2011年バレンタインリレー企画 芯に染み渡るような冷たい風が吹き抜けていくと、温度変化に強いコンラートも流石に首を竦める。凍結した路面は靴越しにも冷たく、足先は微かに痛みさえ感じていた。 『上着を一枚引っかけてくれば良かったかな?』 とはいえ、寮まで取りに行くのも面倒だ。口喧しい教官に見つかれば強制送還されてしまうだろうし。苦労して抜け出した意味がなくなる。 現在のコンラートは、友人のグリエ・ヨザック曰く《反抗期》にあったらしい時期は越えたものの、相変わらず教官の指導に逐一従う意欲は持てなかった。第一、日が暮れてすぐに門限が来るというのも自由人たるコンラートには馴染めない。 『早く飲み屋に入ろう』 顎を逸らせて目を細め、ふるりと身震いする姿に馴染みの女将が声を掛けてきた。年はいっているが徒っぽい雰囲気の佳い女だ。寒さ避けにショールを巻き付けた合間から肉付きの良い胸元が覗き、ぬめるように白い肌を見せつけるようにして前傾姿勢を取っている。以前のコンラートなら、誘われるまま個室に転がり込んでいたかも知れない。 「冷え切っているんじゃないの?暖めてあげようか」 「またの機会に頼むよ」 「あん…最近冷たいじゃないのさ。あたしが凍えちまうよ」 「悪いね」 タダ酒を呑ませてくれるのはありがたいが、代わりにコンラートを喰おうとする女将にくすりと笑みだけ送ると、掌を閃かせて足早に進む。以前はふくよかな肉体が恋しいこともあったが、今は感情的な繋がりのない女性と刹那的な性交をかわすことに空しさを覚えるようになっていた。 『君のせいだぞ?』 恨みがましそうな眼差しを曇天に向けると、ちらほらと白いものが舞い始める。寒いわけだ。どうやら、本格的な降雪が始まったらしい。 だが、見上げた先が暗灰色の空であるせいか、《君》と呼んだ少年の姿を思い浮かべようとしても、上手く結像することが出来ない。どういうわけだか、彼のことを詳細に思い出そうとすると、途端に薄い靄のようなものが脳内に立ち込めてくるのだ。名前さえ思い出せないのはどうしてだろう?それでいて、女を抱こうとするとえらく心に引っかかってしまう程、心には引っかかっている。 『…駄目だ、思い出せない』 溜息をついて頭を巡らせると、軽く髪に引っかかっていた雪粒がぱらぱらと散った。 仕方なく、無理に思い出すのを諦めて現実世界のことを考えてみた。 『王都でこの降り方なら、ヴァスカ地方には膝丈まで積もっているかも知れないな』 その方面に配備されることになったグリエ・ヨザックを想って、コンラートは長い睫を伏せる。彼以外にも、若い混血兵の多くが鍛錬も途上のまま戦地に送られていた。同じ混血でありながらまだコンラートが戦場を知らないのは、母親が現魔王陛下であることと、課程修了と同時に中尉の位に就く士官学校では、育成中途で実戦を経験する機会など無いからだ。 『俺も、早く戦地に出たい』 この脳内にある戦略・戦術が、果たして実戦でどれだけ通用するのか、コンラート自身が己の精神と肉体で知りたいのだ。実戦経験に乏しいくせに、理論だけは綿密に展開する教官を論破したところで、何の確証にもならないのだから。 『戦場に出たいなんて言うと、あの子は哀しい顔をしそうだな』 また思い出そうとしてみるが、相変わらずいつもの靄が立ち込めてくる。一体なんだというだろう? 《したたかに酔っていたからだ》とヨザックは言うが、コンラートは酷く酔っていたからといって、そう記憶を無くすような性質ではない。 『眞王陛下が関わっているとも言っていた気がするから、操作されているのだろうか?』 眞魔国の民として、ごく自然に眞王に対する敬意は持っているのだが、それでも操作されているとなるとあまり良い気はしない。 『また酷く酔っぱらったら、あの子に会えるだろうか?』 