「君に願いを」

※たぬき缶開設一周年記念SS@




 

 

『七夕の夜なんて、彦星と織姫は自分たちのことに手一杯で、他の人間の願いを叶えているような余裕なんてないさ』

 小さい頃…幼い有利に対してはわりと夢を持たせる方だった勝利が、その時だけは機嫌が悪かったのか、仏頂面で呟いていたのを覚えている。

 しかし美子は母の余裕と言うべきか、笑って長男を窘(たしな)めつつ

『こーゆーのは気持ちの問題なの!ま、言ってみれば自分の未来に対する標語みたいなものかしら?七夕にかこつけて短冊を書いて吊すうちに、自分が欲しいものとか将来なりたいものが、自分自身や周りの人に分かるって寸法よ』

 その答えは勝利の理念にも多少合致していたのか、珍しく感心したような眼差しで美子の動作を見守っていた。

  傍らでスティック糊と悪戦苦闘しながら銀紙で《天の川》を作っていた有利は、勝利と美子の会話がよく分からなくて、舌っ足らずな声音で不思議そうに聞いたのだった。

「《しょーらー》ってなに?」

「醤油が大好きな人かしらね」

 《マヨラー》の応用例か?

「母さん、変なボケ入れるなよ。ゆーちゃんがそのまま覚えちゃうだろ?ゆーちゃん、《しょーらー》じゃなくて《しょうらい》。大きくなってどんな仕事に就きたいかとか、やりたいことは何かなって事だよ?」

「ゆーちゃんは何になりたい?お嫁さん?ウェディングドレス、ゆーちゃんにとっても似合うと思うわぁ…。でも、カクテルドレスも捨てがたいわね。やっぱりお色直しは4着は必要よね!」

「だから母さん、変なボケを入れるなっての!ゆーちゃん、男はお嫁さんを貰うことはあっても、なることはあんまりないからね。マイノリティの権利は擁護すべきだけど、俺は家族が自らマイノリティ化するのは反対だからね?」

「まいのり?」

 勝利の言葉は、小学校低学年とは思えないくらい語彙に富んでいた。ただ、有利にはさっぱりぽんと意味が理解できないことが多かったわけだが…。

「しょーちゃんこそ難しい言葉使わないの!ゆーちゃん、頭がパンクしちゃうじゃない」

「うーん…確かに脳味噌ちっちゃそうだからな、ゆーちゃん…そこがまた可愛いんだけど」

「ゆーちゃん、ちっちゃくないもん!」

 お餅のようにぷくぅ…と頬を膨らませれば、余計に勝利と美子の笑みは深まってしまう。

「むー…ゆーちゃんはおっきくなったら、すごくおっきくジャンプできるカエルか、海で一番おっきいクジラになるんだもん!」

 その答えは家庭内に爆笑を持って迎えられ、その後も折ある事に繰り返し聞かされることとなったのであった。

 

 

*  *  *

 

 

 笹の葉サーラサラ…

 笹の葉茶で血液もサーラサラ…

 

 有利が中途半端に覚えていた歌詞のせいで、些か趣旨の異なる内容に変じてしまった詩が、吟遊詩人の喉から朗々と流れていく。

『7月7日は地球では七夕って呼ばれてて、笹に綺麗な飾りや願い事を書いた短冊を吊すんだよ』

 何かの拍子に有利が口にした言葉をきっちりギュンターが覚えていたらしく、血盟城の広い中庭には笹に似た植物が植えられ、色とりどりの切り紙が飾られている。

 ただ、ギュンターは昨年やったクリスマスと混合しているようで、最初は所狭しとランプが掲げられてやけに明るく照らされていたのだが、《星を見る日なんだよ》と訂正したので、今は最低限の明かりで笹っぽい植物が照らされているだけだ。

 輝きの強い星が幾つか目立つようになってくると、宵闇の中に浮き立つ笹っぽい植物も、それなりに雰囲気を醸し出すようになってきた。

 屋台も幾つか出されているが、概ね飲み物などを置いている程度であまり騒がしい様子ではない。

 また、中庭には台座が随所に置かれ、筆記用具と短冊が置いてある。有利の発案により、城内の者が願い事を書いて吊せるようにしているのだ。有利自身が後で目を通し、可能なものについては叶えてあげたいと思っている。

