第三章 ]ーB【濃口】 ゆっくりとコンラートの端正な面差しが近寄ってきて…そうっと唇に触れてくると、ドキドキと脈打つ鼓動が伝わってしまいそうな気がした。 赤い舌先を伸ばして、つるりと有利の下唇をなぞったコンラートはくすりと笑みを零した。 「…甘い唇だ」 「あ、チョコついてた?」 「あなたの唇だからですよ」 まあ、確かにチョコもついていたが。相変わらず天然な受け答えに浮かんだ笑みを、そのまま舌に載せて有利の口腔内に潜り込んでいく。 「ん…んぅ……」 ちゅ…ちゅく…… 互いの唇の間から漏れ出る水音が淫猥な響きを醸すようになってくると、とろとろと頭の中心がぼやけてきて…甘い痺れがひっきりなしに身体の至る所を奔っていく。 「ぁっ……ゃあっ!」 耳孔に差し入れられる熱い舌にびくりと震えれば、耳元でそのままクスリと笑われて頬が染まる。 「可愛い…ユーリ……何処もかしこも甘くて…感じやすい……」 「へ…変かな……?」 「変ですって?」 見当違いな有利の返事に、コンラートは噴き出しそうになってしまう。どうしてこうこの人は自分の価値に無頓着なのだろうか。 「あなたのは特別って言うんですよ…特別に感じやすくて、最高に素敵なんですよ」 「ひぁっ!」 シャツをたくし上げられて、下腹を伝い上がってきた指先がくり…と柔らかく胸の飾りを押しつぶすものだから、有利は反論の言葉も奪われてコンラートの思うように啼いてしまう。 「く…くすぐった……」 「くすぐったいだけ?」 「…ゃうっ!」 シャツを胸元一杯まで上げられ、剥き出しになった飾りを嘗め上げられれば、恥ずかしい声がこれでもかと言うほど鼻に掛かって響いてしまう。 唾液でぬるつくそれを捏ね、甘噛みし、指先で摘み上げる…うっすらと筋溝の浮かぶしなやかな体躯を縦横に伝う愛撫は、有利が辛くなるくらい丁寧で…そして執拗だった。 胸からじんじんと響いてくる痛いような…甘いような痺れが伝う場所は、昨夜までは違う場所…。しかし、とろりと白濁した液を漏らすそこはコンラートを受け止める場所ではなく、その役割を担う場所には本来そのような機能は付属していない。 思わず、先週味わった初めての交接を思い出してしまう。 女の身体でも持て余した逞しいコンラートのそれが、あんな場所に本当に収まるのだうか?急に怖くなって身を震わせば、ぬるりとした感触が下着の中に潜り込んでくる。 「え?…ナニ?」 「変なものではありませんよ?こちらの世界で入手した香油です」 とにかく有利の身体の負担が少しでも減るようにと事前に入手しておいたのだ。淡く柑橘系の香りがするオイルを掌の熱で体温と同化させ、有利の後宮へと忍ばせていけば、期待通り指先は抵抗なく菊花へと滑り込んでいく。途端にぎゅう…っと締め付けがなされるが、少し待ってその場所が異物感に慣れた頃、つるり…とぅるり…とオイルを纏う指を増やしていく。 『あ…あんなトコに……指……入ってる…………』 ゆっくりとその場所が慣らされていく…そのことが信じられない。 しかも、少しずつ探るように肉壁を伝う指が…長くて節くれ立ったコンラートの指が…まるで経絡を辿る手練れの鍼灸師のように、的確に反応点を探り出しては弄っていくのだ。 「ゃあ……コンラッド……も、いいから……」 「駄目ですよ、ユーリ…前のようにあなたの玉体に血を流させる様な真似はできない…」 「だって…苦しい……そんなトコ…へ、変な感じで…俺、おかしくなるよ………」 しゃくり上げる有利に伸び上がってキスを与えるが、コンラートは優しくふぅわりと微笑むと、そのまま再び下降して、最後の追い上げとばかりに下着をずり降ろすと…十分に立ち上がった有利の挙立へと舌を搦めた。 「あぁあ………」 熱い吐息が胸の奥から溢れ、思わず促されるまま果てそうになるのに…何故かきゅうっと根本を締め上げられて悲鳴を上げる。 「あ…あんた……意地、悪過ぎ……っ!」 「確かに俺は底意地の悪い男ですが、今のはあなたのためですよ?」 「俺…?」 「ええ、あなたのこの身体で十二分に感じていただきたいから…」 「も…もう十五分くらい気持ち良いから!