2011年バレンタインリレー企画
~単発リクエスト~
「チョコレートアロマ」-3



 



『なんか、ドキドキしてきた』

 ユーリは自分の頬がおかしなくらい赤くなっていることを自覚しながら、コンラートの動向を見守っていた。コンラートもまた、彼にしては少し緊張しているようだ。幾らなんでもエレクト状態の逸物を見せてくれなんて、自分でも行き過ぎたお願いだとは分かっている。

『俺だって、グウェンとかヴォルフにこんなお願いしないよ』

 ギュンターは言わずもがなだが、他の二人だってそんな願い事をしたら、ユーリの側に今までの友情とは違う何かを感じてしまうことだろう。

『コンラッドだったら、大丈夫だよね?』

 ヨザックみたいな友人とやっていけるくらいだから、少々危険度(?)の高いお遊びだって今までやってきているだろう。エレクトリカルパレード(←意味が変わってる)なアレを少々見せたところで、今更どうということは…。

『…グリ江ちゃんには見せて、もしかしてそれ以上のこともしてたり?』

 見せ合って違いをあげつらいながら笑ったりするだけではなく、これを使って何かしようなんてこともやっていたのだろうか?

 何だかちょっと…いや、かなり気になる。

『でもきっと、恋愛感情とかは無しで、本当に好奇心だけで見せ合いこしたんだよ』

 うん、きっとそうだ。普段の二人を見ていても、濃密な雰囲気など感じたことはないし。

「では、お見せしますよ?良いですか?できれば、あんまり笑わないで下さいね?トラウマになっちゃいますから」
「それはこっちの台詞だよ!あんたのは立派だからどこに出しても恥ずかしくないだろ?」
「いや、恥ずかしいですよ!」

 確かに、幾ら立派でも何時でも何処でも出していたら猥褻物陳列罪で確実に捕まるか。いや、それ以前にコンラートの羞恥心が爆発するだろう。

「そ、そっか。ゴメンな?我が儘言って」
「良いですよ。ユーリのも見せて貰うし」

 そう言って、コンラートはちょっと恥ずかしそうにタオルを捲って見せてくれた。

「…ぅわー」

 思わず感嘆の声を上げてしまう。何というか、予想の斜め上を行く立派なものだ。美術館にある《それ、大袈裟でしょ》と突っ込みたくなるアポロン像のそれのように、隆々と立ち上がったそれには、いやらしさよりも感動を強く覚えてしまう。ついでに、根方に映えているふわふわとした質感の恥毛が可愛いとか思ってしまった。どこか品の良い生え方で、臍まで繋がったりしていないのも好感度が高い。引き締まった下腹の筋溝との対比も素敵で、何とも羨ましい。

「凄い凄い!やっぱ、日本人の規格と全然違うよ!銭湯で見たおっちゃん達のと比べても、ピストルとバズーカくらい違うよ!」
「それは大袈裟でしょう?」
「そのくらい迫力あるもん!」

 顔を近寄せてじぃっと凝視していたら、恥ずかしそうに小さく震えたその先端から、潤むようにして何かがぷくりと浮かび上がる。

「あ、ゴメンな!息掛かった?」
「いえ…。それより、今度はユーリの番ですよ?」
「そ、そーでした!」

 言われてみて、別にマッサージを受けたわけでもないのに自分のそれが臨戦態勢に近い形状まで成長していることに気付いてしまった。ズボンの中にきっちりと納めているのに、黒い紐パンを押し上げているのが分かる。

「えと…じゃあ、失礼して…」

 心なしか手が縺れるが、どうにかズボンのフロントを外すと、すうっと入り込んできた外気を感じてぴくんと腰が震えてしまう。今更ながらに顔が熱くなってきて、ズボンの縁に掛けた手がふるふると震えた。

