「共鳴性戯」







 シーツの上に散らばる黒髪が身じろぐたびにしゃらりと音を立て、切なげな黒瞳が何かを訴えるように自分を見詰めてくると、いつも幸せで…同時に、不安な気持ちになった。

『この人は、本当にこんな行為を望んでいるのだろうか?』

 眞魔国第27代魔王渋谷有利…若くして一国の頂点に立つこの身はあまりにも尊い。

 ウェラー《卿》と一応は貴族の末席に名を連ねるものの、十貴族にすら配されないこの身が汚して良いような身体ではないのだ。

 それに、少年としての瑞々しい自負に溢れたこの人が、女のように抱かれることを許容してくれるとも思わなかった。

 愛してくれるとは信じている。

 そうでなければ、そもそも脚を開いてくれることなどなかったろう。

 だが…いつも何かに耐えるように唇を引き結び、泣きそうな眼差しで頬を強張らせる姿は痛々しくて…苦痛だけを与えているのではないかと恐ろしくなった。

『そんなことないよ』
『あんたとこうして抱き合うの、俺…大好きだよ?』

 事後の睦言の中で、やわらかい微笑みを浮かべながらコンラートの髪を梳く有利はとても綺麗で、そう言われてしまえばそれ以上追求することは出来なかった。

『でも、俺はあなたの本当の感想が聞きたいんです』

 卑怯かも知れないと知りながら、コンラートはアニシナから入手した薬に手をつけた。 夜の逢い引きの前に口にする、暖かいミルクの中に一垂らし…不気味なピンク色の液体を注ぐ。

 この薬は、一時的に相手の心の声が聞こえる薬だ。

もしも有利が苦しんでいるのなら…コンラートに抱かれることに苦痛だけを感じているのなら、二度とこのような形で触れることはすまい。

 どんなにこの身体が欲しくても……。



*  *  *


   

 こく…

「おいしい…」

 ほぅ…っと吐き出す息から芳しく、そのままついつい唇を重ねてしまう。

 こんなときの有利は少し恥ずかしそうだけれど、それでもはにかむように応えてくれる。 微かに首を傾け、おずおずと唇を開いてコンラートの舌を受け入れ、そろりと自分からも舌を絡めてくる…そんな仕草が可愛くて頬を撫でれば、擽ったそうに首を竦める様子が仔兎のようにあどけない。

『可愛い…』

 素直な想いが溢れると、有利は《ぽ…》っと頬を染めたように見えた。

[コンラッド…大好き……]

 聞こえてきた不思議な声にぴくりとコンラートの眉が跳ねる。
 これが有利の心の声なのだろうか?

 表層意識に乗った強い思念だけが伝わると聞いたが…だとすると、キスの度にこんなにも染み入るように愛の言葉を紡がれているのだとすれば、自分はどれ程の幸せ者なのかと胸が熱くなる。

 同時に、侠気はあるがその分恥ずかしがり屋な有利が、普段口にしない言葉を盗み聞きしているのだと思うと《申し訳ない》と詫びるような気持ちも強くなってくるのだった。

『こんなに愛されているのに不安に思うこと自体が、裏切りなのだろうか?』

 そんな思いが掠めれば、急に有利の眼差しにも影がさし…彼にしては珍しく積極的に舌が絡められていく。

 くち…
 ちゅ……

 息を奪うような舌遣いは荒々しいだけで巧緻性には欠ける。だが、求められているという実感が嬉しくて、コンラートを煽るのには十分であった。

 歯肉を舌先でなぞり、口蓋をつるりと伝い…溢れ出た唾液が互いの隙間を埋める頃には、有利の肌は上気して、くつろげたパジャマの合わせ目から薫り立つような色香をにおわせていた。

「はふ…」

 銀色の糸を伝わせて唇が離れていけば濡れた唇が紅色に染まっていて、別れを惜しむように舌が蠢く。

「どうしたんです?今日は随分と積極的ですね…」
「………」

 何か言いかけて、言えなくて…唇を噛んだままコンラートの胸にぐりぐりと額をすり寄せる有利。

 いつもならそんな仕草を可愛いと思いつつも、触れるだけのキスならともかく、肉感的な交わりには嫌悪感を抱いているのではないかと不安に思ったものなのだが、今日は違う。

[すごい…気持ちよかった……。コンラッドってば凄ぇ舌遣い…。ぅわ〜…まだどきどきしてるよ]

 とくとくと脈打つ心臓の鼓動さえ聞こえてきそうな、弾むような声音が脳内に直接響いてくる。
 気をよくして再び唇を寄せようとすると、再び声が聞こえてきた。

[コンラッド…この唇で、俺のちんこ…嘗めてくんないかな……]

