第三章 \ーA【濃口】 「ぁ…っ」 欲しくて堪らなかった場所にするりと入り込んできたのは…骨格の明瞭な長い指。 その節くれ立った指が濡れそぼる下着の間から襞をかき分け、抵抗なくつるりと蜜壺の中に入り込むと、もう有利は理性を保つことなど出来なかった。 「あ…ぁあんっ……お、お願いっ……ぐちゃぐちゃにしてっ!」 情欲を素直に表す叫びに応えて指は2本…3本とその数を増やし、一度の逢瀬で完璧に捉えた感応点を的確に突きながら、有利の好む円の動きで蜜を掻き回した。 聞いている方が恥ずかしくなるほど淫猥な水音が辺りに響き、溢れ出る透明な液がシーツを濡らす頃、有利はびぃん…っと背筋を逸らして悦楽の頂点に達した。 「陛下ってば、感じやすいこと…可愛いねぇ」 「…………お前、何時になったら出ていく気だ?」 ベットの傍らで、華奢な造りの籐椅子に逆しまに座ったヨザックが暢気な声で感想を漏らすのに、コンラートは眉間に殺気を漂わせながら睨み付ける。 二人の情事が始まれば居たたまれなくなって出ていくかと思われたのだが、この男…一向に立ち去る気配がない。そればかりか、次第にベットに近寄ってはいないだろうか? 「あらやだ、ちょっとくらいお駄賃貰ったって良いじゃない?こんなに色っぽくて愛らしい陛下を目の前にして、鉄の理性で耐えきった俺に賞賛の言葉とか感謝の念とか無いわけ」 「妖しげな薬を口にされることを止められなかったくせに、何を言うか図々しい…斬られなかっただけマシだと思え」 「んまーっ!お言葉ねぇっ!!」 「良いから早く出て行けっ!」 「いーじゃん、どうせ陛下はもう周りなんて見えてないぜ?あんたに与えられる愛撫しか理解できないだろうさ。俺が特等席で見守ってたって、どうってことないだろう?」 「…理解できんな。何故見守っていられる?」 言外に呟かれる思いは、《俺なら、耐えられない》…だろうか? 実際、考えたくもないが…ヨザックが有利に求められ目の前で性交など始めた日には、コンラートはそのままヨザックを袈裟懸けに叩き斬るか、剣に我と我が身を貫かせるだろう。 「見届けたいって言ったろ?なぁ…やっちまってくれよ、隊長…俺はこんな苦しいのもう沢山だぜ?俺を諦めさせてくれよ」 「…ヨザ?」 「俺は素敵な嫁さん見つけて、子ども作ったりして暢気な老後を送りたいクチなんだよ。幾ら可愛い陛下に忠誠捧げてるって言っても、生涯の全てを捧げる気なんてないんだ。変に偶像化して心の支柱なんかにしちまった日には、目も当てられねぇ貢ぐ君人生が待ってそうだからさ…。なぁ…あんたの手で思いっきり乱れさせてやってよ。俺の目の前で、この方が欲望に弱い唯の子どもだって事を見せつけてくれよ」 「…頼まれなくても乱れさせてはやるが、幻滅させるのは無理だな」 「何故?」 「想いが募るだけだぞ?」 にやりと艶を帯びた微笑を閃かせると、コンラートは軽やかな動作で有利の肢体を抱え上げ、ヨザックに向かって見せつけるように両膝を抱えてやった。 「感じ過ぎて震えるユーリを一度その目に焼き付ければ…二度と他の者を抱く気にならなくなるかもしれないぞ?…それほど、この方は艶かしいのだから……」 かくりと斜めに倒された首筋を伝う紅色の舌が、白い肌に映えてぞくりとするほど鮮烈な映像を供する。そぅ…と敏感な内腿を指先が伝えば脱力していた膝がぴくりと震え、秘められた場所からするりと下着が抜き取られていく。 見えそうで見えないギリギリのところ…黒いドレスの裾野でくちゅりと音を立てて指が抜き差しされれば、有利の顎はつぃ…と反らされて艶美なラインを描いていく。 「…っ」 ヨザックの喉が鳴ったのに気付いたのかどうなのか…コンラートはドレスの右肩をはだけさせると、黒いシースルーのブラジャーからするりとパットを抜き出して、尖りきった桜色の突起を指先で扱いた。 