「眠り姫の悪夢」

ぴちゅ…
くちゅ……じる……っ
ぬめるような水音…まるで、野良猫が懸命に泥水を啜っているような奇妙な音。
それが何を意味するものなのか、有利には暫く分からなかった。
ただ、息が酷くあがり…そして、何とも言えない恍惚感が身体の中心部から伝わってくるのだけはよく分かった。
『なんだろ…何か……凄く、じんじんする』
次第に…意識が水底から浮き上がるようにして明るい空間に導かれていくと、有利は淫らな感覚が身体の一カ所だけではなく、複数の部位から与えられていることに気付いた。
『胸の先っちょ…と、あれ…?何か……』
生々しい質感の正体が何者かの舌であり、それが今まさに自分の陰部を舐め上げているのだと…胸が、大きな掌で乱暴に揉みしだかれているのだと気付いたとき…有利は喉奥から驚愕の悲鳴を上げようとした。
しかし…何かが邪魔をして、叫びが大気を震わせることはなかった。
ただ、くぐもるような呻き声が微かに伝わるだけだ。
『な……に?』
まだ霞んではっきりしない視界の中で、琥珀色の瞳をした恋人が笑っていた。
その笑みが怖いくらいに蠱惑的で…有利は身体を強張らせて身を逸らそうとし…それすらも叶わないのだということに漸く気付いたとき、コンラート・ウェラーは如何にも楽しそうな笑い声を上げた。
「ようやく目を覚ましたね。あんまりよく眠っていたから、つい悪戯してしまいましたよ」
草原を渡る初夏の風のような爽やかな声で笑う男は、ねばい液で汚れた口元を紅い舌でぺろりと舐めた。
その液体が何なのか理解出来たが、羞恥に頬を染めることは出来ても…照れ隠しにコンラートに殴りつけたりすることは出来ない。
何故なら、今現在の有利はとんでもない格好をさせられているからだ。
ベットに括り付けられた両腕は肩関節120度外転位で固定され、大腿部は膝上10p程度のところにやはり革製品のバンドが巻かれ、その間を金属の棒が渡されている。このため、有利の股関節は90度屈曲・30度外転位に固定されて、膝を寄せる事も出来ないのだ。
そして抵抗出来ないその泌部を、コンラートは楽しそうに視姦するのだった。
「やっぱり…ユーリは男の身体でも女の身体でも可愛いな…。ほら、美味しい蜜が溢れてこんなにぬらぬらしている…」
腹筋の力で微かに上体を浮かせると、コンラートが有利の泌部にカメラのファインダーを向けているのが見えた。
「…っんんん〜っっっ!!」
真っ赤になって叫ぼうとするが、声を発することは出来ない。
何かが口の中に填め込まれているのだ。
「見える?ユーリ…これがユーリの可愛い場所だよ」
コンラートは有利に見せつけるようにしてカメラの画面を差し向ける。
そこには、紫陽花のように可憐なショーツがしとどに濡れ…その下層に秘められた陰唇が半透明なベールの下でひくついている様だった。カメラは小型ながら動画も記録出来るらしく、鮮明な映像が音声付きで流れていく。
カチ…と小さな音を立ててスイッチが切れ変われば、画面に映る映像はリアルタイムの有利の姿を映し出す。そこには、幾つかの穴の空いたプラスチックの球を口の中に填め込まれ、バンドで固定された有利の顔があった。よく見れば…止めどなく流れる唾液が頬を濡らし、だらしなく流れてシーツに染みを作っていた。
「……っっ!!」
《どうして…》と眉根を寄せて訴えても、いつもと様子の違う恋人は取り合ってはくれなかった。
「そういう表情もそそるね…余計に苛めたくなってしまう……」
くすくすと喉奥で転がすような笑い声に、有利の心は怯えてしまうと言うのに…ショーツの隙間を縫ってつぷりと差し込まれた指に、身体の方は驚くほど簡単に籠絡されてしまう。
「………ん……っっ!!」
「気持ちよさそうだ…ユーリは本当に感じやすい、エッチな身体をしているよね。男の子の時だって面白いくらい精液を飛ばしていたし…今だってほら、溢れてくる…。聞こえる?いい音がしているよ?」
ぐちゅ…
じゅぶ……っ
恥ずかしい水音は指摘通り有利の蜜壷から発しているもので、コンラートの節くれ立った指を2本銜え込み、一杯一杯に広がってくるくせに…そのいやらしいぬめりのせいで抵抗なく出し入れされ、甘い電流を全身に向けて発信するのだ。
そこから、身体がどんどん蕩けさせられていくような気がする…。
とろとろと溢れる愛液が双丘の谷間を伝い、ショーツすら越えてシーツを濡らす。その多すぎる愛液は、どんなに嫌がって見せても身体は快感を浅ましく追い求めているのだと教えてくる。
『やだ…やだよコンラッド……こんなの……っ!』
気持ち良い。
でも…怖い。
身体だけ恐ろしいほどに高められ、一方的に煽られ…観察される。
カチ…
ジー……
時々ズーム等を変えているのか、機械的な音が響いてこの無様な姿が記録されていることを知る。コンラートは、この映像を何に使うというのだろう?求められれば抱き合うことが出来るのに、どうしてこんな拘束までして恥ずかしい姿を見たいというのだろう?