 期待と、そして不安に揺れるような声。

 まさか、それが本当に有利の望みだとは俄には信じられず、コンラートは伺うように有利の下肢の間に手を添えると、そこは期待感に打ち震えるように隆々と腹を打っていた。

 キスだけでこんなにも感じていたことのだと気取られた途端、有利は弾かれたように身を離し、また…何かを堪えるような瞳でコンラートを見た。

 いつものコンラートなら、その反応を《拒絶》と受け取り、愛撫の手を緩めてしまったことだろう。ところが今日の有利と来たら、泣きそうなその顔の向こうでこんな事を考えていたのである。

[どうしよう…恥ずかしい。嫌われた…かな?コンラッドに俺のチンコ嘗めて貰ってるトコなんか想像して、独りで興奮してたから…やらしい奴だって思われたかな?]

 その声は、啜り泣くように響いてくる。

[どうしよう…どうしよう……っ!コンラッドは俺のこと、天使みたいに綺麗なコだって思ってて…だから好きだって言ってくれるのに、こんなにやらしーコトばっか考えてるなんて知られたら、嫌われちゃうよ…っ!]

 何と言うことだろう…有利が、こんなふうに考えていたなんて!

 コンラートの方こそいつだって不安で堪らなかった。

 有利はコンラートを万能の保護者のように考えていると思っていたから、無茶苦茶にしてしまいたいくらい欲情していることなど気取られてはならないと思っていた。

『ああ…どんなにユーリのイイところを嘗めしゃぶって、身も世もなく取り縋らせたいと思っていたか!俺の唾液でべたべたにして、溢れ出てくる白濁を余さず飲み干したいと思っていたことか!』

 強く願えば有利は《ぽぅん》…と首筋まで紅く染め、まじまじとコンラートの面を見詰めながら唇を戦慄かせた。

「ユーリ…」

 華奢な身体をゆっくりとベッドへと横たえ、下肢を包む布地を引き下げれば…ぴょんっと勢いよく飛び出してきた花茎が先端を恥ずかしいほど潤ませて、コンラートの唇を待ち受けていた。

[ああ…っ!コンラッド…俺の、嘗めてくれるのかな?]

『なんて美味しそうなんだろう!ああ…どろどろに熔けるくらい嘗めしゃぶって、何度でもイかせてあげたいっ!』       

 コンラートの想いを受け止めるように花茎はふるりと透明な雫を漏らし、勿体ないとばかりにしゃぶりつけば、苦い筈の液が天井の甘露であるかのように感じられる。

[ぁあん…っ!コンラッドの舌…熱くて、やらしい動きでぐちゅぐちゅ動いて…気持ちいいよぅ…っ!]

 突き上げるような歓喜の声に後押しされて鈴口に強く舌先を押しつけ、むにむにとしたグミのような亀頭を唇の中で踊らせ、中にころりとした感触をもつ袋を巧みに指で転がしていく…。

 快感に素直になった下肢は逃げることなく舌遣いに溺れ、もっと触れて欲しいと言いたげに揺れる腰が浮き上がってくる。

 きつく吸い付いたまま激しく頭を上下してやれば勢いよく若い精が迸り、あますところなく喉を鳴らして飲み下せば、羞恥に泣くような声が

《飲むな》

 と、言い…弾むような声が

[コンラッドの身体に…俺のが流れ込んでく…っ!]

 …と、歓喜する。

『可愛いよ、ユーリ。幾らだって飲んであげる…欲しいだけしてあげる』

 再び花茎を口にしようとしていたら、もどかしげに腰が揺れて切なげな声が響いてきた。

[コンラッド…コンラッド…後ろも弄って…っ!俺の恥ずかしいところ、オイルいっぱいつけてぐちゃぐちゃにしてぇ…っ!]

 唇を噛みしめて声を殺す清廉な少年が、心の中でこんなにも放埒な欲望を抱えていたなど誰が気づこうか。

 今も、自分がどんなに物欲しそうな姿勢を取っているかに気付くと、慌てて逃げをうとうとするものだから…コンラートは逃がさず捉えた腸骨の高まりにかしりと犬歯を立てる。

「逃げないで、ユーリ…」

 嘘つきな唇よりも心の声を信じて捉えた双丘に、前立てを弾かんばかりにして隆起する雄蕊をぐい…っと押し当てると、シーツに擦りつけられる花茎がびくりと震えて雫をこぼす。

[直接…欲しいよっ!コンラッドの熱くて硬いの…欲しいよぉ…っ!]

