「コンとユーリの潮干狩り」
有利はお父さんやお母さん、お兄ちゃんと一緒に潮干狩りに出かけました。
思いっきり泥の中に入りますので、汚れても良いお洋服を着て、思い切ってズボンははいていません。
有利は小さいから、パンツくらい見えても大丈夫とお母さんは考えたようです。
でも、縫いぐるみのコンは心配でしょうがありません。
「ユーリ、もう少し長い丈の上着にするか、ズボンをはいてはどうでしょう?」
「えー?暑いしやだー」
縫いぐるみのコンは佳い声でお喋りするのですが、お家のみんなは信じてくれません。ですから、彼がとっても心配性なことも知りません。
今日も無理を言って潮干狩りに連れてきたコンは、有利の雨合羽と長靴を履いています。泥だらけになっては大変ですからね。
『変な人が声を掛けてきたり、ユーリのパンツを写真に撮ったりしなければ良いんだけど…』
世の中には色んな人がいますから、コンの心配も尽きないのです。
でも、コンの気持ちも知らずに有利はせっせと潮干狩りに励みます。その内、貝を掘るのには飽きてきても、今度はちいさなカニを追いかけるのに夢中です。
「カニさん!コン、カニさん!ちょきちょきーっ!」
「ユーリ、そんなに走っちゃダメですよ?」
コンは縫いぐるみのふりをするのも大変です。何とか有利の服にとりついて、無理矢理運ばれてるみたいに振る舞います。
あらら…でも、このままではお父さんやお母さんから離れてしまいますよ?
コンが心配していたその時です。
「お嬢ちゃん…とっても可愛いねぇ」
ニヤニヤと笑っている不審なおじさんが、ビデオカメラを構えています。
「お嬢ちゃんじゃないもん!ゆーちゃんは男の子だもん!」
有利は腰に手を当ててぷんすか怒りますが、おじさんは屈しません。
「坊やなの?それにしたって可愛いなぁ…。ねえ、ちょっとだけおじさんに、パンツを見せ…」
おじさんが最後まで発言することは赦されませんでした。
「ウェラー家最終奥義…冥王双破斬…っ!!」
有利の目元へとコンの被っていた麦わら帽子が押しつけられたかと思うと、瞬く間にコンの手にした二本のクワが炸裂したのです。
麦わら帽子を《ぷはっ》と有利が外した時には、すっかりおじさんの姿はなくなっていました。
「あれ?さっきのおじさんどこに行ったんだろ?」
「急にお腹が痛くなったのかも知れませんね」
人畜無害な縫いぐるみの顔をして、コンは《うふ★》と笑います。
自らの手で岩陰に吹き飛ばしたことなんかおくびにも出しません。
「さあ、お父さんとお母さんが心配しますよ?戻りましょう」
「うん!」
こっくり頷いた有利は、大切なコンと捕まえたカニを抱えてお父さん達の元に戻ります。
「あー、楽しかった!また来たいねぇ」
「ええ」
その時も、絶対有利の傍から離れまいと誓うコンでした。
おしまい
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