『でも、あれだけ見せて貰ったのに自分だけ隠したりしたら、もう友達じゃなくなっちゃうよな!?』

 一方的に嫌がる臣下の逸物を見たなんてことになると、パワハラ以外の何ものでもなくなってしまう。

『いっちゃえ!』

 目を瞑って思い切りよくズボンを引き下ろせば、勢い余って黒紐パンも一緒に下がってしまう。ぷるんっ!と跳ねるようにして露出したそれはコンラートに比べるまでもなく可愛らしいプチサイズだし、根方に生えている毛も地肌が見えるくらいにうっすらとしているから、きっと生暖かい目で《可愛いですね》と言われることだろう。

 しかし、息を呑んで見守るコンラートは噴き出すのを堪える様子もなく、まじまじとユーリのそれを観察している。自分がそうされたように、間近に接近して。

『ぅわ…少し、息が掛かる』

 ほんの少しだけふわりと掛かる息が、先端が濡れ始めていることを教えてくれる。硬く目を閉じているから余計に触覚が鋭敏になって、浮かび上がった水滴がぷくりと大きくなっていくのさえリアルに感じ取れた。

「ち、ちっさいだろ?」
「いいえ、形が良いですから前途有望ですよ?」
「そう?」

 褒められると素直に嬉しくて、反射的に目をぱちりと開くと、まさに息が掛かる位置に陣取ったコンラートを発見してしまう。

『うっわ…!』

 未だに隆々と高ぶったものを見せつけながら、コンラートはうっとりとユーリのものを見つめている。その眼差しは単なる好奇心と言うよりは、深い愛情に満ちているようだった。もしかすると、名付け親として息子の成長に感動しているのだろうか?

 この場合、息子の息子なので…孫?

「綺麗な形です。角度もしっかりついて、腹を打っていますからちゃんと機能しますよ?」
「あ、ああ…ありがと…」

 お互いの逸物に賞賛の言葉を送り合ったは良いが、さて、これからどうしたものだろう?

「コンラッド、先に勃っちゃったからそろそろ苦しいだろ?お腹痛い?先にお風呂行きなよ」
「いえ、ユーリだって苦しいでしょう?若いんだから」

 心温まる譲り合いなのだが、内容が内容だけに如何なものか。そんなことを考えていると、コンラートが《良いことを思いついた》という顔をして手を叩いた。

「そうだ、ユーリ。折角ですから飛ばしっこもしませんか?」
「へ?」
「ここまで見せ合った仲なんですから、イった時にどれだけ飛ぶかやってみませんか?日本人は欧米人に比べてサイズは小さいけれど、硬さと機能面が優れていると聞いたことがあります」

 一体どこ情報なのだそれは。突っ込みたいが、ナニもかも負けているとしか思えないコンラートのそれと比べて、優れた面があるのではないかと言われるとちょっと気になってしまう。
 それに、このような人には言えないような濃密な《遊び》を共有するなんて、如何にも《下世話なことまで一緒に愉しめる悪友》という感じがして心惹かれる。時折、コンラートとヨザックの気の置けない関係に憧れていた身としては、何だかわくわくした気分も出てきた。

「じゃあ、そうしよっか!」

 決まれば行動は早いのがユーリの特徴だ。ぽんっと勢い良く寝台を飛び出すと、おしっこに急ぐ幼児のようにお風呂へと駆け込んだ。



*  *  * 




『受け入れられてしまった』

 話の流れから、《もしかしてもしかすると》と期待していなかったと言えば嘘になるが、現実に受け入れが完了してしまうと、期待感と不安で胸がばくばくと拍動してしまう。こんなに動揺するなんて、少年時代以来ではないだろうか?

 お風呂に駆け込んだユーリはコンラートを促して浴室の壁際にぺたりと背中をつけ、《腰を前に出しちゃ駄目だぜ?》《床面上の平行距離だけじゃなくてど、上に飛んだら目算で良いから垂直面上の距離計ろうな?》などと条件が平等になるようにしている。折角だから、本気で飛距離を出すつもりなのだろう。

「よっし、行くぞ~っ!」
「俺も負けませんよ?」

 
ごっしごっしごっし!

