「天上天下★唯コンラート様独尊」−3
「鮮紅鳳弾竜巻落としーーーっっっ!!」 「上様降臨…っっ!!」 ドグラァァン……っ! 駆け付けたオリンポスの必殺技と上様化した有利の繰り出す大技に、二頭の法術獣はサクっと倒されてしまう。 残りの一頭も明らかに怯んでおり、《うるるぅ…》と唸りつつも、尻尾を後ろ足の間に巻き込んでいる。かなり情けない格好だ。 『な…なんて頼りにならないんだっ!!』 この法術獣を封印した法石を手に入れるために、オースティンは国庫から密かに大金をせしめているのだが、これでは混乱すら起こせないではないか。 拒否られつつも何とかコンラートの傍に居続けたオースティンは、こうなったら一か八かとばかりに強力な媚薬を入れた小瓶を手に取ると、こそーりとコンラートの背後に忍び寄った。 せめて、オリンポスと有利の大技に人々が感嘆している間に無理矢理の飲ませてしまえと思ったのである。 だが…コンラートを愛する者達がそうそう油断しているはずもないのである。 「ちょっと待て!あんた、何をするつもりだよ!?」 有利が上様化を解いてコンラートを見やると、背後から忍び寄るオースティンに怒鳴りつけた。 「オースティン殿?それはなんですかな…?」 じっとりとした三白眼のコンラートに、《こんな冷たい眼差しも素敵》等と見惚れている場合ではない。オースティンの背筋には冷たくて粘っこい汗が流れた。 「ああ、いや…こ、これは…気付け薬ですよ。サンマン選手が気を失っているでしょう?」 苦し紛れにそう言った瞬間、意識が自分から逸れたことを好期と見たのか、残された一頭の法術獣が暴れ出した。 キシヤァアアア……っ! 咆哮を上げると、倒されていた二頭が合体してきて巨大な一頭の獣に変じる。 「ユーリ…っ!」 「わ…っ!」 一度変身を解いた有利は、すぐには上様化できない。それを知っていたわけではないだろうが、法術獣は有利目がけて飛びかかっていく。 コンラートは即座に駆け込んで法術獣と有利の間に立つと、長剣を構えて対峙した。 「は…っ!コンラート様と魔王陛下の一大事ですわっ!」 「獣如きがコンラート様に何をするつもりかぁあっ!」 オリンポスや坊主集団もまた、愛するコンラートと彼が愛する魔王陛下を救わんと駆け出した。 『そんなに集まったら何も出来ないじゃないかっ!!』 何もかも裏目に出てしまうものだから、オースティンは半分涙目であった…。 「鮮紅鳳弾竜巻落とし…っ!」 「兄貴族超絶筋肉の宴……っ!」 オリンポスの金色のドレスが翻り、法衣を脱ぎ捨てた坊主達(真紅の紐パン一丁)の筋肉がてらてらと輝く。 華麗なる必殺技と脂ギッシュな魔力が合わさったとき、いい感じ(?)にじゅーじゅーパチパチと熱せられた大気が巨大な法術獣を吹き飛ばした。 その放物線の果てにいた者は…オースティン・ラ・テルスケッタその人であった。 「う…うわぅぁああああ……っ! 自業自得を絵で描いたような姿でオースティンは獣の下敷きとなり、潰されたカエルのような声を上げてしまう。 すぐに法術獣は姿を消したから持続的に圧迫されることこそ無かったものの、意識は朦朧としているし、何より法術獣の尻尾が喉を強打したせいで声がすぐには出ない。 「う…ぐ……」 「あ〜…これはターイヘーン。オースティンさんが意識を失ったちゃったよウェラー卿〜」 妙に平坦な声でそんなことを言っているのは、確か眞魔国在住のもう一人の双黒…大賢者の筈だ。 「猊下、彼が手にしている瓶は《気付け薬》だそうですよ」 「ほっほー?そりゃおあつらえ向きだねウェラー卿」 オースティンは知らないが、その取って付けたような発言とわざとらしく大きな動きは、通販番組を彷彿とさせるものであった。 