マ王的攻嫁日記 -奥様は軍人さん−

第七話 新妻の襲撃

 





渋谷家の若夫夫はラブラブだ。



「新婚さんだからしょうがないわねぇ」と渋谷家筆頭権力者の美子はコロコロと涼しげに笑うが、

「じょ、冗談じゃない!ウチのゆーちゃんを誑かす悪い虫(←正解)は即刻追い出さなければ」と無謀な策略を張り巡らせる小舅(←いつもあえなく撃沈)と、

「嫁ってさぁ・・・・こう細くて小さくて『お義父さま?』って可愛く呼んでくれる女の子を夢見てたのに〜。ゆーちゃん、なんで!?なんで男(←しかも軍人)を嫁に〜」と日々嘆くも既成事実(←婚約済)の前には如何ともしがたい父、勝馬と、同じ家族ながらも悲喜交々の日々だった。

小さく可愛いという形容詞には程遠い「強くて逞しい」嫁、しかも超年上(←高額の金のワラジ)で歴戦の勇者(!)という嫁を貰った次男にもはや諦めムードの勝馬である。

せめて「長男だけはまともな嫁を」と心密かに願っているが、あの弟にしてこの兄あり。

二次元少女にしか脳内のアドレナインが活性化しない勝利に果たして「まともな嫁」、大きく括っても「普通の人間の嫁」が期待できるだろうか。





そんな家族の懊悩など気付く由もなく、当の若夫夫は今日も新婚生活絶好調だった。

「有利、お食事できましたよ?」

「サンキュ!コンラッドも一緒に食べようよ」

「俺はあなたの給仕が済んでからでいいですから。ほら、いっぱい食べて大きくなってくださいね?」

ご飯、お味噌汁とユーリの横から甲斐甲斐しく差し出し、朝から仲睦まじいことこの上ない。

しかも「嫁」は相変わらず姑とお揃いのエプロンを装着中。

さすがに軍装ではなく、流行のメンズを着こなした立派な男前がハートのエプロン、しかも食事時はご丁寧にも三角巾(←給食のおばちゃん?)をきっちり被ってのご奉仕である。



・・・・・・朝から目に毒・・・・すぎる・・・・。



外野は声もなく悶絶する。ちなみに「目に毒」というのは、決して若夫夫の微笑ましさではない。・・・・のが、また父子の哀愁を誘う理由の一つだった。



「いい加減にして早く学校行け!!」

ごく常識的なこの罵声も、

「あらあらしょーちゃん、いくらゆーちゃんが羨ましいからってそんな言い方ないでしょ?悔しかったらしょうーちゃんも連れてくればいいじゃない、彼女」

「ジェニファー・・・いえ、お義母さんの言うとおりだよ勝利。俺たちに遠慮しないで彼女を連れてきてはどうかな?」

相変わらずメルヘンな母と、殊勝な態度も頭のてっぺんから足先まで嘘っぽい義妹の台詞に、早朝から勝利のダメージは計り知れない。

こうなったら二次元少女を立体化して「嫁」として渋谷家に君臨(←どういう趣味だ?)させる夢を理工系のオタク仲間に相談しようと本気で思案する勝利であった。

どちらにせよこの時点で父親の夢=「可愛い嫁」はあえなく水泡に帰したと言わざるを得ないだろう。

地球と異世界の魔族の王を輩出した家庭は、構成時点で他の追随を許さぬほど斬新だ。





さて、その若夫夫のラブラブ度はユーリが登校する直前がボルテージ最高潮で、さすがの美子も「悪いから遠慮するわね」と玄関を立入禁止にするほど熱烈であった。



「有利・・・・気をつけてくださいね。本当は護衛としてお供したいのですが・・・・」

「気をつけても何も学校行くだけだからさ、自転車で。大丈夫だよ。事故ったりしないよ」

靴を履いたユーリに学生鞄を手渡して、尚も未練がましく追い縋る嫁。(←暑苦しい)

「それも心配の一つではありますが。それより気がかりなのは・・・・・・・」

言い淀むコンラッドに促されて、「嫁」に耳を寄せたユーリが真っ赤になる。

「んな物好きいねーよっ!眞魔国じゃあるまいし!ただの野球小僧を朝っぱから襲う奴なんて・・・・」

「有利はご自分の美しさを自覚されていないから。――いいですね、半径1mは他人の接近を許さないでください。特に男には要注意です」(←男限定?)