そんなことを考えながら飲み屋に入ると、顔見知りから飲み比べを挑まれたせいもあって、結構な勢いで酒を呑んでしまった。おかげで、少々荒っぽい気質の男と喧嘩になると、立ち上がった脚は意外なほどふらついていた。 『拙いな』 軽く冷や汗が背中に滲むが、胡乱な目つきをして集まってきた連中を前に、尻尾を捲いて逃げ出すのは癪に触る。大真面目に対決する気はないが、せめて頭と思しき男の鼻面に、一発入れてからこの場を去りたい。 「へへ…若いの。これだけを相手にして、壊れずにいられるかな?」 「壊れるまで付き合う気はないさ」 この男は、喧嘩以外の方法でコンラートを嬲る気がいるらしい。そいつに冷ややかな眼差しを送れば、更に情念を燃えたたせて舌なめずりをしてきた。変に紅くて薄い舌が、まるで蛇のようだ。視線はちらちらとコンラートの襟元を覗き、今すぐにでもシャツを引き裂いて我が物にしようとしたいらしい。 じわじわと距離を詰めてくる男の体勢が整う前に、コンラートは軽やかに跳躍するとトン…っ!と卓上を蹴って、見事な跳び蹴りで男の顔を砕いた。 「ぐまっ!?」 「て、てめぇ…っ!!」 圧倒的に優勢と踏んでいたらしい連中は頭を文字通り潰されて逆上するが、大人数なのが災いして互いの動きが互いを邪魔し、上手くコンラートを捕らえられない。その隙に、深入りすることなくコンラートは酒場を離脱した。 あれだけの人数が相手では、万が一動きを止められたらそれこそ集団で陵辱されてしまうだろう。 まあ、相手が一人であろうが複数であろうが、自由な風に吹かれる者として強制的に服従を強いられるなど我慢できることではないが。 「追え!追えっ!!」 「しつこいな…」 あの男、組織力だけはあるのか逃げても逃げても何処からか追っ手の呼ばわりが聞こえる。こうなると、逃走路を攪乱してくれるヨザックがいないのは痛かった。 『しまった…』 同時に二方向から追っ手が掛かったことと、走ったせいで酔いが回ったのか、うっかり逃走路を誤ったらしい。このまま直進すると袋小路に至ってしまう。 『どうしたものかな』 以前と違って、《諦める》という選択肢は無かった。自棄になってあんな連中に好き放題されては、もしもあの子に会えた時にまともに顔が見られないような気がするのだ。 『今でも、必ずしも綺麗な身体というわけではないけれど、意に染まぬ蹂躙を受けたことだけはないからな』 ならば、藻掻いてみるのも一興か。 少なくとも、自ら意志を捨ててしまうことは回避できるだろう。 しかし…勢い良く振り返った先で、コンラートは意想外のものを目にすることになる。ぐらりと世界が歪むような感覚に両脚を踏ん張ると、薄暗がりが急に眩い光に包まれ、そして…。 「…っ!?」 ゆっくりと明順応していく視界の中に、きょとんとした顔の少年がいた。 夢にまで見たというか、夢でしか見ることの出来なかった…あの子、だ。 * * * 「若獅子君だーっ!!え〜っ!?なんでなんでっ!?」 「君…は」 目眩を覚えたかのように、相変わらず酔いどれた風情の若きウェラー卿(如何にも悩みを抱えていそうだ)が掌で顔を撫でつけ、ゆさ…と顔を振ってから前髪を掻き上げる。獅子の名に相応しく荒っぽいカットの頭髪はしかし、《今》のコンラートに比べると幼弱さも目立つ。 『相変わらず、なーんか《可愛い!》って感じがするんだよね』 斜に構えた雰囲気が、堂に入ってるんだか拗ねてるんだか分からない感じで、ユーリとしては《ふくく》と含み笑いをしてしまうようなむず痒さがある。 何もかも練れて、常に余裕を持って行動しているコンラートも良いが、こんなふうに荒削りな少年時代を垣間見られるというのは得難い機会だ。 『いつもろくなコトしない眞王だけど、若獅子君に関してだけは有り難いな〜』 なんなら、ちょくちょく未来と過去を繋いで欲しいくらいだ。 