『じ…冗談じゃないっ!』 ふんぎぎぎ…と歯を食いしばって媚薬を飲まないようにするのだが、がっしりと顎関節を掴まれて横から押されればやはり口は開いてしまい、とくとくと媚薬を注ぎ込まれてしまう。 「あー、全部飲ませちゃったー良く効くかなぁ〜」 「やあ、オースティン殿…意識が戻られましたかな?素晴らしい効き目の気付け薬ですね」 「ぐ…ふ……ぁ…」 身体の自由はまだ十分ではないのだが、強力な媚薬による突き上げのせいか身体中が燃えさかるように熱い。 そんなオースティンの視界に入ったのは…何故か思い思いの格好で筋肉のキレを見せ付けている赤褌坊主軍団であった。 涙ぐましいことに、コンラートが意識的に視線を逸らしていることにも気付かず、《我らを見て下さい、コンラート様…っ!》と、ニジンスキー(イ○の息子達)もかくやという陶酔を見せているのだ。 「……っ!」 ドン…っとオースティンの鼓動が激しくなる。 今の彼にとっては、がっつり脱がせ難そうな軍服を着込んだコンラートよりも、つるりと指を這わせるだけで《孔》が露出しそうな赤褌軍団の方が遙かに魅力的に映ったのである。 「や…」 ぐらりと上体を揺らめかせながら立ち上がると、オースティンはぎらつく目で赤褌軍団を見つめ、突進する勢いで襲いかかっていった。 「犯らせろぉぉおお…っ!!」 「ぎゃーっ!変態っ!!」 抱きついて二、三人の褌を剥ぎ取り、獣の姿勢にさせた上にズボンを引き下ろしてフルチンを剥き出しにしたオースティンに、坊主軍団から悲鳴が上がった。 赤褌軍団に《変態》と呼ばれては人としても魔族としてもかなり終わってる感じだが、オースティンのこれまでの所行を考えれば、《一般的な変態の皆さんに謝れ!》と言いたくなるような所行が目立つので、もっと酷い呼称でも良いかも知れない。 「オースティン殿ご乱心っ!」 「出会え、者共っ!オースティン殿ご乱心だ…っ!」 笑いを噛み殺しながらも、コンラートは流石に坊主軍団が犯されては気の毒と思い、猛り狂ったオースティンの項に剣の柄を叩き込んで気絶させた。 * * * グリエ・ヨザックの調査などもあり、オースティンが口にした媚薬が彼自身が手配したものであり、強力な獣を封じた法石についても彼が入手してサンマンに渡したことが判明した。 サンマンは取り調べに対して素直に事実を話し、オースティンがその変態的な嗜好によってコンラートを手に入れようと画策していたことが分かったのである。 気の毒な父王オズワルド・ラ・テルスケッタは国の体面を丸つぶれにした不肖の息子を引き取りに来ると、平身低頭せんばかりにして眞魔国側に謝罪した。勿論有利はこれを赦して、今後とも国交は結んでいて欲しいと願った。 尤も、オースティンが王位を継ぐのだけは勘弁して欲しいと頼んだが、これは王の方でも同じ事を思っているようだった。 そんなこんなで慌ただしい事件が介入してしまったわけだが…折角集まったのだしと、競技場を急ぎ補修してから大会は続行された。 * * * 「ねぇ〜マリアナ様ー…何で棄権しちゃったんですかぁ〜?」 「愚かなことをいうものではなくてよ。それに、今は話し掛けてはなりません」 豪奢な特別席に陣取ったマリアナは、ぶうぶうと不平を鳴らす女豹族のスーに扇子を振った。 もう本来の銀髪に戻し、身に纏うドレスも紅系統のものに変えたマリアナは、身分を偽ってはいないので呼び名も訂正することはない。 目の前では、コンラートと真っ当な対戦者が長剣を交えて戦っているところである。 古強者らしく堅実な闘いを見せた対戦者だったが、コンラートの俊敏さと力強さを併せ持つ剣技の前に愛剣を弾かれると、爽やかな笑みを見せてがっしりと握手を交わした。 