第四章 WーA【濃口】








「失礼…します………」

 正常な喫茶店でやったら失礼どころの騒ぎではないだろう。

 有利は羨ましくなるくらい長いコンラートの下肢を跨ぐと、向かい合う形で座って硝子杯を手に取った。

『……可愛い………っ』

 まだ紳士然とした表情を崩さないものの、コンラートの心中には薔薇が遠山の金さんも吃驚の華吹雪をみせて飛び交っていた。

 跨ぐときにちらりと視線で確認したり、今こうして布越しに接している肌合いから察して、有利は大真面目に全裸でエプロンを身に纏っているらしい。エプロンの裾野は大腿を大きく開いていることで秘められた場所はまさにギリギリで隠されており、あと少しでも身じろげば…ちょいと指で布地を引き上げるだけで秘密を露わにしてしまうことだろう。

「どうぞ」

 有利が笑顔でコンラートの口元に硝子杯を寄せていくが、コンラートの方は唇に人差し指を沿わせると…端正な面を綻ばせてお強請りしてきて。

「ユーリの口移しで飲みたいな」

「………生ぬるくなるから…アイスティーじゃなくなると思うよ?」   

 本気で怪訝そうな顔で小首を傾げる有利。天然素材なのは相変わらずである。

「でも飲みたい」

 重ねて強請れば不承不承ながら杯に口をつけ、幾ばくかを口に含んで唇を寄せる。

「ん……」

 とろ…と、ほろ苦い珈琲が唾液を含んでコンラートの口内に注ぎ込まれると、その後味を追うようにして舌が絡み合い…唇付けが深みを増していく。

 唇をなぞり…歯肉を撫で…舌と舌を搦めて体液を交換していくと、次第に甘い吐息が唇から漏れだして…エプロンの下で硬くしこってくるものの存在に、くすりとコンラートが微笑む。

「メイドさん…可愛い蕾だね。今にも咲き出しそうだ…舐めても良いかな?」

「どう…ぞ……」

 する…とフリルのついた肩紐をはだけさせて胸を露わにすると、淡く色づいた小さな蕾がこれからされるであろう事に怯えるようにきゅ…っと縮こまったように見えた。

 つぃ…と硬く尖らせた舌先が、蕾の尖端を掠めるようにちらつき…膨らんではいないが淡く桜色に染まる周辺の皮膚をねっとりと舐め挙げていく。

 直接含み込まれて吸い上げられる感覚を好む有利は、もどかしい感覚に身を捩らせてコンラートの目を楽しませた。少しずつ…触れられても居ないのに反応し始めている花茎が、じわりと尖端に蜜を溜め始めているのだろう…ピンク色のエプロンの色が、一部変わり始めている。

「…んひゃっ!?」

 思わず変な声で叫ぶと、有利は知らない内に伏せていた瞼をぱちっと開けて胸元を凝視した。

「な…何やって……」

 コンラートは杯の中から大ぶりな氷を一欠片取り出すと、多少溶けて角が緩やかになってはいるものの、やはり氷独特の刺すような冷覚を有利の蕾に押し当てている。

 ぷり…くり……っと蕾を転がすように燻らされると、次第に蕾は表面が冷たいにも関わらず、奥の方からじんわりと立ち登ってくる痛みに似た悦楽を感じ始め…殆ど溶けてしまった氷ごと暖かな口内に招き入れられると、激しい温度差によって…蕾を中心とした体幹全体に甘い電流が走るのを感じた。

「ゃあ…っ!!」 

 待ち侘びていた吸い上げる感触と、少しきつめにかりり…と囓られる感触…そして氷で急激に冷やされた皮膚が反射性に拡張し、今まで味わったことがないほど深部から熱く火照る感覚に、有利は艶やかな嬌声をあげてコンラートの背を抱き寄せた。

「…ぁっ……っ……こ、コンラッ…ドぉ……」

「可愛いメイドさん…ここをこうされるの好き?」

「ん…んん……好き……っ!」

「メイドさんはエッチなコトされるの…大好きなんだね?」

「…………」

『ユーリ…お遊びだからね。ユーリがいやらしいなんて、俺は思ってないから……』

 耳元にそっと囁かれれば、ついついコンラートの誘いに乗ってしまう。

「好き……大好き、デス………」

 羞恥に耐えてようよう口にした台詞に、コンラートの笑みが深くなり…艶を増す。

「じゃあ…エプロンの裾をあげて、俺によく見えるようにメイドさんの恥ずかしいところを見せて?」

 かぁ…!と火を噴くほど頬が上気するが、小首を傾げて大型犬のような瞳でじぃ…と見つめられると、有利はおずおずとエプロンの裾を摘み…えいっと勢い良く捲りあげ、そのままその布地でもって伏せた顔を覆ってしまった。

