一周年記念拍手文、黒うさシリーズ「七夕は君と一緒に」 ※うさぎな有利とコンラッドがほのぼのと暮らす日常のワンシーンです。 黒うさぎの有利と茶うさぎのコンラートは、地球森で暮らすうさぎ達です。 仲良しの二羽はいつも一緒。 ですが…この日、二羽は離ればなれになってしまうのです。 「必ず…無事に帰ってきます」 旅装を整えた茶うさぎは、凛とした面差しで黒うさぎに微笑みかけました。 「コンラッド…」 黒うさぎは涙を懸命にこらえています。 泣いたりしたら、茶うさぎは旅の間ずっと黒うさぎのことで心を痛めるでしょうからね。 「怪我に気をつけてね…?絶対絶対…ちゃんと帰ってきてね?」 明るく言おうと思うのに、語尾は涙声で掠れてしまいます。 「ええ…ええ、必ず…あなたのもとに帰ってきます…っ!」 跪いた茶うさぎは、黒うさぎのちいさな身体を抱きしめました。 響きの良い声は、強い力を込めて誓いを立てました。 「君達さぁ…修学旅行の引率くらいでそんなに気分を出さないでよ…」 傍らでは、呆れ果てたように村田が嘆息しています。 そう…茶うさぎの旅とは二泊三日の生徒引率。 幼年学校で教員をしている茶うさぎは、最上学年の修学旅行について行くことになったのです。 「全くだ!ゆーちゃん、こいつが居ない間一羽きりって訳じゃないんだぞ?」 黒うさぎの兄の勝利もおかんむりです。 黒うさぎの実家である渋谷家はここぞとばかりに末息子を呼び寄せ、ご馳走づくめで二泊三日を過ごさせようと画策している様子です。特に勝利は、久し振りに弟を可愛がり倒したくて堪らないのです。 「そうですね、これが今生の別れというわけではありませんし…。お土産を一杯買って、すぐに帰ってきますね?」 「あんたが無事に帰ってきてくれるのが、なによりのお土産だよ?」 「ユーリ…っ!」 「コンラッド…っ!」 がしっと抱き合う二羽に、とうとう勝利が暴れ出しました。 「お前らいい加減にしろよ!?さっきからもう30分はそんなことやってるだろ!いい加減遅刻するぞっ!!」 勝利の罵倒を背に、茶うさぎはしぶしぶ出立するのでした…。 * * * 7月7日…とうとう、茶うさぎが帰ってくる日になりました。 茶うさぎは《迎えに行きますから、シブヤ家で待っていて下さい》と言ったのですが、黒うさぎは少しでも早く茶うさぎをゆっくりさせてあげたくて、二羽が暮らす小さな家に帰ってきていました。 黒うさぎが一人で出来る家事が一段落付くと、ちょっと手持ちぶたさになってしまいます。 「そーだ、笹に何か書いて待っとこうかな?」 美子に持たされた小さな笹には、既に沢山の飾りが吊されていますが、願い事を書いた短冊は二羽で吊そうと思っていたのです。 茶うさぎを待つ間になるべく綺麗な字で書いておいて、茶うさぎには一緒に吊すときまで内緒にしておけばいいでしょう。 「ええと…こー書いて、あー書いて…」 集中して一生懸命短冊を書き上げますと、思いの外綺麗に書くことが出来ました。 あまり字が上手い方ではない有利にとっては、会心の出来と言っても過言ではありません。 「ふぉー…頑張った!うん!」 こくこくと頷いて満足していると、安心したせいでしょうか?少し眠気が襲ってきました。 何しろこの二泊三日というもの、茶うさぎにおかしな事が起こってやしないか心配で、あまり眠ることが出来なかったのです。 「ちょこっとだけ眠ろうかな?」 少し仮眠をすれば、茶うさぎが帰って来たあと、夜遅くまで土産話を聞くことが出来るかも知れません。 「よしよし、そうしよう」 自分自身に言い聞かせるように頷く有利はもう限界でした。 ほふり…と可愛らしい欠伸をすると、クッションを沢山置いたソファの上にころんと横になりました。 「ちょっとだけ…ちょっと……だけ………」 とろとろと瞼が下がってきて…黒うさぎはすぐ夢の世界に引き込まれていきました。 * * * おや…?何だか良い匂いがします。 黒うさぎが大好きなお肉の匂いです。 それに、香ばしいチーズの匂いもします。 くきゅうぅぅぅ〜…… お腹の虫に起こされて目を覚ました黒うさぎは、幾度か瞬きした後に、茶うさぎがご飯の支度をしている様子に吃驚仰天してしまいました。 「はわわっ!ご…ゴメンなコンラッド!