実に清々しい闘いぶりである。 「ほぅ…流石はコンラート様ですわ。流石は剣聖と謳われるお方…」 うっとりと見惚れるマリアナの唇からは、甘い吐息が漏れる。 「ねーねー、試合終わりましたよ。教えて下さいよぉ〜。あたしら、まだあんたの妙技を拝みたかったのにぃ…」 「語尾を伸ばさない!」 「はいぃ」 何とか努力はした感じの語尾でスーが頷くと、やっとマリアナは説明してくれた。 「お前は私の気持ちを上手く転がしたと思っているでしょうが…私は欲望によって当初の目的を動揺させることはないのですよ」 「え〜?」 「私の目的はコンラートの様の勇姿を目にすることと、コンラート様の御身を護ることのみっ!選手として出場していたのでは、それが十分に出来ませんからね」 一度エントリーされれば、敗退した選手も特別席から競技を見ることが出来る。 マリアナとしては、自分の武勇を誇るよりもコンラートの妙技を目にする方が重要なのだ。 ただし…マリアナはサービス精神も旺盛な女性であった。 すっくと立ち上がると、スーや他の侍女達に向かって扇子をふるう。 「さあ、コンラート様が決勝戦で勝利された暁には、勝利を言祝ぐ必殺技を披露せねばなりません。コンラート様の次の試合まで、特訓をしますわよ!」 「わぁ、やったあっ!それでこそマリアナ様っ!」 意気が上がった侍女軍団を引き連れて、マリアナは颯爽と歩き出した。 ただ…マリアナはその特訓を会場の外ではしなかった。目を離している隙に、オースティンのような変態にコンラートが狙われては堪らないからだ。 * * * 「コンラート様、お側で特訓させて頂きますわ」 「あ…はい。どうぞ……」 キェエエエエエ……っ!! 控え室に押しかけてきたマリアナの奇声を聞きながら、コンラートは半笑いで身体を休めるしかなかった。 「コンラッド、お疲れ様っ!次の試合も頑張ってね?」 「ユーリ…これは?」 「うーん…格好が似てるからどうかなって思ったんだけど…」 有利が差し出してきたのは檸檬の蜂蜜漬け…に似た、紫色をした果物のスライスが、砂糖まみれになったものである。 滋養強壮によく利く果物なのだが…砂糖をまぶしたとしても物凄く酸っぱい。 案の定、口に含んだ途端に猛烈な勢いで酸っぱさが脳天を貫いた。 「………っっ!!」 「こ…コンラッド、大丈夫!?」 ぴくんっと眉根が寄ったのを見て有利がおろおろと狼狽えるが、コンラートは頑張って飲み下すと、周囲の視線を避けて有利を引き寄せる。 そ…っと唇が重なった。 「…っ!」 「味のお裾分けです。ユーリはそのまま食べない方が良いよ。酸っぱいでしょう?」 「う…ぅん…」 《でも…ちょっと甘い感じもしたよ…》ちいさく囁く恋人に、コンラートの甘い微笑みが向けられる。 今回も変態の魔手からすんでの所で逃れたコンラートと有利は、甘い恋物語を繰り広げるのであった。 キェェエエエエエ……っ!! 至近距離で、ちょっと悲痛な感じの叫びが上がっていても、気にしない(ちょっとは気にしようよ)二人でしたトサ。 おしまい あとがき 7月から開始した50万打&2周年企画ですが、どうにか100万打も3周年も来ないうちに終結できて良かったです。よりによって最後が思いっきりイロモノな上に、コンユ色薄くて申し訳なかったですけど…。 前回「ウェラー狂の人達にも日の目を見させて下さい」とのコメントがあったので、今回は目立たせてみました。こっち方向に…。これもどうなんでしょうね(汗)。 とりあえずたぬき缶分終結記念でアンケートを設置しますので、よろしければご協力下さいませ。 |