 誘われるままにチャックを引き下ろし、ぷろんと飛び出してきたものを焦らすように擦りつければ、目に見えて上気した水蜜桃のような双丘が…その谷間の中に隠された蕾が、焦がれるようにひくつく感覚がダイレクトに伝わってくる。

 どうやら心の声だけでなく、強い感覚まで肌合いから滲むようにして伝わって来るらしい。

「ユーリ…可愛いよ。ね…俺のが欲しい?」

 腰のくびれをつるりと舐め上げれば心の声は狂喜して《欲しいっ欲しいよっ!》と叫ぶのに、素直ではない口はなおも羞恥に噛みしめられる。

「ゃだ…そんな、恥ずかしいこと聞くなよ…っ!」

 あえやかに上ずった声をあげて、花茎の先をもどかしそうにシーツへと擦りつけているくせに…どの口がそれを言うのか。

「恥ずかしい?俺はユーリがとてもとても欲しいのにな」

 笑いながら…けれど、寂しげに囁けば…有利の背筋がびくんと跳ねるのが分かった。

「………あの…ね、コンラッド…俺…ホントは……」

 声が震えるが…コンラートがぺろりと双丘に舌を這わせると、何かを振り切りようにして有利の声が大きくなった。

「もっと…あんたが欲しいよ…っ!」

 言った途端、様子を伺うようにおずおずと黒瞳が見詰めてくるから、コンラートは歓喜に満ちた眼差しで有利の双丘を割る。

『嬉しい…っ!』

 唯一言、染み入るように胸の中で叫べば…有利の瞳にもぱぁ…っと光が溢れていく。

[大丈夫なのかな?コンラッド…俺がエッチでも、平気かな?]

『平気に決まってます。寧ろ物凄く嬉しいです』

 会話型の感想を胸に抱いた途端、きょん…っと有利の瞳が見開かれる。

「どうかしましたか?」
「う…ぅうん?何でもない……」

 何故だか《?》を複数個飛ばしている有利だったが、掌で暖められた香油がたっぷりと双丘の谷間を伝えば、途端に感じやすい場所を濡らして仰け反った。

[あ…そこ……もっと…っ!]

 くぷくぷと焦らすように入り口を弄り、しつこいくらいに濡らしていくと…またふるふると腰が揺れて有利の心の声が大きくなる。

[もっと奥が良いよ…!早く…早くコンラッドのでごりごりっと擦って…っ!]

 焦がれる声に応えるように前立てを開放すると、腹を打つ勢いの雄蕊が仔鼠を狙う蛇のような獰猛さで秘められた蕾を抉り始める。

「ひぁ…っ!」 

 いつになく余裕のない責めに悲鳴が上がるが、感じているのは苦痛ではなく衝撃を伴った快感だということが心に伝わってきて、コンラートは我を忘れる勢いでずぶずぶと砲身を狭い肉筒に押し込んでいく。

[そこぉ…そこ……あ、ぁぁああ…んっ!抉って…擦ってぇっ!]

 びくびくと収斂してコンラートを誘う淫らな肉襞の一部を、狙いをつけて擦り上げる動きに狂喜のような叫びが溢れ出て、もう心の中だけに留めることが出来なくなってくる。「ぁああん…ぁ…っあ…、イイ…っ!擦ってぇ…っ!」

「良いよ…ユーリ……。君が欲しいだけあげる。ね…どこに欲しいのか言って?」
「中に出して…あんたの白いドロドロで、俺の中をいっぱいにしてぇ…っ!」

『俺のミルクをお腹一杯に注いであげますよ…』

「あんたのミルク、いっぱい頂戴っ!」

 コンラートの動きがはたと止まりかける。

 《ミルク》等という隠語を、いままで有利に対して使ったことはない。
 一体いつ、有利はこんな言葉を耳にしたのだろう?

『まさか…この薬…双方向性に作用するなどということがあるんだろうか?』

 いや、それはないはずだ。
 念のためアニシナにも確認している。
 これは…薬を飲んだ者の思念だけが、至近距離に居る者に伝わるのだと…。

 コンラートは思いつきを振り捨てるように頭をふると、焦らされた形の有利を満足させるために律動のピッチを早め、再び頭を擡げかけた花茎にしゅるりと指を絡めていく。

「はぁ…ん……っ!」

 甘い嬌声に喉を震わせる有利の、震える鈴口を音を立てて嬲りながら雄蕊を突き込めば望み通りに注ぎ込まれた精液が、どくどくと脈打って少年の体腔の形を変えていく。

[あ…凄……っ!コンラッドのが…俺の中でびくんびくんって震えて…どろどろのミルクが染みこんでくる…。俺…オンナのコだったら妊娠しちゃう…っ!]

