『蒼いきりん』Blau Giraffe 仔上圭様
サイト2周年記念フリー小説
夏も盛りを過ぎ、あたりに涼しげな風が吹き渡る。
猛暑が続いた眞魔国にようやく秋が訪れようとする、その頃―。
「・・・・・・・お前たち。仕事をする気がないならさっさと出て行け!!」
重低音の怒声はもはや恒例行事で、今日も元気に(?)血盟城に響き渡っていた。
夢見る さなぎ
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血盟城に於いて政務を司る、眞魔国の中枢とも言える荘厳な部屋。
歴代魔王が執務を遂行した豪奢な机も椅子もそのままに、今では元気盛りの少年王―第27代魔王、渋谷有利陛下―が仕事に勤しんでいた。
だがこの王、執務に対する興味が些か薄いせいかすぐに休憩を取りたがるうえに、隙あらば脱走しようと試みる。
その上、彼を信奉する王佐や婚約者までもが助長するような行動をとり、陛下専属護衛に至っては脱走経路まで用意する始末。
この国で最も有能で仕事熱心な摂政の怒りは日々蓄積していたが、ある日ついに爆発した。
「仕事をしろ!!さもなくば出て行け!」
尤もな話である。
本来魔王陛下が成すべき政務の、お膳立てをした挙句に逃げられて、その上「決裁はまだか」と重臣たちにせきたてられる。
不毛だ、と摂政は思った。
・・・・・・・・なんでこんな役回りを私がしなければならん!!
冷静沈着、眞魔国の理性と称される彼は、何事にも眉間に皺を刻んで耐える男であったが、ついに雄叫びを上げてしまった。
「お前たち!少しは私の身にもなってみろ!!!」
「それは正論かつ尤もな意見だね」
摂政の心からの叫びは、だがしかし、最もデンジャラスな相手に汲み取ってもらえたのが不幸の始まりかもしれない。
折り好く眞王廟からお出ましになったダイケンジャーこと、伝説の大賢者は執務室で吼える摂政に労わりと慈愛と、それを上回る何やら黒い気配で応えた。
「いくらフォンヴォルテール卿の趣味が仕事や仕事や仕事であろうとも、過剰労働はマズいよ。魔王陛下が告訴でもされたらどうするんだい?それに強要されて残業した結果、彼の帰りを待つ可愛い仔猫ちゃんたちを思うといてもたってもいられなくなって眉間の皺が年不相応に深くなっていくのをただ無為に眺めているのは人として魔族としてどうなのかな?」
相手の苦労を理解していないから価値観の相違は生ずるんだよ、と鹿爪らしくのたまった後、
「ということなんで。みんな、お互いの立場を思いやってあげようじゃないか?」
猊下の微笑はその場の誰もが否を唱えられぬほど、黒かった。
そして当のフォンヴォルテール卿の眉間には、更に深い皺が刻まれたのだった。
*************
執務室にある種の緊張感が漲っている。
静かなその部屋に聞こえるのは、書類を捌く乾いた紙の音と、ペンが走る音だけ。
窓の外は心地よい快晴で、青い空のもと鳥が自由に飛んでいる。
まるでこの部屋とは対照的に。
「・・・・・この書類はこちらでよろしいですね」
読み終えた書類を束ね、ウェラー卿コンラートが魔王陛下の机上に積み上げる。
彼は摂政の席に戻り、次なる書類を手に取った。
羽の生えたペンを片手にデスクワークに取り組む彼の姿は、軍人として名を馳せた頃とはまた違う魅力的な雰囲気を醸し出している。
「ああ、コンラート。その案件の概要はこちらです。事案毎にまとめておりますから・・・・」
いつもは汁垂れ流しのギュンターが、有能な王佐らしく補佐を勤めている。
そして次々に嵩を減らしていく書類の山・・・・・・・。
・・・・・・・これが本来あるべき政務の姿だ。
グウェンダルは思わず目頭が熱くなるのを必死でこらえた。
彼は臨時的に要人警護の職を仰せつかり、執務室にて待機している。
いつもは弟のコンラートが陣取る場所に立ち、次々と処理される仕事を奇跡の如く見つめていた。