 早速目を通した物の中に無記名で《陛下と…》と書かいてあるものの、《…》以降の部分が血まみれで読めないものや、神経質そうな文字で《へなちょこと一線越えたい》と書かれたもの、重厚な角文字で《生きていたい》と書かれたものなどが目に付いた。

 これらについては、最後のもの以外は有利の力ではどうにもならない…というか、どうにもしたくない。

「どうかなさったんですか?陛下」

 有利はギュンター作《ユカータ改良型》に身を包んで短冊を眺めている内、微妙な表情になっていたらしい。

 それにいち早く気付いたのか、コンラートがいつも通りの軍装に身を包んだ身体でそっと寄ってきた。如何にも西洋建築という感じの重厚なベランダには、コンラートの方がナチュラルに映える。

 だが、団扇でぱたぱたと襟元を扇ぎながら、簡易的に用意された長椅子の上で脚をぶらぶらさせるのも、一年に一日くらいは良いのではないだろうか?まあ…建物と合わせて全体的に見ると、日本文化を勘違いしている西洋の豪邸という感じがしなくもないが…。

「陛下っていうなよ名付け親」

「これは失礼」

 くすくすと笑いながら《ユーリ》と訂正する名付け親が確信的にこの発言を繰り返していることを有利は知っているが、敢えて追求しようとは思わない。

 基本的に物欲が無く、《欲しいもの》を言えといっても《ユーリの健康と平和かな?》みたいな具合に、《お前は俺のおばあちゃんか》と突っ込みたくなるようなことしか言わない名付け親が、密かにこの会話を楽しんでいることを知っているからだ。

 多分…彼は、この会話によって自分が、《名前で呼んで欲しい人》として有利に認識されていることを再確認したいのだ。

 何かを強く欲することのない彼が、こんなやり取りだけでも喜んでくれるのなら…望むとおりいつまででもつきあってあげたい。

「なあ、あんたの分も浴衣用意されてたろ?着てみたらいいのに」

「折角ですが、遠慮しておきます。このように気が解れる場では不測の事態が起こることもありますからね。護衛としての責務を果たすのにあまり良い服装とは言えませんので…」

「むー…。あんたの浴衣姿って見てみたかったのにな」

 拗ねたように唇を尖らせ、上目づかいにじぃ…っと見つめると、ポーカーフェイスが微かに動揺して見える。

 ギュンターのようにあからさまな反応は見せないが、どうもこういう顔をすると大抵のことは聞いてくれるようだ。

『やっぱ、コンラッドって俺の名付け親ってスタンスが地肌に染みこんでんだろうなぁ…。子どもの我が儘って、つい聞いてあげたくなっちゃうもんみたいだし。んで、ギュンターは俺のじーちゃんってスタンスなのかも』

 ギュンターに言えば泣き出しそうな感慨を抱きつつ、有利はぶらぶらと脚を揺らめかせた。

 青い鼻緒のついた下駄はなかなかの出来で、木質が滑らかなせいか素足に柔らかい感触を伝えてくる。

「ユーリ…そんなに脚をぶらぶらすると、裾がはだけてしまいますよ?」

「うん、そーだね。なんか風が通って気持ちいいからついやっちゃうんだけど、浴衣だとはだけたら紐パン見えちゃうもんね。猥褻物陳列罪で捕まる前にやめとくよ」

 コンラートは何か言いかけたが、微かに頬を染めて止めてしまった。

「んー、でもこの浴衣やっぱ気持ちいいよ?麻みたいな素材で通気性が良くってさ、肌馴染みも良いの。やっぱコンラッドも着たらいいのにさ。ねー、いまヨザックは血盟城に居るんだろ?後でちょこっと護衛変わって貰ってさ、浴衣着て見せてよ〜」

「そうですか…それでは、ヨザを見かけたら着替えさせて頂きましょうか」

「本当?」

「ええ」

「わひゃ、楽しみー」

 にこにこ顔でまたしても足をばたつかせていたら、ふと中庭の方から見上げてきた兵士が一人、鼻血を出して倒れてしまった。

「あれ…どうしたんだろ?暑気あたりかな?」

「全く…訓練がなっていませんね。おい、トールスラー!そこの兵士の名を後で教えてくれ。みっちり指導してやるから」

 名を呼ばれた上官らしき人物は、何故か過剰なほどにびぃんっと背筋を直立させ、強張った顔で敬礼を寄越してきた。顔色が真っ青な気がするのだが気のせいだろうか?