今日はコンラートの為に眞魔国に於けるチョコレート、《オカカ豆》から作られたショコラートを調達しに街まで来たのだが、思いがけないタイミングで若獅子に遭遇してしまった。背後で、コンラートの代わりに護衛についてくれたヨザックも、さぞかし奇妙な顔をしていることだろう。 「今日も酒臭いけど、頭から被った訳じゃないんだ?」 「ああ…おかげで、君を濡らさずに抱ける」 「うっわ、そういうトコだけ今のコンラッドと被るなぁ〜」 するりと腕を回されれば、肉体年齢では同じくらいの筈なのに、やっぱり若獅子の方がガタイが良くて羨ましくなってしまう。 「良いなー、羨ましい!どうやったらこんなに良い大胸筋になるの?」 特に抵抗する凝ることもなく、さすさすと大胸筋や三角筋の膨らみを触っていけば、コンラートはくすぐったそうに咽奥を震わせた。 「ふふ…。君には見られたり触られたりしても、凄く気持ちいいな。不思議…」 何だか気に掛かる言い回しだ。 「誰か、嫌な奴に触られたの?」 「触らせたりはしていないよ。ただ、舐め回すみたいに眺めてきた上に大勢で襲いかかってきたから、ちょっと跳び蹴りで鼻を潰してやった」 「やるなぁ…」 実に若きコンラートがやらかしそうなことではあるが、誇らしげに笑う顔はなんだかやんちゃ坊主みたいでやけに可愛い。《凄いねぇ〜》と頭を撫で撫でしてあげたいような気分になる。 実際にやってみたら、背後から複雑そうな声が聞こえてきた。 「ちょいと坊ちゃん、こいつは…隊長の隠し子ですか?」 「ハハハ。そんなのいたら迷わずぶん殴るよ〜」 小さな拳を握り締めて《はぁ〜っ》と息を吹きかけていると、若獅子コンラートが不思議そうな顔をして背後の男を見上げた。 「…ヨザ?………いや、でも……老けてる…?」 「かびーん!乙女に言ってはならないことを…っ!」 「ああ、その変態じみた発言…やっぱりヨザだ」 目をぱちくりと開いたコンラートは、頭半分くらい背が高いヨザックの顔に両手をぺたぺたと当てると、小首を傾げながら玩具でも弄るみたいにして旧友を観察した。 * * * 『何だかえらいもんと遭遇しちまったなぁ』 ヨザックは若きコンラートを見つめながら、変な汗が額に滲むのを感じていた。どうやら本当に昔のコンラートらしいが、何もヨザックがいる時に来なくたって良いではないか。 『あぁああ〜…《若い》って言っても隊長は隊長だろ?こんなに酔っぱらった状態で坊ちゃんと一緒においといたら、どうしたって色っぽい感情もっちまうじゃねーか!』 しかも覚えのあるこの容貌から言って、コンラートがこれまでの人生の中で一番はっちゃけていた時期では無かろうか?不満の噴出先を見いだせなくて、手っ取り早い快楽や酒に耽っていた彼の前に、きらきらと輝く可憐なユーリなど与えたら、あっという間に手出しをしそうだ。 『どーなのかなー。隊長の記憶にどこまでやったか残ってるかによるよなー』 今のコンラートの記憶にないことまでさせていたらヨザックの《管理不行き届き》、記憶にあることであれば《致し方ないことであった》として、許してくれるだろうか? * * * 成長したヨザックを見るのは確かに不思議な感じがしたが、暫く見ると飽きてしまった(←何げに酷い)。それよりも興味を惹かれるのは、当然の如く少年の方だった。 『そうだ。ユーリ…ユーリだ!』 酒気を帯びた脳は未だにとろりと思考が溶けているというのに、ユーリに関してだけは素面であった時よりも明確に思い出すことが出来る。やはり、コンラートの部分的記憶障害は深酒によるものではなく、眞王の操作によるものだったと見て間違いないだろう。 その意図は不明だが、取りあえず再びユーリに会わせてくれたことだけは感謝したい。 