 仲良く並んで、勢い良く手を上下させる名付け親子の姿を、グウェンダル辺りが傍らから見るようなことがあれば、さぞかし呆れ果てたことだろう。ヴォルフラムやギュンターが見たら、大騒ぎして泣きそうだが。

「ん…んっ!」
「あんまり力任せに擦ると、逆に出ないんじゃないですか?」
「どうだろ?」

 紅く擦れて見えるそこは、先端を濡らしながらも確かに緊張しすぎな印象がある。

「ヤバ…遅漏ってモテないよな!?」
「早漏よりは良いんじゃないですかね?今は特に緊張してるんでしょうし」
「え~?でも、このくらいの緊張でコントロールできないとヤバイよな?」
「じゃあ…」

 ごくりとコンラートの喉が鳴ったのは気のせいだろうか?

「マッサージ券をもう一枚使っても良いですか?」
「え、ええ?このタイミングで!?」

 ぎょっとするユーリの予想は的中した。ユーリの背後に回り込んだコンラートは、するりとエレクト棒に手を絡めて、巧みな刺激を加え始めたのである。

「ちょちょちょちょちょっ!コンラッドっ!?」
「落ち着いて、ユーリ。感じやすいところを教えてあげるから」
「はわ…っ!」

 耳朶に甘く囁きかけないで欲しい。ぞくりと感じてしまったことと、あられもない場所に触れられていることとの相乗効果で、あっという間に蜜を滴らせてしまう。

「ここを、こうしてみたら?どうかな、感じる?」
「うん…か、感じる…つか、感じすぎて拙い感じがするよ~」
「まあまあ。折角だからよく覚えておいたらいいよ。今度は自分でやってごらん?」
「ん…」

 コンラートに指摘された場所へと指を絡めれば、確かに絶頂が近くなってくる。熱く迫り上がる感覚に我を忘れて愛撫を続ければ、今まで感じたことがないくらいの悦楽が身体の芯に響いてきた。

「来た来た来たぁ~
っ!!」(←釣り場で当たりが来たおっさんのようなノリ)
「では、こちらも失礼して」

 とぱーんと、爽快な余韻を残してそれぞれのアレからナニが放出された。(←本缶に本作品を残しておきたいが為の曖昧表現)

「…やった!俺の方が飛んだよ?あ、でも量はあんたの方が凄いなー」
「まだまだイけますしね」
「わ!マジでぇ!?」

 達した後も男のソレは確かにある程度の硬度を残しているものだが、コンラートのはまだまだ全開バリバリエレクト状態を保っている。もしかして、噂に聞く《抜かず三発》が可能なヒトなのだろうか?

「俺はまだ回復出来ないよ~。やっぱ、強度とかあんたの方が凄いなー」
「いえいえ、飛距離ではユーリに負けましたし」
「うん。あれで機能面には問題ないって証明できたよな?あとは、硬いかどうかか~」
「俺よりも硬い感じがしましたよ?」
「そお?」

 本当だろうか?コンラートは自分のは勿論のこと、ユーリのも触ったから確かに比較できるだろうが、問題は彼が名付け子に甘すぎることだ。ここはひとつ、コンラートの二度目を促して自分でも確認してみたい。

「じゃあ、今度は俺がやったげるよ!」
「そうですか…じゃあ、マッサージ券もこれで最後ですね」
「そっか」

 どこか残念そうなコンラートは、結構あの券を気に入っていたのだろうか?確かに、今までからは考えられないほど濃厚な接触の種になったのは確かだ。2枚目まで使った時にはこの先どうなるのかと不安もあったが、もう使い切ってしまうのかと思ったら急に残念な気さえしてきた。

「最後だから、あんたに思いっ切り気持ちよくなって欲しいな。しっかりマッサージするからね?」
「まさか、あなたにこんな所をマッサージされるとは思いませんでしたけどね」
「俺だってそうだよ~。ま、楽にして?」

 コンラートがそうしていたみたいに、背後に回り込んで手を伸ばそうとするが、意外と上手く行かない。幾ら細腰とはいえど、流石に武人の体格を後ろから余裕を持って包み込むのは難しいらしい。