くどくどと言い募るコンラッドだが、お邪魔虫退治にも勿論余念がない。

実は数回、登校するユーリに同行して、通学路で言い寄る(←挨拶するだけ)同級生や近所のサラリーマン達に恫喝まがいの視線を浴びせてきた。

反対に女性に対しては如才がないのは、嫁といえども女たらし(←勝利談)のサガか、はたまた、自分の「夫」が女性に靡く筈はないだろうという根拠のない自信の表れか。(←有利に失礼)

護衛の役も兼務しているわけであるから、本来ならば通学路だけではなく学校内部にも侵入したいところだが、今現在目立った騒動もなく、当のユーリから「あんたがくっついてる方がなんか面倒起こりそうだし」(←なんとなく嫁の不穏な気配を察している)という至極尤もな意見に押されて、自宅で「夫」の帰りを待つコンラッドだった。

鬱憤も溜まるというものだ。



「有利にその気がなくても貴方の類いまれなる美貌は人の欲望を悪戯に掻き立てるんです。無防備すぎるのは・・・・・」

「コンラッド。あんた、なんだかギュンターに似てきたぞ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

「夫の危機回避能力」の是非について尚も意見を募らせようとしたコンラッドだったが、そこであえなく撃沈した。(←夫は強し)





「・・・・・・・・さすがだ、ゆーちゃん!!」

密かに柱の影で見守る勝利が大きく頷いた(←巨人の星?)。





が、やはり「嫁」は歴戦の勇者である。すぐさま態勢を整えると、

「・・・・すみません有利、言い過ぎました・・・・・・・。眞魔国と違っていつもあなたの傍に侍ることも護ることもできないのが寂しくて・・・・。俺の我侭ですね・・・・」

その情感溢れる物悲しい態度に、ユーリは焦った。

「ご、ごめん!コンラッド!そうだよな・・・・あっちと違って今度はコンラッドが異世界に一人なんだもんな。オレ、学校に行っちまうし・・・・・・そりゃ寂しいよな」

さながら、仕事で多忙の夫が、寂しさを募らす妻を宥める図。

「じゃ、帰ったら一緒にお風呂入ってくれますか?」

「あ?ああ、そっか。前に約束してたっけ。わかったよ、コンラッド。今夜一緒にな」



お掃除して待ってますからね、などとハンカチを振らんばかりの愛妻の見送りに、少々照れながら学校へと向かう幼な夫(←新語)だった。





・・・・・・・・そうきたか・・・・!



柱の影の明子ならぬ勝利は歯軋りした。

先日偶然、脱衣所で遭遇した義妹のヌードに驚いたのは勝利の方なのに、天然か策略か、義妹は恥らって(←えらく嘘くさい)「一人じゃお風呂に入れないvv」とほざいたのだ。

誰もが「嘘付けっ」と突っ込み入れる場面に、新婚ボケしたのかユーリは「こっちの習慣になれていからな」と即決快諾してしまった。ある意味男らしい。



「おにーちゃんはそんなふしだらな子に育てた憶えはないぞっ!」



『男らしいこと=ふしだら』なのかはよく解らないが、自他共にブラコンを自負する勝利は、「全世界(異世界含む)的断固混浴禁止!」の貼り紙を勢いよく風呂の前に貼り付けた。(←方向性間違ってます)

