「一番欲しいもの」
〜2010年ユーリ誕生日企画〜







 
「お誕生日のプレゼントは何が良いですか?」

 問いかけに、有利は少しだけ考えた。
 幾度もキスを交わしたことで紅く染まり、淡く濡れた唇をゆっくりと動かして答える。喉が掠れてハスキーになった声は、内容も幾分ハスキーであった。

「ほどほどのエッチ」

 汗で濡れた前髪を右手で掻き上げながらくすりと微笑めば、コンラートの表情が幾分、憮然としたものになる。

「……ほどほど…ですか?」

 《あなたに対してほどほどなんて扱いは出来ませんよ》と、微妙に論点をすり替えたような苦言を呈するが、今日は聞く耳を持たない。婉然と微笑みながらさらりと切り返した。

「あんたとエッチしない事とかじゃないんだから良いじゃん」
「そうだったら泣きますよ」
「白いハンカチ銜えて、《きぃー》って?」
「そういうところまで我が師匠を見習いたくはないですねぇ…」

 苦笑しながらコンラートが伸びを打つ。
 全く、見惚れるほどに美しい男だ。

 シーツの上で反らされる身体は伸びやかに撓り、逞しい胸筋から括れたウエストにかけてのラインが扇情的なまでの魅力を放つ。薄手の肌がけに隠された下半身を何度も目にし、咥内や性器と化した肉筒で確認しているくせに、相変わらず眼差しを向けずにはいられないくらい、その姿は蠱惑的だった。

『……タチ悪ぃな…』

 精も根も尽き果てるほどに互いを求め、貪られたというのに、そういう姿を見せられると相変わらずズクリと股の間が疼く。元々は特段精力旺盛ということもなく、極たまにしか自慰もしていなかった男子高校生を、こんな身体にしたのは誰在ろうウェラー卿コンラートである。

 思いを通じ合わせるまではしれっとした顔をして《保護者然》としていたとは信じられないくらいに、恋人となってからの閨では信じがたいほどの性欲を見せる。

 舌遣いも腰の振り方も、蕾の内腔を淫らに収斂させるやり方も、全て彼に開発された。
 それが決して嫌ではない自分に呆れたりするが、満更でもない自分もいる。

 ただ…何ごとも《限度》というものがある。
 こう毎日毎日喰らい尽くすような勢いで鍛え抜かれた軍人に抱かれては、幾ら運動大好き野球小僧とはいえ音を上げてしまうのだ。

「繋がったまま、ゆっくり…子守歌でも謳うみたいに腰を揺らしてよ。んで、お互い一回だけイクの」
「眠っちゃいませんか?」
「それも良いかなぁ」
「ユーリ…」

 恨めしそうなコンラートにするりと腕を伸ばして、逞しい首筋に絡みつかせる。しどけない仕草に、憮然としていたコンラートの口元にも艶めいた笑みが浮かんだ。

「ねぇ…今日は誕生日じゃないよ?」

 下唇を噛みながら甘やかに誘惑すれば、コンラートの舌が激しく絡みついてくる。息を奪うようなキスは互いの熱を煽って、互いの腕が痛いほどに腰を引き寄せて揺らした。

「まだまだいけますね?」
「不本意ながら」

 穏やかなセックスを提唱していたくせに、睦言の間にすっかり誘惑されてしまった。
 この分では、誕生日当日もどうなるのか知れたものだ。

『一応、強く希望すれば約束を守ってくれるんだろうけどな…』

 信じられないのはコンラートよりも、堪え性のない自分自身の方だ。
 明日の執務に影響すると分かり切っているのに、今宵…いや、もはや朝と言っても良い時間帯におねだりしているのだから。

「ひぁ…っ…」

 ぐぶ…っと逞しい雄蕊がやや強引な勢いで攻め入ってくるのに、潤みきった蕾は痛みもなく受け止めてしまう。

「溢れるくらいにぬるぬるなのに、ユーリの内腔はいつまでもきついな…きゅうきゅう締まって、堪らなく気持ちいいよ」
「コ…メントが、おっさんくさ…」
「親父臭い台詞責め、好きでしょ?」
「もう…っ…!」

 意地悪な口調と共に野苺みたいになった胸の肉粒を囓られて、恥ずかしいくらいに背筋を跳ねさせてしまった。
 煽るつもりで煽られてしまうのは、やはり年期の差なのだろうか?
 余裕のあるセックスを目指しているのに、今日もやっぱり頬を朱に染めてしまった。

 ぐちゅ…
 じゅぐ…

「律動する度にあなたのピンク色をしたヒダが出たり入ったりしているの、分かりますか?俺の精液で濡れて…いやらしくて素敵ですよ」
「ん…ゃ…っ!」

 ああもう!
 ここまで来ると、意味のある言葉で返すこと自体が困難を極めてしまう。
 口角から涎を滴らせながら腰を揺らめかせる有利は、心のままにひとこと喚くことしかできなかった。

「コン…ラッ……っ…あ、イ…してるぅ…っ!」
「ユーリ…っ!」

 それがどんな言葉よりもコンラートを高揚させることを自覚しないまま、有利は体腔内に爆ぜる熱に意識を奪われた。

 《幾度誕生日を迎えても、当たり前みたいにこうやって傍にいてよ》と、祈り有利は、結局それが一番のプレゼントなのだと自覚するしかなかった。