 そうされればほっそりとしたウエストから下の、コンラートの膝の上で大きく開かれて…大腿の半分から下を白いニーハイに覆われた、すんなりとした下肢が露わになる。

 ふわふわの兎毛の中央で…濃いピンク色を呈して突隆する花茎にそうっと触れると、有利はびくりと震えてエプロンを下げ、目元だけを覗かせてコンラートの様子を伺った。

「ユーリは本当に有能なメイドさんだね。苦い珈琲の後に、口直しの蜜を用意してくれたの?」

ぬち…

鈴口に触れた指先が盛り上がってきた水滴を拭い、見せつけるようにして唇に運ぶ。

「甘い…」

 節くれ立った指を濡らすものが何なのか見せつけるように舐めあげれば、有利の眦にも情欲の炎がちらつく。

「…もっと舐めても良い?」

「うん……あ、ハイっ!舐めてクダサイであります!」

 メイドさんというよりロボット三等兵の様な口調で有利が言うと、コンラートは有利の腰を両手で掴むと苦もなくテーブルの上に載せてしまう。

「わひゃ!?」

「ああ、良い高さだ。ユーリの可愛いところがよく見えるよ。それに…とても弄りやすい」

「ひゃ……」

 また氷の欠片を取り出すと、コンラートは敏感な皮膚を上で滑らせるようにして刺激する。そして、尖端付近を氷で弄りながら、ふくっとした袋状の部分を口内に含み込み、やわやわと舌で転がしたり吸い上げたりして行くうち、有利の花茎は育ちきって、今にも弾けるばかりに硬くなり…尖端からは可哀想なくらいの蜜を零している。滴り始めたその雫を掬いあげるようにして舌で嘗め挙げてやるが、敏感な先端部分には一瞬キスを落としただけで離れてしまう。

 コンラートが身を起こした事で最後の刺激を貰えるものとばかり思っていた有利は、次の瞬間彼の執った行為に目を疑った。

 有利のエプロンの腰ひもを解くと、それできゅ…っと…花茎の根本を縛ったのである。

「どう…して…っ?」

 苦しさに息を呑むが、コンラートに言われた言葉を思い出す。

『…俺を信じてね?』

そうだ、コンラートは有利を苛めたり嬲るために抱くのではないからと…信じてくれと言っていたではないか。

『じゃあ、きっとこれもなんかあるんだよ』

 死にそうに辛いが…。

「ユーリ、次はこっちにおいで。今度は此処を可愛がってあげる」

 テーブルの上からひょいっと移動させられた先はソファの手前の、毛足の長いラグの上。そしてそこで…コンラートに背を向けて跪く形をとらされた。

「………っ」

 とろりとした黄褐色の液体…華の香りがするオイルが、一度コンラートの掌で暖められてからとろとろと腰の窪みに垂らされる。つ…と、人差し指を伝わせて白くまろやかな双丘の…秘められた谷間へとオイルを導き、そのまま大きな掌で双丘を左右に押し広げると…露わになった桜色の襞を伝い、更に下方へと滴っていく蜜のような液体…。それは、有利の付け根を残酷なまでに締め付けるエプロンに染みていった。

 くち…

 ちゅ…く……

 オイルを馴染ませるように人差し指の尖端が襞をなぞり、十分な量を内壁に擦り込んでいくと、段々と大胆に…強引に……けれど、十分に有利の肉体が答えられる領域に入っているのだと知らせるように肉体を責めあげていく。

「ここ…いい?」

「んん…っ!……そ、こぉ……っ」

「気持ち良い?ユーリのここは俺にだけ開く華のようだね…ほら、こんなに甘い蜜を零して誘ってる…《欲しい、欲しい》って言ってるみたいだ。ほら…指を3本も銜えたまま離さないよ?」