 

   

*  *  *

 

 

 ウェラー卿コンラートの主は無邪気で可憐な子どもだ。

 今日も、自分の何気ない一言によって大規模な七夕祭りが開催されている様子を見ると、吃驚して申し訳なさそうにしつつも、はにかんだようにお礼の言葉を口にしていた。

 有利を目に入れたいと切望している王佐等は、その笑顔一つで今日も元気に鼻血を噴き上げていたわけだが…。

 紅い飛沫から逃げ回りつつも、有利はギュンターの用意した《ユカータ改良型》を着込み、楽しそうに祭りの様子を眺めている。

 今日の日中はかなり気温が上がっていたせいか、夕刻に差し掛かる今も少し暑い。そのせいで、有利は先程からぱたぱたと団扇で胸元へと風を送り込んでいた。

 とはいえ、湿気の少ないこの地域のことだから、気温が下がり始めると肌寒いくらいの冷気となるため、コンラートはいつでも羽織らせることが出来るように上掛けを用意している。

 それよりも気がかりなのは、有利が一人で着たせいで多少着崩れしている浴衣の問題だ。

 先程から胸元を開けたり、ぱたくたと脚をぶらつかせているせいで、綺麗な鎖骨のラインや白い踝が垣間見え、何とも目に毒な光景が展開されている。

 有利が楽しんでいる様子なので、あまり小煩いことは言いたくないのだが…それでも、ちらちらとこのバルコニーの様子を伺っている兵士達の視線を考えると、そのまま放置することも出来ない。

 《裾がはだけてしまいますよ》…そっと窘めてはみたのだが、どうも有利は言葉の趣旨を取り違えているようで、《猥褻物陳列罪》などという罪状をあげて裾を合わせていた。

 白い生足を人目から隠してくれるのは良いが、黒い紐パンに覆われているだろう有利のものを《猥褻物》と呼ぶのは、コンラート的には語弊がある。

 ただ、《有利のものは猥褻物などではありません。寧ろ可憐な美術品かと…》などと言うのも、自分の人格を疑われそうでイヤだ。絶対、ギュンターと同列で扱われてしまうに違いない。

『浴衣着て見せてよ〜』

  コンラートに浴衣を着るよう勧める主の様子は、駄々っ子みたいで可愛らしい。

  祭りの開放感によって不測の事態が起こらないよう警戒する気持ちは強いのだが、結局押し切られる形で受諾してしまった。

『やれやれ…やはり俺はこの方に弱いな…』

 まあ、有利が納得するくらいの時間…ほんの半刻程度着ていれば納得してくれることだろう。

「あ、ヨザックーっ!」

 目の良い有利は中庭の兵士の中からヨザックの姿を見いだすと、ベランダから身を乗り出して手を振った。

「危ないですよ、ユーリ」

「大〜丈夫…」

 言った端から、ベランダの柵に乗り上がっていた足がずるりと滑り、顎が柵に激突しそうになってしまう。

「危ないっ!」

 咄嗟に抱きかかえて事なきを得るが、慌てて四肢をばたつかせたせいか…有利の裾は内股が覗くほどに乱れてしまう。しかも、コンラートの腕に抱き寄せられた身体はすっぽりと包み込まれるような形になってしまった。