そして更なる計画を推進するために、徐に大学へと向かったのだった。









「ふぅ・・・気持ちい〜・・・」



その日も暮れて。

温かな湯に肌を浸すと、一日の疲れが凪いでくる。

異世界の豪華な獅子風呂とは違い一般家庭の普通のユニットバスではあるが、小市民的魔王陛下はご満悦であった。

ピカピカに磨き上げられたバスタブに洗い場。そして仄かに香る眞魔国の湯の香り・・・・・。

「いかがですか?懐かしいでしょう?」

「んー!最高!やっぱ向こうの香料はゴージャスだからなぁ。・・・でもよく持ってこれたな、コンラッド」

彼の荷物は本当に小さなボストンバック一つだった筈なのに、どこかのネコ型未来ロボットのポケットのように、あとから色々な物が沸いて出てくる。

もしかしてかの赤い悪魔の魔道・・・・考えかけてユーリはプルプルと首を振った。

実際彼女の発明品だと知っても原理すら解らないし、深く追求するとそれなりの代価を支払わされそうでコワい。





「・・・・・・・それにしても。あんたって相変わらず逞しい体してんなー。オレみたいなへなちょこ体型にはすっげー羨ましいよ」

つい「嫁」の体躯に見蕩れるユーリ。軍人一筋80年の大人の肉体に憧れるのは、青少年にとって無理はないだろう。

いつかはオレも、なんて可愛い夢を抱いているだろう「夫」に、コンラッドはくすりと笑った。(←マッチョ志望など却下する算段の嫁)

「ユーリはへなちょこ体型じゃないですよ?すらっとしていてしなやかで、どこもかしこも滑らかで・・・」

食べてしまいたくなる・・・とコンラッドはうっとりと、意図的にお触りする手も微妙である。



「背中を流してあげますよ、有利。向こう向いて?」

いかにも「疲れを癒してあげます」口調だが、騙されてはいけない。

赤い悪魔の探究心と同等の熱意を誇る閨研究者(?)と定評のある嫁は、にっこり笑って自分の大腿をぽんぽんと叩いている。

「・・・・・で?その裸んぼの膝に乗れって?」

「狭いですからね」

コンラッドはひょいとユーリの身体を持ち上げた。(←またも力自慢)

「少し、重くなった?」

「んー?あんたの料理が上手いからかな?」

「またそんな嬉しいことを」

確かに成長期真っ盛りの青少年だから、毎日変化があってもおかしくはないだろう。

ただ、長い生を歩む魔族にとって著しい成長は目に眩いものがある。

「なに?」

「いえ。・・・・こうしている間にも貴方はどんどん大きくなるから」

だから一瞬でも逃さず今の貴方を目に焼き付けておきたいんですよ、とコンラッドは笑った。(←ほのぼの路線?)





極上の泡を身体中に塗られて、その芳醇な香りに噎せそうになる。

ユーリは心地よさと同時に、別の感覚が押し寄せてくるのを感じた。

無心に汗を流してくれている(だろう)嫁に悪いと我慢をしているものの、憶えのあるその感覚は徐々に膨らんできてユーリを追い詰めていく。

「どうしたの?有利?」

「や・・・・・うん・・・・・なんでも」

そのうち身体の中心が「なんでも」どころじゃない状態へと変化していくのに、ユーリは涙目になった。

触られれば触られるほど自分の身体は切羽詰ってくる。

湯煙の中、妻であるコンラッドは「水も滴るいい男」すぎるのだ。

均整のとれた体躯にモデル並みの小さな頭部。薄茶色の髪が水気を含んで瞳を隠しそうなほど長い。

近頃「夫のおかげで色気が増してきたんですよ」と豪語するだけの色艶(←誰にノロケてるんだ?)が、今のユーリには目の毒だった。

普段は所構わず襲ってくる性欲の有り余る嫁(←余罪あり)が何もしないということは、単純に疲れを癒そうとしてくれているだけなのだろうに。

劣情を悟らせまいと真っ白な泡をかき寄せ、そろそろとコンラッドの膝から降りる。

「有利?お湯をかけましょうか?」

「や・・・・ややや、自分でするから!」

「そんな遠慮なさらずに。夫の背中を流すのも妻のお仕事です」(←詭弁だ)

妻はその大きな手と、外見はスマートだが実は幼馴染と同等の腕力でもって、夫をぐいと引き寄せた。

泡の濃厚な香りが――二人を包む。



「・・・・・ゃ・・・・っ・・・・・」

くらりと視線が歪んだ。激しい動悸が心臓だけでなく、まさしく男の部分も脈動を始めて止まらない。



・・・・・・・・どどどどーしたんだ、オレ!?