理解出来ない想いに涙が溢れてくるのに、いつもなら優しく抱き留めてくれる恋人は、獣じみた動作でべろりと頬を嘗めあげると、そのまま耳朶を甘く責めあげるのだった。
「ユーリ…可愛い、ユーリ……。桜色の彩りもこんなに熟れて、良い色になっているよ?」
「ん…っ!」
敏感な乳首を乳輪ごと暖かい口腔内に吸い込まれ、甘く噛みつく歯の硬さに恐怖する。
囓り取られるとは思わないが…そこへの刺激には男の身体の時から弱かったのだ。いま、以前以上に感じやすい身体ではどうなってしまうのだろうか?
「ふふ…ちょっときつく噛むと、すぐにこっちが締まるんだね…」
蜜壷には今や3本の指が銜え込まされ、有利の肉壁の動きをすぐに察知されてしまう。
「んっ!んーっ!!」
「ああ…口にこんな無粋なモノを入れていると、喋ることが出来ないね。でも、ユーリは感じるとすぐに嬌声をあげてしまうからね…ショーリに知られたりするとまずいだろう?今も、隣の部屋でゲームをしているみたいだしね」
「…っ!」
言われて意識を集中させれば、隣室からは小さいながらも人が動く物音がする。
勝利が、いるのだ。
隣室で元は《弟》だった少女が恥ずかしい衣装を纏い…拘束具を装着させられている。
あまつさえ、その身体を護衛であるはずの男に蹂躙されて悦んでいるなど…。
勝利が知ったら、どんな顔をするだろう?
呆れるか…
軽蔑するか…
「ぅ…ぅ……っっ」
ぼろぼろと溢れ出す涙をどう思ったのだろう?コンラートは困ったように眉根を寄せると、口の拘束具に手を掛けた。
『取ってくれるんだ…』
やっぱり、ちょっと今日は変な様子だったけれど、何か事情があったに違いない。
きっとすぐに謝って…優しく抱き寄せてくれるはずだ。
そう思って、ほぅ…と安堵したその口に、突然異様な塊が押し込まれた。
「ぐ…うっ……っ!!」
「拘束具は嫌みたいだからいったん外してあげる。でも、声を出されると困るから、それを舐めていてね?」
無理に頬張らされたもの…それは、歪な形状をした棒状のものだった。
変に弾力のあるゴムのような物の中に、何か機械めいた仕組みが内包されている様子なのだが、有利には暫くそれがなんなのか理解出来なかった。
十分に濡れたその棒を引き抜かれたとき…ねばい糸を引くその物体が、男根を模した…いわゆるバイブレーターだということに気付いた。
「…っ!」
すぐに拘束具を固定され、再び声を封じられた有利の蜜壷に…バイブレーターがぴたりと押し当てられる。
「欲しい?ユーリ…」
「んん!」
嫌々をするように頭を振れば、コンラートの表情が優しいものになる。
「じゃあ、俺が欲しい?」
「………ん……」
この状況で頷くのは癪に障るが、それでもこんな奇妙な異物で嬲られるくらいなら、恋人の熱を埋め込んで欲しい。不承不承頷けば、もう一度口の拘束具が外され…
シックスナインの位置関係で、コンラートの雄が口元に寄せられる。
「ユーリ…シテくれる?」
「…っ!こ、コンラッドっ!!」
「しぃ…、喋るのならまたこれを填めるよ?」
「……っ!」
拘束具をぶらぶらと揺らされ、口惜しげに唇を噛むと…有利はおずおずと巨大な雄蕊に唇を寄せた。
「こんなデカイの…口にはいんない……」
「下の口では飲み込めるのに?」
「…このっ!」
「噛みついたら、俺のは入れてあげないよ?このまま拘束してバイブをヴァギナとアヌスに埋め込んで…そうだな、乳首にもピンクローターを取り付けて一晩中苛めてあげる」
冷然とした物言いに、ひくりと唇が震える。
今日の彼は…やると言ったらやりかねない気配がするのだ。
「く……ん…む」
拘束されているために指を添わせることも出来ず、不器用な舌遣いで何とか愛撫らしきものを始めると、それでもコンラートの雄蕊は幼い恋人の仕草に煽られるのか、ぐん…とその容積を増していった。
『これが…俺の中に入るんだ…』
