「食べて欲しいの」バージョンA ※微エロですのでご注意下さい。
時間にすれば僅か数秒のことではあるが、コンラートの中には激しい葛藤が渦巻いた。 有利に恥をかかせないためには、ちょっと引いてしまっていることは絶対秘密にしなくてはならない。 だが、このままこれがコンラートの趣味なのだと思われるのは甚だ心外だ。 コンラートにはコンラートなりの拘りがあり、裸エプロンやコスプレは好きだが、食料品を身体に盛るというのはいただけない。どう考えても体温で食品の質が劣化してしまい、味が落ちるからだ。 しかも甘いケーキは基本的に苦手なのだが、それが有利の身体に乗っかっているとなればどうしたって完食しなくてはならない。有利もコンラートも食品を粗末にする事の出来ない性分なので、嘗め取ってでも綺麗に平らげなくてはならない。 それに…これがあの男の入れ知恵である場合、絶対何処からかこの状況を観察しているに違いないのだ。 『どこだ…どこにいる?』 感覚を研ぎ澄ますが、全く探知ではない。 それが、彼の不在を保証するものではなく…寧ろ、より巧妙に隠れているのではないかという疑いに結びつく。赤い悪魔を《アニシナちゃん》呼ばわりしている彼は、色々と彼女の役に立っているおかげで、何かと不思議な道具を貸与されることがあるのだ。 コンラートですら探知できない装置によって、この部屋のどこかに潜んでいる可能性が大だ。 『どうする…?』 しかし、長考しているような余裕はない。 秒単位で心細そうに変化していく有利の表情を見守る間にも、決断の時が近づいていた。 「ユーリ…」 有利への愛と常日頃から培っている精神力の支援を受けて、コンラートは一見すると何の動揺も見せていないかのような笑顔を浮かべた。 ゆっくり…ことさらゆっくりと歩き、緊張しすぎて半泣きになっている有利の許に近寄っていく。 人一倍《男らしさ》というものに拘っている有利からすれば、きっとコンラートが思う以上にこの恰好は堪えているに違いない。ここでコンラートが不審げな表情を一瞬でも浮かべようものなら、酷く傷ついてしまうだろう。 だから、コンラートは有利を怯えさせないようにゆったりとベットに腰掛け、やさしく有利の頬に手を伸ばした。 「ありがとう、ユーリ。俺のために、なにをしたら喜ぶか調べてくれたんでしょう?」 「う…うんっ!」 こくこくと頷くと、寄り添っている掌の感触で落ち着いてきたのか、有利は子猫のように目を細めて緊張を緩めた。きっと…コンラートが入浴している間、死にそうなくらい緊張していたに違いない。 「もしかして、ヨザ情報?」 「うん…ごめんな。本当は自分で考えた方が良かったんだろうけど、ちょっとズルしちゃったんだ。コンラッド…俺とのエッチの時って、凄く我慢してくれてるような気がするからさ…。いつまでも経験不足とか言ってらんないし、頑張んなきゃって思って…」 「でも…肩に力を入れて頑張るなんて、勿体ないような気もしませんか?」 「え…?」 予想外のことを言われたのか、有利はきょと…と小首を傾げる。 細い首筋に巻かれたリボンが、しゃらりと肌を滑った。 「俺は、ユーリとこうして寄り添っているだけでもとても楽しいですよ?特別に何かをしたり、変わった恰好なんてしなくても、あなたはあなたのままでとても素敵ですからね」 「とっても可愛いし、ユーリの気持ちはとても嬉しかったよ。甘い香りがして、ユーリまでデコレーションの一部みたいで素敵だ」 こういうときに蕩けるようなコメントが出来るのが歴戦の勇者の技量というもの(?)である。コンラートは羽根が触れるような軽いキスを幾つも幾つも有利の頬や肩口に落とし、あらん限りの言葉で有利の愛らしさと頑張りを賞賛した。 「ただね?俺は、あなたが好きなんであって、あなたのオプションが好きなわけではないんです。ですから…どんなに可愛いと思っても、そのせいであなたが少しでも無理をしたり、苦しい思いをするのなら辛いんです。ね…待ってる間、恥ずかしかったでしょう?」 「………恥ずかしかった」 優しく髪を梳いて貰いながら、その心地よさにうっとりと目を細めて有利はコンラートの胸に頭を凭れさせた。 「俺…お子ちゃまだと思われてるから、コンラッドが無理して我慢してくれてるんだと思ってた…」 「そんな無理のある関係が長く続くはずがないでしょう?俺はあなたが好きなんです。そのままのあなたが一番魅力的で、綺麗だ……」 「もー…コンラッドってば…」 いちゃいちゃいちゃ… 軽いキスと脳が爛れそうな睦言の応酬に、寝室の中にはピンク色の気体(コンユ体?)が充満していった。 * * * 『なーんだよこりゃあぁぁ……』 この展開に拍子抜けしたのはヨザックである。 コンラートがあたふたするという貴重な情景見たさに、上司を売ってまで(オイ)アニシナから気配を消す粉を借りてきたというのに…これでは自分がアテられるだけである。 しかも、この粉…魔力が無い者でも使えるのは良いのだが、魔力を封入した粉を全裸に塗りつけないと作動しないため、ヨザックは客観的にみてかなり恥ずかしい姿で立ちん坊をしている。 真夏のこととはいえ、流石に夜の全裸は寒いし。 『うー…こりゃ、ケーキの食えるトコだけ皿に盛って、風呂に浸かってフツーのエッチして終わりだな…』 元上司や魔王陛下のセックスをかぶりつきで見るほど無粋な性格はしていない(下世話な性格はしているが)。 