〜「蒼いきりん」の仔上圭様に頂きました、「攻嫁日記 第十話」です〜っ!!〜









「すぐに来てくれないかな?」

友人のたっての頼みを電話で聞いたユーリは、秋風が吹きすさぶ道を自転車で走った。

小中学校が同じだった彼とは同学区で、近所とはいえないまでも、さほど距離のないところに家がある。

ユーリは友人の家に着くと、急いで玄関のチャイムを鳴らした。






待ってましたとばかりに、すぐにドアが内側から開く。

 玄関にはこの世界で友人で、あの世界でも親友をやっている双黒の少年(←日本人なんだから当たり前)が立っていた。

「――ぉわ、早っ! 村田!?」

「すまない渋谷。急ぎの用があって家を空けるんだ。申し訳ないんだけど留守番頼まれてくれないかい?」

「頼みって留守番か? そ・・そりゃいいけど??? 家族は誰もいないのか?」

「両親はいない、仕事で外国だ。でも、いる奴がいる。それがまたやっかいでね、来客もあるというのに」

友人―村田健らしくない慌てた態度に、ユーリは深刻なやっかい事があるのでは、と友人の危急を慮った。

「よし! 何だか知らないけど、おまえがそういうなら頼まれてやるよ!」

「ありがとう渋谷!いつも男前だね。 君ならきっと引き受けてもらえると思ったよ! アレを」

言いながら既に村田は靴を履き、リュックを担いで、もはや疾走スタンバイだ。

「ア・・・レ?」

いまいち意味がわからなくて可愛く首を傾けるユーリは、家の奥に何かの気配を感じた。



「じゃ頼んだから! 本当に頼んだよ? 君が友人で本当によかった」

何気に村田の眼鏡が白く光っている。

「え・・・村田? アレって何? どこ行く気だ?」

しかし、友人はもはや言い残すことは何もないと、きっぱり首を振った・

「僕のことはこの先数時間忘れてくれたまえ。電話もなしだ。じゃっ」



「ぇ・・・・えーーっ!!!??」



駆け出していく友人の背に叫んでみたが、秋風が物悲しい風音をたてるだけだった。









マ王的攻嫁日記 −奥様は軍人さん−


                             
 第十話 ウチのダーリン、異世界人






趣味のいい調度品が嫌味なく飾られたリビング。

村田らしい家は、両親が多忙で外国暮らしということもあって整然としていた。生活感があまり感じられない。

落ち着いた色のソファとテーブルは渋谷家と違い、上品で清潔でシミ一つなかった。

いや、渋谷家のリビングが汚いというわけではない。男兄弟が幼少の頃から体当たりをかましてきた家具は長年渋谷ファミリーに愛されていて、新品を購入するという概念がないのだ。それなりに古い。

そのうえ驚くべきことに最近は古くても年輪が増したというか、綺麗で光沢さえある。・・・・・近頃家族になった男のおかげだ。

「・・・・・コンラッドったら掃除好きだもんなー」

何故かというと、家族不在の折などに「嫁」が「夫」に襲い掛かり、ソファも床もそれなりの理由で汚れるからだ。

明るいリビングで「もうヤだ・・・」とか「もぉ許して・・・」などと泣き喚く「夫」に興奮し、大掃除前提の蛮行を強いる「嫁」のおかげで毎日の清掃が欠かせずに、渋谷家は常に清潔なのである。(←確信犯)



「あらヤダ。坊ちゃんたらーvv ヒトん家でのろけですかー?」

物思いに耽っていたユーリは、頭から振ってきた男らしさを滲ませる微妙な裏声にはっと我に返った。

「グ、グリ江ちゃんっ」

「はぁ〜い、お待たせvv ホットミルクでぇすvv」

語尾にハートマークがつく男。ガタイはいいが心はオンナと豪語する敏腕お庭番グリエ・ヨザックが、トレイにマグカップを載せて立っていた。

ユーリの尊敬する筋肉は相変わらず健在で、面積の狭い布から見え隠れする肉体はどこをどうみても優秀な戦士、日本でいうと格闘家の部類に入る。

なのに、ゴージャスなブラウスに色はピンクで裾丈も愛らしい膝上20cmのフリルスカート、オレンジ色の髪に映えるカチューシャも忘れずに、そのうえ白のドレスエプロンときた――。



「村田――。俺はお前の趣味には心底脱帽するよ」

「あらんヤダー。坊ちゃんたらそんなに褒めないでー」

微妙にすれ違う概念だが、ユーリは真実、親友で大賢者なんかをやっている村田を尊敬した。

自分も異世界で王様なんてやっていて、そのせいでこっちの世界にも数多な問題が波及しているが(←特に婚約者と嫁問題)、今、ここで、色気溢れる大男を目の前にして「伝説の大賢者」村田にひれ伏したい気分である。