その感触を、有利はもう知っている。
卑猥な言葉で呼ばれた二つの孔が、背徳的な悦楽をこの身体で感じさせるのだと教えたのは、この男の雄蕊だった。
そう考えるだけでじんじんと二つの肉筒は蠢き、慕わしい存在を求めて甘い蜜を滴らせるのだ。
「ん…ぅぐ……っ」
焦れて来た有利は苦しいのも堪えて喉奥まで目一杯に雄蕊を頬張り、口元をべたべたに汚して愛撫にいそしむ。その様子を愛おしげな見つめながら髪を梳く手つきは優しく…無駄に有利の胸を熱くさせるのだった。
愛おしい…
こんな事をされていてすら、やはりこの男に対する恋情をとめることが出来ない。
『くっそー…俺って、もー終わっちゃってるのか!?』
終わっているというのなら、恥かきついでに主張したい。
「も…焦らさないで……いれて……っ」
流石に小さくなる語尾に、コンラートは薄く笑いつつも頷いた。
その動きにほっとしたのも束の間…コンラートは信じられない動きを示したのだった。
「ん……っ……っっ!!」
脅し道具のように蜜壷の入り口に添えられていたバイブレーターが…ゆっくりと、有利の体内に埋め込まれていくのだ。
「ぁ……ぁぁっっ……っっ!!」
とろとろに蕩かされ、拘束されたその場所を阻む物は何もなく…コンラートの雄蕊よりも一回り小さいが、それでもそれなりの大きさを備えた装具が少女の可憐な性器を暴いていった。
「嘘…コンラッドの……入れてくれるって…っ!」
「嘘は言ってませんよ?俺のが欲しいかと聞いただけ…こちらを入れないとはいっていないでしょう?」
「嫌っ!嘘…嘘つきっ!!」
「おや…煩い口ですね。俺のをしゃぶっているときの方がよっぽど大人しい…。これは、お仕置きが必要ですね?」
コンラートは無情にもそう告げると、再び有利の口に無理矢理装具を填め…
…バイブレーターのスイッチを、入れた。
「んーーーーーーっっっっっっ!!」
拘束具がなければ、身も世もなく絶叫していたに違いない。
じっくりと馴らされ…焦らされた場所でうねうねとゴムの塊が蠢き、うねり…有利を絶望的なまでの悦楽で満たしていくのだった。
『やだ…やだよコンラッド……こんなので感じたくないよ…っ!』
止めどなく溢れる涙を止めてくれる者はなく、それどころか…下肢を固定する拘束具ごと持ち上げられた腿の合間…ぬるつく後宮の入り口に熱い粘膜が押し当てられたかと思うと、ずぶりと音を立てて一気に埋め込まれていった。
「こっちは慣れたものでしょう?ここも前と同じように濡れる身体になっているだから大したものですね。身体の何処ででも俺を受け入れて、悦んでくれるなんて…」
陶然とした甘い声を響かせながら、無情な男は激しく突き上げて有利を啼かせる。
ごり…ごり……っと体内で肉壁一つを隔てて擦れ合う機械と肉棒とが、有利を信じがたい悦楽へと導いていく。
『嫌…嫌……っっ』
どんなに気持ちが良くても、コンラートがなにを考えているか分からない今の状況は恐怖に結びつく。
『なんで?どうして…こんなとこカメラで撮るんだよ…っ!』
ぐぶぐぶと雄蕊とバイブレーターとで犯される泌部がカメラの画面から、ぐぁ…と広がり…いまや天井一面のプラネタリウムのように有利の上に覆い被さってくる。
有利の想いとは裏腹に…素直に感じるその場所は二つとも無理なく異物を銜え、出し入れされるたびにいやらしい音を立てて蜜を零す。
ガーターベルトで吊られたストッキングに包まれ…無骨な拘束具でとめられた内腿は桜色に染まって興奮を物語っている。
突き上げられ、揺らされる身体は人形のようにシーツの上で踊り…可憐な乳房があられもなく上下に揺れていく…。
『もう…嫌だよ……っ!』
ユー…リ……
遠くから、声がする。
ユーリ……っ!
酷く切羽詰まったようなその声に応えたくて、口を開こうとするのに、今の有利には言葉を紡ぐことすら許されていない。
『誰…?』
ユーリ…っ!!