背後のコンラッドに欲情している。

すぐにでも抱きついて彼とこの熱を共有したい。

いや――。はっきり言えば・・・・抱かれたい。



・・・・・・・・そんなハズカシイこと――!!



ここは実家の風呂である。

淫らな行為を家族の誰かに見られたらと思うだけでも、羞恥心と背徳感が沸きあがってきていてもたってもいられなかった。



「どうしたの?有利。・・・・・肌が熱いね」

「・・・・・・・コンラッ・・・・・ド」

結局この男に縋るしかないのだと思うと、思わず目頭が潤む。

言葉にするのに逡巡するユーリを、「妻」はゆっくりと手招きした。

「もしかして。欲情、したの?」

「・・・・・う・・・・ん」

「俺が欲しくなった?」

「・・・・・う・・・・・」

急激に発情していく反面、何かが気になってきょろきょろと周囲を伺うユーリを、妻はしっかりと抱きしめた。

「やめ・・・・誰かに見られたら・・・・・」

「誰に?勝馬は会社、ジェニファーはお買い物だからまだ時間はありますよ。勝利も大学だし」

「でも急に帰ってき・・・・・・」

「大丈夫。勝利はしばらく戻ってきませんから」



何を思ったのか急に友人に電話しているのを柱の影から目撃した嫁。(←ここにも「巨人の星」が!)

会話の断片から何やら困難な研究を始めたらしいことは解っている。

勝利のような学者タイプは研究材料を見ると夜も昼もないことは、故郷に存在する赤い悪魔直属研究機関に属する者達をみてよく解っていた。

恐らく義兄は当分帰宅しないだろう。

「全世界的断固混浴禁止!」の貼り紙も、当事者がいなければただの標語だ。(←拡大解釈)

そもそも「夫」と「嫁」は同性なわけだし、「混浴」違反も何も存在しない。(←ツメが甘いぞ、勝利)