もうこの辺で勘弁してっ!!」 しゃくり上げながら懇願するのだが、脚を大きく開かれて…量を増したオイルでとろとろになるまで菊花を嬲られれば、いつしか有利の挙立はコンラートの望むままに透明な先走りの液を零し始める。 「もう…良いかな?」 コンラートの言葉に心底ほっとして力を抜くと、慎重な動きで熱い身体の一部が押し当てられ…入り込んできて… 「ぁ……っ」 流石に圧迫感は拭えないものの、オイルの助けも借りてかコンラートのそれは根本までずっぷりと有利の体腔内へと埋め込まれ、陰部を覆う柔らかなダークブラウンの毛がふにふにと黒兎毛に押し当てられる。 「ユーリ…あなたの中……最高ですよ。きゅうきゅうに俺を締め上げてくるのに柔らかくて…そしてとても熱い」 『…とても不思議だ…あなたのこの細い腰で、俺のものを受け容れられるなんて…』 「………っっ!」 聞かされる有利の方はもう一杯一杯で、羞恥と迫り上がってくるような圧迫感に翻弄されていた。 『い…今気付いちゃったわけデスが…俺…なんちゅう恰好で……それもこんな明るいところで始めちゃったんだろう!?』 仰向けの状態で高く腰を抱えられ、覆い被さってくるコンラートのものを上空から銜え込まされている…深夜とは言え煌々と電気の灯った室内では、シャツと下着を申し訳程度にまとわりつかせた霰もない姿も、情けないくらいぼろぼろと涙を零す真っ赤な顔も丸見えである。 「コンラ…ッド……い、今更なんだけど……滅茶苦茶ハズカシイ……っ!」 「どうして?」 「どうして…じゃねぇよ……っ!このスットコドッコイっ!好きな人に…こんな、間抜けな姿見せられない…っつーのっ!…って、やぁっ!」 羞恥のあまり叫んだら腹圧が上がったせいか余計にコンラートを締め付けてしまい、どれだけの深さにどんな形状のものが挿れられているのかリアルに感じさせられてしまう。 「間抜けだなんて感じるのはあなたくらいなものですよ…」 『こんなに清らかな思考で可憐な性質のあなたが、イきたさに震える挙立を持て余し、下の口を限界まで広げて男のものを銜え込んでいる姿なんて…夢想しただけで腰骨が震えるほど淫猥な恰好ですよ?』 しかし、その恰好を自分がとると想像すれば確かに有利の言い分も理解できるので、コンラートは賢明にも口を噤んだ。人生には不正直であった方が互いに幸福な事もあるのだ。 「とても綺麗ですよ…ほら、ここもだんだん馴染んできて…動いても痛くないでしょう?」 そう言って腰を燻らされれば、自分の筋肉を完璧にコントロール出来るこの男は、激しく突き上げているわけでもないのに、指診で下調べをしておいた反応点を的確に擦っては、確実に有利を追い上げていく。 「あ…ぁっ……はぁ……」 オイルをたっぷりと足した指が二つの膨らみにも絡みつき、やわやわと掌の中で踊らされれば、限界に近い挙立の先端から涙のような雫がとろりと滴り落ちてくるが、相変わらず根本で拘束されて到達を阻まれ続けている。 「お願い……コンラッド……もぅ…もう、無理……」 有利の指が耐えきれずに自分の先端に絡みつくと、コンラートは漸く拘束を解き…勢い良く有利の上体を抱え上げると、もう十分に慣らした体腔内に自分の挙立を突き上げた。「ぁあ…っ!」 甘い響きを纏う絶叫が喉を鳴らし、有利の挙立はびくびくと震えながら数度に分けて白い飛沫を迸らせた。ぬるつく液体は自分でも驚くほどの量で、その際に感じた悦楽は…ちょっと言葉にし難いほどの刺激で有利の脳をスパークさせた。 「気持ちよかった?ユーリ…」 「……っ!」 感じすぎて全身が敏感になった細い肢体を力強い右腕がすっぽりと抱き込み、くたりと脱力した顔を左手で仰向かせると…整わぬ息ごと浚われる勢いで、激しい唇付けがもたらされる。 「ん…んぅ……っ」 肩に回されていた右腕はいつの間に腰に回され、次いで左腕も臀部に回り込むと有利の身体をずるりと引き上げ…そして突き落とす。 「んーっっっ!!」 激しい擦過も慣らされた場所には痛みではない感覚をもたらし、有利のそこを排泄の為だけではない場所に再構築していく。 