第四章 UーA【濃口】 とろとろに蕩けてしまいそうな夜を過ごして(釣り馬鹿日誌風に言えば《合体》に次ぐ《合体》を経て)、有利は未だ高ぶりの残る身体をコンラートの胸板に擦りつけた。 「ユーリ…身体が辛くはないですか?お風呂に湯を張りましょうか?」 「ん…もーちょっとこのままがいい…」 コンラートの腰に両腕を回して、汗でしっとりと濡れた身体をぴたりと張り付かせる。 確かに何度も注ぎ込まれた欲情の証と滑剤に用いられたオイルとが身じろぐたびにぬるついたり、腰に渋るような痛みが走るのだけど、何となく離れ難くて我が儘を言ってしまった。 「分かりました。もし眠たければこのまま眠ってしまっても構いませんよ?」 眠っている間に身体を清めてくれるつもりらしい。 「ん…それも恥ずかしいしな。うん…あと5分だけこうしたら、お風呂入ろう」 「そうしましょうか…俺は、このままでも幸せですけど、中に出してしまったものを掻き出さないと、お腹が痛くなってしまうかも知れませんから…」 そう言って後宮の入り口に指先を触れさせると、柔らかいタッチでくるりと円を描く。 「ゃめっ…」 びくりと震える背筋と、思わず放たれた甘い声音にじわりとコンラートのものが熱を孕み始めるのが、密着している内腿の皮膚から伝わってきて有利を慌てさせる。 「こ…コンラッド……っ」 「大丈夫ですよ…今夜はこれ以上あなたに無理はさせません。ぶつけてしまったところも心配ですし…」 「こっちは平気だよ。すぐに冷やして貰ったから腫れも引いてきたし、もうそんなに痛くないもん」 「それは一安心ですけど…昨夜は俺のせいで辛い思いをさせてしまいましたし…」 不安げに揺れる眼差しが愛おしくて、伸び上がって鼻面にキスを送る。 「…コンラッドって、今度のが俺に対して初めての我が儘で、暴走だろ?俺なんていつもあんたに迷惑掛けたり、我が儘ばっかり言ってるじゃん。ちゃんと謝ってくれたんだから、それは良いことにしようよ。それよりも…あんたって、口に出して言わない分、結構溜め込んじゃうタイプだろ?その…せ、セックスとかもさ…本当はこーしたいとかもっとしたいみたいな希望、俺のために我慢してくれてる?」 「それはまぁ…俺はしないならしないで数十年セックス無しでもやっていけるんですが、一度始めると結構しつこいですからね。特にあなた相手だと体力の続く限り抱きたくなってしまうので、本当にしたいだけやってしまうと、セックスというより我慢大会になってしまいますよ?」 「我慢大会……それは嫌かも…………」 白目を剥いて口から泡を吹いている自分にせっせと腰を振るコンラート…ちょっと見たくない絵面である。 「…ね?それより、もう5分過ぎましたよ。お風呂に行きましょうか?辛いようでしたら抱えて差し上げますが」 「それはヤメテ下さい」 少々疼痛性破行になりながらもどうにか浴室まで辿り着くと、ブルーのエアクッションに《ぽいん》と乗せられて横たえられる。 「さぁ…綺麗にしましょうね?」 笑顔でご奉仕モードに入ったコンラートは、スポンジでマルセイユ石鹸を丁寧に泡立たせると、そのたっぷりとした泡でくるむようにして有利の肢体を磨き上げていく。その手つきはマッサージを修得し始めたせいで極めて滑らかなものになり、筋肉の走行やリンパの流れ…果ては経絡流注まで計算に入れて皮膚面上を辿るものだから、もの凄く気持ち良いのだけど…繰り返された情交で熱した身体にはちと辛い。 『やば…また勃ってきた……っ』 熱を放つには残量が足りないだろうが、それでも若い身体は欲望に対して素直な反応を示してしまう。 もう泡を流して欲しいと目線で訴えようとして、ちらりと走らせた視線がコンラートの高まりで止まる。 「コンラッド…ね、まだ口とか手でやんの嫌い?」 以前、媚薬でラリっている最中にはコンラートの方から促してさせてくれたのだが、あれ以降、コンラートの方からこの行為を求めてくることはなく、有利から《やらせて》と言い出すこともなかった。 しかし、明らかに恋人がセックスの度に我慢していることを知っていながら、放置するというのは有利の性格上出来ることではなかった。 「いいえ?今は特に抵抗はないですが…寧ろ、あなたのほうがお嫌ではないですか?」 