「あ…ごめ……」

「いえ。でも…気をつけて下さいね?」

「うん」

 腕を離すべきだとは思うのだが…仄かにかおる有利の香気に惹かれ、思わず想いを込めて抱き竦めてしまう。

 振り払われることを予期して、せめてその時までは…と、切なくなるような一瞬の連続を味わっていたのだが、どうしたものか有利も身を離そうとはしなかった。

 さや…と吹き寄せる風はようやく涼気を含んだものになり、肌寒いその風から身を守ろうとでもするように、そぅ…っと有利の身体が擦り寄ってきた。

「コンラッドって…なんか匂いつけてる?」

「いえ…臭いですか?」

 ふと不安になって尋ねるが、有利はミルクを呑んだ子猫のように《うにゃ…》と目を細めた。

「ううん…違うよ。なんかね、懐かしいような…良い匂いがする。落ち着く…っていうか」

 過去に有利を抱きしめたことは何度かある。

 彼が危機を脱したとき、落ち込んでいたとき、衰弱しきっていたとき…良い思いでもあれば、無惨な想いをさせてしまったこともある。それでも今この時…彼は《懐かしい》と微笑みながら身を預けてくれる。

 そのことが…泣きたいくらいに嬉しかった。

「なぁ〜にやってんのかしらこのヒト達は?」   

「ぅわっ!」

 心地よい体温が離れて行ってしまった。

 急に身体の一部がすっぽりと抜け落ちてしまったような喪失感に、微かに眉根が寄ってしまう。

 だが、呼ばれてきただけのヨザックに当たるわけにもいくまい。

「ヨザ、ほんの半刻で良いんだが…少しユーリの護衛を代わって貰えるか?」 

「ああ、いいぜ?」

 軽やかに引き受けているが、彼は自分が何を託されているのか十分に理解しているはずだ。

 かつては有利を試すような言動・行動をこれ見よがしにアピールしていた彼も、今となっては彼の強力な守護者に変じてしまっている。

 ユーリもまた、彼に対しては深い信頼を寄せているようだ。

『少しばかり、嫉妬してしまいますけどね』

 微かに後ろ髪引かれつつも、コンラートは席を空けた。

 

 

*  *  *

 

 

「坊ちゃんはタンザクとやらに何か書かれたんです?」

「うん、何枚か書いたよ。まずは《立派な王様になれますように》だろ?んで、《みんなといつまでも仲良く暮らせますように》《家族と友達がいつまでも元気でいますように》《筋肉がつきますように》…え〜と、こっちで頼むのもどうかと思ったんだけど、《ダンディ・ライオンズに良い選手が入りますように》かな」

「色々と頼みましたねぇ…。ですけど、それって誰が叶えてくれるんですか?」

「うん、それについちゃー色々と説がある訳なんだけど…」

 有利は昔、美子が語っていた説を紹介してみた。

「ふぅん…標語ねぇ」

「お袋が言うにはさ、言葉には力があるから、口にしたり何かに書いたりすると、叶う確率が上がるんだって。《ああ、俺はこういう目標をもってるんだ》って自覚した本人が努力したり、周りの人が叶えてあげようとして頑張ったりしてくれるんだってさ」