俺…ちょこっとだけ寝ようとしただけなのに…」 「きっと疲れていたんですよ。もう少しで用意が出来ますから、それまで眠っていて下さい」 「駄目だよ!あんたこそ、生徒さん達連れて草臥れてんだろ?あぁぁあ〜っ!もうっ!俺ってどうしていつもこうなんだろう?あんたに良いことをしてあげたいつていつも思ってるのに、なんかいっつも抜けてんだよ…!」 黒うさぎは奥歯をぐーっと噛みしめます。 情けなくて涙が出そうですが、泣いたりしたらきっと茶うさぎは慰めることに全力を尽くしてしまいます。そんなことでまで草臥れさせるわけにはいかないのです。 「何を言ってるんですかユーリ…。お家の中を綺麗にしてくれて、すっかりご飯の準備だって整えていてくれてたじゃないですか。俺は竈(かまど)に火を入れただけですよ?」 「でも…あんたが帰ってきたら、ぴょーんっと飛びついて《お帰り!》って言うつもりだったんだぜ?うー…くそー……。《帰ってきたら奥さん寝てました》なんて、ケンタイキの古妻みたいだよー」 「ユーリ…どこでそう言う情報を仕込んでくるんですか?」 「お袋の漫画と村田」 「………そうですか。でも、ユーリの寝顔はとっても可愛らしくて、エプロンをつけたまま眠っていたのも、きっと家事仕事の合間にちょっとだけ横になりたかったんだろうな…って感じで、とっても可愛かったですよ?思わずキスしたくなりました」 「……しても良かったのに」 ぽそ…っと口の中だけでもごもごしますが、丁度ヤカンの中のお湯が沸騰したせいで茶うさぎの耳には入りませんでした。 「え?」 「ううん…何でもない」 ふるふると首を振っていると、茶うさぎがヤカンの中から麦茶の茶葉を抜き、火を止めました。 そして、茶うさぎはふわりと黒うさぎの身体を抱え上げたかと思うと、すたすたと家の外に連れ出しました。 「コンラッド…どうしたの?」 「ユーリにお土産があるんですよ」 庭に出てみると…そこにあったものに黒うさぎは目を見開きました。 「わぁ…」 それは、とても大きな笹だったのです。 天を突くような大きな大きな笹の向こうに、ミルクを流したような天の川が煌めいています。まるで、その流れをさらりさらりと笹の葉が送っているかのようです。 見ると、渋谷家から持ち込んだ小さな笹も、吊された飾りや短冊ごと大きな笹の中に組み入れられていました。 勿論、有利改心のできばえであった短冊…《コンラッドとずっと幸せに暮らす》も、高々と掲げられています。 その横には、とっても綺麗な字で《ユーリとずっと幸せに暮らす》とも書かれています。これは、茶うさぎが書いたものに違いありません。 「凄いや…おっきな笹!てっぺんに吊した俺達の短冊が、空に届きそうだね?」 「ええ、そう思って特大の笹を担いできたんですよ。根っこごと持ってきましたから、来年も再来年も…ずーっと願い事を高いところに掲げられますよ?」 「うぉ…本当だ……」 特大の笹は驚くべき事に、しっかりと地面に根を下ろしています。相当重かったでしょうに…一体どうやってここまで運んだのでしょう? 「あ…そーだ、俺…願い事、もう一つ書いても良い?」 「ええ、勿論良いですよ」 茶うさぎの腕から降りた黒うさぎは、たたっと家の中に駆け込むと、急いで願い事を書いて戻ってきました。今度は急いで書いたせいで、字がちょっと乱れていますが構いません。 「…っ!」 短冊を高い位置に吊そうと、笹を持って待っていた茶うさぎでしたが…短冊の文面を見ると淡く頬を染め、笹から手を離して跪きました。 「この短冊はお星様にも見せない方が良いでしょうね?」 「うん、これはあんただけ見といてくれればいいよ?」 茶うさぎに負けず劣らず、黒うさぎの頬は真っ赤です。 短冊に書いた最後のお願い…それは、《コンラッドとキスしたい》…でした。 これには、お星様も頬を染めて困ってしまうことでしょう。 茶うさぎは黒うさぎを抱き寄せると、ちゅ…っとやさしくキスをしました。 それはそれは…蕩けるような甘いキスでありました。 * 甘い甘〜い展開にしようと思えば思うほど変質者の香りがする黒うさシリーズ…。パラレルの中ではたぬき缶最古参兵のシリーズであります。今後とも砂を吐き吐きお付き合い頂ければ幸いです。 * |