『変だ変だ変だ…ヘンタイだっ!…こ、こんなトコでこんなに感じてるなんて…俺、絶対オカシイってっっ!』 女の子の身体で抱かれていたときよりも深い場所にコンラートを感じて、自分で放ったものが互いの腹の間でいやらしい水音を立てるのにすら耳孔を犯される。 ぽろぽろと痛みの為だけでない涙を零して強く目を度していたら…急にコンラートの動きが緩やかになって…先程まで我が物顔で口内を蹂躙していた舌が粘る糸を引きつつ退却すると、鳥が啄むような軽いキスが幾つも幾つも…優しく瞼に与えられる。 その感触が何だかとても優しくて…そしてちょっと不安そうに感じて…恐る恐る目を開いてみたら、案の定…琥珀色の瞳が惑うように揺れていた。 「ユーリ…すみません。痛かったですか?俺のセックスはやはり下手ですか?成る可く痛み無く、気持ち良くさせてあげたかったのですが……」 心配そうなその声に、有利は急にすとんと胸に落ちてくるものを感じた。 それはとても暖かくて、ほっと安堵するもので…要するに、コンラートだって一杯一杯で、不安なことが沢山あったのだという話で…。何だかとても嬉しくなってしまった。 「痛いわけ…ないじゃん……気持ちよすぎて、怖くなっただけだよ。俺…その、あんたのがトンデモ無いところに入っちゃってるのに凄い感じちゃったからさ、何か恥ずかしかったんだ」 「本当に?痛かったり気持ち悪かったりしませんか?」 「うん…平気」 自分から腕を回してコンラートの背を抱くが、以前のように彼が逃げることはなく、有利のしたいように首筋への唇付けを受け容れてくれる。 それは彼のこれまでの人生を考えれば、とてつもなく大きな変化であるといえよう。 『お互い様なんだよな。慣れなくて吃驚したり戸惑ったりすんのは…』 納得して可愛らしい笑顔を浮かべる有利を、コンラートは堪らなくなって強く抱きしめた。 「良かった…じゃあ、こんな恰好をしても大丈夫ですね?」 『え…?』 と、いう間もなく…有利の身体は繋がったままくるりと反転させられると、ソファの上に膝立ちになる形を取らされる。腰を抱え込まれて恥ずかしいほど臀部を突き上げれば…グラビアでお馴染みの女豹のポーズでこんにちは…。 「意義ありぃーっっ!」 思わず某法廷ゲームの登場人物よろしく絶叫を上げてしまう(人差し指は突きつけられない)が、セックス自体に何の問題もないという事実が露見してしまった以上、最早言うことなど聞いて貰える筈がない。 「駄目ですよ…この体勢が、あなたにとっても比較的楽なはずですから、このまま楽しんでいただきますよ?」 「楽じゃなくていいからっ!ちょっと苦しいくらいで結構ですからっっ!」 「おや、ユーリはSMもいけるクチですか?俺はコスプレと道具までは許容できるというか寧ろ好きですが、鞭だの蝋燭だの、あなたが痛がりそうなものはちょっと耐えられそうにないですね…性向として、スカトロも勘弁していただきたい…」 「誰が何時そんなもん頼んだよっ!!つか、普通に専門用語使うなよ眞魔国人っっ!ネットで何の情報集めてんだよっ!?」 コンラートはこちらの世界に来てから直ぐにノートパソコンを入手しており、インターネットで色々と情報収集に余念がない様子だったが、それはこの世界の一般常識とか、二人で出かける場所の下調べとかの情報だと信じていたのに……。 「ははは…色々ですよ」 さらりと爽やかに笑ってくれるのだが…こと此処に及んで流石の有利にも、コンラートの爽やかさが信用のおけない時もあることを実感していた。ヨザック辺りに言わせれば《遅すぎます…つか、手遅れです》とでも言いそうだが。 ずぶっ……ちゅっ…… くぷっ…ずっ…… 律動が激しさを増すに連れ、たっぷりと塗り込められたオイルと空気が混ざって、恥ずかしい音が室内に満ちていく。そしてコンラートの腰が突き込まれるたびに、下腹と臀部がうち合わされる叩打音が小気味良い程に響き、有利を居たたまれない心地にしてくれる。 更に一層居たたまれないのは…コンラートの言うとおり、この体勢が意外と楽で…快楽を追求するのに集中できてしまうと言うことだ。 