何故ならば――。

「ごめんなさいねぇ? ウチのダーリンったら急用だっていきなり家を空けることになっちゃって」

謝りつつも何気に嬉しげなこの台詞。



――ダーリン・・・・・・・。



そう、この女装の大男。筋肉番付け1番で横に並ぶ者のない(←誰も並びたくない)美丈夫を、なんと「嫁」にしているのだ、村田は! 「夫」ならまだしも「嫁」、しかも本人が堂々と、

「アタシ一人でも大丈夫って言ったのにケンちゃんったらーvv 『君一人を家に残すのは心配だからね』なーんて気遣ってくださっちゃってーvv んもぅ妻は妻でも『内縁の妻』なんだからそんなにあからさまに大事にしてくれなくったっていいのにぃvv きゃーっ!グリ江、シ・ア・ワ・セ!」



そう、なんと彼は村田健の「内縁の妻」なのである。(←誇らしげ!)

どうして「内縁」なのかは知らないが、村田の眞魔国での地位、日本では男子高校生という身分を考えれば外聞が甚だ悪く、内緒にしたくなるのも道理だろう。(←外聞以前の問題かも)

本来の「内縁」という意味を、「秘密の関係」と訳した毒女製自動翻訳機のせいも多分にあるが、それは言わぬが花の恋路である。

ヨザックに言わせれば「秘密の恋」とか「内緒の関係」は乙女心に響くのだそうだ。(←鋼の乙女心)

障害のある恋愛は妙に盛り上がる――その件に関してだけは、ユーリとて同罪な思いもあるので反論はできないのであるが。



ちなみにヨザック一人をお留守番させる心配もまた、村田同様ユーリにもあった。

再び何故ならば――。



ピンポーン・・・・・・

玄関のチャイムが鳴った。



「あらなにかしら? もしかして、お客様? はぁーいvv グリ江、いきまーす!」(←アムロ語録より)

いそいそとエプロンをたくし上げて(←諸肌見せる勢い)、満面の笑みで玄関へと・・・。

「は・・・・ぅわーーっ待った!待ったヨザック! 俺、でるからーっ!」

ユーリはホームベースにスライディングする覚悟で玄関へと飛んだ。

寸でのところでヨザックのスカートをわし掴むユーリ。不幸にもスカートがずるりと落ちた。

「やだやだ坊ちゃんったら、エッチー!!」(←なにげに嬉しそう)

「大いなる誤解デス!」(←大柄マッチョにエッチしたくない)

慌てて手を放したせいでぐるりと回ったヨザックのスカートは彼の太い足首に巻きついた。

かくして敏腕お庭番兼大柄メイド風マッチョ新妻(←肩書きが増えていく)が日本の一般家屋の玄関を開ける前に、ユーリはなんとか広い玄関を掌握したのである。(←ヨザックはスカートに縺れて柱の影で悶絶中)



「宅急便でーす」

「ご、ご苦労さま・・・・・・」

街をひた走る配送のにーちゃんより呼吸数が遥かに多い少年に驚きつつも、ハンコの代わりのサインで元気よく帰っていく青年。

・・・・・留守番が自分でよかった・・・としみじみ思うユーリだった。

「ひどい坊ちゃん・・・・アタシのお仕事を〜」(←嫁の仕事=家事全般、接客も含む)

「いいいやホラ、グリ江ちゃんならもっとすごい仕事の方がにあってるからさ」(←お庭番=力仕事)

「すごいって・・・坊ちゃんの方が力強いんじゃない? だってアタシのスカート脱がせちゃって」(←問題行動)

「そっそれは!!」

言われてハッと気が付いた。

他人の家で、二人きり。女装の男のスカートをその場の勢いで引き剥いでしまったという事実は、現在ホックの飛んだスカートを足首に巻きつかせたままのヨザックというものすごいインパクト大な映像付きでユーリの目の前に・・・・・・!

「あーホットミルクまで零れちゃって・・・・・びしょびしょ〜vv 坊ちゃん、ひどいわ、責任とってくれる?」

確かに手にあったトレイ(←まだ持ってたんだ)の上でカップが倒れて、ミルクがたっぷりとヨザックの剥き出しの大腿に・・・・。見ようによっては卑猥とも見えなくはない状態を、扇情的な仕草でしかも指で拭き取るヨザック。(←マニアックすぎ!)

