゆるゆると擦られたかと思うと…滑るままにずぶりと挿入された3本の指がぐる…っと円弧を描いた瞬間…有利の最奥に白濁が注ぎ込まれた。

 肉襞の間に放たれる一際熱い迸りは、閉ざされた空間を限界まで押し開き…有利の脳内では白花が一瞬にして散るような…電撃性を持った鮮やかな映像が擬視させる。

『あつ…い……』

 くらりと意識が遠のいていくのを感じながら、有利の後宮はなお雄蕊に絡みつき…その所有権を主張し続けていた。

 

*  *  *

 情事の後始末は、情事以上にスリリングなものだった。

 未だに続いている美子の世間話を確認しながらこっそりと浴室に向かう有利は、まだ股の間に何か挟んでいるような違和感を感じつつも、ちまちまと歩いて行った。

 流石に濡れた下着を替えて、厚手の衣類を着込んでいるものの…体奥に注がれた残渣の香りは敏感な女の鼻ならすぐに嗅ぎ分けてしまうだろう。

 どうにかこうにか身繕いを終えた後、一家団欒の食卓で仲良くカレーを食べるのはまた一層居たたまれないものがあった。

『ゴメンよみんな…渋谷家の次男は今日、家で護衛とエッチしました』

 正直者の有利とはいえど流石にそう告白することは出来ず…心の中でそっと合掌するのだった。

 

*  *  *

 

「はにゅー………」

「お疲れ様です、ユーリ…無理をさせすぎてしまいましたね?」

「んーん、俺がしたかったんだもん。俺の方こそ、無理言ってゴメンな?」

「いいえ…そんな……」

 純朴な有利を一方的に騙した…というわけではないのだが、有利から求めてくるように段取りした身としては、ちょこっと良心が痛んでしまう(←ちょこっとかい)。

 そういえば、そもそも今日の外出は先日の淫行を詫びる為のものだった筈なのだが…。

「そうだ、ユーリ。プレゼントがあるんですよ」

「そういや、今日出てったのってそうだったけ。何々?うまいもん?」 

 《良い物=旨いもの》という図式が成立している有利の脳内は、極めて健康的な青少年の脳内構造を示している。

 よって、コンラートの発した《プレゼント》の内容を、一瞬…全く理解出来なかった。

「これです」

「へ…学ラン…と、生徒証?」

 見慣れたデザインの学生服と、生徒証明書。

 …だがしかし、一方は有利のものとは到底思えないほどの大きさを持ち、もう一方の紙に刻印された文字と写真は、明らかに…

「こ…コンラッド……これって……………」

「明日から同級生ですよ。ユーリ」

 

 学生服一式のお値段、○万○千円。

 偽造身分証他を作成するために、コンラートにお願いされた…強請(ゆす)りともいう…ボブが、関係者に蒔いた金、○百万ちょい。

 恋人との高校生活…プライスレス。

 

 語尾にハートマークを飛ばしながら極上の笑顔で微笑んでいるコンラートは、百歳越え叩き上げの軍人さんにして…明日から日本の男子高校生になることが決定しているらしい…。

 

 頑張れ渋谷有利。

 君の高校生活は、ある意味《薔薇色》だ。

 

 

あとがき

 

 おーい…っていう展開で続いてしまうこのシリーズ…。

 もう暫く満足するまで続けさせて下さい。

 

 コンラッドを学生にするか教員にするかで悩んだのですが、四六時中有利と一緒にいられるしね!…と言うわけで学生にしてしまいました。

 

 でも…無理があるよコンラッド…っ!

 見てくれが私の中では二十代後半〜三十代前半なんだよコンラッド!

 でも、原作の《大学生くらい》というのが本当なら、違和感はそれほどないのでしょうか?

 ブレザーはともかく、学ランは厳しそうですが…それは心の目で何とかして下さい。 

 

 公式ゲームのおまけCDでも、学ラン着た弓道部の先輩やってましたし…大丈夫…ですよ……多分……………。 


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