「どうしたんだい、グウェンダル?立ってばかりじゃ退屈?」
揶揄するように話しかけてきたコンラートは、これまた臨時的に摂政を仰せつかっている。
「お互い慣れない仕事だと肩がこるね」
人好きのする笑顔で見上げてくる弟。
有能な官僚然とした姿に、グウェンダルは瞠目した。
ほんの数年前までは、望んでも手に入れられなかったグウェンダルの密かな、夢。
「でもさすがにこれだけあれば陛下も大変だな」
思わず呟いたコンラートが、ふと視線を上げる。
隣に控えている王佐が、肯定するように頷いた。
「ですがコンラート。これらは真に重要な案件ばかりです。私とて陛下にご苦労をおかけするのは本意ではありませんが、王の意向を無視しての施政はそれこそ本末転倒。ユーリ陛下だからこそいかに刻苦されても真剣に取り組んでいただきたいのです」
「わかるよギュンター。教官殿の言うとおりだ」
そして小言を言いながらも、グウェンダルが陛下の仕事をよりわかりやすく捌いているのも誰もが知っている。
「優しいね、グウェンは」
「その台詞、そのままお前に返そう。コンラート、お前はアレに甘すぎる」
「甘いのは仕方ないさ。ユーリは可愛いからね」
満面の笑みを浮かべるコンラートとギュンターだが、グウェンダル一人は理性で頬を引き締めた。
「あー。僕から見たら誰もが甘いんだけど。いつの間に血盟城はお菓子の城になっちゃったのかなー」
書類の山に埋もれてしまった魔王陛下の机で、大賢者が笑う。
「ああ、失礼。勿論、猊下も可愛らしいですよ」
あからさまに「ついで」だろうという台詞なのに、妙に清涼感溢れる笑顔のコンラート。
「いつも思うけどウェラー卿って如才ないよね」
「お褒めに預かり恐悦至極です」
「そこで褒められてるって思うところが普段魔王陛下に甘やかされている証拠かな」
「それこそ光栄の極みですね」
冷気溢れる談笑(?)だが、その間仕事は休まず着実に書類が片付けられていく。
端で傍観するしかないグウェンダルは仕事以上の疲労感を覚えた。
・・・・・・・これなら政務に励んでいる方がマシだ・・・・・。
歪な緊張感に情けなくも根を上げそうになったその時、執務室のドアが景気良い音を立てて開いた。
「お待たせー!みんな、疲れただろー?お茶の時間だぜー!」
威勢のいい声が響き渡り、一気に執務室が賑やかになる。
「陛下?」
「へへへへ陛下っ!?と・・・ヴォルフラム?あなた・・・」
皆が一様に目を丸くし、王佐に至ってはそのまま全身の汁を出しつくすのではないかというくらい取り乱す。
彼らの視線の先には、恐れ多くもこの国最高位であらせられる魔王陛下が午後のお茶セットを携えて立っていた。
何時にも増して魅力的な黒髪が綺麗に整えられ、その頭上には白いレースの髪飾り。
そして華奢な身体に・・・・・・ぴったりのメイド服。ご丁寧に禁色の黒ドレスだ。
そして魔王陛下の婚約者で金髪碧眼の美少年ヴォルフラムは、白い帽子も愛らしいコック姿である。どうやら彼は厨房係に扮したらしい。
「・・・・・やっぱ、ハズしちまったじゃないか。いくらなんでも男のオレがこーんな格好・・・・」
「そんなことはないぞ。お前の美しさは性別を超えて見るものを魅了する。少しは自分の容姿を自覚しろ」
「んなコト言ったってー。・・・・こんな可乙女チックなカッコ、お前の方が断然似合うと思うぞ、オレなんかより」
驚きに声もない一同を眺めて、魔王陛下のユーリが恥ずかしそうにドレスの裾を引っ張った。
「あらぁん、違いますよー。皆さん感動のあまり声が出てないだけですってぇ。ねぇ?」
同じくメイド服を着こなしたヨザックが、逞しい上腕二頭筋を使って茶器を運び込む。
さすがに黒色ではないが、どピンクなドレスも迫力があって誰も何も突っ込めなかった。
「本当?ハズしてない?」
可愛らしい問いに、皆が一様に掌を横に振った。