アイシャドーもばっちりな切れ長の目で見つめられて、ユーリは心底ビビってしまった。



「ご、ごめん・・・・! た、たすけてーコンラッドー!」

あわや友人の「内縁の妻」に責任を取らされそうになったユーリは、思わず最愛の男であり護衛でもある「妻」の名前を呼んでしまう。(←正統メロドラマ! 昼だし)

一方、最愛の「夫」と同じ双黒に惹かれてつい手を出してしまいそうになっていた(←無謀!)ヨザックは、仔猫ちゃん(←ユーリ)の悲鳴に不穏な名前が混じっていたせいで急に意欲を失った。

「・・・・・・すみません坊ちゃん、萎えました・・・」(←下品)

「そっそれはなによりデス」



二人してすっかり脱力してしまい、今度こそリビングのソファに並んで腰掛けた。

ヨザックは新しい服をどこからか取り出してお着替えしようとごそごそし始める。



「――ったく。こんな調子でヨザックだけ残して。村田の奴、どこ行ったんだよ」

今更ながらにボヤくユーリだったが、ヨザックとて外出先は知らされていないようで「さぁ」と首を傾げるだけだ。

「護衛も必要ないからっておっしゃって連れていってくださらないのよ? 地球って本当に平和なんスねー」

日本の治安が悪化してきている現状で100%の安全はないだろうが、この「内縁の妻」を伴って外出するほうがなにかと危険性が高いのは確かだろう。

「護衛といえばコンラッドの奴、どうしたんです? 坊ちゃんお一人だなんてそれこそ危険なのに」

「近所だから危険なんてないよ? ――ああ、ヨザック、まだ脚に牛乳ついてるって」

ソファに座る低い視線から見えるヨザックに、よいしょとユーリはティッシュを差し出した。新しい服に脚を通そうとしたヨザックは、嬉々として右足を差し出す。(←プレイ?)

「あー恐れ多くも陛下にこんなとこ綺麗にしてもらえるなんて! 光栄ですわvv」

「光栄ってなにも自分でさせといて。――あとは自分で拭けよ?」

「隊長がみたらとんでもないシーンよね。――ってそうそう、隊長は?」

「あ? なんか用事が出来たってさっき出掛けていったんだけど。・・・・・もう帰ってるかな?」

俄かに焦り出したユーリ。なんせ「嫁」は「夫」の単独行動に容赦がない。

「あーそりゃ大変ですねぇ。でもまぁ猊下のところって言ったらそうそう無体な仕打ちもできないでしょうよ」

「そ、それもそうか」

ユーリの身の危険や諸々の事情(←主にベッドの上)以外ではとてつもなく優しいコンラッドは、何故か村田相手だと分が悪いようで、猊下が絡めば少しばかりトーンダウンするところがある。

それは伝説の大賢者という肩書きに対してよりも、他の何かがあるようでユーリも不思議に思っているところだった。

「なーんか、ウチのダーリンとコンラッド、ヘンな関係よね、坊ちゃん」

「そーだな」

ともあれコンラッドに断りを入れずに外出した先が村田の家でよかったと、この時しみじみと安堵したユーリだった。もしこれが他の友人宅だったりしたら・・・・・・。

『俺に黙って他の男の家に行くなんて・・・・・ユーリもすみに置けないな。もし俺に嫁として至らないところがあるのでしたら存分に教えてくださいね?』

などとユーリこそが存分にイロイロと教えてもらうハメになる。(←経験済み)



怖い想像に背筋を凍らせているユーリの目の前で、ヨザックがいそいそと服を着た。

「―――ってグリ江ちゃんっ! その服・・・・!?」

「うふvv この間猊下に買ってもらったのvv 似合う〜? なんと! 高貴な『黒』なのよー!?」

きゃーっと恥ずかしそうにしているヨザックだが、問題は色ではない。たとえ故郷で禁色だとしても。

黒地に艶かしい金銀の刺繍が施されたその服は・・・・。

身体のラインもバッチリの艶やかな――チャイナドレスだった。(←えげつないスリット付き!)



と、その時。

ピンポーン!