「ユーリ、今日は老けた俺と一緒ではないのかい?まさか…喧嘩でもした?」 「違うよ〜。バレンタインが近いからさ、チョコの用意してただけ」 「ちよ…こ?」 聞き慣れないその言葉は、異世界の御菓子のことであるらしい。《好きな人にあげる》という習慣があるのだそうだが、あげる相手が《ウェラー卿コンラート》でありながら、自分自身ではないというのが複雑な心境にさせられる。 「別に一緒に買いに行っても良いんだし、コンラッドだって俺が用意しそうなこと感づいてるだろうけど、でも、やっぱ贈り物ってちょっとは隠したいじゃん?」 にこりとはにかむように笑うユーリの何と愛らしいことだろうか?こんな子から渡される御菓子であれば、さぞかし美味しく感じられそうだ。 「ふぅん。それで、もう《ちよこ》とやらは買ったのかい?」 「うん、これだよ」 ユーリは持っていた紙袋から小さな包みを出すと、わりと大雑把な手つきで開き始めた。 「開けてしまっても良いのかい?」 「うん。美味しそうだったんで自分用にも買ったんだよ。良かったらあんたも食べてみる?あー…でも、コンラッド用のはかなり甘さ控えめで、軽く塩味のついた軽焼き薄切りパンに塗ったやつだけど、俺のは結構甘いよ?」 「構わない。良い匂いだし」 箱を開けた途端、嗅いだ覚えのない特有の香りが立ちこめる。艶々としているダークブラウンの粒は結構一つが小さいから、甘いと言っても程度が知れていると思ったのだ。 しかし…ユーリから受け取って口に含むと、ぎょっとするくらいに甘い。しかも、ねっとりと絡みつくような質感があって、急いで飲み下しても後味がいつまでも咥内に蟠っているようだ。 「ほら、言わんこっちゃない!甘すぎたんだろ?あんた甘いの苦手だもんな〜」 「口直し、したい」 口元を押さえて眉根を寄せていたら、ユーリは困ったようにきょろきょろと辺りを伺った。 「ああ…えーと…グリ江ちゃん、何か飲み物あるかな?苦いマロ茶とかないかな?」 「お茶なんかじゃ嫌だ」 「もー、あんた我が儘…」 コンラートはユーリの頭部を捉えると、その唇に自分のそれを重ねて言葉を奪ってしまった。 * * * 「ちょ…っ!な、何してくれてんだよ!?」 ヨザックは力づくで引き剥がしたものかどうか迷いながら、深くくちづけをかわす主と、若いコンラートの肩に手を添えていく。 ぎろ…っと横目に睨み付けてくる若いコンラートとは対照的に、舌を絡められて涙目になっているユーリはヨザックに触れられているのにも気付かないようだ。 「ふ…ぅ、くぅん…んんん〜…」 そんなに甘い声など出さないで頂きたい。万が一こんな現場を今現在のコンラートに発見された日には、ヨザックもユーリも無事ではいられないではないか。 「ぼ…坊ちゃん〜、気持ちよさそうじゃありますけど、ちょーっと距離を保って貰っても良いでしょうか!?こんなとこ、隊長に見られたら…」 「見られたら、なんだって?」 がしり。 ヨザックの逞しい肩を、これまた逞しい手ががっしりと鷲掴みにする。心なしか指先が食い込んで、痛い。 「ヨザ…随分と暢気な警護をしているじゃないか。主が咥内を蹂躙されているというのに、放置とはどういう了見だ?まさか、自分もおこぼれに預かろうなんて了見じゃないだろうな?」 底冷えする声音にぞくりと背筋が震えるが、こちらにも言い分はある。 「あんたこそ、恋人の唇奪われてなにも言わないわけ?まさか…二人がかりで坊ちゃんをやっちゃおうなんて思ってる訳じゃあないだろうな?」 「馬鹿言え」 肩は一際強く握り込まれたあと、唐突に開放された。 * * * 「んん…ん〜…っ!」 抵抗しようとする手首を捕まえられる。若きコンラートの手は決してユーリの手首を痛めるようなことはなかったが、それでいて、逃れられるとは思えないくらい完璧に押さえ込まれてしまう。