「ハズすどころか。いやー午後の休憩って必要だねぇ。なんだかヤル気が一斉に失せて強制的休養に突入できたよ。渋谷のおかげだね」
「お前がヤレっつったんだろーが!」
憤慨するも、あまりに可憐な姿では小動物が健気に威嚇するのと変わらない。
証拠にグウェンダルの端正な筈の鼻の下が微妙に伸びた・・・ようにも見える。
「王たる者、配下の苦労を慮る度量も必要って、猊下も粋な計らいをしてくださいますねー。グリ江感激!」
「当たり前じゃないか。難しい仕事も休憩のお茶も何もかも、引き受けてくれる人がいるからこそ王様も安心して職務に励めるんだ。目に見える忠義ほど曖昧なものはない。その心に血が通っているかどうかは忠誠を捧げる相手によるものだろう?それを思うと渋谷は・・・・・・」
大賢者は肩を竦ませて双黒の王、地球での親友を眺めた。
その王は女装を嫌がった割には与えられた職務には忠実らしく、危なっかしい手付きでカップとソーサーを銀盆に並べている。
「熱いですから気をつけて、ユーリ」
「わわわわかってるから!アンタ仕事してて!気が散るよっ」
心配そうなコンラートに、おずおずとお茶やお菓子を振舞っている。
その拙い仕草に見惚れて思わず仕事の手が止まる王佐と臨時摂政。
金髪のコックはヨコシマな視線を鋭く感じ取ったらしく、メイドを庇って仁王立ちした。
「僕の手作りの菓子も食してもらおうか。滅多にない芸術品だからな」
なるほど、焼き菓子特有の甘い香りは漂うものの、見た目は抽象画的で何を模したのかわからない一品だ。
なんとなく手を伸ばすのをためらう二人の兄と、王佐・・・・・・。
「・・・・・・・まぁ別な意味であぶなっかしい程好かれてるからねー」
大賢者の言うとおり、今や眞魔国国王の株はうなぎのぼりである。
愛らしい容姿は勿論のこと、その偉大な魔力でこの世界を安寧に導いた英雄。
創主との壮絶な戦いを経て、若い国王はまだまだ成長途中にもかかわらず伝説と化していた。
市井にあっては陛下グッズが飛ぶように売れ、他国からも多数のオファー(他国王家のからの謁見希望)がくる始末。・・・・・まるでアイドルのノリだが。
ヨザックはメイド服から覗く太い腕を思案気に組んだ。
「陛下のお姿があるだけで、もはや仕事の進捗など望めませんねぇ」
眞魔国の並居る重鎮が鼻の下を伸ばしているこの状況・・・・・・。
だが「仕事」という響きにピクリと耳を動かしたのは、さすがに摂政だった。
「・・・・・・・・これでは何の意味もないではないか」
役職を交換して他の立場を理解しても、執務が滞るのではさして意味がないのではないか?と至極尤もな疑問を浮かべる。
そうだねぇと応えるのは大賢者。
「じゃ、可哀想なフォンヴォルテール卿にひとつコツを教えようか」
にっこり笑って摂政とお庭番を凍らせた猊下は、徐に机上の書類の束を手に取った。
「渋谷。お楽しみのところ悪いけどこの書類、ちゃんと承諾のサインをしてくれないか?」
「ええ?村田!お前が済ませてくれるんじゃなかったのかよ、オレの代わりに」
仕事をしないで済む代わりにと、着たくもないメイド服を着用したユーリは不満顔だ。
「いくら大賢者の肩書きがあっても王である君を押しのけて決裁することはできないよ。代筆もダメ!公文書偽造の立派な罪だ。だから君がやりやすいように仕分けてやったんじゃない」
書類の山を「これは決裁OKの分、これは再検討が必要な分、こっちは即時却下・・・話にならないね。んでこっちは・・・・・」と説明する大賢者。
細分化されたそれらはいくつもの山を形成している。
「いつもフォンヴォルテール卿が律儀に仕分けしてくれて、今日もウェラー卿が代理で分けてくれてるけど。地球での君の思考を考えると僕なりの処理の仕方ができるのさ」
ええー?とかなり不本意なユーリに、村田の眼鏡がキラリと光った。
「ここでいいことを教えてあげよう。この書類の中に眞魔国初のテーマパークについての稟議書がある」
「・・・・・・え?」