「またお客様よーーっ!!」

敏腕お庭番兼大柄メイド風マッチョ新妻チャイナドレス風味(←肩書き倍増)なヨザックが、今度こそ「嫁」の仕事を!と張り切って玄関へ走り出た。

「待て。まてまてまてまてヨザックーっ!!」

時、既に遅し。

怪力でも俊足でもユーリを遥かに上回るルンテンベルク師団の精鋭は、猛攻で玄関を開くとそこに仁王立ち。

「はぁ〜い、どなたぁ?」(←本人、可憐な嫁のつもり)



「失礼します。・・・・・・・・・・・・・・ぅあ!?」

一歩遅れて玄関へ着いたユーリは、空間を塞ぐかのようにデカい図体のヨザックと、彼を見上げる少年――高校生――数人を前に、燃え尽きた。

「お・・・遅かった・・・・」



「あれ? 渋谷?」

果敢にも驚愕からいち早く立ち直ったらしい高校生の一人が、ユーリに向かって話しかけた。

「久しぶり。ってか、お前、なんで村田の家に?」

「あーお前、確か・・・・・」

言われてユーリも思い出した。中学が同じで、成績優秀故に村田と同じ高校に進学した奴である。

「懐かしいなぁ渋谷、元気だったか? じゃなくて! この人は一体・・・・・????」

感動の再会(?)も束の間、くだんの高校生は玄関に陣取る大男の存在が気になるようで、他の二人も同様に呆然と見上げている。あまりの衝撃に声もないようだ。

ヨザックはといえば自慢のチャイナドレスをくねらせてスリットを見せ付けていた。・・・・・・危険だ。少年らは今にも卒倒しそうである。

「ああ、彼は村田のよ・・・・・・」

「よ?」

勢いで口が滑りそうになったのを、懸命にもぐっと堪えた。「村田の嫁」・・・・破壊力ありすぎて言葉にできない。

「こここいつは放っといて。それより村田に何の用だよ? 俺、留守番頼まれてんだけど」

「あ、ああああ。そうだった。渋谷、お前留守番だったら村田からなんか頼まれてない?」

不穏な存在を必死に視界に入れないようにしてユーリに言い募る少年。適切な判断だ。

「あいつからもらいうけるモンがあるんだけど・・・・・・」



「はぁ〜いvv それならアタシが預かってましてよ?」

俄然張り切るチャイナドレス大男。風と共に走り去ったヨザックは、部屋から小さな袋を抱えて戻ってきた。

「コレでしょう?」

「―――ハイ。コレです」

異様に顔を近付けられてのけぞる少年だったが、それでも袋の中身を確かめるところが意外と肝が据わっているようだ。(←さすが村田の友人)

「ぃやぁん、この殿方ったら男前―っ! アタシの媚態を前に動じないこの姿! 惚れたわ!」(←夫の不在に浮気?)

「はぁ????」

「ヨザックーっ!」

思わずユーリはヨザックに抱きついた。そして耳へと手を伸ばしたユーリの手には小さな補聴器のようなものが・・・・・・・言わずと知れた毒女製自動翻訳機である。

『――あれ? 坊ちゃん、もしかしてやってくれましたね』

『あんたはもう黙ってろっつーの!』

これで二人の会話は眞魔国語である。



「な、なに、渋谷。その人、耳が悪いの?」

「悪いのは耳だけじゃなくて。(←なに?) つーか、あんまり日本語わかんないんだよ、ごめんな? この人、む、村田の親戚でさー」

「どこの外国人? なんか聞いたことのない言葉だよな」

それはそうだろう。なにせ眞魔国は外国でもこの世に存在しない、別次元の国である。

「ヨ、ヨーロッパの向こう??かな??」

「欧州圏にそんな外語なかったぞ」

さすが村田と同じ進学校生。侮れない。

「奥地も奥地、秘境って言われてる国で、あんま外と国交ない国なんだ。住人がこう・・・違っているというかキテレツというか・・・・」

『坊ちゃん、何気に失礼なこと言ってない?』(←悪口はわかるらしい)

しかし確かにキテレツな美形集団国家なのでユーリは嘘は言っていない。(←むしろ本気)



「へぇ? それにしても・・・・・・・・・・スゴいな」

別の意味で賞賛したわけであるが、恐怖で潤んだ少年の黒い瞳に触発されて俄然張り切るお庭番。

黒のチャイナドレス姿も忌まわしく、ウィンクする仕草も禍々しい。

『アタシ? アタシに興味があるの? いいわよーん、アタシの女心、とくとご覧いただきましょう!!』

チャイナドレスの大腿を大胆にも割り開いた。

「ひ・・・・・ぅわーー????」

あまりの惨状に咄嗟に眼前を覆う少年たち。ドレス内部の可愛らしいフリフリ紐パンを見ることができなかったことが不幸中の幸いか?(←女心玉砕)



「・・・・・・・・ヨザックーーーっ!!!」

大音量の怒声は「上様モード」まではいかなくとも、魔王陛下に忠実なる僕であるヨザックに多大な衝撃と、村田の友人らには新たな脅威として、玄関の隅々まで行き渡ったようだ。