抱きしめた腕にも自ずと力と不埒な技が籠もるのは仕方がないことだろう。

敏感な場所を刺激する指に、「夫」の抵抗も薄れてきた。







「有利、俺を見て?」

促されて視線を上げると、そこには美しくも精悍な男がゆったりと微笑んでいる。

「ほら・・・・俺も欲情してる。貴方に・・・・」

真っ白な泡に覆い隠されてはいるが、彼の中心は確かに欲望の兆しを見せていた。



ドクリとユーリの全身が波打つ。

喉の渇きと同じように、コンラッドに飢えている。

蒸気で潤んだ彼の唇や肌を舐めたい。そして込み上げる情を交わして、滴る蜜を分け合いたい。

「欲情・・・して、オレに。・・・・ね・・・・、これ、欲し・・・・いっ」

心より声が正直だった。あからさまな渇望を含んだ声が迸る。

自分でも驚くほどの濡れた声。

強く抱き合って互いの猛る雄芯を擦り付けた。泡で滑る感触が更に追い上げる。

「・・・ぁ・・・っ・・・・あ・・・・・っ・・・」

「ん・・・・・・有利・・・上手、ですよ・・・・・・」

誘われて掌に握ったコンラッドのものを夢中で扱きあげた。

それは徐々に逞しさを増して凶暴に育っていく。

やがて奏でる苦痛とそれを上回る悦楽をくれる男の証を、自ら煽っていく焦燥感がユーリを甘く縛りつけた。

コンラッドの指もまたユーリを容赦なく追い詰める。

もはや開放を待ち望むそこは涙を流して切なく震えていた。



「・・・はや・・く・・・コンラッド・・・・もぉ・・・」

「堪え性がないですね。可愛い人だ」

残酷なほど優雅に微笑んで、コンラッドはわざとユーリを突き放した。

「欲しいものをあげるから。あなたの大切なところを、俺に見せて?」



熱に浮かされて自由が利かない身体を漸く動かして、ユーリはその場に四つん這いになった。

恥辱に泣きながらも、コンラッドを欲しがる身を止められない。

なんでここまで・・・・と自分を責めながら、彼の指図どおりに脚を開く。

「自分の指で慰めてごらん」

と促されれば、震える指が従順に己の胸の突起を摘んだ。いやらしく捏ね回すのも固く張り詰めてきたところを押しつぶす仕草も、コンラッドが教えてくれたとおりに。

膨れ上がった欲望の証を強弱をつけながら輪にした指で扱くのも、全てが彼の手管だった。

触れられてもいないのに犯されている感覚に翻弄されながら、ユーリは啼いた。

「して・・・っ!コンラッド・・・・・・オレに・・・・」

「挿れてほしいの?」

コクコクと激しく首を振ると、涙が湯と泡に塗れた床にパタパタと飛び散った。



「じゃ準備してあげるから。・・・・・自分で開いてみせて?」

「あ・・・・・くぅ・・・・・・」

更に大脚を開き双丘を指で割ったそこには、熱で赤く充血していた。

羞恥でピンク色に染まった肌と相まって、どれほど美しいかユーリ自身は知らないのだろう。

清楚ながらも誰をも篭絡させるだけの淫猥さを同居させているユーリの性質を、コンラッドは至福に満ちた優越感をもって味わった。

泡の滑りを借りて滑り込ませたひとさし指に、粘膜がやわやわと絡みつく。

「・・・・・っや・・・!」

「まだ一本だけですよ・・・・・」

震える双丘を宥めながら、更に中指を潜りこませれば驚いたように一瞬きゅっと締まってから、味わうようにまた柔らかく包み込む。

「本当に・・・・教え甲斐のあるカラダですね」

違う、と泣き声をあげようが、ユーリの内部はコンラッドをもはや異物とは認知しない。

ただ性急に求めて傷つくのを用心すればいいだけだ。

「い・・・っや!・・・ぁあああーっ」

埋め込んだ指で記憶にある場所を引っかくと、面白いほどにユーリが跳ねた。

うねうねと腰を捻って凄まじい快感をやり過ごそうとする姿がいじらしい。

「・・・・・だ・・・め・・・も・・・」

「もっと指が欲しい?それとも・・・・・」

薬指も含ませれば、三本分の圧迫感に声もなく悶絶した。無理矢理開かされるそこがひくひくと痙攣して、次第に蕩けていく。

「・・・・・れよ・・・あんたのが・・・欲しい・・・っ・・・ひぃぁあ」

思い切りよく指を引き抜いた衝撃に、紡いだ声は嬌声と変わらない。

「泡が落ちてしまいましたね。どうする?もっと塗る?それとも俺が舐めてあげましょうか」

耳元で囁くと面白いほど反応するのが嬉しくて、コンラッドはわざといやらしい言葉を綴った。



自分でも知らない最奥を男の目に晒すだけでも恥ずかしいのに、舐めるだなんて・・・。

ユーリは激しく首を振った。

そんなことされるくらいなら、このまま押し入られた方がマシである。

痛みなんか一瞬で消える。それより早く欲しい。コンラッドの熱くて太いものが・・・。



浅ましい欲望を持て余して、ユーリは嗚咽を漏らした。

どうしてここまで飢えているのかわからない。

彼とはいつも閨を共にして、欲望を曝け出している。

性欲を露にする行為に羞恥がないわけではないが、思う存分求め合い充足している筈だ。

なのに、今、際限なく暴走する欲に、耽溺しながらも戸惑っている。

欲しい。もっと。

隙間もないほど奥まで埋めて激しくかき回してほしい。全てを壊されるほど愛されたい。



どうしてこんなに――。



惑溺しながら、ふとコンラッドが手を伸ばした先を見た。

「舐められるのが嫌ならこれで。ね?」

手にした赤い瀟洒な硝子瓶の蓋を開ける。すると更に濃密な香りが辺りに漂った。

懐かしい眞魔国の香り・・・・・・・。懐かしい・・・??