「立ち位置はこっちが良いかな?」
「…」

 小首を傾げながらコンラートの股間真ん前に膝を突くと、両手で包み込んだトーテム君(←既に愛称呼び)がますますムクムクお育ちになる。

『わ…』

 聞くと見るとじゃ大違いだが、見ると触るとも更に違う。掌の中で脈打つそこは、隆とそそり立っているだけではなく、吃驚するくらいに熱くて硬かった。

「あんた、硬さも一緒か、俺より凄くない?」
「いえいえ、隣の芝は青く見えるものですよ」

 それでは、隣の男のチ○コは大きく硬く感じられるものなのか。とはいえ、そんなことに拘っているよりも、目標はコンラートに気持ちの良いマッサージをすることだったと思い出す。記念すべき5枚目なのだから、残念な結果に終わらないようにしなくてはなるまい。

 ユーリは頑張った。
 そして、頑張りすぎた。

 暫くの後、限界を迎えたコンラートが甘く掠れる声で《もう良いです》と囁いたにもかかわらず、ちゃんと最後まで面倒を見ようとして、逃げを打つ腰を押さえつけて愛撫を続けていたら…ぷぱん!と顔面に勢い良く放出されてしまった。

「……っ!!」

 声にならない悲鳴が、浴室の大気を超音波的に振動させた。



*  *  * 




『やっちゃった』

 折角コンラートに気持ちよくなって貰おうと思って、結構途中までは良い感じでマッサージをしていたのに、最後の最後に目測を誤ってしまい、気まずいことになってしまった。

『コンラッド、粗相をしたとか思ってるんだろうな?』

 巫山戯て飛ばしっこまではしても、相手のを擦るとか、ましてや顔に浴びてしまうなんて幾らなんでも友情の範疇を越えているだろう。きっとコンラートは気にして、またユーリとの関係がぎこちなくなってしまうかも知れない。

『ああ…俺の馬鹿!』

 バレンタインに印象的なプレゼントを贈れたと思ったのに、こんな事になるなんて思わなかった。コンラートがチョコレートをあまり好きでないのは知っていたし、バレンタインの習慣を知った女性達から沢山貰うだろう事も予測されたから、ユーリなりに頭を捻って考えた贈り物だったのに。

『どうしよう?今度は、何て言って仲直りしようか?』

 仲直りというか、そもそも喧嘩をしたわけではないのだが、なにか切っ掛けが欲しかった。

「大好きなのになぁ…。いつも、困らせてばっかりだ」

 はふぅと切ない吐息をつくと、ユーリは半分涙目になって魔王専用の大きすぎる寝台で転がった。バレンタインに酷い目にあったヴォルフラムが羞恥のあまりビーレフェルト領に戻ってしまったので、寝台の上は大きく開いていた。

 こうしてシーツに頬を擦り寄せていると、コンラートの部屋での濃厚な行為が蘇ってくる。最後は気まずいことになってしまったし、恥ずかしいのは物凄く恥ずかしかったのだが、実はとんでもなく気持ちが良かった。

『コンラッド以外と、あんなこと出来ないよな?』

 コンラート以外とやっていたらどうだったかなんて、想像するだけで嫌悪感とか、違和感みたいなものが湧いてくる。コンラートが相手だったから、《どこまでこいつに近づけるのかな?》と、ドキドキしながら試すことが出来のだ。それも、特別なイベントの力を借りてのことだったのだけど。

『同じ手はもう通用しないよな?』

 今度渡すとしたら、やはり最初の企画通り《肩たたき券》を渡すのが良いだろう。これなら《肩》と触れる対象を限定しているのだから、おかしなことにはなるまい。

『あぁあ~…おかしなことにはならないのかー。そうだよなー』

 それが残念だということを改めて感じると、ユーリはごろごろと寝台の上を転がって、《んーっんーっ!》と駄々っ子みたいに手足をばたつかせる。

『俺…一体、どうしたいんだろう?』

 コンラートと仲良しでいたいのは間違いないし、今みたいに気まずくなったりしたくはない。だったら大人しく今まで通りの関係を続ければいいようなものなのだが、ユーリの中には今以上に彼を理解したいという切なる欲求がある。特に、普段はそつのない態度を見せる彼が、どんなことをしたら血相を変えたり動揺するかなんてのには、我が身がどうなるかも忘れて強い好奇心を発揮してしまう。

『そういえば、コンラッドはどうなんだろ?』

 今まで自分のことばかり考えていたが、コンラートは結構積極的にマッサージ券を使ってくれてはいなかったろうか?自分に都合の良い妄想なのかも知れないが、彼もまた、今まで以上にユーリの反応を知りたいと思ってくれているのではないだろうか?