「じゃ、オレたち、これでっ」

逃げ帰った少年らは恐怖に慄いていたが、この場を去ったことで魅惑のストリップショー(←ヨザ視点)から逃れられたことを後年ユーリに感謝することだろう。(←その前に二度と会えませんから)

かくして、村田家の危機は去ったのだった。(←家主不在)







「・・・・・・・はぁぁぁ・・・・・」

ソファに深く身を沈め、ユーリは胸の奥から溜息をついた。

「・・・・すぃやせーん坊ちゃん・・・・・ちょっと調子こいちゃいましたー」

さすがに反省したのか、しおしおと背を丸めてヨザックが床に座っている。手にしているのは冷たいおしぼり。

魔力とはいかなくても同等の力を発散したユーリは、魔力放出後に似た疲労を味わっていた。そのユーリにおしぼりだ、水だと甲斐甲斐しいヨザック。こういうところはコンラッドの友人だけあって優しいところが似ている・・・・などとほんわり思うユーリは正しく新婚だ。(←ノロケ全開)

「もういいよ、グリ江ちゃん。大丈夫だから」

額に触れてくる大きな手は剣タコがあってざらざらと気持ちいい。まるでコンラッドのように優しい・・・・以下同文。

「ケンちゃんがお留守の時くらいはアタシ頑張ろうって思ったんですよね。こっちじゃなんにもできませんし」

珍しく弱気なヨザックに、そんなこと考えていたのかと目を瞠るユーリ。

「向こうじゃそりゃ剣だって謀略だって謀殺だって誰よりも得意分野ですが」(←犯罪者?)

「ちょっと待て。それあまり自慢できる話じゃ・・・・」

「でもこっちでは・・・・・情けないことに世界が違いすぎてついていくのがやっとなんですよねぇ。でもってよかれと思ったことが空回りしちまう。・・・・そりゃ隊長は要領いいからすぐに慣れたんでしょうが」

「あいつもかなり空回りだぞ。・・・・って、そうか」

ユーリは思い出した。

眞魔国ではあんなに優秀で誰よりも信頼が深く泰然とした態度の彼が、この世界で妙に浮き足立ってることを。



――・・・あれってコンラッドでも異世界ってことでとまどってたのかな?(←そんなタマではありません)



母ジェニファーのお仕着せのエプロンを嬉々として着用したり、もったいなくも剣豪の腕で魚や肉を見事に捌いていたりするのも、まだこの世界に慣れていないせいではないだろうか。(←新婚で浮かれてるだけ)





――・・・「新妻」の意味も激しく誤解してるところがあるのかもしんない。(←誤解より曲解)



そう考えると、今日みたいに自分から外出するというのはいい兆候かも・・・と「妻」を思いやるユーリだった。



「グリ江ちゃんも。少々の失敗でくじけちゃダメだぞ。大丈夫、俺がついてるからさ」

元気付けるようにヨザックの肩を叩くユーリ。ご自慢の筋肉がピクピクと動く様もこうなったら可愛い限りだ。

「まぁぁ・・・・有難う坊ちゃん。グリ江、シ・ア・ワ・セ」

うっとりとユーリの小さな肩に顔を埋めるヨザック。大型犬が擦り寄るような仕草に思わず笑うユーリだったが、大型犬は密かに高貴な方の手触りや甘い体臭を楽しんでいた。(←確信犯がここにも)

しかし、そんな浮気(?)も長くは続かないようである。



「・・・・・ユーリ・・・・・?」

懐かしい声に顔をあげたユーリの目前に、「嫁」がものすごい形相で立っていた。(←修羅場)





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「で? ヨザックが粗相をしたのでそれを慰めていた、と。あくまでもそう言い張るおつもりなんですね、ユーリは」

急転直下、突然帰宅したこの家の主は何故かユーリの最愛の人を連れていた。

ソファでいちゃつく(←コンラッド視点)ユーリとヨザックに、悋気が激しい「嫁」がキれて、静かに怒っている。

元々美しい顔に表情がなくなるとそれだけで怖い。

「言い張るも何も、そそそそそれ以外の何があるっていうんだよ」(←夫、劣勢)

「それ以外のところを聞いているのは俺です」(←妻、鬼畜)

濡れ衣だと反論するも、肌も露なチャイナドレス男に圧し掛かられてソファに沈むユーリの姿は客観的にみれば濡れ場以外のなにものでもない。



「・・・・俺がヨザックとナニかすると思ったのかよ」

「今日は多忙であなたに悪戯できませんでしたからね。欲求不満で・・・ということもありえます」

「はぁぁ?? 欲求不満でって・・・夕べもシたじゃんか!」(←青少年の主張)