「んん…でも、コンラートのだったら…大丈夫だと思うよ?ねぇ…やらせてくんない?」 泡を纏ったまま上目遣いにお強請りされると、思わず伸びてしまいそうな鼻の下を片手で覆わなくてはならない。 「本当に…よろしいですか?」 「うん、俺…コンラッドにもちゃんと満足して貰いたいんだよ。俺ってば経験値少ないとはいっても、いつまでもやってもらってばっかりじゃ悪いよ。その内、あんたの身体支えられるようになったら、あんたのケツも満足させてあげなくちゃなんないんだろ?」 「………………いま、何と?」 愛に満ちた恋人の言葉に目元を潤ませていたら、その涙ごと凍りそうな一文にコンラートは固まってしまう。 「だからさ、今はあんたの脚抱えたりすんのもきついし、とても満足させてあげられそうにないから免除してもらってんだろ?あんたに挿れるの……」 「いやいやいやいやいやいや……………………ユーリ、ちょっと待って下さい……。ユーリは…俺に、挿れたいんですか?」 「挿れたいか挿れたくないかと言われれば《どっちでも良い》と答えるしかないんだけど…要はあんたが気持ちよくなってくれれば良いんだよ。俺、あんたにやって貰うまでこんなトコで感じるなんて生まれつきの変態サンじゃなきゃあり得ねーっ!とか思ってたのに、時々《前》でイくより気持ち良いときあるもん。俺の中であんたがイく瞬間に、凄い幸せーって感じっつか、一体感みたいなのかんじて…」 有利は懸命に説明するのだが、コンラートの表情が呆気にとられたような形のまま固まっているものだから、うるりと目元を潤ませてしまう。 「……やっぱ…こっちの方が《前》より気持ち良いのって変?俺…変態なのかな?男として終わってる?」 「違います!そういうふうに感じていただけるように抱いてましたから、それはもう…もの凄く嬉しい感想なんですっ!」 それはもう紛れもなく正直な気持ちである。気持ちよさそうに啼いて絶頂を迎えはするものの、まさかその心情を赤裸々に有利が語ることなど想像したこともなかったものだから、色んな意味で絶句してしまったのである。 「…ですが、俺は抱くことはあっても抱かれたことがないので…抱かれている自分を想像できなかったんですよ。何やら…呆然としてしまいました」 「やってみりゃあ新しい発見があるカモよ?」 「新しい発見ですか…ユーリとお会いしてからというもの、既に相当な発見がありましたが…」 そのことを思い出すと、漸くコンラートの唇にも笑みが戻ってくる。 「そうですね…ユーリと出会うまで、俺は自分がこんな男だとは思わなかった。心の何処かが何時も乾いていて、何事にも奥底まで心を委ねることが出来なかった…それが此処まで変わったのだから、もしかしたら…まだまだ俺は変わっていくのかも知れませんね」 「そーだよ。まずは入り口って事で、素面の俺にご奉仕させてくれよ」 「それでは…お願いします」 「うん、じゃあ浴槽に縁に座ってくれる?マットの上の方が楽だろうけど、ちょっと腰痛いし…」 「ええ、結構ですよ」 すとんと浴槽の縁に座ると、綺麗に筋肉の走行する長い脚がすらりと左右に開かれる。 真正面に座っていた有利は、自分から言い出したことにもかかわらず、改めて目の当たりにした恋人の肉体にくらりと目眩を覚えた。 『うっわー…俺、この身体に抱かれてたの?』 厚手の制服を着込んでいるときにはヨザックなどに比べると細身に見えるのだが、脱ぐと胸板は明瞭に筋溝がみてとれるほど発達しており、引き締まった腹壁には腹直筋の腱画を示す横筋も綺麗に溝を成している。それでいて腰が小気味よく括れているのは、肋骨の形状のせいなのか、側腹筋を十分に鍛えているせいなのか…とにもかくにも羨ましい限りである。有利も腰は細いのだが、隆起して然るべき場所の発達が今ひとつなので、全体的にほっそりして見えるのだ。 「じ…じゃあ……お邪魔します…」 一礼しておずおずと膝頭に手を置くと、そぅ…と大腿を開かせて自分の上体をコンラートの前に滑り込ませる。泡がたっぷりとついたままなので、有利の肩とコンラートの内腿とがつるりと滑り合った。 