「そうですねぇ、坊ちゃんは色んな連中が挙って助けようとしてくれますからね。そりゃ書いとくに越したことはないでしょうね」

「ヨザックの願いは何?何か書いてみた?」

「ええ、オレンジの紙に《いつまでも美しくいられますように》って書きましたよ?」

「そっか…今度ツェリ様に良い美容液がないか聞いてみるよ…」

「あはは、気にしないで下さいよぅ」

「なーヨザック。コンラッドの願いって何なのかな?短冊に書いてみなよって言うんだけど、自分の願い事は書かないんだよなー」

「人のは書いてるんで?」

「俺の健康と平和を願っているとか言うんだよ。コンラッド自身の願いが知りたいのにな〜」

「まさにそれがあいつの願いそのものですからねぇ…。それ以外無いんじゃないかな。あいつ…」

「えー?ヨザックまでそんなこと言うなよ。生き甲斐が俺だけってこたないだろ?」

「いいえ、あなただけですよ」

 ヨザックの明るい蒼瞳は彼らしくもない真面目な色彩を含み、何処か訴えるような強さを持って有利に向けられた。

「あなたが全てなんですよ、あいつにとっては」

「ヨザック…?」

 切々と滲む情感に、有利は戸惑ったように小首を傾げる。

「いいですか?坊ちゃん。なるべく元気で長生きして下さい。少なくとも、一秒でも長くあいつより生きて下さい」

 《関白宣言かよ!》と突っ込みたいが、ヨザックの声音は真剣そのものだ。

「おい、どうした?ヨザ…」

「ん〜ん、何でもないわよーん。お、コンラッド、似合うじゃねぇか」

「本当だ!やっぱいいねぇ、着流し!」

 手を叩いて喜ぶ有利の前で、照れくさそうにコンラートが襟合わせを直した。

 濃紺の浴衣はコンラートの丈に合わせて作られており、広い背中からいなせに締められた葡萄茶色の帯びにかけてのラインが実に粋だ。着慣れない着物の裾合わせに戸惑っているようだが、それでも背筋がぴんと伸びているせいか歩様はとても綺麗だ。

「恰好いいなぁ…うーん、俺も背が欲しいなぁ!」

「筋肉もデショ?」

「それを言わないでよグリ江ちゃん…。短冊にも書いたし努力もしてるから、きっとそのうち叶うんだから!見てろよ?そのうち、グリ江ちゃんが白いハンカチ銜えて《くきぃ〜っ!》って嫉妬するくらい立派なキン肉マンになってやる!」

「信じる事って大事ですよねぇ…」       

「俺は信じてるもん!な、コンラッドも信じてくれるだろ?」

「ええ、きっと今よりは筋肉もついてきますよ」

「………グリ江ちゃんに勝てるとは思ってないな?」

「いえ、勝って欲しくないなという願望です」

「……コンラッド、俺が筋肉もりもりになるのイヤ?」

「ええと…」

 微妙に言い淀むものだから、有利は唇を尖らせつつも頷いて見せた。

「…しょーがないな、あんたがそう言うならグリ江ちゃんクラスまではいかないようにするよ」

「ユーリ?」

 筋肉ネタで引き下がるとは一体どうしたことかと思っているのか、コンラートの表情は怪訝そうだ。

「あのな…俺、あんたが願うことなら何だって叶えてあげたいんだぜ?だから、あんたがキン肉マンが嫌ならならないようにするし、元気で長生きもするよ。だから、あんたもお返しに、元気で長生きしてくれよ?」

「ええ、可能な限り」

「全力を挙げてしろって!そーだ、その事を短冊に書いてよ。俺も書くから!」

 有無を言わさず短冊を手に取り、二人はお互いに《元気で長生きをする》と、渋谷美子言うところの《標語》を掲げた。

 青い漉紙に墨痕鮮やかな有利の文字と、流麗なラインのコンラートの文字が描かれる。そしてバルコニーから手を伸ばして笹を引き寄せると、外れないようにしっかりと紐で結びつけた。

「な、これで自分でも努力するし、みんなも全力で助けてくれるよ」

「そうですね」

 二つ並んで風に揺れている短冊を見つめながら、コンラートは蕩ける様な笑みを浮かべた。

 

『ユーリ…あなたが望むなら、全てがほんとうのことになりますよ』

 

 有利の望む未来が、光り輝くものになりますように…。

 その助力となるためにも、自分は生き抜いて行かなくはならない

 

 …いや、生きていたい。

 

 今なら、強くそう祈ることが出来る。

 

 期せずして長兄と同じ願い事を掲げてしまったコンラートではあったが、込められた想いは大きく様相を異にするものであった。

 

 

おわり

 

あとがき

 

 何とかふらふらへろへろと一年を経過することが出来ました!

 助けて下さったサイトの皆様、暖かいお言葉を掛けて下さった閲覧者の皆様、狸山の拙い話や絵のどれかに、何かを感じて下さった皆様…皆々様がしあわせで元気で長生きできますように!

 ところで、「大きくなったらカエルさんになっておっきくジャンプするの」は、うちの妹が4歳の時に言っていた内容です。大きくなって理知的に育った彼女ですが、やはり親兄弟はその事を度々蒸し返すのでした…。可愛いなぁ、妹…。