「そう、君の考案したボールパークだ。野球に必要な物品の選定・購入、そして今年度の予算も試算してある。どれも野球に詳しい君でなければ決裁できない重要なものだ。王のサインがなければ紙屑同様の・・」
「しっししし仕事します!!いやさせてください!村田様―!!」
メイド姿も愛らしい陛下が、突如必死の形相で机に齧りついた。
既に右手には羽ペン、左手には眞魔国辞書。――ヤル気まんまんだ。
「いい心掛けだ、王様。じゃ、この稟議書はこうして・・・・・・」
大賢者の手にあるボールパーク関係の稟議書数枚が、トランプを混ぜるように他の書類の間に差し込まれていく。
「きっきったねーー!村田っ!!」
「早く片付ければどこかで目的のものに出逢えるよ。それも仕事の醍醐味じゃないか」
「・・・・・・・・・・ちくしょー!こーなりゃやってやろーじゃねーか!憶えてろよ、村田!」
盛大に文句をわめきつつ、血眼で山のような書類を捲るこの国最高位の王・・・・。
「気持ちよくやる気にさせるってこういうことだよ、フォンヴォルテール卿」
可愛らしく小首を傾け微笑む大賢者に、皆が数歩後ずさりした。
・・・・・・あ、悪魔・・・・・。(←魔族だって)
傍観者達はそっと心で涙を流すしかない。
騒動も落ち着き、真剣に仕事と向き合う魔王陛下とウェラー卿。
真摯ながらも愛らしいメイド姿服の陛下に滂沱の涙と汁を垂れ流しつつ、なけなしの理性で補佐する王佐。
静かな空間を、グウェンダルは奇跡を見るような面持ちで眺めていた。
そう遠くない昔――。
若造と侮られ、魔王の子息とはいえ時の政権に意見する地位になかった頃。
人間国との戦乱が長引き徐々に戦況が逼迫していく中、自分に力があったらと、どれほど願ったろう。
魔王陛下の兄であり、叔父でもあるシュトッフェルが絶大な権力を誇るのを、歯軋りしながら玉座に仰いだ。
混迷する戦乱の世、戦闘を回避する余地など無いに等しくとも、自分なら被害を最小限に治め、敵国との交渉も有利に持ち込めることも可能だ。
自分に権力があったなら――。
そうすれば武人ながらも政治家の資質をも兼ね備える弟を前線から呼び戻し、共に政務に励むことができた。
彼の補佐を得れば、必ずこの戦況を打破してみせる。その自負があった。
幼い末弟にも、血筋による差別など愚かなことだと肌で感じさせることも出来る筈・・・・・・。
だがそれは、手足を殻に隠したさなぎが時を待てずに空を飛ぶ夢を見るのと等しい。
実際にはしがらみで雁字搦めに絡めとられて、身を護るのが精一杯の未熟な自分。
いつかは・・・と願いながらも手に届くことがなかった、夢――。
「仕事もいいが、僕の渾身作である菓子も食べてもらうからな」
仕事と称して婚約者と次兄が仲睦まじく並んで座っているのが、自称婚約者には気に入らないらしい。
なんとも形容しがたい焼き菓子の皿を持って二人の間に割り込んだ。
「だからヴォルフ、それは仕事のあとで・・・・」
「こんなに美味で芸術的な菓子だぞ!サインしながらでも食えるだろう!だがちゃんと形状や味も堪能してもらうぞコンラート!」
「それ矛盾してるんじゃないかな、ヴォルフ」
「うううううるさい!!さっさと食べろ!」
優しげに首を傾げる次兄と、怒りか照れかわからぬ赤みを頬に浮かべる末弟。
時は過ぎて、さなぎの夢は開花する。
日々雑務に追われる身だが、眞魔国の繁栄に身を尽くす地位にある。
相変わらず権威や名声に興味が無い弟も、こうして執務室に出入りしている。
例え今日だけの茶番だとしても彼が政務に向かう姿は、望んだ夢そのものだった。
そして、幼く世間を知らなかった末弟も、日々に成長の兆しを見せてくれる。
平和なひと時。
永世平和主義などと困難な目標を掲げる新しい魔王の治世はまだ未成熟で夢物語ではあるが、この滑稽にも幸福な部屋を見る限り未来を信じてもいいとグウェンダルは密かに思う。
さなぎもいつかは羽化するのだ。