『…これって、目線が合っただけで《あいつ、俺に気がある》なんて言ってた男子並にイタい思いこみ?』

 でもでも、生理的にユーリの好奇心を受け入れられないのであれば、あのコンラートが生理的欲求に制動を掛けられないくらい流されて、ユーリの顔にアレを掛けたりするだろうか?

「…グダグダしててもしょうがないや!ちょっと、顔見てこよう!」

 ぴょうんと勢いを付けて寝台を降りたところで、丁度扉をノックする音が聞こえた。

「夜分に失礼します。少し時間を頂いてもよろしいでしょうか、陛下」
「陛下って呼ばなかったら開けてあげる」
「失礼しました、ユーリ」

 扉を開けると、はにかむような笑顔を浮かべたコンラートがいた。ほんの数時間会わなかっただけなのに、顔を見た途端にぽぅんと嬉しい気持ちが湧いてくる。こんな風に、会っただけで幸せな気持ちになるのはきっとこの人だけだ。

「入って入って!」
「失礼します」

 自分でもおかしなくらいはしゃぎ気味に招き入れると、コンラートはポケットから何かを取りだして、そっと目の前に差し出してくれた。

「これ…」

 それは手作りのカードだった。5枚綴りではなく、一枚だけのそのカードには、覚えのあるコンラートの筆跡で《好きな時に、ユーリが思いついたことを何でも叶えてあげる券》と書かれていた。その右下には小さく、《使用期間:無期限》とも書かれている。

「受け取って頂けますか?」
「こ、こんなの渡しちゃって平気?俺…好奇心無駄に強いから、あんたがどん引きするようなお願い事いっぱいしちゃうぜ?」
「して欲しいんです」
「でも…使用期間が無期限ってのは大盤振る舞いし過ぎじゃない?」

 例えば、コンラートが結婚したりすればどうしたってお願い相手の上位は奥さんに行くだろう。でも、その仮定を口にしようとすると切なくなってきて、どうしても言えなかった。
 コンラートはそんな逡巡まで読み取ったかのように、包み込むような笑顔を浮かべて頷くのだった。

「良いんです。俺は、俺の全てを生涯あなたに捧げていますから」

 《それって、俺が魔王だから?》と、ユーリが口にする前に、コンラートは恭しく跪いて濡れたような眼差しを向けてきた。

「臣下としてではなく、愛を請う者として生涯あなたのものであることを、許して頂けますか?」
「…っ!」

 少し難しい言い回しだったのと、まさか真面目な顔をして男からこんな事を言われる日が来るとは思わなかったから、ユーリは暫くの間ぱくぱくと口を開閉させていた。けれど、コンラートは焦らせることなく、まるで彫像のようにじっとしてひたすらに返事を待っていた。

 それが余計に、彼にとって真剣な告白であったのだと知らしめているかのようだった。だからこそ、いい加減な返事は出来ないと思った。

「コンラッド…俺…あんたのこと大好きだよ?きっと、世界で一番好きな人だと思う」

 コンラートは大きく瞳を開大させたが、ユーリがふるる…っと瞼を震わせる様子に何かを汲み取ったようで、まだ姿勢を崩しはしなかった。ユーリの中にある葛藤を、正確に読み取ってくれたのだろう。

「でもゴメン、俺はまだあんたのこと、愛とかそういうので見られるかどうか分かんない」

 我ながら情けないけれど、それが正直な気持ちだった。

「良いんです。俺が捧げたいだけですから」
「待ってくれる?俺が、あんたのことを本当に、あ…愛してるかどうか分かるまで」
「ええ、今までだってずっと待っていたんですから、平気です」