「勝利が早く帰ってきたせいで、シたのは3回だけだったでしょう?」
(←3回で不足なんだ・・・)

「その分、朝方あんなにヤったくせに! 2回も!」(←合計5回)

「でもお昼はデきませんでしたから。せっかくの日曜日なのに」(←絶倫)

「くぅぅ・・・・昼間くらいは休ませろよ! せめて1回!」(←ヤケクソ)

「いいえ? 譲歩して最低4回ですね。――浮気のお仕置きも兼ねて」
(←希望は1日計10回)

「・・・・・・・・・・・・・・」

撃沈したユーリは、再びソファへ沈み込んだ。



「はいはいはい。痴話喧嘩はそこまで」

村田が笑いながらリビングに入ってくる。「妻」の不貞現場(←夫婦ですから)を目撃した割には妙にご機嫌なのが不思議だ。

「助けろよ村田。つーか、ヨザックは?」

「ああ。彼、掃除しているよ? お茶目の罰ゲームはトイレ掃除って相場が決まってるだろう?」

チャイナドレスに捻りハチマキ姿の男が狭いトイレでブラシを持つ・・・・・まだ秋なのに木枯らしが吹きそうだ。

「ウェラー卿もお仕置きするなら趣向を変えてみるのもいいかもね。案外渋谷が喜ぶかもよ?」

「むむむ村田・・・・っ!?」

「それもそうですね。可愛いメイド服でお掃除・・・・・・・・」(←妄想爆走中)

「掃除はやってやるからもうコスプレはやめろ」(←経験あり?)



「コスプレといえば!」

急に目を輝かしていそいそと荷物を取り出す村田。リュックになにやら入っているらしい。

「いいものが手に入ったんだよねーvv そうだ、ウェラー卿も・・・・」

「げ、猊下!」

珍しくコンラッドが慌てた様子で村田に取りすがった。

「? なに、コンラッド」

「いえ。なにも」

不審そうなユーリに、居住まいを正してソファに座りなおす「妻」の態度が妙に白々しい。

「なんか、隠してること、ある? 俺に」

「ありませんよ。やだなぁユーリ。いつもながら可愛らしいですね」

「誤魔化すな」

夫婦の間で隠し事は不可能だ。婚約者(←事実婚)となって日も浅いユーリだが、コンラッドの額に似つかわしくない汗がひと筋伝うのを、思いっきり胡乱な目つきで眺めた。

「だいたいなんで村田と一緒ってこと内緒にしてたわけ? 俺の知らないところでナニしてんだよ」

「黙って出掛けたのは謝罪します。ですが決して貴方を裏切るような真似はしてませんしナニもありませんよ」

「当たり前だ!」

語気荒く叫んだあとに、ユーリは不意に心配になった。

問題は浮気云々ではなく、他にあるのではないだろうか・・・・・・・・。



「――なにか、危険なことでもあった?」

「ユーリ?」

突然不安そうに目を潤ませる「夫」が凶悪に可愛くて、俄かに「妻」が動揺する。

「俺に言えないマズいことが起こったとか。―――こ、こっちにも魔族がいるんだろ? 俺の親父も魔族だけどあんな能天気な魔族とは別に不穏分子がいるって・・・前にコンラッドが」(←舅イジメ?)

「ユーリ」

無駄な不安材料を与えてしまったとほぞを噛むコンラッド。

「いいえ。――確かに不穏分子の件は気がかりですが・・・・今回はそんなことじゃありません。危険なことなんて何もありませんよ?」

「ならどうして黙って外行っちゃったんだよ!」

「それは・・・・・・」

途端に劣勢になったコンラッドは言葉に詰って俯いた。

ユーリに心配をかけたくない。でも・・・・怒らせたくない。





「あーあ。見るに耐えないなぁウェラー卿。ルッテンベルクの獅子も渋谷の前じゃ形無しだねぇ」

膠着した状態に突破口を開いたのは村田だった。さすが魂歴4000年、諸事揉め事全般承ります、の精神で夫婦間の諍いに介入する気満々だ。(←余計なお世話)

「こうなったら正直に話しちゃえば?」

「いえ、猊下。それは――」

「なに? コンラッドのことなら俺知りたいよ。隠し事なんてしてもらいたくない・・・!」

「ユーリ・・・・・・・でも・・・・」(←苦渋)

「俺たち、夫婦、だろ!?」(←決め台詞?)