有利の視線の前で緊張したようにコンラートの雄が半ば勃ちの状態になり、その堂々とした質量に比べるとどうしても小さく見えてしまう手が、如何にもアンバランスに沿わされる。 『ど…何処をどうすりゃいいんだっけ?』 早くも混乱し始めた頭に見切りを付け、とにかく痛くしないようにと気を付けながら柔らかな先端部分に唇を沿わせてみる。 ぷく…と透明な液が鈴口に盛り上がり、目に見えて質量を増した雄がぐぐ…っと角度を上げていく。 「ん…む……」 その反応に気をよくしてぱくりと尖端部分を口に含み込めば、しょっぱいような味が口内に流れ込む。先走りの体液がじわりと溢れてくる場所に舌先を伝わせると、目に見えてコンラートの腹筋がひくついた。 思わず顔を上げてコンラートの表情を伺えば、微かに頬を上気させて口元を片手で覆っている。 『うわぁ…なんか……コンラッドがやると何で色っぽいんだろ?』 コンラッドが言うには、こういうときの有利の顔はおにぎりにして転がしたいくらい可愛いのだという。だが、コンラートがやると、同じ動作なのにどうも印象が違う。 特に目が…されるがままになりながらも獰猛な欲を漲らせていて、愛撫をしている有利を次の瞬間には転がし、思うさま突き込みたいという衝動をギリギリで抑えているように見える。 『…やっぱおれのテクじゃ駄目なのかな?』 自信をなくしそうになるが、考えてもみれば自信も何も、素面でこの行為を行うのはこれが初めてなのだから下手でも仕方ないではないか。そのうち練習を積んで、コンラートをあんあんいわせる程の腕前になればいい。今は少しでもコンラートの良いトコロを探索すべきだろう。 裏筋に丁寧に舌を這わせ、その下の小袋に泡を塗りつけて柔らかく転がしながら尖端を吸い上げたり、口に含んだまま上下させてみたり… じゅぶ…… ひゅ…ず…… 静かな浴室内に響く淫らな水音に耳孔を犯され、コンラートのものに舌を這わせながら、自分のそれも硬く立ち上がりつつあることに有利は羞恥を覚えるが、小さく首を振るって思念を集中させる。 『駄目駄目…今は、コンラートをイかせることだけ考えてよう…』 およそ自分がされて気持ちよかったと思える手技を懸命に使っていたら、おもむろに両手で頭を掴まれた。 「ユーリ…すみません……イきそうなので、もぅ…離して下さい……このままではあなたの口を穢してしまう……」 「ひゃにいって…っ!」 思わず憤って口に入れたまま喋ろうとしたら、吸引を掛けたまま口が外れる結果となり…これが、コンラートの雄に決定打を与えてしまった。 「く…ぅっ!」 魅惑的な低音が艶やかに絶頂を告げ、白濁した液体は…有利の滑らかな頬や鼻面に降りかかってしまった。 「ゃ…っ!」 暖かくて独特の臭気を持つ迸りに流石に声が挙がり、目を瞑ってしまう。 「すみません…っ!ユーリ、大丈夫…ですか?目に入ったり…しませんでしたか?」 息を挙げたまま気遣わしい声掛けをするコンラートに、有利は反射的に笑って見せた。「大丈夫大丈夫!ちょっと吃驚しただけだよ」 薔薇色に染まった頬に垂れかかる白濁が、桜色のふっくらとした唇からもつぅ…っと滴ってきて…コンラートは視覚的な愛撫に達したばかりの雄を再び勢いづかせてしまう。 『…いい加減落ち着けっ!』 股間の息子さんに小一時間説教を喰らわしたい気分である。何故にこうも有利が相手だと些細な仕草や表情にまで物理的な反応を示してしまうのか…。 「き…気持ちよかった?」 「見ていたでしょう?この俺がコントロール出来なくなるくらいの勢いで達してしまったんですよ…とても、お上手ですよ」 「そっかぁ…えへへ、良かった!じゃあ、もう一回やるね?」 「またして下さるんですか?ですが…お疲れではないですか?」 「平気!だって、凄ぇ嬉しいもんっ!俺にもコンラッドにしてあげられることあるんだって…」 可愛いことを言ってくれる恋人に、我慢しきれずに身を屈めて唇付けてしまう。 「ん…ゃはは……コンラッド……自分の息子さんに間接キスだよ?」 「仕方ありません。ユーリがあんまり可愛いから…」 きらきらと銀の光彩が散る瞳が、言葉通りの愛おしさを滲ませて注がれる。 「可愛いって言うなよー」 「…もっと可愛くしてあげたくなるな…ねぇ、ユーリ…今度は俺にやらせてくれませんか?」 