「さくらんぼの嘘」C






 

「コンラッド…大丈夫?」
「ええ…すみません、ユーリ…」

 くたりと寝台に横たわりながら、コンラッドは申し訳なさそうに眉端を下げた。
 熱い息は浅く速く…発熱を示す頬と眦とは濃い紅色に染まり、寝間着の襟元から覗く汗ばんだ肌は凄絶なまでの色香を漂わせている(←こんな時まで無駄な色気を…)。



 先程コトを為してお風呂にも入り、二人でイチャイチャしているところに…血盟城のどこかから《すっぽこぽーん!》という奇声が上がったかと思うと、直後にコンラッドが昏倒してしまった。

 どうやらアニシナが《善処》してくれた結果らしい。

 しかし、コンラッドは記憶を取り戻したはいいが…ついでに熱も戻ってきたせいで寝込んでしまった。
 
 それでも、まぁ…記憶を無くしていた間のことを覚えていただけマシというものだろう。
 すっかりぽんと忘れていたら、性交の後も生々しい有利を前にして恐慌状態に陥ったに違いない。



「どうしたんです?ユーリ…」
「んー…?」

 有利は寝台の脇に頬杖をつくと、妙にニコニコとしてコンラッドを見詰めている。

「何か嬉しいんだもん」
「俺が熱を出しているのがですか?」

 少し拗ねたようにへの字に枉げた唇へと、有利の桜色の唇が押しつけられる。
 相変わらず不器用な仕草ながら、何とも言えない初々しさがコンラッドの胸を発熱以外の何かで満たしてくれる。

「熱は早く引いたらいいなって思うけど…それより、あんたが無理せずに俺の前で寝ててくれるってことが凄く嬉しいんだよ?」
「それでは、たまにはこういうのも良いですかね?」
「うん…!」

 にこにこと微笑む有利を前にして、コンラッドは再び枕に頭を埋めた。
 たまには良い。たまには良いけれど…やはり元気に起き出して有利の傍にいたい。

 折角両思いになったのだから、浴びるほど彼を抱きたいのに…流石のコンラッドも熱が高すぎて勃ちゃあしないのだ。

「ユーリ…元気になったら……」
「うん、いっぱいキャッチボールしような!」
「…………そうですね……」

 どうしよう。
 また健全コースに逆戻りしそうな雰囲気だ。

 熱が高くて身体も怠いものだから、コンラッドはちょっぴり寂しくなって拗ね拗ねと枕に懐いた。
 その様子をどう思ったのだろうか?

 有利は、ぽて…っと枕の横に顔を埋めると、遊びたい盛りの仔猫のような瞳をして囁きかけた。

「元気になったら……いっぱい、しようね?」

 頬をさくらんぼ色に染めた有利はあどけない声で囁くけれど、淡紅色に染まる目尻には…昨日までは見られなかった色香が滲んでいた。

「……っ!」

 早く元気にならなくてはならない。

 改めて、コンラッドは強くそう思うのだった…。





おしまい





あとがき


 30万打記念小話、如何でしたでしょうか?
 お持ち帰りしやすいようにSSで…といつも思うのですが、やっぱりエロを挟むと「ネタふり→エロ→オチ」の3段階必要になるので(←いきなりエロに入れるようになろうよ…)、やっぱりそこそこのページ数は掛かってしまいますね。
 
 ネタ的には結局、「記憶喪失あんまり関係ないやん」な感じになってしまいました。
 40万打記念の時には有利が記憶喪失なネタをやろうと思うのですが、その時には少し設定を変えてみようかと思います。

 ご意見ご感想お待ちしております。