苦悶に満ちた表情のコンラッドと、彼の痛みを少しでも和らげようと擦り寄るユーリ。美しきかな、夫婦愛。

ここにジェニファーがいればクラッカーや爆竹で大いに場を盛り上げたことだろう。(←近所迷惑)



「ユーリが・・・・そこまでおっしゃってくれるなら・・・・・・」

コンラッドが少しだけでも愁眉を開いたことで気を緩めるユーリ。

「どんなことでも、俺、驚かないよ」



「ということで。じゃ、お披露目といきましょーか!」

村田が場違いなほどの喜びの声を発した。ウキウキだ。ムラケンズのテーマが大々的に流れる。(←音源担当=ヨザック)

「ななななに??」

おもむろにリュックから取り出したそれを、テーブルに一つずつ並べていく。

色とりどりの人形達が様々なコスチュームを着て、リアルに再現されていた。

人形――その世界に造詣の深くないユーリは人形としか言いようがないが、これらはフィギュアとして人気も高く高値で売買されるレアものである。

「こ・・・・これ・・・・??」

「やーこのシリーズ、前々から限定発売されるって噂があったけど発売日がいつかは明かされてなかったんだよねー」

どのシリーズなのかユーリにはさっぱりぽんであるが、村田が頬擦りせんばかりに喜ぶところを見ればそれなりの稀少価値のあるものなのだろう。たかが人形、されど人形。

「学校の友達がさー情報仕入れて教えてくれたおかげでゲットできちゃったんだけど」

「あー・・・さっきここに来た奴?」

「そうそう。情報のお返しに僕のいらなくなったレアもの交換したんだ。なにせ今日の今日だから時間がなくて渋谷に留守番してもらったってわけさ」

親切に情報くれた挙句にチャイナドレスマッチョ男に襲われかけた友人・・・・不憫かもとユーリはそっと涙を拭う。



「で! コレがウェラー卿のお目当て! 限定100の超レアもの!!」

じゃーんと袋から出されたブツがあまりに小さくて、思わず見入るユーリ。

「へー。・・・・・・ってか!! コンラッド、あんた・・・・っ!!」(←「妻」の秘密発見!)

驚愕に仰け反るユーリの眼前で、取り出された小さな人形を大事そうに掌に包むコンラッド・・・・。

「ああ・・・・美しい・・・・。欲しかったんですよね、これ・・・・」

黒い衣服を着た人形はやけに美少年で、小さな身体で挑むようにこちらを見上げている・・・・(←既視感)

「それって今人気のアニメで、主人公の少年が悪魔に立ち向かって世界を平和に導く物語なんだよ。その主人公がやたら渋谷に似ててさー。黒い髪に黒い瞳、黒衣をつけて悪をぶった切るって話なわけで、ウェラー卿がハマるのも無理ないよね」

「毎週DVD録画してます。勿論、ブルーレイで」(←ボブのお金はそんなところに・・・)

「マズいよねー。元プリで眞魔国随一の剣豪が異世界の二次元少年にぞっこんって、故郷に知れたらコトだよねぇ? 勇気あるなウェラー卿」(←黒い)

「いえいえ、猊下に比べれば。齢4000年にしてジャパニメーションおタク。アキバ常連の大賢者となれば造詣もより深く差配も偏りがちになるというもの。毒女に勝るとも劣らぬ独創性は凡人の俺など遥かに及びもつかない勇者ですね」(←黒さ さらに倍)

「褒め言葉、光栄に思うよ」

「こちらこそ」

不気味に笑う二人の間に目に見えぬ光が弾けた・・・とユーリは眩暈を起こしてソファに倒れ込んだ。



「ああユーリ、すみません」

突然伏した「夫」を慌てて起こすコンラッド。いつもと変わらぬ甲斐甲斐しい姿は、その手に妙な人形を持ちさえしなければユーリも素直に喜べるのに。

恨めしいような目をしたのがわかったのだろう。コンラッドは優しく愛情溢れる笑みでユーリを覗き込んだ。

「気にしないでユーリ。あくまでもこれは代用品。(←ナニに使うんだ?) それに俺は二次元少年が好きなのではなくてユーリに似ているから好ましいと思うだけです。猊下とは違います」(←嫌味)

「それにしては必死で並んでたよね」(←一蓮托生)



「そうか。・・・・・じゃ前から時々一人で外出してたのは村田とアキバ通い・・・・・」

ユーリは途方に暮れた。そして眉間に皺を寄せて政務に励む長男と、かしましいほどに身を案じる三男に対し申し訳ない気分で一杯になった。

――ごめん、グウェン、ヴォルフ、ツェリ様・・・次男は異世界で馴染みきってます・・・・。(←局所的に)



