「うたた寝」
※15歳の黒うさ話
かくん…
か…くん…っ
お外には強い日差しが照りつけていますが、からからと乾いているせいか室内に吹き込んでくる風は意外と涼やかです。
そのせいでしょうか、黒うさぎは勉強をしようと思うのに何だかうとうとしてしまいます。
茶うさぎの素敵なお嫁さんになるためには勉強も出来なくちゃいけない気がするのですが、気持ちとは裏腹に、黒うさぎはそれでなくとも本を開くと眠くなってしまいます。
それが、こんな良い季節とあってはなおさらですね。
『コンラッドとキャッチボールしたいな…』
つい、勉強から意識が逸れてしまいます。
駄目駄目、起きてなくちゃ。
起きて…なく……ちゃ………
すう…
眠りの世界に誘われた黒うさぎは、夢の中で楽しく茶うさぎとキャッチボールを始めました。
* * *
『おやおや…こんな所で眠ってしまったんだね?』
ノートを広げて鉛筆を握りしめたまま突っ伏している黒うさぎに、茶うさぎはくすくすと笑いました。
とてもたくさんの美点をもっている黒うさぎですが、勉強だけは大の苦手なのです。
そんなこと、茶うさぎにとってはどうって事もない弱点なんですけどね。
よく眠っている黒うさぎはあどけない顔をして、口の端から少しばかり涎をたらしています。このままではノートが汚れてしまうかな?と思ってハンカチを寄せていくと…急にぴくん…っと黒うさぎの肩が跳ねました。
「あ…凄い、コンラッド…っ!」
「ユーリ?」
起きたのでしょうか?
でも、それにしてはおかしな事を言っています。
「凄い…こんなの初めてっ!」
茶うさぎの動作がぴたりと静止します。
黒うさぎは寝ぼけているようですが…一体どんな夢を見ているのでしょう?
「ぁん…駄目……止めちゃ駄目…っ!しよ…?もっとしようよぉ…」
ますます茶うさぎの動揺が激しくなります。
これは…やはり、《あんな夢》と考えるのが妥当でしょうか?
こんな風に言われちゃうくらい、《あんな事》を期待されているのでしょうか?
「あ…そこ…っ!凄い、抉り込むみたい…っ!」
おろおろとハンカチを握ったまま狼狽えていたら、丁度黒うさぎが目を覚ましました。
「あー…夢?」
「ユーリ…良い夢を見ていたの?」
黒うさぎの視界に入るやいなや、茶うさぎの態度が変わります。
如何にも大兎らしい余裕のある態度です。
「うん…すっごい良い夢だった〜…。あー、醒めなきゃ良かった…」
残念そうに呟いた黒うさぎでしたが、突然…とっておきの名案が浮かんだらしく明るい顔をしました。
「そうだ…!やっぱり我慢は良くないよね!ちょっとだけ…ね、お願い…コンラッド」
黒うさぎは両手を顎の先にちょこんと合わせると、実に可愛らしく上目遣いをします。
茶うさぎの喉が…ごきゅりと鳴りました。
『我慢せずに…』
『ちょっとだけ………』
確かに、過度の我慢は身体に悪いものです。
ここのところ、茶うさぎだってそのことは特に痛感しています。
「そう…です、ね……少しくらいなら…」
少しってどのくらいまででしょう?
胸のちんまりと愛らしい桜粒を撫でるだけでしょうか?それとも嘗めたり囓ったりするのは社会倫理の許容範囲でしょうか?
それとも…もっと大胆に下の方まで?
一気に下肢へと血液が集まり、脳貧血を起こしそうです。
「やったーっ!じゃあ、すぐにやろうっ!」
「え…っ!?こんな日の明るいうちに…っ!?」
「だって、日が暮れたら球が見えないじゃん」
「…………タマ?……」
「うん、すっごい球筋だったんだよ?こう…ぎゅぎゅ〜んと内角を抉り込むような球をね?凄い速度でコンラッドが投げ込んできたんだ!あ、夢の話だけど…でも、今やったら近い球投げられるんじゃないかな?どーかな?」
一拍おいて、茶うさぎは黒うさぎがどんな夢を見ていたか理解しました。
それはそれは…とっても黒うさぎらしく微笑ましい夢だったようです。
ですが…今日だけは、茶うさぎはがくりと膝を突きそうになったのでした。
「……キャッチボール…しましょうか」
「うん!あ…でも、疲れてたら良いよ?」
「いいえ、元気です。元気いっぱいです」
寧ろ、元気が有り余っていることの方が問題だったのです。
いっそのこと千本ノックでもした方が良いのかも知れません。
「さあ、行きましょう!」
茶うさぎは元気よく駆けだしました。
少しでも下半身に集中した血液を他の筋肉に分散させる為に……。
* も…もう一息だ、茶うさぎっ! *
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