『妊娠したら、結婚してくれるかな?』

[コンラッドと、結婚?]

 はしゃぐような声にコンラートの動きがまた静止してしまう。

「ユーリ…ねぇ…」
「な…に?」

 肉壁を満たす熱と、昂ぶる花茎に唇が戦慄いてしまう有利は、真っ当な返事など出来そうにもない。それに、あられもなく乱れる有利を追い上げていく悦びの前には、ちいさな疑問を追求するのは惜しいような気がした。

『まぁ…いいか』

 ウェラー卿コンラート…意外と流されやすい男…。

[うん、イイ…コンラッド…もっと、シテ……?もっともっと…俺の中から溢れるくらいエッチなミルク注いで!]

『ハイ』

 語尾にハートマークを付けて、コンラートは有利の《お願い》に存分に応えるのだった…。



*  *  *




「ユーリ…ひょっとして、俺に勧めてくれた珈琲にアニシナに貰った薬をくれましたか?」
「あんたこそ…」

 骨髄が蕩けるほどの勢いで求め合い、抱き合ったのだから…いい加減気づかないはずがない。

 二人は、お互いに薬を盛り合っていたのである。

 アニシナはおそらく気付いていたのだろうが、二つの検体が手に入るというのに、横から口を挟むような真似はしたくなかったのだろう。
 とろとろになって力が入らない身体をしどけなくコンラートに絡ませながら、有利は恥ずかしそうに胸に擦りついてきた。

「俺…不安だったんだ…。俺みたいなガキ、あんたが本気でちゃんと相手にしてくれてるのかなって…」
「俺の方こそ、ずっと不安でしたよ。あなたのように尊い身に、俺のような者が触れて良いのかと…」
「なんだよそれ〜。あんたみたいな英雄がそういうコト言っちゃうわけ?」
「英雄なんて、恋人との会瀬には何の肩書きにもなりませんからね…」
「んー…そうかも。魔王様なんて肩書きも、あんまり役にはたたないもんなぁ…」

 二人はくすくすと笑い合いながら互いの身体を確認するように手を回して、熱を持った肌の感触を唇と鼻面で再確認する。

「ね…薬はまだ必要ですか?」

 落ち着いてきたせいなのか薬が切れてきたせいなのか、今ではあの不思議な響きを持つ声は聞こえなくなっていた。

「んー…。お互いの心の中が丸見えってのはなぁ…もう、次はいいや…」

 確かに赤裸々でいやらしい言葉が隠すことなく伝わり合うことは酷く興奮を誘うものではあったけれど、冷静な顔に戻ったときになんとも気恥ずかしくなってしまう。

「俺はちょっと…まだ惜しいかな?ユーリが俺のミルクをあんなに欲しがってくれるなんて、かなり嬉しかったですからね」
「ぅわーっ!それをいま口にすんなよっ!」

 真っ赤になって拳を振るう少年はいつも通りの清廉な容貌で…とてもお尻の蕾から白濁を零し、淫らな言葉を叫んでいたとは思えない。 

 でも…このギャップがまた良いのかも知れないと、コンラートは思う。

『どちらのユーリも、やっぱりユーリだから…』

 この行為が苦痛を与えているわけではないと分かったのなら、もうそれで十分に満ち足りた気分だ。

「じゃあ、もう二度と薬は使わないけど…ね、お願い…。《コンラッドが欲しい》って言葉は、時々サービスして下さいね」
「…………」

 真っ赤になって枕に顔を埋めていた有利は、暫くむごむごと聞き取れない音声を漏らして身じろいでいたのだけれど…。

 くり…っと困り果てたような顔で横を向くと、ちいさくちいさく…囁いたのだった。
「あんたが言って欲しいんなら…いつだって言ってやるよ!」

『ああ…あなたの唇から放たれる言葉は、どんな薬よりも強烈に俺を酔わせてくれる!』


 コンラートの感嘆の声が聞こえているのか居ないのか…有利は実に男前な表情でにしゃりと笑ったのだった。



おしまい






あとがき



 みみ様のリクエストで「アニシナの薬でお互いの心の声が聞こえるようになっちゃったコンユがエチ!」でした。

 あまり膨らませることが出来なくて申し訳ないです〜。

 お互いのエッチな内心が伝わりまくるわけですから、もっとエロい展開になってもおかしくなかったのですが〜。エロ、要修行ですね。


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