しかも、小道とはいえ公道に類する場所であるにもかかわらず、コンラートの舌は遠慮容赦なくユーリの快楽を煽っていった。 酒のせいなのか、はたまた若気の至りということなのか、強引すぎるキスは普段のコンラートからは考えられないくらい荒っぽかった。 『酒の匂いで、クラクラする』 チョコレートと酒の綯い交ぜになった香りが鼻から抜けていくと、官能的な目眩が脳を溶かしていく。コンラートには違いないから急所を蹴り上げるなんて大胆な抵抗は出来ないが、さりとて、行為に耽溺するには浮気みたいな背徳感がある。 「ん…んっ」 「美味しい、ユーリ」 やっと唇が離れてほっとしたものの、首筋を甘く噛まれてびくりと背筋が震えた。流石にこれ以上は拙いと警笛が鳴るけれど、がっしりと捉えられた身体は身じろぐことしかできない。 ガス…っ!と鈍い音がしたかと思うとコンラートが頽れ、その背後から、これまたコンラートが顔を見せる。ただ、こちらは幾分年嵩のコンラートであった。 「全く…油断の隙もないな。自分自身に寝取られそうになるとはね」 「コンラッドーっ!」 半泣きで年嵩のコンラートに飛びつくと、複雑そうな表情を浮かべつつも頭を撫でてくれた。 「そんなに可愛い顔をしていては、若い俺でなくとも押し倒したくなってしまいますよ?」 「ゴメンよ〜。あんたには違いないもんだから、なんか抵抗しにくくってさー」 「ま、分からないではないですけどね。俺だって、未来からやってきたしっとりフェロモン系の美青年ユーリには、やっぱり心が揺れるでしょうし」 「う…」 大人の色気を漂わせた未来の自分とコンラートがキスしたり、それ以上のナニをしているのを想像したら腸が煮えくりれかえりそうになった。先程まで唾液をかわすような深いキスをしていた自分が言えることではないと分かっているのだけど。 「ふふ…その嫉妬の滲む表情だけで、取りあえず今回は許してあげましょう。お仕置きは、ベッドの上だけにして差し上げますよ」 ちゅ…っと音を立ててバードキスをするコンラートは、今宵の寝台の上では若獅子以上の勇猛さを見せてユーリを貪ってくれそうだ。 「おや?もう一人お仕置きしてやらなくちゃいけない奴が消えましたね」 「あ…!」 つい先程までそこにいた筈の若きコンラートは、跡形もなく消え失せている。ヨザックに視線を送るが、やはり肩を竦めている。彼も消える瞬間には気付かなかったらしい。 「あんたは今日のこと、覚えてないの?」 コンラート自身のことなのだが、こちらも肩を竦めている。そういえば、覚えていたら以前に何らかの行動をとっていたかもしれない。 「うーん…どうも若い頃にあなたに会った記憶は、眞王陛下のお遊びなのかいつも不鮮明にされてしまいますからね」 ふぅ…っと溜息をつくコンラートは、どこか悔しそうだ。 「あなたに関することを忘れてしまうなんて、少々腹立たしいですね」 「えへへ。あんたのそういう顔見るの、珍しいな」 「あなたに関することだけは、物わかりが悪いものでね」 照れくさそうに囁きかければ、意外なほどストレートな答えが返ってきた。もしかして、若くて荒削りな自分自身に触発されたのだろうか? 「お仕置きとして…俺の口の中を、あんた味にしてくれる?」 「誘うのがお上手になりましたね」 くすりと微笑したコンラートは、ヨザックに指示をして細い小道の入り口を封鎖させると、恋人の唇も封鎖に掛かった。
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あとがき 「酔いどれトラベラー」、まさかの続編。今更ですけど、ネーミングセンス無いですな私…! でも、このお話自体は実は結構好きだったので、リクエスト頂けて嬉しかったですよ〜。 |