「ゃあ……っ」 普段の声からは想像のつかないくらい甘い声で啼く有利に、コンラートの笑みは深くなり、ヨザックの表情は冷えていく。 「ユーリ、愛してるよ…」 「ん…俺……も」 「ねぇ、ユーリ…前に言っていたよね?俺がラインを引いてあなたを拒絶するのが寂しいって…」 「うん…でも……大丈夫だよ?」 哀しい思い出にしょぼんと肩を落としながらも、ちっとも大丈夫じゃなさそうな返事で強がると、囁きが甘く耳朶に絡みついてきた。 「今日はあなたが望むようにするって言ったでしょう?ね…俺のものに、唇付けて下さいますか?」 「うん…っ!」 こくりと頷く有利をベットに降ろすと、コンラートは前立てを寛ろげて有利を促した。 「このウィッグは外してしまいましょう?あなたではない人にやられてると感じるのは、やはり怖いから…」 「ん、取っちゃう!」 『あなたなら怖くはない』 そう言外に滲ませる物言いに有利はにぱりと笑い、ピンで止められていたウィッグを強引に取り外そうとする。 「ああ…駄目ですよユーリ、あなたの綺麗な髪が痛んでしまう…」 そう言って優しく的確にピンを外してやれば、いつもの有利の頭髪がお目見えしてきて、それへと軽いキスを幾つも落としてやる。 「さぁ…ユーリ……」 促されるまま勃ち上がりかけたそれへと唇を寄せていけば、先端から滲み出る液が下唇に付着する。 「ん…しょっぱい……」 「平気?あなたが望む事がしたいだけだから、苦しかったら止めよう?」 「大丈夫!優しくするからっ!」 『どっちの台詞だか…』 等という突っ込みは無粋だろうか? 有利は懸命に慣れない仕草で舌を這わせ、唇の中にぷくりとした先端部分を含み込んでは、ちろちろと鈴口に舌先を沿わせた。 「いいよ…ユーリ……とても気持ち良い……」 「くむ…ん……ひょん…と?」 《本当?》とでも問いたいのか、口に含んだままの物言いが幼くて愛らしくて…物理的刺激と言うよりは、視覚的な情報によってコンラートのものは隆々とその容積を充実させていく。 「ユーリ、ありがとう。でもあなたのお口で果てさせて貰うよりも、やはりあなたを悦ばせてあげたいから…自分で裾を上げて、脚を開いてごらん?」 「……………恥ずかしい…よ?」 「嫌?」 「やる……」 既に下着を抜かれた恥ずかしい部分が、おずおずとあげられるドレスの裾からあらわれると、そこはほわほわとした兎毛につつまれて、きゅっと合わされた内腿の間で小隆起を呈していた。頬を染めてそのまま動きを止めてしまうが、コンラートの手に促されて、ゆっくりと…有利は脚を開いていった。 ガーターベルトで繋がれた編タイツの間隙…白い内腿の奥に秘められた桜色の襞が、恥ずかしげに…けれど期待に満ちて蠢いていた。溢れ出る蜜は男を誘い、指だけでは物足りないと言いたげに割れ目を伝っていく雫…。そこへと吸い込まれるようにコンラートの唇が寄せられると、ざらりとした舌で嘗め上げられたそこは一層赤みを増して潤んでいった。 「欲しい?」 「欲しい…よぉ……もう、ずっとずっと欲しかった……コンラッドの…お願いっ」 「いいよ、ユーリ、好きなだけあげる…ほら、これが欲しかったんだよね?」 ずぶりと入り込んでくる肉塊に流石に最初は抵抗を示すものの、既に焦らされ、潤みきったそこは初めての時のようにコンラートを拒絶することはなかった。二度三度と燻らせ、短い幅で抜き差しをする内にたっぷりと滴る愛液に導かれて、コンラートのそれは根本近くまで有利の肉襞に飲み込まれていった。 「凄く…締まって……絡みついてくるっ……は…っ……素敵だよ、ユーリ」 「ぁ…ゃあっ!