生まれたての羽根で空を飛ぶその時、きっと眼下には夢見た世界が広がっているだろう。
視線を感じて見下ろすと、双黒の大賢者が笑って見上げていた。
「お兄ちゃんは気苦労が多いね」
猊下お得意の茶化した声だが、不思議と揶揄する色はなかった。
「・・・・・・・・いつものことだ。もう慣れた」
恐れ多くも大賢者に向かっての等閑な態度は、グウェンダルが珍しく安閑としている証拠だろう。
「だが・・・・・礼を言う。猊下に心からの感謝を」
「柄じゃないねー。ま、素直な君も意外と可愛いからいいか。弟と違って」
面と向かって「可愛い」と云われたのはおそらく100年ぶりだろう長兄は、妙な形の皺を眉間に刻んだ。
その時、
「あーっ!!ユーリ、どこへ行く!!」
「へ、陛下!!お戻りくださいっ!まだ・・・まだお仕事がぁぁぁーーっ!!」
突如、末弟と王佐の悲鳴が響き渡った。
唖然とした摂政と大賢者の目の前を一陣の風が吹き抜ける。
「ごめんヴォルフ!一応急ぎの仕事終わったから!サインしたら急にテーマパークが気になっちゃってさー!!」
ドアに突進したユーリが、少しだけ足を止めて弁明した。
「ということだから。あと、頼むな、村田!」
「君ねぇ。・・・・・ま、君にしてはもったほうだから仕方ないか」
「何を呑気に!あっコンラート!お前・・・っ!」
ヴォルフが怒るのも無理はない。
脱走を試みるユーリの手を助けるように引いているのは、止めるべき立場である次兄。
あっという間に二人は執務室から脱走した。
「あああああ兄上!何故追わないのです!今日のユーリの護衛は兄上ではなかったのですか!?」
きゃんきゃん吠える小型犬のような弟を見下ろして、厳格な筈の長兄が少しだけ口の端を緩めた。
「すまんなヴォルフラム。私の要警護対象者は、猊下お一人だ」
猊下の指図通り摂政役を引き受けたコンラートだが、陛下専属護衛だけは譲らなかったとみえる。
「ぬ・・・・ならグリエ!!貴様一緒に来い!」
だが眞魔国随一の諜報部員でありお庭番であるヨザックはピンクのメイド姿で身を捩った。
「ええー?アタシぃ?グリ江、今日はメイド役だからぁ。追いかけっこしたらドレスが汚れるしぃ」
本音は陛下と駆け落ち(?)した隊長を追って返り討ちに遭うのが怖いらしい。
「くそ!こうなったら僕一人でユーリを・・・!」
「お待ちなさいヴォルフラム!わたくしも一緒に・・・・」
あっという間に嵐が執務室から飛び出して行った。
残されたのは摂政と猊下とお庭番。
「・・・・・・・・・・・・では、始めようか」
グウェンダルは徐に定位置である摂政席に腰を下ろした。
馴染んだ椅子、机には相も変わらず未決裁の書類の山。
「仕方ないね、頼まれちゃったからさ」
魔王陛下の席に大賢者が腰を下ろして、頬杖をついた。
「じゃアタシ、お茶を淹れなおしますわねー」
大柄なメイドがいそいそと茶器を手に取った。
グウェンダルの夢には続きがある。
まださなぎのように幼い魔王陛下が大空を舞う時に、ユーリの描いた夢が現実となっているように。
無謀ともいえる永世平和の道に、助力を惜しむまい。
昔、夢に描いた時間をくれた、強く優しい魔王の為に。
などとおくびにも出さず、眉間に皺を幾つも刻んだグウェンダルは眞魔国一有能な摂政たるべく、今日も政務に励んでいる。
「夢見る さなぎ」 おわり
狸山、現在心は山中の月の下で腹鼓を乱打しながら踊り中です。
はぅはぅ!本サイト初の強奪品は仔上圭様本作品でございます。
あまり胸の内を語ることのないグウェンダルの密やかな願いが、次男が政治的手腕でも認められ、共に行政に関わること…そしてマ王様が広大な夢を現実のものとして羽ばたくこと…グウェンダル自身もさなぎのまますりつぶされそうになっていた時代を乗り越えて羽ばたきつつあるこのひとときが、とても貴重なものに感じます。
しかもコンユの続きもあるとのことで、今からそちらの方にもはぁはぁ言っております!