「や…」

 根本までずっぷりと銜え込ませると、殊更その存在感を示すように指を揺すり…指節間関節を絶妙なリズムで蠢かせる。

「ゃあああぁあ……っっ!!」

 身体が覚えてしまった良いトコロを瞬時に突いて、抉っていく指先に翻弄されて…本来ならもう一、二度は達していてもおかしくない花茎がびくびくと震える。

「苛めすぎたかな?御免ね、あと少しで楽にしてあげる」

 宥めるように背筋にキスを落とすと指が引き抜かれ、指よりももっと熱くて…強い存在感を伝えるそれが、くぷ…っとその尖端を襞の入り口に含み込ませる。

 ぬち…

 く…ぷ……

 たっぷりと含ませておいたオイルが恥ずかしいほど淫靡な水音をたたてて耳孔を犯し、十分に馴染んだ頃合いに、ずぶぶ…っと勢い良く奥底を求めて突入を開始する。

「あ……ぁ………っ」

 もう幾らか慣れてはきたものの、本来の目的とは全く違う機能を求められる粘膜が悲鳴を上げ、中枢神経へと快楽物質の放出を要求する。

「全部…入った……。何時ものことながら凄いな…どうしてこんな細い腰で、俺のが受け止められるんだろう?」

 長い指がそろりと…流れるような動きでウエストを伝えば、オイルで濡れた肌は滑らかな感触で有利の緊張を解きほぐす。

「あんたので…俺の中が、一杯になってるような……感じがする……」

「俺で満たされているって?…それは違うよユーリ…」

 コンラートの瞳は切ないほどの慕わしさを込めて有利を見つめる。

「あなたが俺を一杯にしているんだ。こんな無茶を聞いてくれて、何時だって俺を一杯に満たしてくれて…あなたは、こんな小さな身体に…とても柔軟で靱やかな器を持っているんだ」

「…ぁ……っ」 

律動が始まれば、もうそんな会話を交わす余裕もなくなる。

 強く…激しく…けれど、有利の感じやすい場所を的確に捉えた挿入が粘膜を擦り、こり…っとした前立腺を肉壁越しに掠めていく。

『そろそろ…かな?』

 コンラート自身、限界を感じる所にまで高まった瞬間…有利の拘束は解かれ、互いの迸りが弾けた。どくどくと…数回に分けて放たれた白濁は撥水性のソファに明瞭な色彩を晒して飛び散り、有利の内部へと放たれたものは出口を求めて腸壁を叩いた。

『頭の中が…白く、弾けるみたい……っ』

 極限まで耐えさせられて迎えた絶頂に、有利は長啼きに嬌声を放つと膝を崩してしまった。

「…と……っ」

 両腕で大切に抱き留めると、そのままゆっくりとラグの上に寝かせてやる。

「はぁ……ぁ……」

 まだ息の整わない有利は、しどけなく肢体を投げ出したまま…コンラートの舐めるような視線の前に無防備な姿を晒していた。

 乱れてラグの上に散る漆黒の髪。

 涙に濡れた睫毛に、上気したまろやかな頬。

 氷の刺激のせいか、いまだ紅色に染まって硬くしこっている胸の膨らみ。

 速い呼吸に上下する胸から、しなやかな細腰…微かながらすっきりとした筋溝を浮かばせる腹筋…その下端でぬるつく液体を纏ってくたりと脱力する花茎…。

 下着も纏っていないのに、白いニーハイとメイドキャップ、襟・袖の飾りだけを纏うという痴態を有利が客観的に見れば、それこそ憤死ものの光景であろうが…コンラートの視界の中ではこの上ない艶姿として捉えられる。

『可愛い…俺のユーリ……。あなたの傍にこうしていられるだけでも至上の幸福をもたらしてくれると言うのに、その上この身に触れ…あまつさえ、こんな行為まで受け容れて貰えることがどれほどの感動をもたらすのか、あなたは気付きもしないのでしょうね?』

 恥ずかしさに身悶える程であったろうに…幸せそうなコンラートの笑顔に、やはり幸せそうな微笑みを返してくれた。  

「お風呂に入ろうか?ユーリ…」

「んゃ…っ!」

 背中に腕を回して抱き上げようとすれば、若鮎のように背筋が跳ねて艶やかな嬌声があがる。どうやら、先程の絶頂がまだ余韻として残っているらしい。何処をどう触っても快楽として感じてしまうようだ。

「ぁ…なんか、まだ…じんじんする……身体の奥の方が火照ってる……」

 有利の身体を慮んばかって終了にしようと思っていた決意は、ネズミの穴に落ちたオニギリのようにころころと転がっていく。

「ユーリ…」

 蕩けるような唇付けが交わされると、甘やかな夜はまだまだ続いていった。  




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