……と…めないでぇ……もっと、してっ!」 強請られるままに律動を始めれば有利の腰も合わせるように揺れ、もっと奥へと誘うのだが、まだ育ちきらない有利のそこには限界があり、突き込んでくるコンラートの先端がぷくりとした真珠のような子宮膣部に打ち付けられる。 「奥…当たってる……っ」 「痛い?」 「ううん……気持ち、いいから…もっとしてぇ……お願いっ!」 「お望みのままに…ユーリ……」 有利の上体を抱き上げて膝を抱えてやれば、自重によって有利の奥を抉ってやれる。 白い胸元には鮮紅色と漆黒とで彩られた蝶の姿があり、それがレース地の黒いブラジャーと相まって、酷く扇情的な映像として供される。 「あっ…あっぁあっっ……あっ……」 律動的に突き上げられ、仰け反る有利の胸を愛液に濡れた手でまさぐれば、ブラジャー越しに透けて見える胸の膨らみが艶やかに色づいていく。揺れる胸の先で誘うように上下するそれに…思わずヨザックの唇は引き寄せられていくのだった。 …が、すんでの所で額を小突くものがあった。 「……隊長………剣はマズイと思うんですけど……」 「ユーリの身を守るためだ。致し方あるまい」 コンラートは有利の身体を良いように揺さぶりながら、右手に携えた剣先をヨザックの額…それも、前頭骨と上顎骨の継ぎ目となる眉間部分に添えているのだ。このままコンラートの技量で突き込まれれば、縫合部から滑り込んだ剣先が前頭葉ないし下垂体を分断することだろう。 「さ、取り敢えずこれでお前も分かっただろう。諦めて部屋を出ろ。今は夢中かもしれないが、有利が途中で我に返らないとも限らないからな」 「…何が分かったって?」 「どう足掻いても、お前は逃げられないと言うことだ。ある意味、諦めがついただろう?」 思いっきり意地悪そうに嘲笑する男が、彼でなかったら容赦なく斬りつけているところだ。 彼だから…コンラート・ウェラーだから、その声音の奥にあるものがわかる。 『どう想い、どう動こうと、魂で惹かれた者から逃げることは出来ないのだ』 それを察したら無駄な抵抗は止めて、受容するほかないのだ。 彼に生涯を捧げることに。 「あーあ…俺の素敵な人生行路が……」 「ユーリのために尽くす人生だって素晴らしいさ。例え触れることを許されなくてもな」 にやつきながらブラジャーを脱がし、剥き出しになった水蜜桃のような膨らみを揉みしだく男は、本当に自分に同情してくれているのだろうか? ちょっと疑わしくなるヨザックだった。 なので、去り際にちょっとだけ爆弾を投下してみることにした。 「へぇへ…分ーったよぉ……ま、陛下の方から唇付けを頂いただけでも結構な役得だったし?良いもの見させてもらったし?今夜は陛下をズリネタに楽しませて貰おうっと!」 心の狭い幼馴染の眉がぴくりと跳ねるのを視界の端に納めながら、ヨザックは無造作な足取りで扉を開く。 「待て…ヨザ。唇付けだと?」 「陛下に問いただしたりすんなよ?媚薬で意識が朦朧としてるときに、あんたと間違えて俺にキスしてきたんだよ。やー…陛下ってば結構キスが巧いし熱烈なんで吃驚したぜ?」 「……明日、色々と語り合わねばならないようだな。今後のお前の人生航路について…」 「おいおい…墓場に向かって方向修正すんのは止めてくれよ!」 少々本気で身の危険を感じたヨザックは、急いで扉向こうに身体を滑り込ませていった。 扉を閉じれば《かしゃり》と自動ロックされたと思しき感触が響き、擦り込まれた異世界知識の詳細さに苦笑する。 「《お前も分かっただろう》…か。確かにね…」 扉に背を凭れさせ、乱れた頭髪をくしゃりと掻き回す。 取り敢えず、今夜は予告どおり魔王陛下をネタに抜いてしまいそうな事だけは確かだった。 |