一際大きく響いたその声は、
有利の、大切な恋人の声だった。
* * *
「コン…ラッド?」
「すみません…起こしてしまって。ですが、あんまり魘されていたので心配になって…」
ぽかんとして見上げれば、ベットサイドにしゃがみ込んでいたのはいつも通りのコンラートだった。
爽やかで佳い男なくせに、有利にだけは腰が低くて…ちょっとオヤジ臭いところもあるけど、何より有利に優しくて、何時だって大切に有利を抱きしめてくれる人…。
これが、《コンラッド》。
有利の、大切な人。
「ふ…ぇ……」
「ゆ…ユーリ?」
ぽろぽろと涙を零してしがみついてくる子猫のような恋人に動揺しつつも、コンラートは有利が泣きやむまで優しく髪を梳き続けた。
* * *
「それ…は……」
「凄い夢だろ?すっごい怖かったんだ」
有利は漸く落ち着いてくると、ぽつぽつと夢のことを話し始めた。
そうしている内に、だんだんと今の状況も飲み込めてくる。
有利は昨日の夜、村田の要望でコスプレ大会を開いたあと、疲れ切って眠ってしまい…その間に少々(?)コンラートに悪戯をされてしまった。
しかし、夢のように鬼畜な行為に及ばれるということはなく、平身低頭謝ってくれた上に、途中で自分の落ち度にも気付いた有利と仲直りし、仲良く家を抜け出してラブホテルでイチャイチャし…こっそりと渋谷家に戻ってから(もう明朝近くになっていたが…)有利の部屋と客間とに別れて眠りに就いたのだ。
夜明け前の変な時間に眠ったせいで、きっとあんな夢を見てしまったに違いない。
「夢で良かったぁ…」
「そうですね…」
心底安心しきって身を委ねてくる有利に対し、コンラートは心苦しい気持ちで一杯だった。
何故なら…その夢の内容が、コンラートがラブホテルで見た備え付けビデオと同じ内容だったからである。
特に興味があったわけではないのだが…気をやった有利が少し眠ってしまったもので、手持ちぶたさになってついテレビをつけたら、ランダム放映のエロビデオが出てきたので何のに無しに見ていたのだ。
『この女優よりユーリの方が可愛い』
『ユーリはもっと可愛い声で啼く』
『ユーリの仕草は宇宙一可愛い。エゾモモンガよりも可愛い』
そんな感慨を抱きつつ…
『猊下の撮られたユーリのビデオ…あれは、本当に分けて頂けるんだろうか?』
美味しい映像のところだけ独占されそうな懸念を抱きながらあんなビデオを見ていたせいで…ユーリは睡眠教育を施してしまったらしい…。
「すみません…ユーリ…それ、多分…俺のせいです……」
「何言ってんだよ、あの事はもう言いっこなしだよ?」
昨夜の《悪戯》の事だと思ったらしい有利は、にっこりと向日葵のような笑顔を見せてコンラートを見やった。
「あんな夢見たからって、俺がコンラッドのこと誤解してるとか思うなよ?俺…ちゃん分かってるから……」
有利は薔薇色に頬を染めると、恥じらいながら小さく呟いた。
「コンラッドは…俺の変な恰好した写真だのビデオだのに興味ないもんな!」
「ええ…全くもって、これっぽっちも興味ございません」
ずくずくと胸の痛みを覚えるせいか…心なしか語調が硬い。
「えへへ…」
はにかむように微笑む有利があまりに可愛かったものだから、渋谷家の中では申し訳ないな…とは思いつつもそっと唇を寄せれば、有利の方も頬を染めながら…ちょいっと唇を突き出して小鳥のようなキスをする。
『こ…の……可愛い生き物をどうにかして下さい……っ』
誰に向かっていっているのか分からない願いを胸の中で叫びつつ、コンラートは堪らず有利の華奢な体躯を抱き寄せた。
好きで好きで堪らない…だからこそ、時折変な欲望に駆られてしまうけど…
今こうしてこの人を抱き寄せ、その微笑みを瞳に焼き付けておくことには、どんな記録映像も及ばない。
『そうだな…こうして、今いるこの瞬間のユーリが…何時だって最高に可愛いんだから…』
《脳が腐れそうな》と村田辺りなら表現しそうな感慨ではあるが、しみじみとそう感じるコンラートは、予想外に軽い気持ちで村田の記録映像から手を引く決断を固めたのだった…。
おしまい
あとがき
圭様にも指摘されましたが、お膳立てだけしておいて逃走してしまったので…もう一度書いてしまいました『眠り姫』。
いやもぅ…お膳立てしてみたものの、どう考えてもあのままやったら有利が傷つきますもんね…ヘタレなので、特濃小屋とはいえど突き抜けて現実世界として描くにはネタがあんまりでした…っ!
でも、妄想の中だけだと部分的には拘束具とか声を出せない状況下のエッチとか、言葉責めってそそられるんです…っ!如何にして有利を傷つけずに達成するかが毎回特濃の課題ですー。
苛められっぱなし、犯されっぱなしじゃ嫌ですもんね。
書き足してはみたものの、まだ書き足らないこのシリーズ…妙な展開で続いていくと思いますが、今後ともよろしくお願いします。
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