ここはひとつ、二人が風呂に入っている間に部屋を抜け出そう。 そう決めたヨザックだったが…コンラートのキスは気が付くとその深さを増しはじめ…脇に置いてある皿に戻すかに思われていたケーキは、なにやら愛撫の道具に使われ始めている。 『お…おぉ…?』 男体盛りを《自分の趣味ではない》と匂わせていた割には、えらく積極的にクリームを使うものではないか。 しかも…しゅるりと解かれたリボンで巧みに有利の身体を縛り、動けない身体を羞恥で煽りながら甘い愛撫を加えているとは…。随分とまた、仕込み道具でこなれた使い方をしているものだ。 『ぅお…坊ちゃんてば、予想外に……色っぽい、な……』 ごぎゅ…と無意識に喉が鳴ってしまう。 お子ちゃまだと思っていた有利の痴態は、羞恥に声を殺そうとする仕草や、真っ赤になって膝を合わせようとする動作と相まって、可憐であると同時にえもいえぬ色香を漂わせる…。 まだ成熟していない蕾の中を強引に覗き込んでいるような背徳感と、未成熟ながらどこか妖艶さを滲ませた眦の不均衡感が、濡れ場には慣れているはずのヨザックをして異様に興奮させた。 『やば…上ずった啼き声とか、上気した肌と身体のラインとか…普段とは全然違うな…』 これは、コンラートが咲かせた有利の艶なのだろうか? こう言っては失礼だろうが、王様を廃業しても夜の街で王侯貴族並みの金額を稼ぎ出せそうだ。 知らず知らずのうちに、ヨザックは前進していく。 見たいと思う欲望が強いせいなのか、どうも先程から肝心な場所に限ってコンラートの身体が被さってしまい、有利の恥ずかしい場所を直視することができないのだ。 『うー…あ、くそ…っ。まただ!隊長〜…。なんでそんなトコに被さってくるんだよ?』 何でも何も、現在魔王陛下に絶賛ご奉仕中なのだから当然である。 分かってはいるのだが…絶妙な角度で見えそうで見えないチラリズムと、アニシナの道具に守られているという慢心が祟ってか…ヨザックはこの時、彼らしくもなく警戒心を失っていた。 彼はもう少し考えてみるべきだったのだ…。 男体盛りがヨザックの入れ知恵であることにコンラートが気付いている以上…彼が覗き見を警戒しているはずなのだということに…。 結局息が掛かるほどの距離まで接近していたヨザックは、《シャリン…っ!》という金属の擦れる音で我に返った。 だが…時既に遅し…。 ヨザックの前髪と陰毛とは、コンラートの剣戟一閃によってばっさりと切り落とされていたのである…。それも、前髪は生え際ギリギリまで…。陰毛は、外陰部と紙一枚隔てたほどの距離であった。 そして振り向きざま…コンラートがえも言えぬ妖艶な笑みを浮かべて、にぃ…と嘲笑(わら)ったのである。 『陰茎を落とされなかっただけ有り難いと思え…』 ぞ…っと背筋を伝う恐怖に、ヨザックは足音を殺しつつも…持てる限りの速度限界で駆け出した。 多少扉の開閉音が鳴ってしまうがもうこれは仕方がない。 今は、可能な限り遠くまで逃げなくてはならないのだ。 コンラートは有利とイチャイチャして眠りに就かせた後…追ってくる。 絶対追ってくる…! あの男が妙な入れ智慧+デバガメにあれだけの報復ですませるはずがないのだ…っ! あの場で血を見なかったのは旧友だから遠慮したというわけではなく、単に有利を怖がらせたくなかっただけなのだ。旧友であるが故に、《どれだけ痛めつけるとこの程度堪える》という匙加減を熟知していやがるのだ。 『閣下〜っ!グリ江は当分異国での業務に専念します〜っ!!』 赤い悪魔に売られた上司が、自分に対して報復をしてくる可能性にはまだ気付いていないヨザックであった…。 * * * 「コンラッド…いま、音しなかった?」 「風の音ですよ。それに…いまは、俺に集中して欲しいな」 拗ねた子犬のような表情でじゃれつけば、素肌に感じるコンラートの短髪に、有利が擽ったそうな嬌声を上げる。 「えへへ、こそばい…」 「じゃあ、ここは?」 「わひゃ、あはは…やめてーっ!」 ソフトに拘束された有利は、恐怖心を与えない程度のからかいと羞恥で、いつになくはしゃいでいる。 コンラートの方は無邪気さを装って、有利の痴態を折角なので堪能しきっていた。 『ケーキを盛り合わせたユーリなんて、邪道だと思っていたが…』 これがなかなかに…楽しい。 ヨザックをおびき寄せるためにリボンを使った軽い拘束プレイも混ぜたせいで、コンラートもまた興奮の度を深めているのが分かる。 『今宵だけは…折角だからな。変わったプレイも楽しもう…』 きっちりと楽しみは享受するコンラートだったが、勿論お仕置きを忘れているわけでも、刑を軽くするつもりも毛頭無い。 『さぁて…ヨザ、一夜で何処まで逃げられるかな?』 愛撫に、笑い声が嬌声へと変わっていく有利を抱きながら、コンラートはちらりとだけ友人を思った。 それも、この一瞬で最後にしよう。 今宵は、この極上の《ケーキ》を味わい尽くすのだから…。 おしまい あとがき 「食べてほしいの」バージョンA、如何でしたでしょうか? たぬき缶掲載なので、エチ描写は軽くふわふわと扱ったつもりなのですが、それでも不快を覚えた方がいらしたら申し訳ありません。 黒いたぬき缶の方には各シーンの視点を変え、エチ描写を深めたバージョンBを掲載する予定です。エロ描写が苦手ではないという方のみお越し下さい。 ブラウザバックでお戻り下さい |