 琥珀色の瞳にきらきらと銀の光彩を散らして、コンラートは見惚れるような笑顔を浮かべていた。彼の方は今までの葛藤も羞恥も、全部整理をつけているらしい。ユーリの方はぐるぐると思考が大回転しているのに、と、羨ましいような悔しいような気分が出てくる。

「じゃあ、き…ききき…キスとかしてみても良い?」
「ええ、勿論」

 やはり愛か友情かを測る為には、キスというのはひとつの指標ではないだろうか?そう思ってお願いしてみたら、やっぱり佳い笑顔で許容された。



*  *  * 




 コンラートはユーリの顔にぶちまけてしまった後、石鹸で綺麗にしたユーリを丁重に部屋に送り届けてから、独特の香りが立ちこめる浴室で深く考え込んでいた。

 5枚のマッサージ券は使い切ってしまった。もう、ユーリに無体な欲求をすることは、彼がまたしても同じようなものを贈ってくれない限り出来ないし、幾ら彼でもこの手のものは贈ってくれないだろう。

 では、これからどうしたら良いのかと考えた挙げ句、ペンを手に取ったコンラートは小さなカードへと思いの丈を書き綴った。ユーリが自分のことをどう思っていようとも、正直な気持ちはこれしかないと思ったのだ。

 ユーリは一連の行為に嫌悪は感じていないようだが、これらが下世話すぎる悪友同士の愉しみであるのか、はたまた、異常な行為なのかの判断で激しい鬩ぎ合いをしているようだった。前者と捉えられるのならまだしも、またからかっていたなどと思われては堪らない。せめて、全ては愛情から出ていた行為なのだと知って欲しかった。

 そして一世一代の告白をしてみたら、券に込められた愛情を、ユーリは戸惑いながらも受け入れてくれた。
 あろうことか、早速身体を張って自分の気持ちを確認しようとまでしてくれている。

『嬉しい…』

 じんわりと胸を浸す想いに涙ぐみながら、コンラートはユーリの可憐な唇を味わっていた。誘いかけるように舌先で歯列をノックすれば、おずおずと開かれた咥内に舌を差し込んで、あらん限りの技能を尽くして味わっていく。

「ん…」

 心地よさそうな鼻息が漏れる頃には、自然と二人の肉体は密着し、ユーリの腕はくるりとコンラートの腰に回されて狂おしくしがみついてくる。
 はふぅと息をついてから見上げた眼差しは、うっとりと濡れていた。

「如何でした?」
「…気持ち、良かった…」
「嬉しいな」
「あのさ?キスが気持ちいいのって、あんたのこと愛してるってことなのかな!?それとも、あんたがめちゃめちゃテクニシャンだってことなのかな!?」

 慌てたようにわたわたと問いかけてくるユーリの頭髪を優しく撫でつけながら、コンラートは穏やかに囁きかけた。

「その答えを、じっくり二人でじっくり探してみませんか?」
「時間が掛かっても良い?」
「ええ、その間の時間もきっと楽しいですよ?」
「そっか…」

 ほっとしたように息をつくと、ユーリは見惚れるほど綺麗な笑顔を浮かべてくれた。

「そーだよな!あんたと一緒に探すんだもんなっ!」

 この言葉がどんな愛の文句よりも、能弁にコンラートを愛していると語っているのではないだろうか?ふつふつと湧いてくる幸福感に浸りながら、コンラートは愛おしい人を両腕の間にすっぽりと包み込む。


 ほわりと、芳しいチョコレートの香りがしたような気がした。


   

おしまい





あとがき


 うちのコンラートは基本ヘタレで対ユーリ限定で激しく自信が無い男なので、リクエストして頂いたような強引さは発揮できなかったのですが、書いててかなり楽しかったです♪別缶で扱った「秘密の801条本」に通じる感じです。

 ただ、こちらのお話が果たして「微エロ」の範疇に収まっているのかどうかが心配です~(汗)ご意見があれば、すぐ別缶に隔離しようかと思います。