「・・・・って!コレ!?」

発情した状態にも関わらず、ユーリは思わず目を見開いた。

確かに覚えがあるこの甘い香り。さっきから風呂場に立ち込める上品ながらも妖しい香りは・・・・・。

「これっままままままさか!!!まさかっび、美香蘭っっ!?」

フェロモン全開セクシーダイナマイトなツェリ様御用達のっっ!!!!



驚きにパクパクと口を開くユーリに、コンラッドは極上の笑みを浮かべその瓶を軽く振って見せた。

「ええ。母上から少しばかり拝借してきました。懐かしいでしょう?有利」



懐かしいもナニも!!!

埒の明かない狂おしい身でも、この状況がすっきりぽんと判明した。

ここまで異常に燃え盛る理由がこの瓶の中身に起因することは明白だ。

身も世もなく悶えまくりあまつさえお強請り三昧羞恥プレイの数々はセクシークィーンツェリ様専売特許の媚薬入り「美香蘭」のまさしく正しい効能!!





『その香りを放つ者に少しでも好意をもっているなら、いっそう情熱的で大胆になるように・・・・・・・』

(※用法容量は専門家の指示に従って正しくお使いください。(注)専門家=毒女)





「んなもんわざわざ地球に持ってくんなーっ!!!」

あの豪快なスタツアに負けじと持ってきて欲しいものは他にいっぱいあるだろうが!と叫ぶユーリだが既に遅し。もはやカラダいっぱい胸いっぱい美香蘭を摂取済みだ。

つまり、媚薬漬け。



「そんなに恥かしがらなくても。大丈夫、俺にもちゃんと効いてますから」(←媚薬プレイ?)

「って余計マズいだろっ!!・・・あれ?でも確かあの薬って魔力のある者にしか・・・?」

「なんでも今度のは新製品だそうで、魔族以外でも効能があるように改良したそうですよ」

「・・・・・・・・それって改良じゃねーから」



コンラッドが嬉々として瓶の中身を振りまく。

阿鼻叫喚(?)の風呂場には、甘ったるい香り、そして腰に響くような甘い喘ぎ声が充満した。

「ぁあん・・・っ・・・この・・・・っ・・・エロ鬼畜大魔人―っ・・・・!」(←大正解)

「光栄です。もっと尽くしますからね」

夫を篭絡するのに手段を選ぶことをはなから厭わない妻の襲撃は、夫が失神するまで延々続いたという・・・・。

世にも恐ろしい新婚生活であった。







ちなみに、予想に反してその日のうちに帰宅した勝利は、何故かより一層「義妹嫌い」を増して嫌味攻撃が炸裂した。

嫁の行動に逐一文句をつけ、ねちねちと小言を言い募る姿はさながら鬼小舅そのものである。



『嫌っていれば、より険悪に・・・・・』

(※用法容量は――以下略――)



コトが終わって風呂場を念入りに掃除したものの、改良型美香蘭は強力だったようだ。



さすがの「嫁」も防戦一方で、頼りになる筈の「夫」からの援護射撃も得られずこの日ばかりは珍しく撃沈したらしい。

(束の間の)優勢に満足した勝利は、「二次元少女を立体化し『嫁』として渋谷家に君臨」させる野望を胸に更に研究に没頭した。二次元少女のモデルは勿論可愛い「弟」というもっぱらの噂である。(←不毛だ)





やはり、地球と異世界の魔族の王を輩出した家庭は、一味も二味も違うというお話。



おわり



 はぅはぅはぅ!
 なんと、有り難くも恐れ多いことに、「蒼いきりんBlau Giraffe」の仔上圭様から捧げ物のお礼として素晴らしいお話を頂いてしまいました!エロもさることながら、この軽妙な語り口と、(←)の巧みな突っ込みが超絶技巧な面白さを醸し出されています!だ…大好きですっっ!!