「いやいやいや…これって、あんたの体力におっつかない俺の補講指導みたいなもんだから、俺が受けたんじゃ本末転倒だろう?俺、あんたに《もー十分!》っていうくらい満足して貰いたいんだよ!」 「しかし…確かに気持ち良いんですが、どうも俺は自分がイくのを先延ばしにしてでもユーリが気持ちよさそうにしている姿を見るのが堪らなく好きみたいです」 「うーん…そりゃ、それ自体がコンラッドの希望なんじゃ無理言えないけどさ…」 「そうだ、どうしても俺を満足させないと気がすまないということであれば、明日俺のお願いを聞いていただけませんか?」 「お願い?」 「ええ…一番高まるのは勿論ユーリを抱いているときですが、どうも俺は視覚的な情報だけでも十分達成感を得られる体質のようなので…是非、ユーリにしてもらいたい恰好があるんですが…」 「恰好…女装とか?」 正直、メイド服を着たり悪魔ゴスロリをやったりでその手の仮装には食傷気味である。それに、折角もとの身体に戻れたというのに、女装を求められるということは、今の身体よりも女体の時の方が好きなのかとも受け取られてちょっと傷つく。 しかし、有利の懸念はあっさりと払拭される。 「いいえ、違いますよ。先日の悪魔服もよくお似合いでしたが、なんというか…あれは普段のユーリと違って見えるので、あなたを抱いているという実感が鈍る気がしますね。あの時も途中で剥いじゃいましたし」 「そう?」 ぱうっと気分が浮上して、ついつい笑顔になってしまう。 しかしその笑顔も、次の瞬間には固まってしまうのだが…。 「ここは一つ、男の憧れ…裸エプロンをお願いしたいですね」 語尾にハートマークを付随させながら爽やかに言ってくれやがるのだが、裸エプロンを男全般の憧れとして設定するのは如何なものだろうか? 「あれって…結局エプロン付けた子泣き爺なんじゃあ…」 「そう言えばそうですね。でしたら、赤地の菱形の布に《金》と黒地で書かれた布を一枚身につけてらっしゃるお姿では如何でしょうか?ミコさんにいただいたユーリの写真に、そういうのがありましたよね?あれはとても可愛かったです」 「それは赤ん坊の時の写真だろ?大人サイズのあんなよだれかけナイからっ!」 「駄目ですか…まあ、エプロンに限らず見えそうで見えないチラリズムが堪らないので、他のものでもいいんですが…それでは、俺の制服の上着一枚とか、シャツ一枚とか…」 取り敢えず、金太郎よだれかけは陰部が丸見えになるので、チラリズムではないだろう…と、突っ込んだものやらどうやら…。 「…コンラッドって、結構フェチ?」 「自覚はありませんでしたが、少なくともユーリに関してはそうですね。想像するだけでご飯3杯はいける気がします」 「俺は《ご飯ですよ》かい」 「ユーリにはそういう趣味はないんですか?俺にして欲しい恰好なんて希望はありませんか?俺も女装以外なら善処しますよ?」 「コンラッドにさせたい恰好ねぇ…んー…そういえば、あんた何時だったか《愛と青春の旅立ち》みたいな白い正装軍服着てたことあるじゃん?アレ好きだったなー」 「俺がその軍服を着たら、ユーリもエプロンを素肌の上から身につけて下さいますか?そして俺と《軍人さんとメイドさん》ごっこを…」 「いや、裸エプロンのメイドって風俗にしか居ないだろ。そんなメイド雇ってる軍人なんて戦地行く前に捕まるんじゃない?」 「仕方ないですね。では、百歩譲って服の上からエプロンを着ていただいても結構ですよ?途中で服だけ脱がせますから」 「いやいやいや、それ百歩も譲ってないから!」 「仕方ないですね…それでは、軍人と捕虜プレイでは如何ですか?」 「いや…たから、プレイにしなくて良いから!」 「結構楽しいと思うんですけどねぇ…じゃあ、先生と生徒プレイとか、宅配便の配達員と団地妻プレイとか…」 「つか、何でそんなプレイとか知ってるの?」 「ロドリゲスの睡眠学習の成果です」 「あーあーもー…あの人のデータって偏りすぎだよ!」 結局この日は馬鹿馬鹿しいやり取りを展開した後、泡だらけで身体が冷えてしまった有利がくしゃみを連発したことでお開きになったのだった。 勿論、コンラートが血相を変えて泡を流し、必要以上に暖かくして寝かしつけたことは言うまでもない。 |