おやゆび陛下番外編−6 「お月さまと魔王さま」 世間一般の魔王様というと、月を見上げてやるならやっぱり血まみれの長い爪を掲げるとか、膝に触覚の大きな獣を侍らせて悪巧みとか、そういうことをしているものでしょう。 でも、眞魔国の魔王様は違います。 ちっちゃなちっちゃな世界一ちっちゃな王様でもある親指陛下ユーリは、一年で一番大きな月に向かってこんなことをしています。 * * * もっちゅもっちゅっもっちゅ ふっくりとした丸いほっぺが、先程から良い感じに動き続けています。 斜め後ろから警備をしているウェラー卿コンラートは、激しい欲望に晒されていました。これがお月見の行事でなければ、きっと傍に駆け寄って、《ぷにっ》とあのほっぺを突いたことでしょう。 ウェラー卿だけではありません。 おそらく周囲の人々全てが今、魔王陛下のほっぺに大注目しているところです。 だってだって、ほっぺがまん丸なんですよ? お月見のお団子を一個口にして、豊穣を祈るという魔王陛下の大切なお仕事の最中ですのに、大きなお団子を口いっぱいに頬張った姿は、餌袋をいっぱいにしたハムスター千匹分の魅力を足したのよりも強烈に可愛いのです。 むはっ そっと口元を手で覆ったウェラー卿は、騎士とは思えないような音を発した自分を恥じました。 『平常心、平常心…っ!』 とっても可愛い魔王陛下の傍仕えであるということは、時々とっても大変なのでした。 誰かと代わってあげようなんて、ちっとも思いませんけどね? |