気が付けば有利の挙立は再び腹を打たんばかりに勃ちあがり始め、体腔を抉るコンラートのものに煽られてとろとろと雫を滴らせている。先端から零れるそれは有利の腰が揺れるたびに飛沫を散らし、撥水性のソファに白い点を描いていた。 「あ……ぁんっ!」 甘く掠れる声が止めどなく喉を滑り、自分からソファに胸を押しつけて感じやすい突起を擦過させれば、もどかしさに腰が揺れてしまう。 「ユーリ…駄目だよ。こんなところで擦っては…可哀想に、こんなに腫れて…果実のように赤く熟れてしまったよ?」 くすくすと揶揄うように耳元に囁かれるが、手つきは堪らないほど優しく…オイルの絡む器用で長い指先がくりくりと胸の飾りを嬲り転がす。 「ひゃうっっ!」 嬌声をあげて背筋を一際仰け反らせたとき、激しく突き込まれた再奥で熱い迸りが放たれた。一拍遅れて放たれた有利の迸りは、物理的刺激が直接無かったにもかかわらずどくどくと勢い良く放たれてソファを濡らす。 「は…ぁ……」 艶のある吐息を零して有利を抱き込むと、コンラートはじんじんと甘く痺れたそこを離脱させることが出来ないまま…暫くソファに横たわっていた。 「ユーリ…2回イっちゃいましたね…」 『それも、俺の陰茎を銜え込んで…その刺激だけでイってしまいましたね?あなたの下の口は随分と素直だ。もう自分の好物を覚えて、頬張ったまま離さない…ほら、継ぎ目から涎が零れてますよ?』 心の声は今回も微妙にオフレコである。 「改めて言うなよぉ……」 案の定、回数の話だけで有利の首筋は真っ赤に染め上げられ、声音に羞恥が混じる。 「自分でも堪え性がないって分かってんだから…こんなんじゃ、エッチ系の攻撃しかけてくる妖怪なんか来た日にゃへろへろにされて負けちゃうよな…」 「…………あなたって人は……無意識に俺を攻撃するのがお得意ですね…」 こっそり心の中だけで展開していた親父トークを責められたかのようだ…。 「エッチ系妖怪というとアレですよね…触手が絡みついて服を脱がすんだけども、実に絶妙な布分布で裂かれたものが微妙に身体にまとわりついていて、全裸よりも淫靡に見えたり、触手の先が陰茎になってて獲物の胸に押し当てられたり、次々にフェラチオを強要して顔射を繰り返した挙げ句、複数本で菊花を責めあげるという…」 「……………そんな妖怪、水木繁ワールドには居なかったんですケド…………つか、全力で怖ぇよ……………」 有利が考えていたのはツェリ様級の色っぽい妖怪(真・女神転生系の女悪魔とか?)が艶かしく誘惑してくれる図だったのだが…コンラートの知識って一体…。 「そうなんですか?一般的な妖怪ではないんですか?ロドリゲスの擦り込んでくれた知識によると、30年前くらいからこの国のスタンダード妖怪として定着しているとの情報だったのですが…」 「それ、一体どこ情報……?」 「確か、《くりぃむれもん》という雑誌が起源だと伺っております。その後、多岐にわたる書籍化、映像化が進んだそうですが、作画や趣向は異なれど原点としては根強いシェアがあるとか……」 「あのね、コンラッド……それ、多分うちの兄貴が好きな系統のゲームとかアニメとかの話だよ……つか、そういうマニアックな記憶って消したり出来ないの?」 「……今度聞いてみます…」 どうやら主の嗜好とは大きく食い違っているらしい。 「ね…そろそろお風呂はいる?」 暗に《そろそろ打ち止めにしてみようか》というお誘いは、故意にか無意識にか意味を擦り違えて伝わってしまう。 「お風呂でしますか?ああ、それならマットを買ってありますから硬い床で膝を擦る心配もありませんし、良いんじゃないですか?」 「マット?何時の間にそんなもん買ってたの!?」 「先週お風呂でやったときにユーリの体勢が辛そうだったので、迅速に入手しておきました」 「…………」 この場合、《ありがとう》と言うべきなのか呆れるべきなのか判断に苦しんでしまう。 『……予想してたのより身体は辛くないんだけど……でも………俺、今日眠れるのかな?』 有利の心配は的中し、結局熱い夜は熱い朝になるまで続けられたのだった。 →小説置き場に戻る |