「いえ、今日以外は純粋に猊下の護衛です。あのヨザックを護衛にするのはいくらなんでもマズいので」

信じて、ユーリ。

なんてタラシの声音で囁くから、もはや外出云々を咎めるのはやめにしようとユーリは思った。

ともかく無事で帰ってきてくれてよかったと安堵するユーリは立派に「夫」らしい。



「じゃそういうことで。そろそろ帰ろうかな」

「ええ、ユーリ」

だが、いそいそと懐にフィギュアを仕舞い込む「嫁」の姿に、なんとなく不機嫌になるユーリ。

「それ、今度だけだからな! そこらへん含めて言いたいこといっぱいあるし。――そんなもん可愛がるよりもっとやることあんだろ!」(←大胆発言)

「・・・・・・・・ユーリ!!」(←感無量)



ユーリは男らしく立ち上がり、コンラッドを従えて村田家の玄関へと降りた。

「邪魔したな、村田」

「いやいや。こちらこそ留守番ありがとう。次もお願いするよ」

「もうお願いされないからこれでチャラだぞ。 ほらコンラッドも村田に礼を言えよ」(←無意識にいやがらせ)

「・・・・・・・・・・・・・・・・・有難うございました、猊下」(←複雑)





ドアを開くと秋も深まったせいか、冷たく澄んだ空気が忍び込む。

夕陽を眩しく見上げながら、このフィギュアオタク、どうしてくれようと日頃の鬱憤を踏まえてお仕置きを考えていたユーリの背後で、ヨザックが楽しそうに手を振った。

「坊ちゃーん、またいらしてねーvv」

「なんだヨザック。まだそんな格好で・・・・・」

チャイナドレスに目を剥いたコンラッドに、

「なんか勿体無くってvv 粗相して汚しちゃったもんだから着替えたけどー。そしたら坊ちゃんがスカート脱がしたお詫びだって甲斐甲斐しくしてくれてー。ミルクで汚れた脚まで拭いてくれたのよー。ね? ぃやーん陛下ったら男前―!」

「ヨヨヨヨヨヨザック!」

慌てて口を塞ごうとするが、背後から物凄く不穏な気配が・・・・・。



「スカートを、脱がす? ・・・・・・脚・・・・ミルク?」(←思いっきり下世話な妄想)

「ちっ違うから! ってか字面あってるけど中味全ッ然違うから!」(←不幸の一致)

「そこらへんのことも含めて俺にも言いたいことがたくさんありますので早く家に帰りましょう」

「か・・・・帰りたくないっ」

「ああ勿論このフィギュアはお払い箱です。本人を目の前にしたらこんなもの可愛がってる暇ありませんから」

ルッテンベルクの獅子の本気はへなちょこ魔王を凌駕する・・・。

「さぁ。家に帰って昼間の分を取り戻しましょうね」

一日合計回数の最高記録を目指す妻。(←総計20回希望?)

物悲しい悲鳴とともに、新婚夫婦は寒々しい秋の夕焼け雲の下、去っていくのであった。





「渋谷ったら、あっちの世界に行き過ぎて妙に日本人離れしてきたよね」

「『嫁』の色に染まる『夫』だなんて超眞魔国っぽいじゃないですかvv 幸せでよかったですねー隊長vv」(←眞魔国における夫婦の正しい姿?)

村田家の夫婦は台風一過のリビングで、ゆったり日本茶を味わった。

何があっても誰が「嫁」であろうとも、平穏なのが村田健の自慢である。





 
 はうはうっ!待望の新作、しかも攻嫁っ!しかもしかもたぬき缶にプレゼントして下さるなんて〜っ!!
 嬉しすぎて涙がちょちょぎれますっ!

 う・れ・し・い・で・す〜っっ!!!
 
 このお話の魅力はやはり、会話のテンポの良さと(←)の小気味よい応酬ですよね!
 今回は特に、グリ江ちゃんに対する形容が秀逸でした。(←鋼の乙女心)(←アムロ語録より)の二つが何ともツボに入って笑ってしまいました。

 やはり、リアルガンダム世代なので、後者の後に続く有利の行動説明も大好きなんですよ。

 お家のこともしっかりやっておられるので、「どんどん更新してください」とはとても言えませんが、こうして時折書いて下さるお話のインパクトは流石です!
 9回裏、ツーアウト、ツースリーからの逆転満塁サヨナラホームランおつり無しくらいのインパクトですよ!(昔、赤い市民球団がそれで試合を決めたときにはスタンドで踊り狂いました。ちなみに、《おつりなし》というのはそこまでに3点差があり、満塁ホームランで丁度逆転するという状況を差します)

 これからも、コンユ界のホームラン王として頑張って下さい!


 

狸山ぽん



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