「つめたくてあつあつのちゅう」 眞魔国森に冬が来ました。 ちっちゃな黒うさぎと大きな茶うさぎが住む家にも、今朝は淡く雪が積もって粉砂糖をまぶしたような様子です。 寒さにぷるぷると震えながらも、ふくふくとした雪を見て心弾まないはずはありません。 特に、ちっちゃな黒うさぎにとって雪はとても思い出深いものでもありました。 数年前の冬の日、人間に浚われてとても恐ろしい目に遭った黒うさぎは記憶を無くしてしまいましたが、そのおかげで茶うさぎに会えたのです。 それはとてもとても素敵なことです。 だって、黒うさぎにとって茶うさぎはとてつもなく大事な兎ですからね。 『そうだ、コンラッドに雪だるまをつくってあげよう!』 黒うさぎは素直なたちですから、自分がもらってうれしいものは茶うさぎも喜ぶと思ったのです。 そしてそれはまったく正しいことでもありました。 だって、黒うさぎが嬉しいと思っているなと思うことが、茶うさぎにとってはまさしく嬉しいことですからね。 黒うさぎはそう決めますと、郵便受けの上や柵の上など、特に綺麗な雪をあつめてちいさな雪だるまを作りました。 濃灰色うさぎがつくってくれたまふまふの青い手袋が少ーし濡れてしまいましたけど構いません。 「コンラッド!雪だるまーっ!」 元気よく黒うさぎがおうちに入っていきますと、珍しく茶うさぎはまだ眠っていました。 何しろ昨日は遅くまでお仕事をしていましたから、きっと疲れているのでしょう。 可愛らしく作れた雪だるまを見せてあげたくて仕方がありませんが…しょうがないですね。 だって、もともとこれは茶うさぎを喜ばせるために作ったものですもの。 それで茶うさぎを困らせてしまったのではしょうがありません。 「うーん…お前、コンラッドが起きるまでとけずに残っているんだぞ?」 雪だるまに真剣な顔をしてお願いをした黒うさぎでしたが、その口調が厳しいものであることに気付くと慌てて言い直しました。 「ゴメンね、ちょっときつい言い方だったね?おねがい…ね、おねがいだよ?そのままとけないでいてね?おれ、コンラッドをよろこばせてあげたいんだっ!」 一生懸命お願いしましたから、これで効くでしょうか? ドキドキしながら雪だるまを見つめていますと…気のせいでしょうか?頷いたように見えました。 「わぁ…ありがとうね?がんばってね?」 ほっとして、木陰の寒いところに雪だるまを戻そうとしたのですが…《うぅん…》と、どこか悩ましげな声音を響かせて茶うさぎが伸びを打つと、その綺麗な横顔に黒うさぎはうっとりと見惚れてしまいました。 『大好きな大好きなコンラッド…。なんてきれいなんだろう?』 茶うさぎはとっても素敵な雄うさぎでしたから、黒うさぎはついつい吸い寄せられるようにしてほっぺにちゅうをしてしまいました。 冷え切った唇が触れたせいか、茶うさぎはぴくんと瞼をふるわせました。 「ん…ユーリ……」 「…っ!」 名前を呼ばれてぱぴんっと背筋を伸ばしましたが、茶うさぎはまたむにゃむにゃと眠りの園に戻っていきます。その様子がいつもよりずっと可愛らしかったものですから、黒うさぎはまたまたすべやかなほっぺにちゅうをしました。 さて、困ったのは雪だるまです。 『僕はいったい、いつまでがんばればいいのかなぁ…?』 その年初めて降った雪には魔法がかかるものらしく、その魔法のおかげで雪だるまはがんばれば溶けずにいることが出来るのです。でも、そこは雪だるまですから限界ってものがあります。 それに… 『こんなに甘くて熱々なムードの中で、どうやって溶けずにいろと……』 雪だるまの慨嘆は、まったくもって当然のことですね。 それでも雪だるまは頑張りましたよ。 茶うさぎが目を覚まして、《わあ、とっても素敵な雪だるまだねぇ》というまで溶けずにいたのですからね。 その代わり…にこにこ顔の黒うさぎが可愛らしく微笑むのに、とろとろに蕩けた茶うさぎがたくさんのキスを降らす頃には、すっかり熔け崩れてしまいましたとさ。 |