「大賢者様救急救命措置」−2





   


『とんでもない目に遭った…』 

 グウェンダルは執務室の机に張り付いて、いつも以上に熱意を込めて書類仕事に打ち込んだ。

 正直…昨夜の狂態については忘れてしまいたい。
 おかげさまで村田に取り憑いていた淫魔は退散し、熱も引いて全快したようだが…おかげさまでグウェンダルの精神状態はボロボロである。

 《魔族は性的束縛の薄い種族だ》なんて、一体誰が言ったのか。
 グウェンダルは決して、あんな行為で感じてなどいない。肉体的に達したとしても、あれは所詮媚薬によって高められた感覚異常に過ぎない。

 そうだ、決して感じてなど…。

『…気持ち良いよぅ…』
『あ…っ!らめ…っ!!』

 脳裏に魔王陛下と弟のあえやかな嬌声が響く。

 ボキ…っ!

 握り込んだペン軸が手の中で真っ二つに折れた。
 今日はこれで3本目である。

「……」

 普段なら《どうしたの?》と気に掛けてくれる有利が、今日に限って何も言ってこない。《今日は調子が出ませんか?》と、苦笑しながら話しかけてくれるコンラートも同様だ。

『昨日の事を…気にしているのだろうか?』

 昨夜乱れきった事も辛い記憶だが、そのせいで二人と気まずくなるのはもっと嫌だった。
 何だかんだ言いながら、グウェンダルはこの二人をとても気に入っているのだから…。

 不安に思ってちらりと視線を向ければ…何故か有利は頬を上気させて、コンラートもまた口元を片手で覆って熱っぽい目をしている。

 何だろう…妙に嫌な予感がする。

「ど…どうかしたのか?お前達…」
「い…言いにくいんだけど…あの…」
「その…どうも、身体の具合がおかしいんです…」

 まさか…
 まさか……

 
 二人の声が、期せずして揃った。


「グウェン…俺、淫魔に取り憑かれたみたい……」


 悪夢のような悦楽の宴が、また始まろうとしている…。



おしまい






あとがき


 はぁ〜い、新春一発目から良い感じに煮詰まってますねっ!
 いきなり全国で5人くらいしか楽しみにしている人がいないであろう、マニアックなシリーズで黒たぬを開始致します。

 一般的な閲覧者様、ゴメンなさい。
 
 とはいえ、個人的には大変満足です。
 グウェンダル混じりのエロを何とかして書きたいとは思っていたんですよ〜。

 実は、「蒼いきりん」の圭様がお書きになった「忘却の箱」というお話が物凄くツボだったんですっ!あれは素晴らしい設定でした。「やってる間は良いけど、その間のことを後で覚えていると気まずい」という難しさを上手い事処理されているんですよ〜。
 私も当初は「何とか記憶を無くして行くところまで行こう!」と思ったのですが、結局上手く処理しきれずにあのような事になりました。

 次男受けも、私が許容できるギリギリラインを狙って前進…。
 どこまでラインが次男受け側に行くのか自分でもドキドキですが、やはり相手が有利で、しかも《突っ込まれているわけではない》という線は保たないと駄目みたいです。

 そんなわけで、少々中途半端なラインに留まってますが、圭様と、あと三人くらい喜んで頂ければ満足です。